CAEBVの唯一の根治療法は,造血幹細胞移植であると考えられている。若い女性患者では,将来の妊娠に備えて移植前処置前に排卵誘発を行い卵子保存が行われることがある。しかし,卵巣刺激の疾患への影響や,生殖細胞へのEBウイルスの感染についてこれまで報告はない。CAEBVの女性3例に対し移植前処置前に卵子採取を試みた。卵巣刺激による病勢の悪化はなく,末梢血EBV DNA量も変化しなかった。2例で採卵および卵子凍結が可能であった。1例の卵胞液中のEBV DNA量をPCR法で計測したところ,EBV DNAは460コピー/ml検出された。しかし卵胞液中に単核球を認めず赤血球を認めたことやEBV蛋白質mRNAの発現を認めなかったことより,末梢血からのEBV DNAの混入と考えられた。CAEBV患者の採卵は可能であり,卵胞液に感染細胞を認めなかったことから,将来妊娠を望む場合の使用を妨げるものではないと考えられた。
17歳男性。急性リンパ性白血病に対してHLAアリル型6/8座一致非血縁ドナーより2回目の同種骨髄移植を施行。Day 100より皮膚病変を主体とした慢性移植片対宿主病を発症し,prednisolone(PSL)が開始された。Day 766より易疲労感が出現し,day 810より複視,眼瞼下垂,嚥下障害を認めた。抗アセチルコリン受容体抗体陽性,低頻度反復刺激検査でwaningを認め,全身型重症筋無力症(MG)と診断。MG急性増悪に対して,day 861より単純血漿交換法に引き続き免疫グロブリン静注療法が施行され症状は改善。MG再燃の抑制を目的としてPSLを継続し,tacrolimusを追加した。Day 2,739にPSLは中止され,day 2,897時点でMGは寛解を維持している。移植片対宿主病に関連したMGの急性増悪に対して単純血漿交換法と免疫グロブリン静注療法が有効な治療選択肢となる可能性が示唆された。
症例:38歳女性。急性混合性白血病の第一寛解期にHVG方向HLA-DR1座ミスマッチドナーより骨髄破壊的前処置による非血縁者間骨髄移植を実施。移植後21日目に好中球生着,29日目に完全ドナーキメラを達成。その後血球回復が遅延し赤血球,血小板は輸血依存が持続。50日目の末梢血CD3キメリズム検査でレシピエント割合27.3%,63日目にレシピエント割合90%,80日目で95%以上となった。骨髄検査で再発はなく自己造血回復を伴う二次生着不全と診断。生着不全に対し初回移植から111日後にHLA半合致の実妹より移植後シクロフォスファミド(PTCy)を用いたHLA半合致移植を実施。第2回移植から14日目に好中球生着,21日目に完全ドナーキメラを達成。重症感染や急性GVHDの発症はなく45日目に軽快退院。HLA半合致同胞ドナーよりのPTCyを用いた再移植は生着不全に対する有効な選択となると考えられた。
POEMS syndrome is often complicated by pulmonary hypertension. The standard therapy for patients with POEMS syndrome is high-dose chemotherapy followed by autologous stem cell transplantation. However, the safety of high-dose chemotherapy for patients complicated with pulmonary hypertension remains unclear, and the optimal therapy for these patients is yet to be establishment. Herein, we report the case of a 54-year-old woman with POEMS syndrome accompanied by pulmonary hypertension. We successfully and safely performed lenalidomide and dexamethasone (Ld) therapy followed by high-dose chemotherapy and autologous stem cell transplantation, which improved her pulmonary hypertension. Thus, Ld can be considered as safe and effective for pulmonary hypertension with POEMS syndrome.
Here, we report a case of a 67-year-old man who had septic shock due to Citrobacter braakii infection during the course of chemotherapy with high-dose cytosine arabinoside for acute myeloid leukemia. Treatment with cefepime rapidly improved his condition. The number of reported cases of sepsis due to Citrobacter braakii is limited. Further accumulation of cases is necessary to obtain accurate data such as the risk factors for Citrobacter braakii infections.
成人急性リンパ性白血病(ALL)は,これまで小児ALLに比べて治療成績が悪く,遺伝子異常など生物学的特性の解明も不十分であったが,小児型治療の思春期・若年成人世代への導入,フィラデルフィア染色体陽性ALLへのチロシンキナーゼ阻害剤併用療法の導入などにより治療成績の著しい改善が始まっている。今後も小児型治療の成人全体への適用拡大,イノツズマブオゾガマイシン,ブリナツモマブなどの新規薬剤の登場によりさらなる治療成績の改善が期待されている。また,次世代シークエンス技術による網羅的な遺伝子解析により,DUX4融合遺伝子,ZNF384融合遺伝子,MEF2D融合遺伝子などALLの新規高頻度融合遺伝子の発見が相次いでいる。本稿ではそうした最新のALLの病態解明,治療開発の動向を紹介し,今後の展望について考える。
小児急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績は著しく向上したが,さらなる再発率の低下と合併症の回避に国内外で様々な取り組みがなされている。病態研究では,ゲノム解析技術の進歩により,ALL細胞に生じているゲノム異常を網羅的に検出することが可能となり,分子遺伝学的な観点からの病態の理解が進み,層別化因子や治療標的などへの応用が期待されている。また,従来はALL細胞に生じているゲノム異常に焦点が置かれていたが,生殖細胞系列の遺伝子変異が発症や臨床経過に関与していることも明らかになっており,ALL細胞だけでなく,患者側の因子まで統合して理解することが必要である。診療においては,微小残存病変の精密な測定による層別化治療の最適化と,分子標的剤や抗体医薬などの新規治療薬剤の導入が効果を発揮している。今後は,ゲノム医療と新規薬剤を標準治療の中にどのように組み入れていくのかを臨床試験を通じて検証する必要がある。
慢性リンパ性白血病(CLL)は欧米では最多の造血器腫瘍で,他の腫瘍と同様に,多段階発症モデルが提唱されているが,その詳細は不明な点が多い。また,遺伝子異常を含む予後不良因子の解析,病気の進展に伴うクローンの解析など多くの研究がなされている。FCR(フルダラビン,シクロホスファミド,リツキシマブ)療法は“fit”でTP53異常(17p欠失)異常がない若年者CLL患者に対する初回標準治療である。TP53異常(17p欠失)のあるCLL患者はFCR療法のような免疫化学療法に抵抗性で予後不良である。しかしBruton’s tyrosine kinase(BTK)阻害薬,PI3キナーゼ阻害薬,Bcl-2拮抗薬などの分子標的薬が開発され,TP53異常があるような高リスクCLL患者にも有効である。IGHV体細胞遺伝子変異がある場合はFCR療法により長期の無病生存が得られ,治癒の可能性が指摘されている。治療目標が,病気のコントロールから治癒の可能性へと変化しつつあり,微小残存病変(MRD)の評価が重要になってくると考えられる。
臨床的および分子生物学的側面から悪性リンパ腫の病態解析は進んでいる。詳細な病態解析データに基づいた治療法が開発されてきた。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)のcell of originの解析は,予後予測だけでなく,分子標的療法薬を治療法に組み入れる戦略の開発につながっている。腫瘍免疫の詳細が明らかになることにより免疫チェックポイント阻害薬,CART療法の開発が進み,悪性リンパ腫の有望な治療法であることが示された。治療反応性を高精度で診断を応用したresponse adapted treatment strategyの評価も行われている。病態研究の成果が診療に還元されつつある。
多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)では2000年以降,免疫調節薬やプロテアソーム阻害薬により治療成績は劇的に改善した。2015年以降は新規抗腫瘍抗体薬2剤が承認され,治療戦略の転換期を迎えている。さらに治験段階にある分子標的薬やCAR-T療法が高い臨床効果を示しており,個別化治療や治癒を目指した治療が現実になりつつある。MMは非常に複雑なゲノム異常を有し多段階に発症進展する。次世代シーケンスを用いた大規模患者解析で,ゲノム異常の全貌と,個体内MM細胞のゲノム異常不均一性やその経時的・空間的変化が明らかとなった。本稿ではMM病態研究と診療の新展開として,新たに判明したゲノム変異とその臨床像,イキサゾミブやエロツズマブ,ダラツムマブ,BCL-2阻害薬venetoclaxやBMCA CAR-T療法を中心に概説する。
急性移植片対宿主病(GVHD)は,皮膚,肝,消化管の少なくとも一臓器に障害が存在し,かつGVHD類似の他の疾患が否定される場合に診断される。上部消化管GVHDを除き,急性GVHDは臨床診断で行われる。生検による病理診断は必ずしも臨床診断と一致しない。各臓器stageをもとに全身gradeを判定するが,その重症度分類は治療反応性や予後を正確に反映している訳ではない。その不完全ともいえる重症度分類を補うべく,GVHDバイオマーカーの同定が精力的に進められている。治療反応性や予後を正確に反映する重症度分類を確立することができれば,急性GVHDの治療を層別化治療へと進化させる可能性がある。
慢性GVHDは同種造血細胞移植後の40%程度の患者に発症し,様々な臓器を侵襲する晩期合併症である。症状は自己免疫疾患に類似し,病態として炎症,細胞性免疫,液性免疫,線維化が関連する。慢性GVHDの診断と重症度評価を標準化するためにNIH国際基準が策定され,多くのエビデンスや問題点が明らかになった。2014年に基準の改定が行われ,薬剤承認に使用可能な基準がほぼ完成した。一方,慢性GVHDの病態に関して動物モデルを用いて様々な研究が行われたことで,制御性T細胞,B細胞シグナル,Th17細胞,Tc17細胞,濾胞性ヘルパーT細胞,濾胞性制御性T細胞,線維化促進因子などの関与が明らかとなった。このような背景から,慢性GVHDの病態を治療標的とした薬剤の臨床試験が近年急増している。慢性GVHDは様々な病態機序を有するため,各々の機序を標的にした有効な薬剤がなるべく多く承認されることが必要である。
分子標的薬の目覚ましい臨床開発とともに,造血器腫瘍の治療はここ10年で大きく様変わりしている。それとともに,同種造血幹細胞移植(同種移植)の適応も大きく変化した。しかし,分子標的薬のみで治癒を目指せる造血器腫瘍は限られており,同種移植は依然重要な役割を果たしている。分子標的薬時代では,化学療法・新規薬剤・同種移植などをいかに上手に組み合わせ,どのように有効な治療開発を行なうかが,今後の重要な課題である。特に,分子標的薬を同種移植前後に使用するにあたり,その薬剤の直接効果に加え,移植成績を大きく左右するGVHDとGVLといった移植免疫に及ぼす影響を十分に理解しておく必要がある。
RNAスプライシングに関わる遺伝子は骨髄異形成症候群において高頻度に変異が見られる。中でもSF3B1,SRSF2,U2AF1,ZRSR2の4つの遺伝子は変異頻度が高い。SF3B1は環状鉄芽球増多を認める病型で,SRSF2は慢性骨髄単球性白血病で高頻度に変異が認められることから,各病型の病態と深い関係があると考えられている。RNAシーケンシングによる選択的スプライシングの網羅的解析の結果,SF3B1変異は3′スプライス部位の偏位,SRSF2とU2AF1の変異は選択的なエクソンの使用と,それぞれ関連があることが分かった。これはタンパク質構造予測や,培養細胞やマウスモデルを用いた検討でも確かめられた。スプライシング異常の標的遺伝子として,SF3B1変異ではABCB7やPPOXといった細胞内鉄代謝やヘム合成と関連する遺伝子が同定され,環状鉄芽球増多の原因となっている可能性が考えられている。
AITLは,follicular helper T細胞由来で,予後は,T細胞のクロナリチィー,またEBV感染細胞の多寡には無関係で,またPCRによる少量のB細胞のクロナリチィーにも無関係である。しかしながら,M2マクロファージ,びまん大細胞型リンパ腫の併存(composite lymphoma)は,予後不良である。TET2,DNMT3A,IDH2,RHOAの遺伝子変異が報告されており,さらにcomposite lymphomaではTET2,DNMT3A変異はT細胞およびB細胞でみられたが,IDH2,RHOAはT細胞に,NOTCH1遺伝子変異は,B細胞に限局していた。このことより前駆細胞でのTET2,DNMT3A変異が考えられている。ATLLはCCR4,FoxP3陽性の抑制性T細胞由来とされ,HTLV-1のp40tax(TAX)が遺伝子活性化因子と考えられているが,HTLV-1 basic leucine zipper factor(HBZ)も腫瘍化に重要とされている。TAX特異的CTLとFoxP3の関連をみたところ,逆相関がみられ抑制性T細胞の機能の関与が推察される。M2マクロファージは予後不良に関係している。Programmed cell death ligand 1(PD-L1)発現には,1)腫瘍に陽性(nPD-L1),2)周囲細胞に陽性(miPD-L1)があり,nPD-L1は予後不良に,miPD-L1は予後良好に関連していた。HLA,beta2Mの発現をみたところ,両者の発現が保たれているものは予後良好で,さらにmiPD-L1があるものが最も予後良好であった。以上のことより,周囲および免疫環境は腫瘍と密に関連していることが分かってきている。
2000年以前では,節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型(extranodal NK/T-cell lymphoma, nasal type; ENKL)の治療はCHOP療法などanthracyclineを含む化学療法が主体であり,その治療成績は不十分であった。2000年代の初頭から,anthracyclineを含まない次世代の治療法が臨床試験で開発され,ENKLの治療を大きく変えた。日本での後方視的研究(NKEA Part A)はENKL診療の現状を明らかにした。2010~2013年に国内31施設で診断された限局期ENKL患者の66%において,同時併用化学放射線療法(RT-DeVIC療法)が初回治療として選択されていた。日常診療でRT-DeVIC療法が行われた限局期ENKL患者150人の5年生存割合は72%,5年無増悪生存割合は61%であり,臨床試験時と同様であった。さらに,NKEA研究は現在のENKL治療のいくつかの限界を明らかにした。今は次世代治療を超える有効な治療を開発すべき時である。各国の長所を生かした国際協同がENKL治療の進歩に貢献する。
DNAメチル化阻害剤azacitidine(AZA)は,高リスク(HR)MDS患者に汎用され,AMLの治療薬としても期待されている。MDSに対する複数の無作為比較臨床試験では,AZA単剤でのCR/PRおよび全奏効割合はそれぞれ16~33%および38~60%であった。AZA-001試験では,AZA群における生存中央値が24ヶ月余りとコントロール群より9ヶ月余り延長することが示された。しかしAZA-001を除く臨床試験でのAZA単剤による奏効割合は15~21ヶ月で,一般診療の統計でもHR-MDSの生存期間は20ヶ月に遠く及ばない。AZAによるベネフィットを享受するのはHR-MDS患者の一部である。リスクがベネフィットを上回る患者も想定されることから,治療反応性予測バイオマーカーを用いたAZAの適応判断が求められる。TET2変異陽性例はAZAへの反応率がやや高い一方,TP53変異例の大多数が高容量decitabineに高い反応性を示すと報告された。AZAの使用と治療効果予測バイオマーカーについて考察する。
DNMT3A変異は正常核型急性骨髄性白血病の20%以上に認められる。近年では,血液学的異常を認めない高齢者にも存在していることが明らかとなっており,前白血病状態であるクローン性造血の形成に関与していると考えられている。DNAメチル化能の低下が主な機能的役割とみなされているが,それ以外の機能についてはほとんど分かっていない。我々はR882変異型DNMT3AがDNAメチル化異常とDNAメチル化以外のエピゲノム異常を引き起こすことを明らかにした。特にDNAメチル化異常以外のメカニズムとして,R882変異型DNMT3Aがポリコーム抑制複合体1との異常な協調関係を介して分化関連遺伝子の発現を抑制することで,造血幹細胞や白血病細胞の分化を阻害することを見出した。本稿では,造血器疾患におけるDNMT3A変異の臨床的特徴および機能的役割に焦点を当てた最近の研究を紹介し,今後の研究課題について概説する。