全身状態良好な高齢難治性急性骨髄性白血病(AML)に対する至適レジメンは確立されていない。今回我々はDNMT3AおよびIDH2変異を有し,標準化学療法に抵抗性であったが,venetoclax+azacytidine(VEN+AZA)療法が有効であったAMLの1例を経験した。症例は71歳男性,末梢血に芽球を伴う汎血球減少を認めたため当科紹介入院。骨髄穿刺にてDNMT3A R882H,IDH2 R172K変異を伴うAML(WHO分類2017:AML-NOS)と診断され,減量idarubicin+cytarabineによる寛解導入療法を受けたが,骨髄にてDNMT3A変異細胞を伴う20%の骨髄芽球残存を認めたため,寛解導入不全と診断された。IDH2やDNMT3A変異を有するAMLへの有効性が報告されているVEN+AZA療法による再寛解導入療法を施行した結果,完全寛解を達成し,DNMT3A変異細胞が著減して9ヶ月以上の無再発生存中である。VEN+AZA療法は従来法に抵抗するDNMT3AおよびIDH2変異を有する高齢者AMLに対しても有効である可能性がある。
79歳,男性。2015年に形質細胞性白血病に対してbortezomibやlenalidomideを含むレジメンを使用しvery good partial response(VGPR)に至ったが,感染合併し経過観察となった。3年後に多発髄外形質細胞腫として再発した。KLd(carfilzomib, lenalidomide, dexamethasone)療法を開始し腫瘤の著明な縮小を認めたが,薬剤性血栓性微小血管症(TMA)を発症し治療中断した。その後,休薬のみでTMAは改善したためKLdの減量再投与をしたが,TMAの再燃はなかった。減量KLd療法3コース施行後にVGPRに到達し,10コースまで悪化なく継続している。Carfilzomib治療は再発,難治例にも有用と考えられる。薬剤誘発性TMAは,免疫介在性または用量依存性の毒性機序によって引き起こされることが報告されている。またcarfilzomibによるTMAの発症機序は用量依存性も指摘されており,発症時にも減量再投与を考慮しうる。
症例は既往や家族歴のない54歳女性。汎血球減少と肝障害のため紹介となり,血球貪食性リンパ組織球症(HLH)と診断したが,基礎疾患の特定ができなかった。原因不明のHLHとしてHLH-94プロトコールを開始したが,病勢悪化を繰り返し治療に難渋した。フローサイトメトリーでNK細胞内パーフォリン発現低下が認められ,パーフォリン遺伝子(PRF1)に既知の変異が2種類同定されたため,晩期発症の家族性HLH2型と確定診断した。HLA一致非血縁ドナーからの同種骨髄移植を行ったが,血栓性微小血管障害を発症,敗血症を併発し移植後早期に死亡した。成人HLHの大部分は二次性と考えられているが,原発性HLHをきたす遺伝子異常を有する例も報告されている。成人に発症したHLHにおいても,原因不明の場合には遺伝子検査が有用と考えられる。
53歳男性。本態性血小板血症から二次性骨髄線維症に移行し,8ヶ月後白血病へ進展した。寛解導入療法後,非寛解で非血縁間同種造血幹細胞移植を実施し,寛解を得た。しかし,末梢血WT-1 mRNAが徐々に上昇し,移植から3年半後に再発した。慢性肺移植片宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)に対しprednisolone 7.5 mgとtacrolimus 5 mgを内服しており,免疫抑制剤の減量・中止は憚られ,ドナーリンパ球輸注(donor lymphocyte infusion, DLI)を計5回実施した。5回目終了後に皮膚GVHDが出現し,緩徐なWT-1 mRNAの低下を認め,DLI終了4ヶ月後に末梢血中の芽球が消失した。DLI終了1年3ヶ月後には完全寛解を達成した。二次性骨髄線維症・白血化症例の移植後再発にDLIを投与し,著効した症例は稀であるが,有用な再発後治療となり得る。
症例は62歳女性。視力障害・眼底出血があり精査したところ白血球数236,200/µl,うち芽球11.0%であり当科を受診した。骨髄中に芽球を9.2%認め,major BCR-ABL1融合遺伝子が検出された。染色体分析は,46,XX,t(3;12)(q26.2;p13),t(9;22)(q34.1;q11.2)であった。全身に1~2 cm大のリンパ節腫脹を認めたためリンパ節生検を施行したところ,MPO陽性異型細胞のびまん性増殖を認めた。鼠径部リンパ節検体を用いたFISH検査で,BCR-ABL1融合遺伝子とともに,MECOMおよびETV6遺伝子の異常を確認し,CMLの髄外病変と判断した。以上より,慢性骨髄性白血病急性転化と診断し,TKI併用化学療法と同種造血幹細胞移植により奏効が得られた。本例は,髄外病変の分子生物学的検索を用いて病期診断し得た貴重な症例である。
69歳男性。54歳時に健診で末梢血好酸球数990/µlを認め,69歳時に5,380/µlまで増加したため当科を初診した。健診歴から,58歳時に心電図でI度房室ブロックが,65歳時にST-T変化が出現したことが判明した。65歳時の心エコーで異常は認めなかった。骨髄の異常好酸球増多,染色体4q12欠失からFIP1L1::PDGFRA陽性慢性好酸球性白血病と診断した。自覚症状はなかったが,心エコー・造影CTで左室心尖部の壁肥厚,左室内心尖部の血栓を認め,心臓病変を合併していた。Imatinib 100 mg/dayの投与で速やかに末梢血好酸球数は正常化したが,心臓病変は増悪し,心不全症状のため全身状態は悪化した。本症例は診断に至るまでの長期にわたる経時的な変化を捉えた点で貴重と考える。好酸球増多に心電図異常を伴う場合,より早期かつ積極的に心臓造影MRIを行うことを検討すべきである。
A 65-year-old man was diagnosed with Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia with no initial central nervous system (CNS) involvement. Complete remission was achieved after the induction therapy. However, during consolidation therapy, he developed septic shock and pneumocystis pneumonia, leading to interruption in chemotherapy and allogeneic transplantation. Subsequently, he achieved complete molecular remission and ponatinib maintenance therapy was initiated. Two years later, he developed left leg paralysis and was diagnosed with isolated CNS relapse; however, radiation therapy improved CNS lesions and paralysis. Thus, ponatinib maintenance therapy alone is inadequate in preventing CNS relapse in patients who have not completed systemic chemotherapy for CNS relapse prevention.
成熟T細胞性腫瘍である末梢性T細胞リンパ腫は,標準的な治療法が存在せず,未だに予後不良の疾患群である。2016年改訂版のWHO分類において末梢性T細胞リンパ腫・非定型の中に,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫と類似した患者群が存在していることから,nodal T-cell lymphoma with TFH phenotypeという疾患群が新設された。その疾患群の一種である血管免疫芽球性T細胞リンパ腫の患者検体から検出された,VAV1遺伝子の変異をT細胞特異的にマウスで発現させ,T細胞性リンパ芽球性リンパ腫と新たに提唱されている疾患群であるPTCL-GATA3を模倣した腫瘍を発症するモデルマウスを作製することに成功した。遺伝子異常や発現の違いにより,さらに細分化された疾患群が提唱されており,より個別化した治療方針をこれらのモデルマウスを解析することにより提案できる可能性がある。