臨床血液
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64 巻, 8 号
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Picture in Clinical Hematology
第83回日本血液学会学術集会
学会奨励賞受賞論文
  • 山本 圭太
    2023 年 64 巻 8 号 p. 719-730
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    ASXL1は骨髄増殖性疾患において高頻度に変異が認められる遺伝子である。ASXL1変異により変異型ASXL1蛋白質が発現する。私たちは野生型ASXL1が相分離を引き起こす蛋白質であり,膜のないオルガネラ(membraneless organelles, MLOs)であるパラスペックルの形成に関与することを明らかにした。骨髄系腫瘍で認められる変異型ASXL1は相分離に関わる天然変性領域(intrinsically disordered region, IDR)を欠損しており,パラスペックルの形成を有効に補助できないことも見出した。さらに変異型ASXL1を発現するマウスの造血幹前駆細胞ではパラスペックルの形成が障害されており,骨髄再構築能低下の一因となっていることを示した。本稿では近年生物学の分野で注目を集める相分離やMLOsの概念について解説し,筆者らの研究成果を含めて最新の知見を紹介する。

症例報告
  • 乘濵 結夏, 野村 萌, 小田 祐貴, 粕谷 悠樹, 武井 智美, 佐藤 広太, 小倉 瑞生, 菊池 拓, 阿部 有, 石田 禎夫, 笠井 ...
    2023 年 64 巻 8 号 p. 731-734
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    症例は28歳女性。妊娠21週に健診で芽球を指摘され,遺伝子検査でRUNX1::RUNX1T1が陽性であり,AML with t(8;21)(q22;q22.1); RUNX1-RUNX1T1と診断された。予後不良の遺伝子変異を認めなかったため,可能な限り化学療法を行わず妊娠を継続することとした。2週間に1度程度の血液検査による注意深い経過観察を行い,正産期まで進行なく経過し,39週0日に帝王切開術を施行した。出産約2ヶ月後に末梢血中芽球が46.5%と上昇を認め,骨髄芽球も21.2%と上昇を認めたため,化学療法を導入した。現在血液学的寛解を維持できている。妊娠中に化学療法の導入なく正期産に至った貴重な1例として報告する。

  • 横井 桃子, 近藤 敏範, 清水 里紗, 内田 圭一, 林 成樹, 西村 広健, 近藤 英生, 和田 秀穂
    2023 年 64 巻 8 号 p. 735-740
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    症例は71歳の女性。食欲不振と嘔吐を主訴に当科を受診した。著明な好中球増加症とIgA-κ型M蛋白を認め,骨髄中に形質細胞の増加を認めた。血清granulocyte-colony stimulating factor(G-CSF)濃度は160 pg/mlと高値で,CSF3R-T618I変異は認めなかった。抗G-CSF抗体を用いた免疫組織化学(IHC)では一部の形質細胞で陽性であり,G-CSF産生骨髄腫と診断した。Daratumumab, lenalidomide, dexamethasone治療により血清G-CSF濃度と好中球数は正常化した。G-CSF産生骨髄腫の報告例は少なく,M蛋白血症を伴う慢性好中球性白血病として報告されてきた。これまでの報告から血清G-CSF値測定や抗G-CSF抗体によるIHC,CSF3R遺伝子変異解析等の手法が鑑別診断に有用であると考えられた。G-CSF産生骨髄腫の詳細な臨床像や長期予後は未だ不明である。今後さらなる症例の蓄積と検討が必要である。

  • 久保田 力, 永澤 俊, 中川 緑, 山田 愛, 木下 真理子, 上村 幸代, 下之段 秀美, 盛武 浩
    2023 年 64 巻 8 号 p. 741-745
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    輸血依存性の中等症以上の小児再生不良性貧血では,HLA一致血縁ドナーが不在の場合,免疫抑制療法の適応となるが30%は不応である。成人領域ではeltrombopagの併用が検討されているが,小児領域は有用性と安全性がまだ確立されていない。今回,我々は免疫抑制療法に反応の乏しかった再生不良性貧血にeltrombopagを併用し造血細胞移植を回避できている3症例を経験した。1例は投与から1ヶ月で寛解,2例はクレアチニン上昇によるcyclosporin減量を要したがeltrombopag併用により輸血非依存を維持できている。副作用は眼球黄染のみで,減量により改善した。小児においてもeltrombopagは免疫抑制療法不応の再生不良性貧血に有用で輸血や移植を回避できる可能性がある。今後の症例の集積による安全性と有用性の検証が望まれる。

  • 橋本 博史, 田村 雄平, 山田 薫, 加藤 由里子, 嶋田 高広, 藤原 亮介, 花本 仁
    2023 年 64 巻 8 号 p. 746-750
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    症例は72歳,男性。フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)に対してdasatinib(week1:50 mg/日,week2:70 mg/日,week3~:100 mg/日)とprednisolone(PSL)投与を2017年6月から開始した。しかし2018年1月にT315I変異を伴う再発を認めponatinib 30 mg/日へ変更し寛解(CR)となったものの,2018年6月には第二再発となった。CD22陽性を確認した後,inotuzumab ozogamicin(InO)を3サイクル投与しCRとなったが,2021年5月に3回目の再発となった。CD22陽性を維持していたため,再びInOを投与したところ2サイクル目終了時にCRとなった。高齢者の再発/難治性Ph+ALLに対するサルベージ療法としてInOを再投与することで治療効果を認めた症例を経験した。

特集:実地診療における免疫学のトピックとそのアプローチ
  • 正本 庸介
    2023 年 64 巻 8 号 p. 751-752
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり
  • 中島 秀明
    2023 年 64 巻 8 号 p. 753-763
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)は造血幹細胞のゲノム変異を基盤に発症するクローン性造血不全であり,血球減少を主徴とする低リスクMDSと白血病への進展を特徴とする高リスクMDSに分類される。低リスクMDSでは以前から炎症や免疫活性化が病態形成に深く関与していることが報告され,近年の研究で自然免疫系を介した炎症経路活性化とそれによる細胞死亢進が疾患の一因であることが解明された。一方高リスクMDSでは腫瘍免疫抑制や免疫逃避が病態進展に深く関わっている。最近提唱されたVEXAS症候群は,造血幹前駆細胞のUBA1変異によるクローン性造血を基盤とした自己炎症性疾患であり,炎症による低リスクMDSを伴う点で大きな注目を集めている。炎症を伴うMDSに対しては免疫抑制剤が一定の治療効果を示すが,病態に応じた至適治療法の開発が期待されている。

  • 新井 文子
    2023 年 64 巻 8 号 p. 764-771
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    Epstein-barr virusはB細胞のみならず,T, NK細胞の不死化の原因となり,かつ遺伝子変異導入を誘導することでリンパ系腫瘍(EBV-positive lymphoproliferative disorders, EBV-LPDs)の発症に寄与する。B細胞性EBV-LPDs(B-EBV-LPDs)は免疫不全を背景に発症する。一方,T, NK細胞性EBV-LPDs(T, NK-EBV-LPDs)はいわゆる慢性活動性EBウイルス病chronic active EBV disease(CAEBV)とその類縁疾患で,その発症機構は未解明である。2つのEBV-LPDsの診断には末梢血のEBV-DNA定量検査が重要である。B-EBV-LPDsは免疫不全の原因の除去やrituximabが有効であるが,一部のB-EBV-LPDsとT, NK-EBV-LPDsは薬物治療抵抗性を示す。病態の解明と治療薬開発は喫緊の課題である。

  • 金兼 弘和
    2023 年 64 巻 8 号 p. 772-781
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    免疫不全症とは免疫にかかわる分子の異常によって発症し,その原因遺伝子は500近くに及ぶ。症状も易感染性のみならず,自己免疫疾患,悪性腫瘍,自己炎症性疾患,アレルギーを合併することから,免疫不全症というよりは先天性免疫異常症(inborn errors of immunity, IEI)として捉えられる。IEIは遺伝子変異を有することが多く,小児期に発症すると考えられがちであるが,成人発症のIEIも少なからず存在する。昨今の治療の向上から成人期にキャリーオーバーする小児期発症IEI患者も多く,IEI患者の半数は成人と考えられる。IEIの診断は小児同様に10の徴候を参考に,易感染性の存在に早く気づくことであり,診断は4ステップで行い,遺伝子解析による最終診断を行う。IEIの治療は抗菌薬の予防内服や免疫グロブリン補充療法に加えて,一部の患者では根治的治療として同種造血細胞移植(hematopoietic cell transplantation, HCT)が行われる。しかし成人IEI患者では合併症のためにHCTを断念せざると得ないこともある。成人IEI患者ではHCT適応を速やかに判断し,合併症が増える前にHCTを行う必要がある。

  • 赤塚 美樹
    2023 年 64 巻 8 号 p. 782-790
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    T細胞上のCTLA-4やPD-1等の免疫チェックポイント(IC)分子は自己組織に対する不適切な免疫反応の抑制に関わっている。近年のIC阻害薬(ICI)の出現はがんの免疫療法を根本から変えた。かなりの進行がん患者がこの治療に反応し,一部では治癒も認められる。このような効果は,腫瘍微小環境内の腫瘍や周辺細胞とT細胞間のCD80/CTLA-4・PD-L1/PD-1間の阻害で得られる。しかしIC分子の阻害は寛容になっている自己抗原への免疫反応(免疫関連有害事象,irAE)をもたらす。主要な標的は肺,消化管,内分泌腺等であるが,0.5~3%の頻度で血液系細胞障害が出現する。血液系は生命維持に必須であり,grade 3~4のirAEの出現は直接生死につながる。本稿ではICIと有害事象の関係を考察し,特に血液系のirAEの特徴と治療について概説する。

  • 石田 文宏
    2023 年 64 巻 8 号 p. 791-798
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    大型顆粒リンパ球(LGL)性白血病はLGLの形態を呈する細胞傷害性T細胞ないしはNK細胞が持続的に増加する慢性疾患で,血球減少や関節リウマチ(RA)を代表とする合併症に対して治療を要するが腫瘍死することは稀である。合併症の多くはLGL白血病に伴う免疫異常を背景に生ずると考えられており,血球減少のうち好中球減少は欧米で最も多くFas/Fasリガンド系の関与が強く示唆される。貧血,特に赤芽球癆は東アジア症例に多くLGLによる赤血球系造血障害で生ずる。非血液合併症では自己免疫疾患のなかでもRAが圧倒的に多い。LGL白血病合併RAとしての特徴は乏しいがフェルティ症候群ではLGL白血病との強い関係性を認める。LGL白血病の合併症が臨床的に問題となると治療適応であるが,通常,免疫抑制療法が選択される。LGL白血病のSTAT3, STAT5B, CCL22といった遺伝子の体細胞性変異をはじめとする遺伝子変異像が明らかになり,特定の病型やLGL白血病の免疫異常の一部への関与が判明している。LGL白血病のより適切な診断法や治療法へ,これらの新知見の応用が期待される。

第84回日本血液学会学術集会
女性医師キャリアシンポジウム
  • —二足の草鞋を履いて—
    山﨑 悦子
    2023 年 64 巻 8 号 p. 799-802
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    第84回日本血液学会学術集会では「血液女子,夢を語る」と題した女性医師キャリアシンポジウムが開催された。1人の医師として,血液専門医の選択,そして血液専門医キャリアを継続しつつ,検査専門医キャリアへと歩んでいる私のキャリアパスおよびその時々の夢が少しでも誰かの参考になればと紹介させていただくこととした。検査専門医は基本領域ながらその数が少なく,血液専門医にとって挑戦しやすい分野である上に,ワークライフバランスもとりやすい領域である。キャリア継続とさまざまなライフイベントの両立が可能にもなる。自分で道を切り開くことはとても大変なことであるが,周囲からのアドバイスで道を選択していくことは比較的容易である。吹いてくる風に対して自分が進みたい方向に帆を調整することにより道を進んでいく,それもキャリア形成をする一つの術であると考える。We cannot direct the wind, but we can adjust the sails.

  • 黒澤 彩子
    2023 年 64 巻 8 号 p. 803-809
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    第84回学術集会において女性医師キャリアシンポジウム登壇の機会をいただいた。女性医師の多様性の一つとしてお考えいただけたら幸いである。東北大学卒業後,初期研修は武蔵野赤十字病院,後期研修とその後の血液臨床を都立墨東病院で経験した。どちらも血液診療,救急医療ともに活発な施設であり,その二施設における臨床経験が現在の私の臨床スキルの他,身体的・精神的強さ,フットワークにつながっているのは間違いないだろう。大きな転機となったのは,国立がん研究センター中央病院の福田先生からの一本の電話であった。がんセンターに異動後は移植臨床ののち,複数の貴重な多施設研究に携わる機会をいただき,AMLの臨床決断分析をきっかけに,QOL・患者報告アウトカム研究,そして移植後サバイバーシップ研究へとつながっていった。生まれ育った長野県に戻り,今後は地域の血液腫瘍内科医であるとともにがんサバイバーシップ研究に携わっていきたい。

  • 滝田 順子
    2023 年 64 巻 8 号 p. 810-815
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/07
    ジャーナル 認証あり

    近年の集学的治療の進歩により,小児がんの治癒率は,全体として約70%となっている。最も顕著な治療成績の向上は,急性リンパ性白血病であり,約50年前には10%程度であった治癒率は,現在,約90%に手が届いている。しかし,一方で,小児白血病の再発・難治例は依然として予後不良であり,多くの場合,標準治療は存在しない。またたとえ救命し得たとしても,成長障害,内分泌障害などの重篤な晩期合併症が深刻な問題となっている。これまで筆者らは,小児がんの治癒率向上を目指して,小児がんの中で最も頻度が高い白血病の分子病態の解明に取り組んできた。本稿では,T細胞性急性リンパ性白血病に関する最近の成果を概説する。

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