66歳,男性。貧血,血小板減少,腎障害,左第6肋骨腫瘤を契機に症候性多発性骨髄腫(IgG-λ型)と診断された。骨髄はdry tapであり,骨髄線維化grade 2を認めた。Bd療法(bortezomib, dexamethasone),VRd(bortezomib, lenalidomide, dexamethasone)にて部分奏効となり,自家末梢血幹細胞移植(autologous stem cell transplantation, ASCT)を行ったが,ASCTの3ヶ月後に,肝腫瘤を伴って再発した。DKd療法(daratumumab, carfilzomib, dexamethasone)を行うも移植後109日目に原病死された。剖検の結果,肝臓,脾臓,胆嚢,副腎,腎臓,複数のリンパ節,および腹水に髄外病変を認めた。
18歳男性。Ph染色体陽性急性リンパ性白血病の再発に対し,同種骨髄移植(BMT)を実施された。初回移植から3ヶ月後に再発し,2回目のBMTを施行された。2回目のBMTの4ヶ月後に再発し,20歳3ヶ月時に父からのHLA半合致(ハプロ)移植を実施された。ハプロ移植後day29には分子学的寛解を確認し,以後再発は認めていない。移植後3年2ヶ月に血栓性微小血管障害症に伴う末期腎不全で透析導入となった。ハプロ移植7年10ヶ月後,父から生体腎移植を受け拒絶なく透析を離脱した。腎移植時点では拒絶予防目的にmethylprednisolone,tacrolimus,mycophenolate mofetilを導入されたが,腎移植後に速やかに減量しつつ,拒絶を来たすことなく経過している。本症例は3回目の同種移植で長期寛解を維持し,同一ドナーからの腎移植によって腎機能も改善した。
症例は24歳男性。倦怠感や体重減少の精査のため実施した下部消化管内視鏡検査で回盲部潰瘍を認め,生検でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された。その後の精査中にニューモシスチス肺炎を併発し,後天性免疫不全症候群(AIDS)の合併が判明した。回盲部潰瘍以外に明確な病変はなく,生検組織のin situ hybridization法により腫瘍細胞はEpstein-Barr encoding region(EBER)がびまん性に強陽性であったため,EBV陽性粘膜皮膚潰瘍(EBVMCU)と診断した。免疫再構築により病変が改善することを期待し,抗レトロウイルス療法(ART)を開始した。ART開始79日後には回盲部潰瘍の完全消失を確認し,その後3年以上にわたって寛解を維持している。EBVMUCは種々の免疫抑制状態を背景に発症することが知られておりAIDSもその一つであるが,ARTによる免疫再構築によってEBVMCUが寛解に至った初めての報告である。
成人T細胞性白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma, ATL)のaggressive type(急性型,リンパ腫型,および予後不良因子を有する慢性型)は予後不良で同種造血幹細胞移植により予後の改善が見込まれるが再発が多い。2021年6月からヒストン脱アセチル化酵素阻害薬であるtucidinostatが再発又は難治性ATLに使用可能となった。当院で同種骨髄移植後に再発したATL急性型にtucidinostatが有効であった症例を経験したので報告する。62歳,男性。2017年3月ATL急性型と診断しmLSG15療法を実施したが,末梢血中にATL細胞が再度出現したため同年9月に同種骨髄移植を行い以後寛解維持していた。2021年6月ヒト可溶性IL-2受容体(soluble interleukin-2 receptor, sIL-2R)の増加と顔面や下肢の感覚異常が出現し9月には呼吸不全を呈しATL再発と診断,再度mLSG15療法を施行した。sIL-2Rは正常化し感覚異常も軽減し効果を認めたが,2022年2月にsIL-2Rは再上昇した。このためtucidinostatを開始したところsIL-2Rの減少と全身状態の改善を認めた。Tucidinostatは同種造血幹細胞移植後に再発したATLでも効果が期待される。
免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)の有害事象として免疫性血球減少症は報告されているものの,血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を発症した症例は限られている。79歳女性。2021年5月非小細胞肺がんと診断。局所放射線療法併用抗がん化学療法で部分奏効が得られたのち,維持療法としてdurvalumabを投与され4週後にTTPを発症した。血漿交換とステロイド療法で軽快し,12ヶ月以上経過した現在も肺がんおよびTTPの再燃なく経過している。ICIsの有害事象としてのTTPは限られた報告に留まっており,durvalumab投与後の発症は本症例が初めてである。TTPの早期診断と適切な治療介入で,高齢者でも予後の改善が期待された。
症例は47歳,女性。皮下出血班を主訴に受診し,血液検査で白赤芽球症を伴う白血球増多,貧血,血小板減少を認め,骨髄生検所見から原発性骨髄線維症(aaDIPSS, DIPSS plus:中間-IIリスク)と診断した。末梢血JAK2,CALR,MPL遺伝子変異はいずれも陰性で,骨髄生検検体で実施したターゲットシークエンスでU2AF1遺伝子変異(Q157R,S34V)を認めた。HLA一致同胞をドナーとし,同種移植を実施した。移植後の骨髄検査では完全ドナー型であり,移植後2年の現在も無再発で経過している。U2AF1遺伝子異常は原発性骨髄線維症における予後不良因子として知られているが,本症例は速やかな移植治療により長期予後を得られた症例と考えられる。Triple negative MFにおける詳細な遺伝子変異検索の重要性を示唆する症例と考えられ,報告する。
64歳女性。両上肢の巧緻運動障害を契機に受診,頭部MRIで延髄に造影効果を伴う病変を指摘された。末梢血および骨髄にblebを伴う異常リンパ球を認め,フローサイトメトリーでCD4+/CD8+二重陽性T細胞集団を検出した。同細胞由来DNAを用いた全エクソンシークエンスでCLEC16A::IL2融合遺伝子を同定し,さらに異常リンパ球にTCL1Aタンパクの発現を認めた。以上から中枢神経浸潤を伴うT細胞前リンパ球性白血病(T-PLL)と診断した。初期治療に不応であり,alemtuzumabによる救援療法で骨髄・末梢血の異常細胞および延髄病変は消失したが,末梢血細胞で同融合遺伝子のmRNAは残存した。HLA適合非血縁者をドナーとした骨髄移植を行った後,末梢血の同融合遺伝子は検出感度以下となり,5年間分子学的寛解を維持した。同融合遺伝子陽性T-PLLの既報はなく,貴重な症例につき報告する。
症例21歳男性。Crohn病のためinfliximab,azathioprineによる治療を受けていたが6年後,発熱,LDH 2,473 U/l,血小板低下,肝脾腫を認めた。骨髄生検と肝生検でCD4,CD56,TCRγδ陽性,CD8陰性の異型細胞を認め,肝脾T細胞リンパ腫(hepatosplenic T-cell lymphoma, HSTCL)と診断した。CHOP療法,dose-adjusted-EPOCH療法後に非寛解状態で骨髄破壊的前処置による臍帯血移植を行った。退院前造影CTで肝脾腫縮小,LDH 165 U/l,血小板18万/µlと正常化を認めday117に退院した。HSTCLは脾臓内のVδ1遺伝子変異を伴う未熟なγδT細胞をカウンターパートとする腫瘍であり,発症には免疫不全状態の関与が示唆されており予後は不良である。Azathioprineで治療された炎症性腸疾患患者はリンパ増殖性疾患リスクが増加することが知られており,本症例もCrohn病に対する免疫抑制剤の使用により腸管上皮に存在するγδ細胞が悪性化した可能性がある。化学療法抵抗性であったが早期の臍帯血移植で寛解を達成し,長期予後を期待している。
Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫(T-ALL/LBL)は急性白血病・悪性リンパ腫の中でも予後不良の疾患として知られている。Nelarabineは再発難治性T-ALL/LBLに対し良好な臨床成績が報告される治療選択肢の一つである一方で,神経障害の合併症に注意を要する。今回,T-LBL移植後早期再発に対しnelarabine単剤で完全寛解を達成し臍帯血移植を行ったが,高度意識障害を来し多臓器不全により死亡に至り,剖検にてnelarabineによる薬剤性白質脳症を示唆する所見が得られた1例を経験したため,報告する。