症例は67歳の男性。健康診断で実施した上部消化管内視鏡検査で胃粘膜下腫瘍を指摘され,末梢性T細胞性リンパ腫と診断された。CHOP療法6コースで完全寛解に至るも最終投与から4ヶ月で胃病変の再発を来した。外科的胃切除術とD2領域のリンパ節郭清術ののちEPOCH療法を3コース実施し再度完全寛解に至り,以後2年間の無増悪生存を得ている。胃原発T細胞性リンパ腫では,初発時において外科的胃切除術が有効であった症例報告が散見されるが,本例は化学療法後の早期再発例に対し可視病変を完全切除し術後化学療法併用により,2年間の無増悪生存を得ることが出来た稀な症例であると思われ,文献的考察を加えて報告する。
58歳女性。多発性骨髄腫の患者。初回の自家末梢血幹細胞移植後に再発し,複数の新規薬剤に対して治療抵抗性だったが,2回目の自家末梢血幹細胞移植後にimmunophenotypic CR(iCR)となり,実子からの移植後cyclophosphamide(Cy)を用いたHLA半合致移植を施行した。Day22に好中球生着を,day55に血小板生着を達成した。Grade IIの皮膚急性GVHDを認めたがステロイドの全身投与で軽快した。移植後の骨髄検査でドナーキメリズムへの置換とiCRを確認し,生存中である。多発性骨髄腫に対する移植後Cyを用いたHLA半合致移植の報告は本邦ではないが安全に施行可能であった。文献的考察を加えて臨床経過を報告する。
Erdheim-Chester disease (ECD) is a very rare form of the non-Langerhans histiocytic multisystem disorder. The cardiac involvement is often challenging and is associated with poor prognosis. Transthoracic echocardiography was used to detect right atrium tumors in a 62-year-old man with heart failure who was admitted to our hospital. The circumferential soft tissue sheathing of the aorta (coated aorta) and fat infiltration around the kidneys (hairy kidneys) was seen on a contrast-enhanced computed tomography strongly suspecting ECD imaging. The patient was diagnosed with ECD based on histopathology reports of the surgical resection tumor. The characteristic imaging findings of ECD may contribute to an early and accurate diagnosis.
世界的pandemicを引き起こしたCOVID-19(coronavirus infectious disease 2019)は現在も猛威を振るっており,人類の生活のあらゆる分野に影響を与えている。米国血液学会や欧州血液学会からは,コロナ禍における各血液疾患に対する治療指針などが示されており,頻繁にアップデートされている。本稿ではこれらの指針を概説し,日本語でアクセス可能な情報としてまとめることを目的とした。
Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)による,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019, COVID-19)が,全世界に広まり,2020年3月に,WHOはCOVID-19をpandemicであると発表した。造血幹細胞移植などの免疫不全患者が,COVID-19に罹患した場合の臨床経過や,最適なマネージメントについて未だ正確には明らかになっていない。新型コロナウイルス感染拡大の中,同種造血幹細胞移植を行うにあたっての海外のガイドラインが出されている。本稿では海外のガイドラインを解説しながら,日本の実臨床および考慮すべき点について記述する。
COVID-19感染症におけるPCR検査法の場合,検体採取部位毎の検出感度差がしばし問題となり,感染事例発生時のコホーティングが不成功に至る原因になり得ることに注意が必要である。抗体検査は臨床的にCOVID-19を疑うもPCR法で陽性の結果が得られないケースにおいて,既感染の証明の一助となる。血液疾患症例においても重症例の大半(14/19例;74%)で抗SARS-CoV2 IgG陽性の結果であったが,一方で,非重症化例では抗体非獲得(陰性)の頻度が高く(6/10例;60%),陰性例の一部(2例)においてPCR再陽性および肺炎発症を認めた。非悪性疾患ではプレドニゾロンによる初回治療中のITP 2例が,急速に進行する肺炎/呼吸不全で死亡した。悪性疾患では,非寛解状態(寛解確認前)やステロイドを含む化学療法施行例は統計学的に高いリスク群であり,リンパ系悪性疾患が骨髄系疾患との比較で死亡症例を多く認めた。血液疾患の診療においては,COVID-19擬似症としての対応が必要になることが多く,リスクに応じた積極的な検査の導入や隔離対策を含めた適切なコホーティングにより院内感染を広げないよう留意する必要がある。
小児血液・腫瘍性疾患患者は一般小児に比べて新型コロナウイルスに感染しやすく,重症化するリスクが報告されつつある。最も重要なことはCOVID-19の感染を防ぐことである。患者やその周囲の者は,人込みを避け,マスク着用,手指衛生の徹底を行う必要がある。入院中は院内感染防止に努める必要がある。COVID-19に罹患した際には,COVID-19による合併症と原疾患の状態を判断して,リスクの高い病態の治療を優先させる個別化した治療方針の決定が必要である。寛解期であれば,一定期間の原疾患の治療中断はあり得るが,高リスクや緊急性の高い場合は,原疾患の治療を優先する必要がある。その他の問題点として,SARS-CoV-2感染を恐れて医療機関受診控えで重症化に至った報告がある。また,医療資源の不足から,治療に遅れや変更が生じるなど,小児血液・腫瘍性疾患患者の治療が影響を受けている。小児やその保護者に適切な情報提供が必要である。