経口プロテアソーム阻害剤ixazomibは,国際共同第III相ランダム化プラセボ対照二重盲検比較試験(TOURMALINE MM-1)の結果に基づき,再発・難治性多発性骨髄腫に対しlenalidomide+dexamethasone(Rd)との併用(IRd)での使用が認められている。本研究ではTOURMALINE MM-1試験のうち日本人患者(41例)における安全性を検討した。日本人集団における全体的な有害事象の発現状況について,IRd群でplacebo-Rd群より増加する傾向は見られなかった。IRd群では血小板減少症,皮膚障害,悪心,嘔吐,下痢の発現がplacebo-Rd群より多かったものの蓄積作用は認められず,慎重な観察,支持療法,用量調節により管理が可能であった。全集団と比べると有害事象の発現率は概ね同様で,日本人集団では試験期間中の死亡例はなく,重篤な有害事象の発現率は全集団より低かった。
19歳男性。治療関連骨髄異形成症候群(MDS)に対し,ABO血液型主不適合のHLA一致同胞から強度減弱型前処置を用いて骨髄移植を行った。移植後1ヶ月の骨髄キメリズムは患者タイプが30%の混合キメラであった。移植後3ヶ月でMDSは寛解を維持していたが,顆粒球の患者タイプが50%まで増加した。免疫抑制剤を急速減量・中止したところ,汎血球減少を来した。好中球と血小板は自然回復したが貧血が進行し,骨髄での赤芽球系単独の著明な低形成とドナー赤血球に対するABO抗凝集素の上昇より移植後赤芽球癆(pure red cell aplasia, PRCA)と診断した。この時点でB細胞を含めたキメリズムが完全ドナー型であったため赤血球輸血のみ行い経過を見たところ,PRCA発症2ヶ月後に貧血は改善した。移植後PRCAの治療方針は,キメリズムなどを指標に,症例ごとに検討する必要があると考えられる。
Philadelphia染色体陽性急性リンパ性白血病の13歳女児。Imatinib併用寛解導入療法開始後,4回目のL-asparaginase(L-ASP)筋注の1日後に激しい肛門部痛が出現した。肛門視診では,青みを帯びた外痔核を肛門縁に認め血栓性外痔核と診断した。治療開始前に外痔核の自覚はなかった。その後もL-ASPを含む各治療相において5~9日間持続する疼痛を伴う血栓性外痔核を発症し,L-ASP関連血栓性外痔核と診断した。保存的治療は無効で,疼痛コントロールにfentanylを要した。骨髄回復期に分離結紮術を施行し,外痔核は脱落,白色瘢痕化した。L-ASPを含む小児型治療が用いられるとりわけ思春期・若年世代の急性リンパ性白血病には,治療開始前の痔核検索が必要で,治療適応例には積極的な分離結紮術も選択肢となりうる。
Mixed-phenotype acute leukemia(T/myeloid)の第一寛解期でHLA-B一座不一致非血縁ドナーより同種骨髄移植を受けた44歳女性。移植150日頃に突然の点状出血と血小板減少(1.1×104/µl)が出現。移植後の免疫性血小板減少と診断し,prednisolone(1 mg/kg/日)の隔日投与を行ったが血小板の増加は不十分であり,トロンボポエチン受容体作動薬eltrombopagの併用を開始。その後,血小板数は増加しprednisoloneと輸血依存から離脱した。特発性血小板減少性紫斑病に対するeltrombopagの有用性が認められているが,造血幹細胞移植後の免疫性血小板減少に対する使用報告例は少ない。今回,移植後の免疫性血小板減少にeltrombopagが有効であった1例を経験したため,文献的考察を加え報告する。
65歳女性。多発性骨髄腫に対してbortezomib,lenalidmide,dexamethasone併用療法を開始した。14日目に低Na血症(127 mEq/l)を発症した。Arginine vasopressin peptide(AVP)が1.5 pg/mlであり,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of anti-diuretic hormone, SIADH)と診断した。Bortezomibを含む併用療法の有害事象として低Na血症が報告されているが,機序は明らかではない。本症例は初回化学療法中のステロイド投与終了後に生じたSIADHであり,単に薬剤に起因するものだけではなく高サイトカイン血症が低Na血症の発症に関与した可能性がある。
症例は40歳代,女性。出生時に異常出血は特に認めなかった。6歳時に誘因なく両側大腿部,両側膝関節背部に疼痛を認め近医を受診した。スクリーニングでAPTT 122秒と著明な延長を認めた。精査の結果,FX活性4.5%と著明な低下を認め先天性第X因子欠乏症と診断され,森らにより報告されている(日本血液学会雑誌43: 572-586, 1980)。19歳時に当院に転院,初診時のPT,APTTはともに延長,FX活性<1%を確認した。外来にて経過観察中,下腹部痛と重度の貧血を認め,婦人科にて月経に伴う卵巣出血と診断された。過多月経は低用量ピルでコントロールしていたが,子宮筋腫摘出術後から再び貧血の進行を認めた。以後,月経に合わせてFXを含有するプロトロンビン複合体製剤,PPSB®-HT「ニチヤク」の補充を開始したところ,過多月経は改善し,重篤な貧血を来すことなく経過している。
症例は60歳男性,主訴は発熱と全身浮腫で肝脾腫と全身のリンパ節腫脹を認め,播種性血管内凝固症候群(DIC)もあり入院となった。呼吸不全と腎機能障害,胸腹水も出現した。リンパ節生検の病理診断は形質細胞型の多中心性キャッスルマン病で,IL-6高値,骨髄線維症,血小板減少,全身性浮腫,腎機能障害,肝脾腫を伴うことからTAFRO症候群と診断した。第15病日にtocilizumab投与を行いDICは改善したが他の症状は改善せず,末梢血中に破砕赤血球が出現し意識障害も呈し血栓性微小血管症(TMA)と考えられた。血漿交換(PE)と持続血液透析濾過(CHDF)を行い,諸症状は一時改善したが再増悪し第33病日に永眠された。病理解剖の結果リンパ節は縮小していたが臓器肥大や消化管・大網出血,急性壊死性膵炎が認められた。Tocilizumab投与後にTMAを発症していることからtocilizumabによる二次性TMAの可能性が考えられる。
A 61-year-old female was diagnosed with a lymphoid crisis of chronic myeloid leukemia (CML) in February 201X and started chemotherapy combined with dasatinib (DAS). After 1 month of initiating second consolidation therapy, the neutrophils decreased to 1%, bone marrow examination revealed large granular lymphocytes (LGL) at 13%, and complete cytogenetic remission was attained (CCyR). Suspecting DAS-induced agranulocytosis, DAS was discontinued. After 2 weeks, LGL disappeared and neutrophils recovered. In this case, CCyR was attained for the first time when LGL increased. We considered that the expansion of LGL correlated with the clinical efficacy, and agranulocytosis was an off-target effect of DAS.
造血幹細胞は様々なストレスに曝されているが,食習慣が造血幹細胞に及ぼす影響についてほとんど理解されていない。我々は,RAS-MAPK症候群の原因遺伝子であるSpred1が高脂肪食ストレス下における造血幹細胞の恒常性を維持するために必須であることを見出した。普通食摂取のSpred1欠損マウスでは血液異常を示さないが,造血幹細胞の自己複製能はRhoキナーゼ活性に依存して亢進し,加齢やLPS刺激に対して抵抗性を示した。しかし高脂肪食摂取下では造血幹細胞におけるERKの異常活性と機能低下,重度の貧血,致死性の骨髄増殖性腫瘍様病態を示した。この血液異常は,抗生剤による腸内の除菌によって改善されたことから,高脂肪食摂取による腸内細菌叢変化の関与が示唆された。このように高脂肪食摂取によるストレスは,Spred1を介した造血幹細胞制御機構に作用し,造血幹細胞の恒常性維持に影響することが明らかとなった。
小児期やAYA世代に発症する造血器疾患には遺伝性血液腫瘍が混在しており,その診断のためには既往歴,家族歴,身体所見が重要である。しかし,典型的な臨床像を呈さない例も多く,遺伝性血液腫瘍を疑った場合は生殖細胞系列遺伝学的検査が必要となる。遺伝性血液腫瘍の責任遺伝子は多岐にわたるため,迅速に診断し,適切な治療方針を立てるためには,染色体脆弱性試験など従来の検査法に加え,多遺伝子解析検査を行うことが望ましい。診断後は血液検査と骨髄検査を中心としたサーベイランスを行うが,どのような検査結果が白血病への進行を意味するか熟知する必要がある。このような診断,治療,サーベイランスの過程において,患者への疾患の説明,遺伝子情報のアップデート,患者教育,心理社会的サポートなどからなる遺伝カウンセリングが重要であり,これにより適切かつ円滑なフォローアップが可能となる。
原発性免疫不全症は免疫系の内因的破綻によって生ずる疾患であり,反復,重症または日和見感染といった易感染性を特徴とするが,悪性腫瘍や自己免疫疾患の合併も少なくない。特に獲得免疫系の異常によってそれらのリスクが高まる。原発性免疫不全症における悪性腫瘍の発症メカニズムはさまざまであり,細胞傷害性リンパ球による腫瘍監視機構の欠陥,アポトーシスの異常,発がん性を有する物質に対する高感受性,病原体の排除遅延や炎症の持続活性化,細胞質分裂の異常,ウイルス感染細胞の制御不全,細胞周期の異常,遺伝毒性を有する物質に対する細胞応答の欠陥による。一部の原発性免疫不全症では高頻度に悪性腫瘍を合併するが,一方悪性腫瘍の原因遺伝子として免疫不全症関連遺伝子も報告されている。本稿では原発性免疫不全症と悪性腫瘍,特に造血器腫瘍との関係について解説する。
TP53遺伝子はがん抑制遺伝子であり,ヒトがん全体の約50%に体細胞系列変異(somatic変異)を認める。一方,TP53の生殖細胞系列変異(germline変異)は,がん発症の遺伝学的易罹患性,がん素因としての側面を持つ。網羅的遺伝子解析により,germline, somatic両者のTP53遺伝子変異による造血器腫瘍での働きが明らかにされた。TP53遺伝子変異はがん臨床において予後や治療選択に関わってくる重要な因子である。しかし,germline TP53変異が判明した場合には,未発症家族のスクリーニングやサーベイランスを含め,どのように患者と家族をフォローしていくか課題が多い。
本稿では,造血器腫瘍の領域での注目が増しているSAMD9/SAMD9L分子について概説する。SAMD9/SAMD9Lは7番染色体に位置し,7番染色体異常(モノソミー7,7q欠失など)を伴う造血器腫瘍の臨床研究を通じて,造血器腫瘍を抑制する腫瘍抑制因子であることが示唆される分子であった。2016年,造血異常を含む多彩な全身症状をきたすMIRAGE症候群においてSAMD9遺伝子の機能亢進型変異が,造血異常と神経症状を認める運動失調汎血球減少症候群においてSAMD9L遺伝子の機能亢進型変異が,それぞれ報告された。これらの症候群においては7番染色体異常が高率に生じるが,これは細胞増殖抑制能を持つSAMD9/SAMD9L変異を除去するための適応的変化であると考えられる。2017年には,若年発症の造血不全における網羅的遺伝子解析が行われ,最も高頻度な生殖細胞系列変異はSAMD9/SAMD9Lの変異であることが明らかにされ,造血器腫瘍への関与が明確となった。SAMD9/SAMD9Lの分子機能は大部分不明であり,今後の解明が期待される。