臨床血液
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61 巻, 5 号
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Picture in Clinical Hematology
総説
症例報告
  • 松本 彬, 小川 孔幸, 尾崎 司, 惣宇利 正善, 柳澤 邦雄, 石埼 卓馬, 内藤 千晶, 石川 哲也, 宮澤 悠里, 清水 啓明, 井 ...
    2020 年 61 巻 5 号 p. 445-450
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    凝固第V因子(FV)に対する自己抗体により発症する自己免疫性第V因子欠乏症(AiF5D)は,無症状から致死的出血まで様々な臨床症状を呈する。今回我々は血液透析導入後早期に発症したAiF5D症例を経験した。症例は68歳の男性。2018年2月に大腿骨骨折を契機に末期腎臓病を指摘され,血液透析を導入された。関節置換術後に創部感染を併発し,抗菌薬治療を行ったが,制御不良であった。術後1ヶ月で凝固時間延長を認め,デブリドマンと抗菌薬により感染軽快したが,凝固時間延長の改善なく,シャント部止血不良が持続するため,6月に当科転院となった。FV活性<2.8%,FVインヒビター11.8 BU/mlで,ELISA法で抗FV結合IgGを検出したため,AiF5Dと診断し,prednisolone(PSL)内服加療を開始した。当初,無抗凝固薬透析にて回路内凝血なく実施可能であり,凝固時間短縮後に抗凝固薬を再開した。第43病日に完全寛解(CR)し,その後PSLを漸減中止し,CR維持している。AiF5Dの透析管理に関する報告はごく限られており,本報告は同様の症例の管理に有用と考える。

  • 松本 拓郎, 金田 裕人, 山口 公大, 中村 信彦, 中村 博, 二宮 空暢, 北川 順一, 兼村 信宏, 清水 雅仁, 鶴見 寿
    2020 年 61 巻 5 号 p. 451-454
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    症例は72歳,男性。2型糖尿病加療中にdipeptidyl peptidase-4 inhibitor関連水疱性類天疱瘡を発症し,prednisolone(PSL)0.5 mg/kgにて治療が開始となった。3ヶ月後,PSL 19 mg/日投与中,両側前腕に紫斑が出現,APTTの延長と第VIII因子インヒビターが高値であったため後天性血友病Aと診断した。PSL 1.0 mg/kgにて治療導入しcyclophosphamide 300 mg/週も追加したが無効であった。経過中に肺炎の合併も認めたため,rituximab(RTX)を開始したところ,第VIII因子インヒビター力価は低下した。部分寛解を得たと同時にPSLの減量が可能となり,肺炎および天疱瘡も改善した。後天性血友病Aの死因では免疫抑制療法に伴う感染症が重要であるが,RTXは感染合併例に対しても安全性の高い有効な治療と考えられた。

  • 土井 章一, 田代 裕介, 吉永 則良, 岸本 渉, 濵田 常義, 植田 知代子, 森口 寿徳, 加藤 香代子
    2020 年 61 巻 5 号 p. 455-461
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    81歳女性が好中球減少と貧血で紹介された。骨髄で好中球脱顆粒,分離多核巨核球,巨赤芽球変化を認めた。骨髄芽球は2.6%で,形態的診断は,骨髄異形成症候群(MDS-MLD)相当とした。核型はt(9;22)(q34;q11.2)単独異常であり,末梢血でmajor BCR-ABL1 mRNAが検出され,FISH法で多核白血球にBCR-ABL1融合シグナルを認めた。1年後,好中球は602/µlに減少し,貧血も悪化した。末梢血で好中球の脱顆粒,巨大血小板などの形態的異常が顕著となった。血小板は100×104lを超えた。骨髄では,骨髄芽球が7.0%で,初回と同様の異形成所見とPh単独の核形異常を認めた。Imatinib投与で,好中球減少と貧血は改善し,末梢血の異形成所見は消失した。BCR-ABL 1mRNA(IS%)は0.0007%未満まで減少した。Imatinibにより完全な血球回復を得ており,BCR-ABL1融合蛋白が発症に決定的な要因となっていることを示している。

  • 石塚 幹太郎, 小原 直, 周山 拓也, 松岡 亮太, 丸山 ゆみ子, 坂本 竜弘, 日下部 学, 加藤 貴康, 栗田 尚樹, 錦井 秀和, ...
    2020 年 61 巻 5 号 p. 462-467
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    症例は腎細胞がんの手術歴がある46歳の男性。フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病(Ph-ALL)を発症したが,寛解導入療法後は分子生物学的寛解となった。しかし,地固め療法中に発熱と両側臀部痛が出現した。18F-fluorodeoxyglucose(FDG)positron emission tomography-computed tomography(PET-CT)にて,両側の腸骨と仙骨にFDGの集積を認めた。Ph-ALLおよび腎細胞がんの再発,感染症等は否定的であった。腸骨骨髄生検では広範な骨髄壊死を認めた。白血病または抗がん化学療法の治療反応に伴う病態と推察した。症状は月単位で緩徐に消退した。その後,臍帯血移植を行い,胸骨骨髄穿刺では正常造血を認めた。一方,day162とday364の腸骨骨髄生検では壊死は消退し,MF-3相当の骨髄線維化が出現した。PET-CTでは腸骨と仙骨のFDG集積が減衰しており,骨髄壊死の治癒過程における線維化を観察しているものと考えた。骨髄壊死は稀に造血器腫瘍に合併するが,広く認知されているとはいえない。そのため,症例を蓄積し,病態を明らかにする必要がある。

  • 迫 正廣, 石井 武文, 岡田 恵子, 望月 貴博, 原 純一, 工藤 耕, 今宿 晋作
    2020 年 61 巻 5 号 p. 468-473
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)発症時2歳4ヶ月の男児。頭蓋骨LCH病変に対し化学療法を施行するも頻回再発を来した。5歳4ヶ月頃から頭痛,霧視,嗜眠傾向が出現,頭部MRIにて巨大な髄膜腫瘤を認めた。生検結果はLCHでなくjuvenile xanthogranuloma(JXG)であった。BRAF V600E変異がLCH組織にもJXG組織にも認められ,これらの腫瘍は同一起源であると考えられた。進展した頭蓋内JXG(CNS-JXG)に対し,局所ステロイド,放射線治療(24 Gy)やVBL単剤,さらに2-CdAによる化学療法を試みたが効果を得られず,マクロファージ活性化症候群(MAS)も呈したため10歳11ヶ月時に緊急で非血縁臍帯血移植を施行した。移植経過は順調でday42に生着を確認,移植後4ヶ月にわたりインフリキシマブ(レミケード®)とリポ化ステロイド(リメタゾン®)を継続的に投与・漸減した。CNS-JXGは移植後4年の経過を経て消失した。その後,LCH,JXGとも再発なく25歳の現在,社会人になり男性ホルモンの補充療法は継続しているが,特に支障なく経過している。

特集:臨床血液学 ―診断と治療におけるパラダイムシフト2020 (赤血球系疾患)―
  • 和田 秀穂
    2020 年 61 巻 5 号 p. 474
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり
  • 鈴木 隆浩
    2020 年 61 巻 5 号 p. 475-483
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    体内鉄は様々な分子によって制御されているが,その中心的役割を担うのがヘプシジンである。鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(iron refractory iron deficiency anemia, IRIDA)は,ヘプシジン抑制に関わるマトリプターゼ2(TMPRSS6遺伝子でコードされるセリンプロテアーゼ)の異常によって発症する。IRIDAでは出生時よりヘプシジン産生が亢進しているために腸管からの鉄吸収が障害され,鉄欠乏性貧血をきたすが,ヘプシジン高値のため血清フェリチン値は低下しない。腸管からの吸収低下のため経口鉄剤には不応であり,静注鉄剤にはある程度反応するのが特徴である。IRIDAは,ヘプシジン亢進が認められる慢性疾患に伴う貧血との鑑別が重要であり,診断には遺伝子検査が必須であるが,現状では検査困難であるため,その疫学や詳細な臨床像は十分に分かっていない。

  • —遺伝子診断の臨床的意義—
    大賀 正一, 石村 匡崇, 江口 克秀, 長谷川 一太, 小倉 浩美, 槍澤 大樹, 菅野 仁
    2020 年 61 巻 5 号 p. 484-490
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    遺伝性溶血性貧血は,赤血球の破壊亢進から貧血をきたす単一遺伝子病である。本症は,赤血球の膜,血色素と酵素の異常に起因する。近年網羅的遺伝子解析から,多彩な遺伝性疾患群として認識されるようになった。患児は胎児水腫や重症黄疸で発症し治療が優先されるため,早期診断が難しい。新生児期の生理的溶血と黄疸,小児期特有の感染症に注意して治療管理を行い,“症候性”溶血性貧血の一群を除外する。適切な臨床検査と遺伝子検査を行い,診断困難例には遺伝子パネルによる網羅的遺伝子解析結果から単一または複数のバリアントの意義を考える。治療選択と予後予測には遺伝子診断が必須である。輸血依存の日本人成人患者はまれだが,その管理は容易ではない。海外では新規薬剤の治験や遺伝子制御の研究開発が進んでおり,重症例の治療は血液専門医の課題である。本稿では,新生児の遺伝性溶血性貧血に対する遺伝子診断の臨床的意義について概説する。

  • 川本 晋一郎
    2020 年 61 巻 5 号 p. 491-501
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    続発性の自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の原疾患は膠原病やリンパ増殖性疾患などが多く,固形がんはまれとされてきたが,本邦においてAIHAに固形がんが多く合併するとの報告がなされた。また,AIHAと同様の平均赤血球容積高値の貧血の基礎疾患として,通常は想定されていない固形がんが含まれるとする報告もある。われわれは続発性AIHA患者の解析で,正常では発現が赤血球と腎尿細管に限局するバンド3蛋白を,大腸がんが異所性に発現して自己抗体を誘導していると考えられる症例を報告した。さらに大腸がん患者50例と健常者を対象とした前向き研究において,赤血球膜上の免疫グロブリンが増加することにより非出血性の正球性貧血の原因となっている可能性を示す結果を得た。本稿ではバンド3についての既報とわれわれの知見に基づいて,がん関連貧血におけるバンド3蛋白の異所性発現による赤血球寿命の短縮のメカニズムについて考察する。

特集:臨床血液学 ―診断と治療におけるパラダイムシフト2020 (リンパ系疾患)―
  • 伊豆津 宏二
    2020 年 61 巻 5 号 p. 502
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり
  • 吉藤 康太, 片岡 圭亮
    2020 年 61 巻 5 号 p. 503-509
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    悪性リンパ腫は多種の病型からなる不均一な疾患群である。これまで主に形態や免疫形質をもとに分類がなされてきたが,近年次世代シーケンス技術の開発により各病型において特徴的な遺伝子異常のデータが蓄積されつつある。2017年に改定されたWHO分類でも,MYCおよびBCL2および/あるいはBCL6再構成を伴うhigh-grade B-cell lymphomaが新たに定義され,各病型に特徴的な遺伝子異常が多数記載されている。また,予後予測因子に遺伝子異常を組み入れることで予後予測が改善したとの報告があり,遺伝子異常を標的とする薬剤の開発も進められている。このように,悪性リンパ腫における遺伝子検査は,診断,予後予測,治療選択において重要性が示されている。本稿では,近年のゲノム検査の進歩や悪性リンパ腫のゲノム異常の意義,そして悪性リンパ腫の代表的な病型で明らかになっているゲノム異常について解説する。

  • 近藤 英生
    2020 年 61 巻 5 号 p. 510-519
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    中枢神経原発リンパ腫(PCNSL)の治療は,induction chemotherapyが奏効した上で,適切なconsolidationを行うことが重要である。Inductionとしては,いくつかのHD-MTXを基盤とした併用化学療法が開発されており,consolidationは認知機能低下などの毒性を避けるために線量を減らした全脳照射(WBRT)や可能な症例では自家幹細胞移植併用大量化学療法(HDT-ASCT)が行われる。他のリンパ腫と異なり,PCNSLのHDT-ASCTではthiotepaがキードラッグであるが,日本では2009年に販売中止となった。HDT-ASCTを適応としてthiotepaを使用可能とするため,治験が行われ,現在成人リンパ腫に対する承認を待っている。再発・難治例にはBTK阻害薬など分子標的薬の開発も進んでおり,今後もさらなる治療戦略の進展が期待される。

  • —開発中の薬剤に関する話題—
    角南 一貴
    2020 年 61 巻 5 号 p. 520-527
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)は21世紀に入り,プロテアソーム阻害薬,免疫調節薬および抗体医薬の登場にて,飛躍的に予後は改善してきている。しかし,このような有効性の高いMM治療薬の開発にもかかわらず,薬剤耐性を来し,標準療法に抵抗性を示し,未だ治癒が見込めないのが現状である。ところがここ1~2年で新規分子標的薬(venetoclax,selinexor),新規免疫調節薬(iberdomide),新規抗体医薬(isatuximab,belantamab mafodotin),bispecific T-cell engagers(BiTE)およびchimeric antigen receptor T-cell(CAR T-cell)療法が開発され,有望な結果が報告されてきている。本稿では,これらの開発中の薬剤を中心に概説する。

特集:臨床血液学 ―診断と治療におけるパラダイムシフト2020 (血小板・凝固・線溶系疾患)―
  • 羽藤 高明
    2020 年 61 巻 5 号 p. 528
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり
  • 久保 政之, 松本 雅則
    2020 年 61 巻 5 号 p. 529-535
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)はADAMTS13活性低下によって微小血管内に血小板血栓が生じることで発症する致死的な疾患である。血小板減少と溶血性貧血を認めた場合にはTTPを鑑別に挙げ,ADAMTS13活性が10%未満に著減していればTTPと診断する。ADAMTS13遺伝子異常を有する場合には先天性TTP,抗ADAMTS13自己抗体(インヒビター)が認められる場合には後天性TTPと判断される。後天性TTPの治療はADAMTS13補充と自己抗体除去のために血漿交換を実施するとともに,自己抗体産生抑制を目的としてステロイドを併用する。また,リツキシマブの有効性が示され,我が国においても再発または難治例に対して使用可能となった。抗VWF抗体であるカプラシズマブは血小板血栓の形成を早期に抑制することによって急性期の致死的な臓器障害を回避し,生存率改善に寄与することが期待されている。

  • 野上 恵嗣
    2020 年 61 巻 5 号 p. 536-541
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    血友病Aの止血治療の原則は血液凝固第VIII因子製剤の定期補充療法である。その結果,血友病性関節症の出現が著しく抑制され,生活の質の向上に大きく貢献してきたのは事実である。しかしながら,このgold standard治療においても,頻回の経静脈内投与,血管アクセス,製剤投与にて出現する同種抗体(インヒビター)等の課題があった。活性型第VIII因子補因子機能代替二重特異的モノクローナル抗体(emicizumab)が開発された。皮下投与で長時間作用する本製剤は著明な出血抑制効果を示し,インヒビター非保有・保有先天性血友病A患者の出血予防の定期投与として使用されている。現在,非凝固因子製剤である本製剤による血友病治療のパラダイムシフトがまさに起きている。一方,バイパス止血製剤との併用による血栓塞栓事例,止血モニタリング,周術期止血管理,高い活動性での止血効果など,臨床的に解決しなければならない多くの課題もある。

  • —循環器・消化器分野で頻発する止血異常症—
    堀内 久徳
    2020 年 61 巻 5 号 p. 542-548
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    von Willebrand病は,止血に重要なvon Willebrand因子(VWF)の量的あるいは質的な異常によって引き起こされる遺伝性止血異常症である。同様の病態が後天的に生じることがあり,後天性von Willebrand症候群(acquired von Willebrand syndrome, AVWS)と呼ばれる1)。リンパ増殖性疾患,骨髄増殖性疾患,自己免疫性疾患,悪性腫瘍,さらに甲状腺機能低下症等で生じることが報告されてきたが,近年,生体内に非生理的なずり応力が生じる循環器疾患でAVWSが発生していることが明らかとなり,臨床上大きく注目されている2~4)。循環器疾患に伴うAVWSは頻度が非常に高く,日常臨床でしばしば遭遇する。さらに,VWFの物理的な分解亢進がベースにあるので出血に際しては病態を理解して対応することが必要となる。

第81回日本血液学会学術集会
Presidential Symposium 1
  • —疾病動態への数理的アプローチを例にして—
    合原 一幸
    2020 年 61 巻 5 号 p. 549-553
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    昨今人工知能(AI)が広く医学に応用されつつある。たとえば,ディープラーニングは,静的な医療画像のパターン認識で大きな成果を上げている。他方で,生物学や医学の分野では,チロシンキナーゼ阻害剤の投与を受けているCML患者から測定されたBCR-ABL国際標準値の時間変化のような動的な時系列データが広く見られる。そのような疾病の動的情報に関しては,既存のディープラーニングよりも強力な非線形データ解析手法が存在する。本総説では,その例として,DNBやRDEなどの疾病動態解析へ応用可能な数理的アプローチに関して解説する。さらに,我々が現在次世代AIの可能性を求めて開発中のニューロインスパイアードやニューロモルフィックなハードウェアに関しても紹介する。

  • 横山 和明
    2020 年 61 巻 5 号 p. 554-563
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    次世代シークエンス(NGS)の登場により,さまざまながん種を対象にNGS解析が「学術研究」として実施され,がん種ごとの病態形成に関わるドライバー変異とその頻度などの情報が蓄積されている。NGS情報を活用して精密な診療を行う,「プレシジョン・メディスン」を実践することが次のミッションである。しかしながら,NGS解析では,がん患者1人から見つかる体細胞変異はパネル検査で数百以上,全エクソンや全ゲノムシークエンスでは千~数十万にものぼる。それらを診療に活かすためには,膨大な文献,データベースに基づき臨床的に解釈し,医療にとって有用な情報に翻訳する必要がある。そのためには人工知能(AI)の活用が今後必要不可欠である。本稿では,AIを活用した筆者らの臨床シークエンス研究の実例を通じて,臨床医が知っておくべき,ゲノム解析AIの仕組みと特徴を活かした活用法,結果の解釈における盲点について概説する。

  • —畳み込みニューラルネットワーク技術による血液像分析システムの開発—
    大坂 顯通
    2020 年 61 巻 5 号 p. 564-569
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/05
    ジャーナル 認証あり

    塗抹標本の血液形態検査は,血液疾患を診断する上で必須の臨床検査である。日本において,血液形態検査は,臨床検査技師がガラススライドに塗沫標本を作成し,メイギムザ染色を行って鏡検する検査法が現在でも続けられている。この方法はgold standardとされているが,多大な労力と臨床検査技師の継続的トレーニングを必要とし,検査者による精度のバラツキも避けられない。人工知能(AI)技術,特に畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の医療分野への利活用は,近年めざましいものがある。本総説では,我々の研究チームが開発したCNNを基盤とする血液像分析システムを紹介する。AI技術による自動血液像分析システムは,まず,血液細胞をデジタル画像として解析装置に取り込む必要がある。今後,自動血液像分析システムを日常診療へ普及させるためには,血液学の分野においてもデジタルプラットフォームの構築が必要である。

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