油脂は, 糖質やタンパク質が食料以外にほとんど用いられなかった昔から, 灯火, 化粧品, 潤滑剤など, 食糧以外にも広く用いられた天然有機化合物で, 近代化学工業の発達に伴い, 重要な化学工業原料となっている。 また, 最近の自然科学における境界領域の進展の中で, 脂質は生化学の分野において重要な位置を占めている。 にもかかわらず, 中等化学教育の中で油脂・脂質はそれほど重要視されていない。このことは, 生活を科学的に理解できる市民の育成及び, この分野を志向する研究後継者の確保ということからも, 問題となる。 そこで, 中等教育で油脂・脂質がどのように扱われてきているかをたどってみた。
中等学校における教育内容は, 第2次大戦までは 「中学校 (または高等女学校) 教授要目」に, 昭和22 年 (1947年) の学制改革以後は「高等学校 (及び中学校) 学習指導要領」に示されている。 1940年代末から 1950年代はじめにかけての一時期を除いて, 教授要目や学習指導要領は法的拘束性を持っており, これは約10 年ごとに改訂されている。そして, 教授要目あるいは学習指導要領に従って教科書が作られ, 文部省の検定を受けるという仕組みになっているので, 中・高校の理科における油脂・脂質の扱いもこれらを調べれば分かるし, またそのことによって, 中等理科教育における油脂・ 脂質の扱いの変遷をたどることもできる。
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