FDG-PET/CTは非ホジキンリンパ腫(NHL)の診断時のみならず,治療中および治療後の効果判定に広く用いられる。FDG-PET/CTの有効性が極めて高いホジキンリンパ腫における膨大な知見をもとに,急速にエビデンスが蓄積しつつある。治療効果判定としてのFDG-PET/CTは,NHLのPET-avidな病型,特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)において予後の層別化に有効であることにコンセンサスが得られつつあるが,臨床的な状況,撮影のタイミング,評価法などについて様々な報告が混在しており,解釈が難しい部分もある。本稿ではDLBCLにおけるFDG-PET/CTの位置付けや評価法の変遷,FDG-PET/CTを用いた治療効果判定,およびFDG-PET/CTの結果に基づく治療法の変更に関するエビデンスについて概説する。
エピジェネティクスとは,DNA塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現の調節機構である。ヒストン末端の化学修飾とDNAのメチル化によるクロマチンの構造変化をメカニズムとし,ヒストンアセチル化は転写活性化,DNAメチル化は転写抑制を誘導する。さらにヒストンメチル化によって重層的に制御される。エピジェネティク制御機構の破綻は造血器腫瘍の発生に関与しており,とくにDNAメチル化酵素DNMT3AやDNA脱メチル化酵素TET2の点突然変異は造血幹細胞を前白血病幹細胞に形質転換する。血管免疫芽球性T細胞リンパ腫やTリンパ芽球性リンパ腫は前白血病幹細胞から発症することが示されている。エピジェネティクな変化は治療標的として期待され,ヒストン脱アセチル化酵素やDNAメチル化酵素をターゲットとする薬剤が末梢性T細胞リンパ腫などの治療に用いられている。エピジェネティク創薬は今後のさらなる発展が期待される。
小児の慢性免疫性血小板減少症(ITP)患者に対して様々な治療が行われている。現時点では明確な治療法は確立していない。トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬が新しい治療選択肢となっているが小児患者への使用は限定的である。当センターでは過去に16名にTPO受容体作動薬を投与した(eltrombopag:9名,romiplostim:7名)。開始直後に脾臓摘出した2例を除き投与開始12週までに血小板5万/µl以上になったのは14名中7名だった。有害事象については,CTCAE(Ver.4)grade 2のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇を1名に認め,骨髄生検で2名に軽度の線維化を認めたのみだった。これらの有害事象は軽度だったためTPO受容体作動薬は同量で継続した。TPO受容体作動薬の小児患者における至適な投与方法や長期使用による有害事象については明確でなく,前方視的な評価が望まれる。
妊孕性温存治療に関する認識と2020年現在の実践状況を明らかにするため,中国地方と四国地方の造血器悪性腫瘍患者を治療する医師を対象に調査を行った。アンケートを血液内科と小児血液腫瘍科の46施設59診療科に送付し,52名(88.1%)から回答を得た。患者への説明について,40名(76.9%)が統一された手順はないと回答し,37名(71.2%)が主治医単独で行うと回答した。対象年齢は決まっていないという回答が多数を占めた。自施設内で妊孕性温存治療を完遂できる施設は限られている。多くは他施設との協力が可能であった。一方,自施設で妊孕性温存治療は不可能かつ連携施設も存在しないという診療科が5か所存在することが明らかになった。がん治療の影響で不妊になり得る全ての患者に妊孕性温存治療に関する情報を提供すべきである。地域のネットワークを活用し,施設間連携を強化することの必要性が示唆された。
77歳,男性。混合形質型急性白血病の完全寛解達成6ヶ月後にB細胞性リンパ芽球性白血病として再発した。Inotuzumab ozogamicin(InO)2コース施行して末梢血芽球は消失し,骨髄中芽球は5%未満に減少したが,胸水中に芽球68.0%が残存した。Blinatumomab(Blina)へ変更したところ,1コース施行中に胸水中の芽球は消失した。胸水flow cytometryではCD3陽性T細胞集団を認め,Blinaが胸水へ移行し抗腫瘍効果を発揮した可能性が示唆された。近年再発B細胞性リンパ芽球性白血病に対する新規薬剤が登場しているが,これらの組織移行性を検討した報告は少なく,同様の症例に対する治療を考察する上で貴重な症例と考えられる。
69歳男性。2011年10月に右扁桃腫瘍を発症し,扁桃生検でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された。Epstein-Barr virus-encoded small nuclear RNA(EBER)は陰性であった。このときにhuman T-cell leukemia virus type-I(HTLV-1)キャリアであることも判明した。R-CHOP 6コースを施行されて完全寛解となった。2015年2月に発熱とlactate dehydrogenase(LDH)の著増があり,PET-CTで左肺門部リンパ節腫大と多発性骨病変を認め,骨髄検査でCD4陽性のT細胞腫瘍を認めた。Adult T-cell leukemia/lymphomaと考えてmodified-LSG15療法による治療を開始し,速やかに症状の改善とLDHの低下を認めた。治療開始後にHTLV-1プロウイルスDNA組み込みの陰性が判明し,最終的に末梢性T細胞リンパ腫・非特異型(PTCL-NOS)の診断となった。患者が治療中止を希望したため2コース目途中で終了したが,PTCL-NOSは完全寛解となり,その後28ヶ月再発なく経過している。HTLV-1キャリアに発症したDLBCLとPTCL-NOSのdiscordant lymphomaはこれまでに報告がなく,貴重な症例と考えて文献的考察を加えて報告する。
症例は全身倦怠感を主訴に受診した50歳の男性。左方移動を伴う白血球増多,貧血,著明な脾腫を認めた。凝固異常に乏しいにもかかわらず骨髄穿刺部からの出血が持続し,血小板機能異常症の合併が疑われた一方,骨髄線維化および形態異常を有する巨核球の増加を認め,遺伝子変異解析の結果,triple negative原発性骨髄線維症と診断された。末梢血スメアでは巨大血小板を認め,血小板凝集試験ではADP,コラーゲン,エピネフリン凝集の著しい抑制を認め,後天性血小板機能異常を合併していると考えられた。ハイドロキシウレア,JAK阻害薬に抵抗性であり,第144病日に永眠した。骨髄増殖性腫瘍や骨髄異形成症候群では稀に後天性血小板機能異常を合併しうることが知られているが,その原因や頻度の詳細は明らかでない。本症例では体細胞変異が後天性血小板機能異常の成因に関連している可能性が考えられた。文献的考察とともに報告する。
Dysprothrombinemia is the rarest inherited bleeding disorder that is characterized by a decrease in the prothrombin activity, but normal antigen levels. In this study, we report the case of a compound heterozygote of two mutations in prothrombin; Met337Thr and Arg388His, which has previously been identified as “Prothrombin Himi.” A systemic blood coagulation evaluation revealed a prolonged prothrombin time (39%) and activated partial thromboplastin (64.4 sec), with an isolated severe decrease in the prothrombin activity (8.6%). Preoperative replacement of prothrombin with prothrombin complex concentrate, PPSB-HT “Nichiyaku,” successfully prevented abnormal postoperative bleeding after laparoscopic hysterectomy for cervical cancer. This is the second reported case of Prothrombin Himi.