未治療多発性骨髄腫に対し主にVRD-lite療法を含む三剤併用レジメンで寛解導入療法を行った後にup-frontのセッティングで自家末梢血幹細胞移植(ASCT)併用大量melphalan療法(HDM/ASCT)を行った124例を後方視的に解析した。全症例の5年PFSは54.7%であり,5年OSは80.2%であった。65歳以上の症例およびハイリスク染色体異常を有する症例において有意にPFSおよびOSが不良であった。HDM/ASCT後にMRD評価が行われた104例の解析では,MRD 10−5未満を達成した症例において有意にPFSが良好であった。ハイリスク染色体の有無に関わらずMRD 10−5未満を達成した症例において有意にPFSが良好であった。三剤併用の寛解導入療法後にup-frontのHDM/ASCTを行い,MRD評価に基づいた地固め・維持療法を行うことは有効な治療ストラテジーであると考えられる。
症例は70歳代女性で,自己免疫性肝炎/原発性胆汁性肝硬変症のオーバーラップ症候群の治療中,不正性器出血を約4ヶ月間繰り返した。凝固検査ではAPTT延長,凝固第IX因子活性(FIX:C)低下(7%)とFIXインヒビター(3 BU/ml)を認めた。ループスアンチコアグラント(LA)および抗カルジオリピン抗体,抗β2GPI抗体が陽性で,APTT交差混合試験はLA陽性を示唆した。また,全ての内因系凝固因子活性の低下を認めたが,FIX以外の因子では活性の希釈直線性を認め,LAによる見かけ上の活性低下と考えられた。本症例はLAを合併する自己免疫性後天性FIX欠乏症が疑われた。出血による貧血は認めずLA陽性であったことからバイパス療法は実施せず,直ちにprednisolone(PSL)による免疫抑制療法を開始し,診断11週後にはFIX:C 41%,FIXインヒビター1 BU/ml未満となり寛解に至った。
無症状の40代前半女性。高フェリチン血症(5,412 ng/ml)を偶然指摘された。鉄過剰症として瀉血療法が施行された。原因精査目的で紹介。明らかな臓器障害は認めず。トランスフェリン飽和度低下を伴う高フェリチン血症,血清hepcidin値上昇からferroportin disease(FD)を疑い,SLC40A1のバリアントc.485_487del(p.Val162del)を確認した。その後妊娠。妊娠継続に瀉血6~7回分の鉄が必要と想定されたため瀉血を一旦休止,定期的に血算と鉄代謝マーカを評価した。妊娠経過中Hbは11 g/dl,血清フェリチンは1,000 ng/ml程度で安定して推移した。妊娠35週に前期破水,緊急帝王切開にて出産。Hb 8.5 g/dlまで低下したが,経口鉄剤の2週間投与で速やかに回復。FDは網内系マクロファージにおける鉄輸送障害と貯蔵鉄増加を基本病態とする。臨床的に臓器障害が目立ちにくく瀉血忍容性が低いため,緩やかな鉄代謝管理が有益と考えられる。
症例1は66歳男性。骨髄異形成症候群に対しfludarabine/busulfan(BU)を前処置とした非血縁者間同種末梢血幹細胞移植を予定した。Day−3のBU 3日目の投与後より幻覚を訴え,day−2のBUは中止したが,同日幻覚悪化に続き昏睡・呼吸抑制を来した。Day−1以降症状は消失した。症例2は69歳男性。マントル細胞リンパ腫の中枢神経再発に対し,thiotepa(TT)/BUを前処置とした自家末梢血幹細胞移植を予定した。Day−4のBU 4日目の投与後より幻覚を訴え,翌日に幻覚悪化とせん妄で身体抑制を要し,day−2のTT投与は中止した。Day−1以降症状は改善した。本症例は2例とも65歳以上で,BU最終投与後1~2日で精神症状は悪化した。BU投与中はアゾール系抗真菌薬やacetaminophenの併用回避,高齢者においてBU減量や血中濃度測定等の検討が必要である。
68歳男性。COVID-19 mRNAワクチン(BNT162b2)の2回目を接種した1週間後より微熱,ふらつきが出現し当院紹介受診となった。検査所見では溶血性貧血,直接クームス試験陽性を認め,自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と診断した。入院時,幻聴を伴う意識障害を認め,頭部MRI拡散強調像では微小な新規多発梗塞像を認めた。心臓超音波検査では下壁と後壁に壁運動低下を認めた。原因精査目的での皮膚生検で毛細血管から細静脈レベルでの血小板およびフィブリン血栓を指摘され臓器障害の原因として微小血栓症の関与が疑われた。AIHAに対しprednisolone(1 mg/kg)を開始後,溶血性貧血に加え意識障害,心臓壁運動低下は速やかに改善した。BNT162b2 mRNAワクチン接種後の微小血栓症合併例は稀であり,その形成に自己免疫異常が関与していた可能性が考えられた。
43歳,男性。口腔内出血の精査により急性前骨髄球性白血病(APL)の診断となった。All-trans retinoic acidとidarubicinによる寛解導入療法を開始し,播種性血管内凝固症候群(DIC)に対しては新鮮凍結血漿および遺伝子組換えthrombomodulin投与を行った。経過を通じて神経学的症状はなかったが,治療開始2週間後に中枢神経浸潤を評価するために施行したMRIで偶発的に複数の脳内出血病変を認めた。画像所見から亜急性期以降の病変と考えられた。血小板輸血などによる保存的加療を行った。経時的に画像による評価を行い,出血病変の縮小を認めた。APLは寛解導入療法により血液学的完全寛解となり,以降地固め療法継続中も脳出血の症状なく経過した。APLはDICによる出血傾向が特徴的であるが,本症例のように無症候性に脳出血を発症する例もあり注意が必要であると考えられた。
成人のB細胞性急性リンパ性白血病(B-cell acute lymphoblastic leukemia, B-ALL)は,初期治療に反応する症例がいる一方で全体としては再発・難治例が多いことが知られている。新規薬剤(blinatumomab,inotuzumab ozogamicin等)による治療や同種造血幹細胞移植が行われるも,依然として再発・難治例の予後は不良である。近年,CD19を標的とするキメラ抗原受容体T細胞(chimeric antigen receptor T-cell, CAR-T)療法が,再発・難治性のB-ALLの治療法として有望視されている。現在,tisagenlecleucelが再発・難治性のB-ALLに対して保険承認となっているが,その使用は26歳未満に限定されている。本稿では,若年よりも予後不良とされる成人の再発・難治性B-ALLに対するCAR-T療法について概説する。
小児から若年成人世代にかけてのB細胞性急性リンパ性白血病の治療成績は,リスク因子による層別化およびリスクに応じた治療強度の適正化によって,過去半世紀で大きく改善し,その長期生存率は90%に達している。一方で,再発難治例は存在し,従来の化学療法と同種造血細胞移植に加えて,抗体免疫製剤やキメラ抗原受容体T細胞療法が併用されるようになり,その治療開発が進んでいる。Tisagenlecleucelは,化学療法に反応しない非寛解症例や移植後再発症例,移植適応とならない症例など,よりリスクの高い再発難治例に対して高い寛解導入率が示され,国内外で広く使用されるようになった。この2~3年で数多くのreal world evidenceが報告され,tisagenlecleucel投与後再発のリスク因子や追加治療の必要条件などが議論されている。本稿ではこうした議論の方向性を紹介し,今後の展望を図る。
本邦において2019年に再発/難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(R/R DLBCL)に対して,CAR-T細胞療法(tisagenlecleucel)が承認された。それ以降DLBCLの治療戦略に大きなパラダイムシフトがおき,現在では3種類のCAR-T製剤が保険承認され,国内45施設(2023年5月現在,各社HP調べ)で治療が可能となっている。2022年には再発/難治性濾胞性リンパ腫が,さらにDLBCLのセカンドラインでの適応が拡大承認された。どのCAR-T製剤をどのタイミングで,どの患者に適用するかについては明確な指針はなく,各施設の判断基準や運用に応じているのが現状である。化療反応性がある再発難治DLBCLには,自家移植は依然として治療選択肢として検討可能である。CAR-T治療を最適な条件で行うには,T cell fitnessや腫瘍量などの観点から治療方針を決めていく必要があり,そのためには一次治療の段階から施設連携が重要となる。
再発・難治性多発性骨髄腫の治療において,BCMA抗原を標的とした免疫・細胞療法が精力的に開発されている。CAR-T細胞療法は,再発・難治症例に対する優れた治療法として報告され,2つのBCMA標的CAR-T細胞製品のイデセルとシルタセルは,前治療数の多い再発・難治性骨髄腫に対して優れた奏効効果を示し,我が国では3剤(プロテアソーム阻害薬・免疫調節薬・抗CD38抗体薬)既治療の再発・難治症例の治療に承認されている。CAR-T細胞療法はその優れた治療効果の一方,その効果を最大限発揮するには,治療の各プロセスにおいて検討すべき課題は多い。また,CAR-T細胞療法は優れた効果を示すものの,大半は再発することが報告されており,再発のメカニズムを詳細に解析する必要がある。今後,CAR-T細胞療法の早期の導入や次世代のCAR-T細胞療法を導入することで,骨髄腫患者さんの予後のさらなる改善が期待される。
キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は,強い効果とともに,特徴的な合併症を有する。CAR-T細胞療法後の副作用としては,サイトカイン放出症候群(CRS)と免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が最も特徴的であろう。CRSやICANSの派手な臨床像の影に隠れてしまうものの,管理上重要な副作用が他にも多く存在する。本稿では,CAR-T投与後に留意すべき副作用に関して,実経験に基づき概説したい。
キメラ抗原レセプターT(CAR-T)細胞療法は,本邦でも2019年3月にtisagenlecleucelが承認を得て以降,急速に臨床の現場で適応される症例が増えてきた。CD19に対するCAR-T療法を中心に臨床経験が積み上がり,当初想定されたよりも安全に行える治療であることがわかってきた一方で,その治療効果の限界も明らかになってきている。CD19CAR-T療法を受けた症例の50%ほどは,のちに再発・再燃をきたしており,目下の最大の問題は不十分な治療効果であると言える。その原因は,CAR-T細胞の疲弊・エフェクター機能の不足,標的抗原の陰転化,腫瘍の増生速度が極端に早い,などに大別され,それぞれに対して対策が研究・開発されている。これに加えて,今後の新規CAR-T療法の発展も望まれる。本稿ではこれらの問題点についての現状と今後の展望について我々の取り組みをまじえて論じる。