岩手火山東麓のテフラ層中にレス質風成塵が存在することを, 土壌の物理的・化学的・粘土鉱物学的特性および石英の酸素同位体比より明らかにした. 渋民クラック帯の土壌は, 低いpH (NaF) 値, リン酸保持率と高い容積重, 粘土・シルト含量で特徴づけられた. 粘土鉱物はバーミキュライト, バーミキュライト-クロライト中間種鉱物, カオリナイト, 石英を主体とし, 少量の雲母を伴った. 石英の酸素同位体比は+16~17‰で, 中国のレスのそれに近似した. 一方, テフラ堆積物はアロフェン, イモゴライトあるいはハロイサイトが優占で, 少量のクリストバライトを伴った. 火山灰土中に見いだされるバーミキュライト, カオリナイト, 雲母, 石英などはテフラ母材からの風化生成物ではなく, アジア大陸からの広域風成塵起源であると結論した. テフラ層序より, 広域風成塵の堆積時期は, 最終氷期後期の約2~3.4万年前および前期の約5~7万年前の各寒冷期に相当し, 前者において顕著であった. 岩手火山東麓における最終氷期後期寒冷期の広域風成塵の堆積速度は48kg/m
2/1,000年, すなわち約4cm/1,000年に相当し, 日本海沿岸における堆積速度よりやや高かった. 東北地方から北海道にかけてテフラ層中に見いだされるクラック帯は, 最終氷期に堆積した風成塵の示標層となりうる.
抄録全体を表示