色材工業とは顔料, 塗料, 印刷インキを総称した工業をいい, 界面化学的な問題が非常に多く, 界面活性剤の役割はきわめて大きい。これら顔料, 塗料, 印刷インキの各工業の製品は, 需要面ではかなり異なるが, 製品の性状や製造面で共通な界面化学的な問題をかかえている。ここでは, 色材工業で共通した問題点を取り上げるとともに, 著者の直接関係している塗料工業について界面化学的な問題と界面活性剤の応用を述べたい。
共通の問題として, 顔料のヌレ, 分散や塗料, インキの流動性に関することがあり, 塗料の問題としては, エマルション塗料における界面活性剤の役割や塗膜形成時に起こる種々の問題点を述べる。
現在, 実際に使用されている塗料, インキ類はなんらかの形で界面活性剤が使用されている。たとえば, 塗料, インキ製造時に使われる場合や, 原料である顔料に使用されている場合があり, さらにエマルション塗料のように原料樹脂にすでに界面活性剤が使われている場合がある。実際的に, 色材研究者が直接気がつかないところで, 界面活性剤が使用されていることがあるので, 界面活性剤をさらに使うときには, 取扱には充分注意する必要がある。また, 色材工業において, 界面活性剤はきわめて少量でも非常に大きな影響力をもっていることも考える必要がある。たとえば, 塗料の場合, 色分れ防止剤の使い方 (使用量) を間違えると, はじき現象やその他の悪影響をもたらし, 薬変じて毒となるようなことがある。色材工業における界面活性剤の役割は, 一般にいわれるように, 湿潤, 乳化, 分散, 消ホウ, 可溶化などの作用を利用することである。色材工業で対象となる界面としては, 液体-液体, 液体-固体, 気体-固体, 気体-液体があり, 特に最初の三つの界面は, 塗料関係で最も問題となるものである。
液体-固体界面の問題として, 顔料表面へのワニスのヌレや被塗面への塗料のヌレがあげられ, 湿潤剤が利用される。さらに顔料を液相に分散させるために分散剤が利用される。また, エマルション塗料の原料となる塗料用エマルションには乳化剤が使用されており, エマルション塗料製造時にも, 顔料の湿潤剤が使用される。
このほか, 塗装時に塗膜に発生するアワを消すための消ホウ剤や, 耐切傷性向上剤, サビ止め剤, 帯電防止剤など種々の界面活性剤が使用されている。
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