飽和トリアシルグリセリンの除去に及ぼすリパーゼの効果を明らかにするために, 鎖長の異なる4種の飽和トリアシルグリセリン (グリセリントリラウレート, グリセリントリミリステート, グリセリントリパルミテート, グリセリントリステアレート) 及び不飽和のグリセリントリオレエートのそれぞれ単一及び混合汚れの綿布からの除去を, 起源の異なる各種リパーゼを用いて, 界面活性剤の種類及び洗液のpHを変えて調べた。リパーゼは,
Candida cylindracea (Can-1及びCan-2),
Mucor sp. (Mu-1及びMu-2),
Rhizopus arrhizus (Rhi) 及び
Pseudomonas (Pse) を生産菌とする微生物リパーゼ6種及び豚すい臓リパーゼ (Pan) を用いた。界面活性剤水溶液によるトリアシルグリセリン汚れの除去において, 飽和トリアシルグリセリン単一汚れは鎖長の短いものほど除去されやすいが, 混合汚れからの飽和トリアシルグリセリンの除去率はいずれも低く, 不飽和のグリセリントリオレエートが優先的に除去された。リパーゼを含む界面活性剤水溶液によるトリアシルグリセリンの除去において, 単一汚れの除去に及ぼすリパーゼの効果は, 飽和トリアシルグリセリンのうちグリセリントリラウレート及びグリセリントリミリステートについて見られるが, グリセリントリパルミテート及びグリセリントリステアレートではほとんど見られなかった。混合汚れ中では, pH 7.0及びpH 10.0のいずれにおいても, 飽和トリアシルグリセリンの除去に及ぼすリパーゼの効果は小さく, リパーゼはグリセリントリオレエートに対して選択的に作用した。各種リパーゼを用いたグリセリントリラウレートの除去において, pH 7.0のとき, リパーゼの効果はモノアルキル=デカ (オキシエチレン) =エーテル (APE) 系の方が, 硫酸ドデシル=ナトリウム (SDS) 系よりも大きく, APE系ではPse以外のすべてのリパーゼで効果が認められたのに対して, SDS系ではCan-1, Mu-1, Mu-2及びPanが効果的だった。pH 10.0のときのリパーゼの効果はpH 7.0のときよりも小さかった。さらに, 飽和トリアシルグリセリンの除去を容易にするために, 洗浄条件を変えてグリセリントリパルミテートの除去を検討した結果, リパーゼ濃度を増すことによりグリセリントリパルミテートの除去率が向上した。
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