同種造血細胞移植は造血器悪性腫瘍などに対する唯一の根治療法であるが,重篤な合併症の一つである移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)の克服が課題である。現在,免疫抑制剤による予防が行われるが約半数の患者に発症し,第一治療選択薬のステロイド治療を行っても,約30~40%がステロイド不応性GVHD(steroid refractory, SR-GVHD)へ移行し予後不良となる。これまで新規薬剤による第一相・第二相臨床試験としてGVHD予防・治療法開発が行われ,良好な成績が報告されるものの,SR-GVHDに対する効果は乏しく標準療法は確立されていない。その理由として,SR-GVHDの発症機序が十分に解明されていないことが挙げられる。現在,マウスモデルを用いた基礎的な解析が一部の研究者の間で開始され,その研究成果を基にした新たな薬剤の臨床試験成績も報告されるようになってきた。本稿ではSR-GVHDのこれまで明らかにされた発症機序を詳細に解説し,早期予測および病態に基づく今後の治療戦略について述べる。
生後1歳未満の乳児に発症する乳児急性リンパ性白血病(ALL)とくにKMT2A遺伝子再構成陽性ALL(KMT2A-rALL)は長期無イベント生存率が50%以下の極めて難治な疾患である。これまで乳児ALLに特化した治療開発が国内外の臨床試験グループで継続的に行われてきたが,十分な治療成績の向上は得られていない。さらに乳児期の造血細胞移植を含む強力な治療による重篤な晩期合併症も深刻な問題である。このような背景から,乳児ALLの治療成績の向上と質の高い長期生存のためには,より適切な層別化や新規治療薬を導入した新規治療戦略の確立が求められており,乳児ALLの希少性から国際共同で治療開発を行うことが重要である。現在,日本と欧州で新規抗体製剤blinatumomabを組み込む国際共同第III相試験が検討されている。本稿では,乳児ALLのこれまでの国内外の治療のあゆみと最新の乳児ALLの治療開発について概説する。
ALアミロイドーシスの中でも,特に心アミロイドーシスは予後不良であることが知られているが,他臓器病変や全身状態を加味した予後指標として確立されたものは少ない。2012年1月~2019年11月に当院で診断したALアミロイドーシス27症例について後方視的に検討した。心病変を有する群では3年全生存率は20%(95%CI, 0.035~0.461)であり,心病変を有しない群85.7%(95%CI, 0.334~0.979)と比較して予後不良であった(p=0.021)。ALアミロイドーシスの予後不良因子として,左室駆出率<60%以下,Hb<10 g/dl, NTproBNP>1,800 pg/ml, BNP>400 pg/ml, dFLC>180 mg/l, NYHA≥3, Mayo staging IV,心アミロイドが挙げられた。また,半年以内に死亡した早期死亡4例を検討したところ,全例が心アミロイドーシスで,Mayo分類2012のIV期であり,4例全例が化学療法を十分施行できず死亡した。ALアミロイドーシスの治療選択肢は今後も増えていくことが予想されるが,予後不良因子を有する患者の予後は悪く,慎重な治療方針決定が必要である。
鉄欠乏性貧血治療の第一選択である経口鉄剤は,貧血が治癒したあとも,体内の貯蔵鉄を補充するために数ヶ月間継続投与する必要がある。一方で,既存の経口鉄剤は消化器症状などの副作用によって長期服用が困難であることも少なくない。これまでの臨床試験から,ferric citrate hydrate(FC)は十分な貧血改善効果を有し,既存経口鉄剤よりも悪心および嘔吐の発現率が低いことが示された。本試験では,鉄欠乏性貧血患者に対してFC 500 mg/日もしくは1,000 mg/日を最長24週間投与した際の鉄補充効果および安全性を検討した。その結果,いずれの投与量でも貧血状態および鉄欠乏状態の改善が認められ,ほとんどの患者で十分な鉄補充効果が得られた。また,安全性に大きな問題は認められなかった。以上のことから,FCは鉄欠乏性貧血患者に対する新規経口鉄剤としての有用性が期待される。
慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML)は,血液細胞がBCR-ABL1融合遺伝子を形成することで,それにより産生されるBCR-ABLチロシンキナーゼが細胞の異常な活性化をきたすことを機序とする,造血幹細胞レベルでの異常が原因となる血液増殖性疾患の一つである。多くは,白血球増多や脾腫などの症状により発症することが多いが,今回の症例では,複視,見当識障害を主訴とし,左目の外転神経麻痺,輻輳障害,排尿障害などの神経症状を伴い,無菌性髄膜炎を呈した症例を経験した。また,ステロイドパルス療法,抗生物質などの一般的髄膜炎治療には反応不良で,チロシンキナーゼ阻害薬であるダサチニブの併用が著効したと思われる。さらに,治療目的に投与したダサチニブの投与中に,副作用と思われる脊髄障害も経験した。CMLの腫瘍随伴症候群との関連を示唆する報告は稀であり,また髄膜炎としては初であると思われ,その経過を報告する。
症例は甲状腺原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(stage IE)の75歳女性。R-THP-COP療法3コースおよび放射線療法39.6 Gy施行後のFDG-PET/CTにて全身リンパ節および殿部筋肉に新たにSUVmax 7.1~26.1の異常集積を認めた。甲状腺限局びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の経過としては急な病勢増悪のため再生検を施行したところ,再発所見を認めずサルコイドーシスと診断された。SUVmaxは高値であったが,自覚症状はなく心病変や眼病変の合併もないため経過観察したところ,緩やかに異常集積は軽快し,2年の経過で消失した。詳細な機序は明らかとなっていないが本症例のように悪性リンパ腫の治療後にサルコイドーシスが発症する症例がこれまでにも報告されている。悪性リンパ腫の再発が疑われる症例において,典型的な臨床経過を示さない症例では,再発以外の可能性を考え再生検することの重要性が示唆された。
Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は急速に全世界に拡大している。今回我々は白血病初発時にSARS-CoV-2 PCR陽性の急性白血病を2例経験した。両者ともにCOVID-19の重症化を認めることなく,通常の化学療法を実施することができた。造血器疾患の診療に関するSARS-CoV-2の影響は不明確であるが,我々の治療経験からは,急性白血病に対する寛解導入療法は大きな問題は起こらず実施可能であった。COVID-19の収束は現時点では見通せず,今後の急性白血病に対する治療方針決定においては,同様の症例のさらなる蓄積が必要と考えられる。
症例は25歳男性で,ストレス多血症として前医通院していた。2016年1月に白血球増多と貧血,血小板減少が出現し,骨髄穿刺では異形成のない顆粒球系細胞の増多,少数の芽球を認めた。染色体異常無く,BCR-ABL,FIP1L1-PDGFRA,JAK2 V617F,colony-stimulating factor 3 receptor遺伝子(CSF3R)変異を認めず,骨髄増殖性腫瘍-分類不能型の診断としてhydroxyureaが導入された。輸血依存のため2016年4月に当科紹介となり,その際の骨髄穿刺で顆粒球系細胞の異形成が認められ,CSF3R T618Iが検出された。寛解導入療法後に同変異は消失し2016年10月に同種移植を実施した。移植後4年時点で再発なく生存している。CSF3Rは慢性好中球性白血病や非定型慢性骨髄性白血病の責任遺伝子の一つとされ,本症例でも病態形成への関与が示唆された。
症例は23歳女性。強い下腹部痛により緊急入院となった。画像検査で脾腫と腹水貯留に加え,ダグラス窩を占拠して子宮から膀胱を取り囲む巨大腫瘤を指摘された。WBC 495,880/µlと著明な増加を認め,後日にBCR-ABL1融合遺伝子が証明されて慢性骨髄性白血病と診断した。DasatinibにhydroxyureaとVP-16を併用して加療を開始したところ,腫瘤は速やかに消失し1ヶ月以内に血液学的完全奏効が得られた。芽球の増加や付加的染色体異常を認めなかったが,髄外病変を伴うことから急性転化期と考え,同種造血幹細胞移植を勧めたが同意を得られず。Dasatinibを継続して11ヶ月で分子遺伝学的大奏効に達した。慢性骨髄性白血病が髄外腫瘤を初発症状とすることは稀である。また本例に認めたBCR-ABL1融合遺伝子におけるABL1 exon 4の欠失は細胞増殖を低下させると報告されており,本例がtyrosine kinase inhibitorで病勢を制御可能であったことと関連して興味深い。
乳糜胸は胸管破綻等による胸腔内乳糜漏出で,非外傷性の原因では悪性リンパ腫が最多である。症例は74歳女性。2019年3月に両側胸水と腸間膜・後腹膜腫瘤を指摘され当科受診,生検でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断した。5月に胸水貯留による呼吸困難で緊急入院となり,胸腔穿刺では大量の乳糜胸水を認めた。化学療法で病変は縮小するも乳糜胸の改善は乏しく,退院困難で管理に難渋した。リンパ管造影を行い,破綻部位に対して胸管塞栓術を複数回行い,胸膜癒着術を施行し乳糜胸は一旦改善した。しかし2020年5月に悪性リンパ腫の再燃を伴わず右乳糜胸が再発した。保存的加療で改善乏しく,再びリンパ管造影を施行したが,リンパ管経由の治療が困難であり,胸膜癒着術を4回行い改善した。乳糜胸はしばしば難治性で,悪性リンパ腫に対する化学療法で改善しない場合は多科連携による集学的な治療が有効である。
A central venous access device (CVAD) was implanted in a child with hemophilia for long-term replacement therapy with factor VIII. Four years and eight months after its insertion, malfunction was observed. Further study revealed migration of the transected catheter to both the pulmonary arteries. The retrieved catheter displayed a tear and dislodgement at the anastomosis between the port and catheter. To the best of our knowledge, no case of extensive CVAD damage in children with hemophilia has been reported. Patients with CVAD malfunction are often asymptomatic; however, this condition could lead to a fatal outcome. Therefore, clinicians need to be aware of this complication.
Two cases of human herpesvirus 8 (HHV8)-negative effusion-based lymphoma (EBL) involving unilateral pleural effusion that regressed only after drainage are reported. Cases 1 and 2 were 91- and 81-year-old men with right and left pleural effusion, respectively. No chemotherapy was administered to either patient because of their advanced age and the presence of cardiac comorbidities. They completely recovered after effusion drainage alone without relapse till the last observation. Thus, this study suggests that some patients with HHV8-negative EBL can be safely managed with effusion drainage alone.
A 50-year old man with a 1-year history of eosinophilia presented with an eosinophil count exceeding 13,800/mm3 in the peripheral blood at the first visit. Bone marrow examination revealed that eosinophils accounted for 30% of the nucleated cell count, and G-band karyotyping analysis detected t (5;14)(q33;q22). Using peripheral blood FISH test, he was found to have platelet-derived growth factor receptor β (PDGFRB) locus rearrangement at 5q32-33. The level of eosinophils in the peripheral blood reduced markedly 3 days after the initiation of Imatinib mesylate, 400 mg daily. This treatment was administered for 2 years, after which the peripheral blood FISH test was negative for PDGFRB. In this disease, although most cases are with t (5;12), those with t (5;14) are relatively rare, and the long-term course of this translocation is unknown.
Coronavirus disease 2019 (COVID-19) has emerged as a global pandemic until today, but treatment options remain limited. COVID-19 vaccination is expected to decrease the number of patients with COVID-19 worldwide. In Japan, two types of mRNA COVID-19 vaccine, BNT162b2 (Pfizer/BioNTech) and mRNA-1273 (Moderna), have been approved and administered. However, their side effects remain poorly elucidated. This paper presents two cases of immune thrombocytopenia (ITP) after BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccination. Whether or not ITP is triggered by the vaccination or not is difficult to identify. Further investigation with a large number of cases is warranted to clarify the side effects of BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccination.