3番染色体の逆位または転座に代表されるEVI1再構成を伴うAMLはEVI1の高発現を特徴とする予後不良な病型である。我々はEVI1再構成を伴う骨髄性腫瘍において高頻度に合併する遺伝子変異の中でもSF3B1変異に着目し,忠実なマウスモデルの解析を通じて両異常が協調して白血病発症を誘導することを示した。さらに興味深いことに,SF3B1変異が惹起する異常スプライシングにより,野生型EVI1のDNA結合ドメインの近傍に6アミノ酸が挿入された異常なアイソフォームが特異的に誘導されることを発見した。このアイソフォームは野生型EVI1と比較してマウス造血幹細胞の自己複製能を有意に亢進させた。また,この異常スプライシングの誘導に必要な分枝部位およびシスエレメントも併せて同定した。これらの結果は予後不良なEVI1再構成を伴うAMLの分子機構をより詳細に解明し治療応用へ繋げる為の基盤を築くものであると考える。
77歳男性。46歳で慢性骨髄性白血病-慢性期(CML-CP)と診断された。Imatinib,nilotinib,dasatinibを投与されたがcomplete cytogenetic response(CCyR)に到達せず,BCR::ABL1変異解析でF317L変異が検出された。66歳時(2013年2月)にponatinib(PON)が45 mg/日で開始され,3ヶ月でCCyRに到達した。血管閉塞性事象のためPONを週1回15 mgまで漸減されたが,3年以上MR4.5(BCR::ABL1IS≤0.0032%)以上のdeep molecular response(DMR)が維持されPONは中止された。PONを中止後2ヶ月でMR4.0(BCR::ABL1IS≤0.01%)を喪失し,週1回15 mgのPONを再開しMR4.0を経て,血液透析導入後にMR5.0(BCR::ABL1IS≤0.001%)が得られた。週1回PON 15 mgのトラフ値は5.8 ng/mlとF317L変異クローンを抑制可能な濃度であった。本例では,慢性腎不全によりPONの吸収亢進や代謝遅延が生じ,血液透析導入によりhomeostasisが改善しCMLに対する抗腫瘍免疫が増強した可能性が考えられた。
症例は75歳男性の副鼻腔原発のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者。根治目的の化学療法を開始し,一次予防的投与として化学療法開始後5日目(day5)にpegfilgrastimを投与した。その後day7に頭痛とday11に発熱を認め,抗菌薬や抗真菌薬を投与するも症状は改善しなかった。入院後精査では胸部造影CT検査で上行~胸部下行大動脈および腕頭・左総頸動脈周囲にかけて血管周囲の脂肪織濃度上昇と同部位の造影効果を認めた。各種培養検査は陰性で,自己抗体検査に異常所見はなく,G-CSF製剤による薬剤誘発性大動脈炎と診断した。治療としてprednisolone 0.6 mg/kg/日を開始し,速やかに症状の軽減と血管壁肥厚の消退を認めた。がん薬物療法治療中の持続型G-CSF製剤使用中に発熱を認めた際は,鑑別診断の一つとして大動脈炎を想起する必要がある。
症例は16歳男性。急性骨髄性白血病の第2寛解期に,非血縁者間骨髄移植を行った。重度の口腔粘膜障害を認め,sulfamethoxazole/trimethoprim(ST)合剤を含む内服が困難となった。移植後35日目に生着したが,60日目頃より霧視および頭痛が出現し,眼底検査で網膜出血および黄斑浮腫を,頭部MRI検査で左被殻に結節性病変を認めた。前房水の検索はできなかったが,髄液PCR検査でToxoplasma gondiiを検出しトキソプラズマ脳症と診断した。ST合剤およびclindamycinによる治療に続いて,pyrimethamine,sulfadiazine,leucovorin併用療法を行い,速やかに症状の改善を認め,治療開始45日目の髄液PCR検査で陰性化を確認した。トキソプラズマ抗体保有率は年齢と共に上昇するため,思春期以降の患者に対する造血細胞移植時には,ST合剤によるトキソプラズマ再活性化予防が重要である。
症例は61歳男性。骨髄異形成症候群に対して非血縁者間同種骨髄移植を行った。慢性移植片対宿主病(GVHD)の治療中のday 160頃より四肢末端のしびれ感,下肢筋力低下が出現し,day 170に立位保持困難となった。脳脊髄液検査で蛋白細胞解離を,神経伝導検査で脱髄所見を認め,ギラン・バレー症候群(GBS)と診断した。同時期にサイトメガロウイルス(CMV)抗原血症とEpstein-Barr virus(EBV)再活性化を認めた。大量γ-globulin療法とリハビリテーションで症状は改善した。同種移植後GBSの発症機序は明らかになっていないが,慢性GVHDの関与が想定されている。一方,ウイルス感染が関与しているという報告もある。本症例では臨床経過から慢性GVHD経過中のEBVとCMVの再活性化がGBS発症の契機となった可能性が示唆された。慢性GVHDの治療中にウイルス活性化とともに筋力低下症状がみられた際にはGBSも診断の鑑別に入れるべきである。
A 39-year-old woman with myotonic dystrophy (DM) presented with syncope and was diagnosed with primary mediastinal large B-cell lymphoma, clinical stage IA. PET-CT revealed an upper mediastinal mass with high FDG uptake (SUVmax, 14.8). She had muscle weakness associated with DM, but her performance status was preserved. She was treated with 6 cycles of dose-adjusted EPOCH-R therapy and localized irradiation for the residual mass, without severe adverse events or recurrence of syncope. Patients with DM should be monitored for cardiac events and muscle weakness when undergoing lymphoma treatment.
真性多血症(PV)に対するinterferon(IFN)療法の有用性は30年以上も前から報告されていたものの,その有害事象のために,使用が限定的となっていた。しかし,近年ペグ化IFNの開発により,PVを含む骨髄増殖性腫瘍に対する有用性が再脚光を浴びている。欧米のガイドラインでは,IFNがhydroxyureaと同列でPVに対する第一選択薬として示されており,特に若年患者や妊婦で有効な治療法である。さらにropeginterferon alfa-2b(ropeg-IFN)は,2週間毎での投与を可能とし,第3相試験でhydroxyureaよりも高い血液学的奏効率,分子遺伝学的奏効率が示され,欧米でPVに対する治療薬として認可されている。本邦においても,ropeg-IFNの日本人PVに対する有効性・安全性・忍容性が第2相試験で示され,最近PVに対して保険適用となったことから,今後治療選択肢の一つとなる可能性がある。今後の展開が待たれる。
骨髄線維症(MF)は,脾腫や消耗性の全身症状によってquality of lifeを損なうだけでなく,高率に急性骨髄性白血病などに移行する予後不良の慢性骨髄増殖性腫瘍である。JAK阻害薬であるruxolitinibは,MFの全身症状を改善させ生存期間の延長をさせるが,骨髄の線維化や白血病へ進行を抑制する効果はなく根治をするには依然として同種造血幹細胞移植が必要となる。このことから現在MFに対しての多くの新規薬剤の開発が行われている。その多くはruxolitinibと併用することで治療効果の改善が示されており,特にBCL-2/BCL-XL阻害薬,bromodomain and extra-terminal domain阻害薬,human double-minute homolog 2阻害薬は骨髄の線維化を改善させる効果も示されている。本稿では現在本邦で行われている臨床試験の薬剤を中心に概説をする。
骨髄線維症の平均生存期間は5年程度とされ,現時点では,薬物療法による治癒は困難であり,同種造血細胞移植が唯一の根治的治療法である。骨髄線維症の臨床経過や予後は均一ではないことから,個々の症例において移植関連死亡,長期予後などを考慮し,疾患リスク・急性白血病への移行リスクの評価や,遺伝子変異情報を含めて,移植適応や移植時期についての検討が必要である。これまでの報告から,同種造血細胞移植は骨髄線維症の治癒的治療となり得ることが示されている。しかし,移植関連死亡率が30~50%と高く,総生存率は40%程度にとどまっている。JAK2阻害薬は,骨髄線維症の予後を改善することが明らかにされつつあり,JAK2阻害薬と同種造血細胞移植をどう使い分けていくか検討が求められる。また,今後は,高い移植関連死亡をどう改善していくか,幹細胞ソースの選択,至適な移植前治療の開発,JAK2阻害薬を移植前にどう組み込んでいくかなどが今後の解決すべき課題である。
フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍(Philadelphia chromosome-negative myeloproliferative neoplasms, Ph− MPN)という疾患群の認知と診断能力の向上により,若年のPh− MPNが診断される機会が増え,注目されている。若年発症のPh− MPNではドライバー遺伝子が検出されないtriple negative症例が多く診断が難しいことや血栓症に占める静脈血栓症の割合が多いことなど,臨床的特徴も好発年齢である60歳代前後で発症するMPNと異なることが報告されている。治療に関しても,長期使用となることも踏まえた細胞減少療法薬の選択,妊娠・出産時の最適な血栓/出血予防法の確立など,若年患者に特有の解決すべき課題が残されている。本稿では,それらに関するエビデンスをまとめるとともに,若年発症Ph− MPN患者の日常診療で役立つtipsを紹介していきたい。
慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia, CNL)は好中球を中心とした骨髄系細胞の腫瘍性増殖を認める疾患であり,近年ではCSF3R(colony stimulating factor 3 receptor)T618I変異が高頻度で陽性となることが報告されている。治療薬として,JAK阻害薬であるruxolitinibが注目されている。同種移植は根治的な治療となり得るが,最適な方法についてのエビデンスの蓄積が望まれる。慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia, CEL)は好酸球を中心とした白血球の腫瘍性増殖を認める疾患である。WHO分類第5版における診断基準の改定により,基準の疾患特異性が増し,“not otherwise specified(NOS)”は削除された。治療薬としては,抗IL-5抗体や抗CD52抗体が,有望な候補となっている。