キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T)療法後1ヶ月以内の短期的なCAR-Tの体内動態と治療成績の関係は解明されていない。今回,tisagenlecleucel療法を行った再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者13例において,CAR-T輸注後1ヶ月までのCAR-Tの体内動態をフローサイトメトリー法と定量PCR法を用いて定量的に測定し,治療成績との関係について解析した。CAR-T全体の解析では,短期的なCAR-Tの体内動態と治療成績について明らかな関連を認めなかった。しかし,CD4/CD8サブセットに着目すると,CD4+ CAR-Tが治療反応良好例で増加することが認められた。一方,CD8+ CAR-Tは治療反応不良例で増加していた。また,サイトカイン放出症候群を生じた症例では,CAR-Tの増殖が顕著であった。したがって,CAR-Tの治療反応性を予測するためには,輸注後早期のCD4+ CAR-Tの増殖が重要であることが示唆された。
Thalidomide系薬剤の安全管理手順で用いられている「定期確認票」による確認間隔の長短によって,当該手順に対する患者の遵守意識に差異があるかを検討した。男性患者および妊娠の可能性のある女性患者が対象で,実施は31施設,参加者は215名であった。被験者は従来の確認間隔で定期確認票を用いる患者群と,確認間隔を4ヶ月もしくは6ヶ月間に延長する患者群に行った。2回目の理解度調査票において,行動変容を確認するための設問7を除いた問1~6の全6問正答の割合は,87.0%であった。初回と2回目の全問正答割合を比べると,すべての群で2回目の正答割合の低下がなく,妊娠事例も認めなかった。行動変容の判断はできなかった。確認間隔を延長した患者群でも混合効果モデルにより非劣性が示され(テストの群間差−6.7%:95%信頼区間は−20.3~7.0%),今後は男性患者および妊娠の可能性のある女性患者でも4ヶ月または6ヶ月に1回の定期確認票記載でよいと思われる。
若年性骨髄単球性白血病(JMML)は造血幹細胞移植が唯一の根治療法とされているが,移植成績の向上に寄与する前治療について未だ優位性を示す方法は示されていない。近年,移植までの橋渡しとしてメチル化阻害薬であるazacitidine(AZA)の有効性が報告されており,本邦でも2021年7月より前方視的臨床研究が開始されている。今回,初回移植前および再発時にAZA療法にて橋渡しを行い,2回の移植を行ったJMML症例を経験した。症例は神経線維腫症(NF1)の3歳男児。AZA療法(75 mg/m2/day点滴静注×7日,28日間隔,4サイクル)を施行後に骨髄破壊的前処置を用いて非血縁者間HLA一致骨髄移植を行うも,移植123日後に再発した。再発後もAZA療法を4サイクル施行し,骨髄非破壊的前処置を用いて臍帯血移植を行った。後療法としてAZA療法を7サイクル施行し,移植後16ヶ月で無病生存中である。AZA療法は重篤な有害事象を認めず,JMMLの移植前治療および再発後の病勢コントロールとして有用と考える。
症例は49歳,男性。発熱と呼吸困難感で救急搬送され,急性腎不全,肺炎を呈しており血液透析を含めた集中治療を開始した。末梢血に前骨髄球25%を認め,高度な播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation, DIC)を合併していることから急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia, APL)を疑い,骨髄検査にてAPLと診断した。APLの治療成績はATRAにより飛躍的に向上したので,ATRAなしでの寛解率は低い。急性腎不全はAPLに関する急性期で,APLの治療により改善する可能性があり,49歳と若年であることからATRAを使用した寛解導入療法が必要と考えた。寛解導入療法で寛解が得られ,地固め療法3コース終了し,現在維持療法中である。血液透析施行中にATRAを導入した症例の報告は数例しかない。本例はATRAにてビタミンA中毒にはならず救命できた貴重な症例と考えた。
症例は45歳,男性。小児期に重症血友病Aと診断されFVIII製剤の補充療法を受けていたが,インヒビター産生(5~225 BU/ml)のため無効となった。その後,バイパス止血療法やFVIII製剤による中和療法が行われたが有効性は乏しく治療抵抗性の状態であった。Emicizumab治療を開始したところ,出血症状の著明な改善が得られた。転倒により右大腿部に筋肉内血腫を来し入院した。安静にしていたが血腫は増大し貧血が進行した。インヒビターは0.6 BU/mlと低下していたため,遺伝子組換えFVIII製剤を投与したところ,FVIII活性の上昇とともに血腫の改善を認めた。インヒビターは54.2 BU/mlと再び上昇したが,現在は低下してきており,emicizumabを継続している。インヒビター力価の長期的視点からも,インヒビター保有血友病A患者におけるemicizumab治療の意義は大きいと考えられた。
症例は89歳男性。前医で胆嚢摘出術施行時にAPTT延長を認め,術後創部出血による再手術が必要となったため,精査加療目的に当院転院となった。FVIII:C 3.6%,FVIII inhibitor 48.5 BU/mlで後天性血友病A(AHA)と診断した。高齢,術後感染の懸念からPSL 0.5 mg/kg/日で治療を開始した。右背部筋肉内出血による出血性ショックを認めた他は治療経過良好であったが,1ヶ月以上低力価インヒビターが残存し,下腿浮腫と尿蛋白増加を認めた。前医にて早期胃がんを指摘されており,早期胃がんを基礎疾患としたAHAと二次性ネフローゼ症候群の合併を考慮し,rFVIIa製剤投与下で内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した。切除断端陰性であり治癒切除と考えられた。ESD後にAHAは速やかに改善し,凝固能的完全寛解を達成,ネフローゼ症候群も軽快した。悪性腫瘍合併例では悪性腫瘍の制御によりAHAの病勢が改善することもあるため,出血や免疫抑制に伴う感染リスクを踏まえて,悪性腫瘍の治療介入時期を検討する必要がある。
慢性活動性EBV感染症(CAEBV)はEBVがT細胞やNK細胞に感染し,EBV関連T/NKリンパ増殖性疾患をひきおこす疾患で,皮膚症状として種痘様水疱症や蚊刺過敏症が知られている。症例は33歳,男性。当院受診の3年前から顔面に種痘様水疱症の皮疹が出現し複数の皮膚科を受診するも,種痘様水疱症と診断されることはなかった。その後末梢血に異型リンパ球出現し,血液内科である当科に紹介された。当科にて一般的な採血検査,骨髄検査を施行するも種痘様水疱症の診断には至らなかった。その半年後肝障害が出現し,皮疹を再評価することで種痘様水疱症の可能性に気づきEBV関連検査結果から種痘様水疱症を伴ったCAEBVと診断した。CAEBVの診断においては,いかにしてEBV関連検査のオーダに結びつけるかが重要である。血液内科医はEBV関連疾患である種痘様水疱症や蚊刺過敏症の皮疹についてしっかり知っておくことが必要である。
患者は57歳男性。再発難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して,Pola-BR(polatuzumab vedotin-bendamustine-rituximab)療法による救援化学療法を4コース施行し寛解を達成した。その後,G-CSFとplerixaforを使用し,幹細胞採取を行い2日間でCD34陽性細胞4.2×106 cells/kgを採取した。自家末梢血造血幹細胞移植を実施し,day 12に生着し,以降増悪することなく経過観察中である。Bendamustineを用いた化学療法では幹細胞採取に苦慮する可能性が指摘されており,Pola-BR療法は一般的に移植適応でない患者において検討される。本症例では社会的事由により方針が途中で変更となり,Pola-BR療法後にG-CSFとplerixaforを使用して幹細胞採取を行った。1例の報告であるので導ける結論には限界があるが,Pola-BR療法後の幹細胞採取の報告は限られており貴重と考え報告する。
症例は62歳女性。再発難治性血管免疫芽球性T細胞リンパ腫に対して同種臍帯血移植後109日目にstage4の消化管移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)を発症した。ステロイド(mPSL 1 mg/kg)投与により4週間後にはGVHDの寛解を得たが,同時期から腹部膨満感が出現した。移植後158日目にCTで全結腸に腸管粘膜下と漿膜下の気腫を認め,腸管気腫症と診断した。絶食とステロイド減量にて改善し,移植後175日目には気腫は消失した。以後再燃なくステロイド中止に至った。腸管気腫症は同種移植後の稀な合併症で,移植後腸管合併症による粘膜の脆弱化を契機に発症すると考えられるが,GVHDの関与や,逆に治療薬のステロイドの影響が推測されている。病態により相反する治療を要する可能性があり,個々の症例における対応を詳細に検討する必要がある。
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は,活性化された補体によって補体制御因子を欠損した赤血球が血管内溶血をきたす疾患である。感染症の合併により急激に溶血が進行する可能性があることや血栓症の合併に注意が必要である。これまでPNHのCOVID-19合併について,本邦からの報告はない。今回我々はPNHに対して抗C5抗体による治療中にCOVID-19を発症した症例を5例経験した。3例はravulizumab,1例はeculizumab,1例はcrovalimabで治療中であった。5症例は全例が2回以上のCOVID-19ワクチン接種歴があった。4例は軽症,1例は中等症で,いずれの症例も酸素投与を必要とすることはなく,重症化せずに軽快した。全例でbreakthrough hemolysisが認められ,2例が赤血球輸血を受けた。血栓症の合併はいずれの症例にもみられなかった。
A rare kind of malignant lymphoma, called primary effusion lymphoma (PEL) is associated with human herpesvirus 8 (HHV-8), and characterized by lymphomatous effusion in the bodily cavities. Although the initial clinical presentation of primary effusion lymphoma-like lymphoma (PEL-LL) is similar to that of PEL, PEL-LL is HHV-8 negative and has a favorable prognosis. A PEL-LL diagnosis was made after an 88-year-old man was admitted to our hospital with a pleural effusion. His disease regressed after effusion drainage. He demonstrated disease progression to diffuse large B-cell lymphoma after two years and ten months. Our example demonstrates that aggressive B-cell lymphoma can develop from PEL-LL.