臨床血液
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64 巻, 9 号
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第85回日本血液学会学術集会 教育講演特集号
造血システム (正常/異常造血の基礎研究) /造血幹細胞
1 (EL1-5-5)
  • 平位 秀世
    2023 年 64 巻 9 号 p. 853-860
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    生体防御に関わる好中球に代表される顆粒球や,単球のような単核貪食細胞を産み出す骨髄球系造血では,造血幹細胞および前駆細胞における増殖や分化が高度に制御されており,定常状態のみならず,微生物感染や組織損傷による炎症惹起時にも,需要に応じた適正な細胞供給が行われる。このような骨髄球系造血の制御にはC/EBPαやC/EBPβなどC/EBPファミリーに属する転写因子が中心的な役割を果たしており,骨髄球系造血の破綻には,必然的にこれらの制御機構の変調が伴う。近年,炎症刺激が長期にわたるエピジェネティックな記憶を造血幹細胞や前駆細胞にもたらすことや,遺伝子異常を持つクローン性造血が,炎症を介して拡大し,宿主の健康状態に大きな影響を及ぼすことが明らかとなってきた。今後,基礎研究と臨床研究が協調して骨髄球系造血の制御機構理解が進むことによって,様々な疾患の治療および予防をも視野に入れた戦略の確立が期待される。

2 (EL1-5-6)
  • 田久保 圭誉
    2023 年 64 巻 9 号 p. 861-868
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    哺乳類の造血幹・前駆細胞は,出生後は主に骨髄に局在し,骨髄内で隣接する微小環境(ニッチ)によって細胞動態やその後の運命が調節されながら一生涯にわたる血液細胞産生を行う。この生理的な造血プロセスや,造血関連の各種病態を解析・研究する上では,ニッチによる造血制御とその破綻を深く理解することが不可欠である。しかし,造血幹・前駆細胞の動態やニッチとの相互作用は動的かつ複雑であるため,骨髄内の各細胞やニッチ因子の空間配置に関して私たちが保有する情報はまだ十分とは言えない。本稿では骨髄細胞社会を時空間的に理解するために用いられてきた古典的手法から近年までの骨髄イメージング技術や有用な動物モデルを概説し,今後を展望する。

3 (EL1-5-4)
  • 横溝 智雅
    2023 年 64 巻 9 号 p. 869-874
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    血液細胞は,マウス胎生中期に初めてあらわれ,それ以降の体の成長・維持に必須の細胞群である。その発生の仕方については,一次造血(primitive hematopoiesis)と二次造血(definitive hematopoiesis)に分かれるという考え方が長らく支配的であったが,その後一次造血と二次造血の間の波として,赤血球骨髄球系前駆細胞が同定され,少なくとも3つの波が認識されるようになった。近年,細胞系譜追跡実験の進歩・普及により,さらに多層的な発生の仕方が明らかになりつつある。本稿では,細胞系譜追跡実験により明らかになってきた造血幹細胞・造血前駆細胞の胎児内での挙動について,最近の進展を中心に解説する。

4 (EL2-5-1)
  • 臧 維嘉, 雜賀 渉, 青山 有美, 井上 大地
    2023 年 64 巻 9 号 p. 875-883
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    セントラルドグマの中でも,pre-mRNAからmRNAへと精製されるRNAスプライシングの過程に異常が生じた場合,遺伝子発現量や遺伝情報が大きく変化することが知られている。造血器腫瘍ではRNAスプライシングを制御する遺伝子そのものに変異が生じているが,近年の臨床検体・マウスモデルを中心とした解析により,それらが発がんを誘導するメカニズムが明らかにされつつある。その中にはクロマチン制御や転写因子,増殖シグナル,炎症シグナルに関わるものの存在が知られており,それらの機能喪失や変容を来す現象が捉えられている一方で,未解明な点も多い。本稿ではスプライシング関連遺伝子変異がもたらす発がん機構を中心に,メカニズムに基づいた治療応用の可能性まで含めて概説する。

赤血球系疾患
5 (EL3-4-1)
  • 西村 純一
    2023 年 64 巻 9 号 p. 884-891
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    近年,様々な疾患が補体(関連分子)異常により発症(補体異常症),または増悪(補体関連疾患)することが明らかとなり,補体を標的とした新規治療薬(抗補体薬)が開発されている。発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria, PNH)は,補体制御因子が欠損することによる,補体介在性の血管内溶血を主徴とする,造血幹細胞疾患であるので,抗補体薬のまさに好適疾患であると言える。2007年に初の抗補体薬として抗C5抗体eculizumabが,PNHに対して承認された。Eculizumabの適応疾患が拡大する一方で,PNHのみならず様々な疾患において,新規抗補体薬の開発が精力的に展開されている。また,昨年,自己免疫性溶血性貧血の一病型である寒冷凝集素症の治療薬として,抗C1s抗体sutimlimabが承認された。本稿では,これら溶血性貧血に対する新規抗補体治療薬について概説する。

6 (EL3-4-2)
  • —令和4年度改訂版のポイント—
    山﨑 宏人
    2023 年 64 巻 9 号 p. 892-899
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    「再生不良性貧血診療の参照ガイド」が3年ぶりに改訂され,初めてクリニカルクエスチョンが設定された。抗胸腺細胞グロブリン(antithymocyte globulin, ATG)とcyclosporinの2剤にeltrombopag(EPAG)を併用することの有用性が示されたことから,今回の改訂ではATG投与後できるだけ速やかにEPAGを開始することが推奨された。また,HLA適合同胞ドナー候補が存在する若年成人重症再生不良性貧血患者であっても,まずは免疫抑制療法を行って奏効不十分の場合や再発がみられた場合などに同種骨髄移植を行うという方針も選択肢の一つに挙げられた。これらのほか,非重症例への積極的な治療,ATGの投与量と年齢の上限,感染症予防,G-CSF投与などが検討された。今後もエビデンスの収集に努めていくとともに,本邦におけるエビデンス構築を目指した臨床試験の推進が必要である。

7 (EL3-4-3)
  • 小船 雅義
    2023 年 64 巻 9 号 p. 900-907
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    最近,栄養性貧血が増加してきている。特に難治性鉄欠乏性貧血を経験することが多くなってきた。高齢者に多く見かけるが,比較的若年者で認められることがある。また併存疾患として慢性炎症性疾患,消化管疾患および慢性腎疾患が合併していると診断や治療に難渋することもある。多くの場合,適切な治療に変更することで貧血は改善する。また,鉄と同様に,銅および亜鉛は上部消化管粘膜のトランスポーターから吸収されることが明らかとされてきたが,鉄欠乏に潜在性の亜鉛および銅欠乏が合併している症例が散見されるようになってきた。特に血清亜鉛低下は高度鉄欠乏性貧血で見かけられる。本稿では,はじめに難治性鉄欠乏性貧血について解説する。また本稿では,鉄動態と関連する亜鉛および銅代謝に係わる分子群の概要について言及する。

8 (EL3-5-1)
  • 細川 晃平
    2023 年 64 巻 9 号 p. 908-915
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    骨髄不全とは,骨髄機能の低下によってすべての血球が減少する状態であり,その中には特発性再生不良性貧血(aplastic anemia, AA),骨髄異形成症候群(MDS),発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)などが含まれる。AAは,汎血球減少と骨髄低形成を特徴とするが,その多くが細胞傷害性T細胞を主体とした自己免疫的な機序によって造血幹細胞が傷害される結果発症する。AAにおけるゲノム異常はMDSや健常人における加齢に伴うクローン性造血とは明らかに異なっている。特に,PNH形質の血球や,HLAクラスIアレル欠失血球の存在は,自己免疫から免れた造血幹細胞が造血を支持していることを示している。最近になり,HLAクラスIアレルのexon1領域における体細胞変異や,HLA-DR15陽性AA患者の造血幹前駆細胞におけるHLA-DR発現低下が見つかっており,病態解明への重要な手掛かりと考えられる。

9 (EL3-5-2)
  • 𥱋取 いずみ
    2023 年 64 巻 9 号 p. 916-924
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    生命が誕生して約40億年,地球上に4番目に多く存在する鉄は酸化還元反応の中心的役割を果たしてきた。鉄は生命活動に必須の微量金属であり,いかなる生物も鉄なくしては生存できない。一方で,生物の寿命の延伸に伴い,鉄が惹起する毒性が生命を脅かす一因になることが明らかになってきた。鉄毒性の明確なアウトカムである鉄依存的な細胞死=フェロトーシスの発見から10年が経ち,幅広い分野にわたり鉄への関心が急速に高まりつつある。このフェロトーシスという現象を利用することで,以前より鉄との関与が示唆されてきた神経変性疾患やがんでは,鉄代謝制御の観点から全く新しい戦略に基づいた治療法への展開が推進され始めた。本稿では,精巧な鉄代謝制御機構の基本原理を概説し,最近筆者らが見出した鉄貯蔵タンパク質フェリチンの分泌機構とその意義について最新の知見を踏まえて議論する。

10 (EL1-4-2)
  • 藤原 実名美
    2023 年 64 巻 9 号 p. 925-931
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    輸血療法は現代医療を支える重要な支持療法であり,頻用されている。溶血性副反応防止のためには交差適合試験が実施されるが,血漿に含まれる成分にも個体差があり,非溶血性副反応は今のところ予測が困難である。頻度の多い蕁麻疹や発熱反応以外は,実際経験することが稀で十分認知されておらず,特に輸血関連循環過負荷に関してはさらなる周知が必要と考えられている。輸血後GVHDは20年以上みられないが,未照射血納入施設や,離島でのやむを得ない院内採血等では,そのリスクを理解し確実に放射線照射を実施することも重要である。かつて大きな問題であった輸血後肝炎は,献血者個別の核酸増幅検査導入により激減し,輸血後感染症検査のあり方が変わった。現在日本赤十字社では輸血による細菌感染の低減に向けた努力が続けられている。輸血の副反応を理解し,細やかな患者観察を行うことで,早期発見,早期対応が可能になる。

骨髄系腫瘍:AML
11 (EL2-3-4)
  • 名島 悠峰
    2023 年 64 巻 9 号 p. 932-941
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病(AML)の25%に陽性となるFMS-like tyrosine kinase 3(FLT3)遺伝子変異は高い再発率と寛解維持期間の短縮に関連する予後不良因子であり,様々な阻害薬が開発されている。本邦では第2世代FLT3阻害薬のgilteritinibとquizartinibが再発難治性FLT3変異陽性AMLに対して使用可能である。さらにquizartinibは,標準化学療法と併用する第3相試験の良好な結果を受け,2023年5月に初発症例に対し寛解導入療法,地固め療法,維持療法を含めた適応が拡大された。第1寛解期で同種移植適応となるが移植後の再発率も高いため,FLT3阻害薬を用いて簡便に抗腫瘍効果を上乗せする移植後維持療法も試みられている。本稿では,近年劇的な治療の新展開を迎えてさらなる予後改善が期待されるFLT3変異陽性AMLについて概説する。

12 (EL2-3-5)
  • 中沢 洋三
    2023 年 64 巻 9 号 p. 942-948
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    近年,急性骨髄性白血病(AML)を適応症とする低分子薬の新規承認または適応拡大が相次いでいる。これらの低分子薬はAMLの治療選択肢を大幅に向上させ,予後の延長に貢献するが,長期使用による薬剤耐性が不可避であるため,AMLの長期的予後の改善に貢献しうる別の殺細胞機序を有する新規モダリティの開発が望まれる。キメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞を用いた免疫細胞療法は,血液がんに対する最も有望な次世代がん治療法の1つであり,AMLにおける実用化が待望されている。しかし,これまでに様々なAML関連抗原を標的とするCAR-T細胞の開発が進められてきたが,AML特有の創薬課題が障壁となり,実用化に近い製品は未だ世界にない。本稿では,臨床開発されているCAR-T細胞を概説するとともに,標的抗原の特徴とon-target/off-tumor毒性の見地から,AMLにおける開発課題について考察する。

13 (EL2-3-6)
  • 吉田 健一
    2023 年 64 巻 9 号 p. 949-954
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    近年のシークエンス技術の発展により骨髄性腫瘍への感受性に関わる原因遺伝子が新規に同定され,造血器腫瘍において細胞性変異の関与している割合が従来考えられている以上に高いことも明らかになっている。それに伴い,胚細胞遺伝子変異を伴う骨髄系腫瘍は最新のWHO分類やInternational Consensus Classification(ICS)においても一つ独立したカテゴリーとして分類され,その中でもDDX41遺伝子は散発性の骨髄性腫瘍でも2~5%と最も高頻度に変異が認められる。また,クローン性造血は健常者,特に高齢者で高頻度に認められることが明らかになっているが,胚細胞性変異を有する症例では若年者においてもクローン性造血が認められ,しばしば疾患特異的なドライバー変異を獲得したクローンが存在することも明らかになるなど,病態の理解が進んできている。

14 (EL1-4-1)
  • 小島 研介
    2023 年 64 巻 9 号 p. 955-961
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病(AML)に対する治療の中心は,長年anthracyclineとcytarabineに代表される併用化学療法(通常抗がん剤治療)であった。化学療法は多くの患者に治癒をもたらした一方で,薬剤耐性化や再発,二次発がんの原因にもなってきた。近年の分子標的治療の進歩により,骨髄異形成症候群(MDS)/AMLではazacitidine単独療法がMDS治療に,venetoclaxとazacitidine併用療法,quizartinib/gilteritinibがAML治療に用いられるようになり,強力化学療法不耐容の高齢・フレイル患者でも治療利益を享受できるようになった。しかしながら,TP53変異は化学療法時代から分子標的治療時代に至るまでずっと予後不良因子のままであり,患者の長期生存を著しく困難にしている。本稿では,TP53変異の病的意義と臨床的な問題点を概説したのち,予後不良なTP53変異MDS/AMLに対しても有効性が期待される新規治療薬(戦略)候補を紹介する。

15 (EL3-5-3)
  • 武藤 朋也
    2023 年 64 巻 9 号 p. 962-969
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    骨髄系腫瘍は,複数のクローン性造血器腫瘍で構成される疾患群であり,骨髄異形成症候群,骨髄増殖性腫瘍,急性骨髄性白血病などが含まれる。炎症は幅広い悪性腫瘍の病態において重要な役割を果たしていることが既に知られており,骨髄系腫瘍においてもその意義が注目されてきた。具体的には,細胞内在性および外来性シグナル物質による自然免疫シグナル経路活性化,さらには自然免疫シグナルの下流シグナル伝達による炎症性サイトカインの上昇が明らかとなっている。また,血液腫瘍細胞を取り囲む炎症性シグナル物質に富んだ骨髄内環境は炎症性微小環境と呼ばれ,骨髄系腫瘍各疾患の病態における役割や分子基盤が近年精力的に解析されている。本稿では,骨髄系腫瘍における自然免疫シグナル活性化や炎症性骨髄微小環境がどのように骨髄系腫瘍発症に寄与しているのか,最新の知見を紹介しながら考察する。

骨髄系腫瘍:CML,MPN,MDSなど
16 (EL1-5-1)
  • —JAK阻害薬を超えて—
    枝廣 陽子
    2023 年 64 巻 9 号 p. 970-980
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    骨髄増殖性腫瘍において,JAK2を含むドライバー遺伝子変異の発見により,その病態の首座がJAK/STATシグナルの恒常的活性化によることが明らかになり,JAK阻害薬の開発が進んだ。特に,JAK1/2阻害薬であるruxolitinibは真性多血症,骨髄線維症に対して,ヘマトクリット値のコントロール,脾臓の縮小,全身症状の改善に有効性が示されている。一方で,骨髄線維症においては,JAK阻害薬抵抗性の患者に加えて,血球減少などによりJAK阻害薬不耐容の患者も存在し,さらに,急性白血病への進行を抑制することはできないため,新たな治療戦略の開発が待たれている。現在,BCL阻害薬,MDM2阻害薬,LSD1阻害薬,PI3K阻害薬,BET阻害薬,テロメラーゼ阻害薬などの新規治療薬の臨床試験が進行しており,骨髄線維症において,脾腫や全身状態の改善のみならず,全生存率の改善も含めた治療成績の向上が期待される。

17 (EL1-5-2)
  • 高橋 直人
    2023 年 64 巻 9 号 p. 981-987
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    慢性期慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML)の予後はチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor, TKI)により劇的に改善したが,5年間同じTKIを継続できているのは50~60%程度であり,また早期分子遺伝学的効果を達成していないと長期無増悪生存率が有意に低下する。BCR::ABL1依存的CMLクローンの治療抵抗性には,ABL1キナーゼドメインの点突然変異,BCR::ABL1 splicing variant,BCR::ABL1過剰発現,ABCトランスポーターによる薬物動態の変化などが関与する治療抵抗性メカニズムが考えられる。TKIのなかで最も阻害活性が強いponatinibやSTAMP阻害薬asciminibがBCR::ABL1依存的治療抵抗性を克服するためのキードラッグとなる。

18 (EL1-5-3)
  • 市川 幹
    2023 年 64 巻 9 号 p. 988-997
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(MDS)は造血細胞のクローン性異常によって造血不全と急性骨髄性白血病への移行をきたす予後不良の造血幹細胞腫瘍である。近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い,その発症に関与する遺伝子異常の大部分が同定可能となっており,造血器腫瘍に対するパネル検査も近日中に導入される見込みであることから,遺伝子異常の同定に基づくより正確な診断と予後予測が可能となりつつある。MDSの診断においてはWHO分類の改訂に伴い2つの新しい分類が発表された。また,従来のIPSS-Rに加え遺伝子異常の種類を反映したIPSS-Mと呼ばれる予後予測システムが発表された。治療においては活発に新規薬剤の開発が行われており,すでにazacitidineやlenalidomideなどの分子標的薬がわが国においても用いられている。本稿ではMDS治療において用いられる分類や予後予測について概説し,現在の標準的治療方針について示す。

19 (EL2-5-2)
  • 篠田 大輔
    2023 年 64 巻 9 号 p. 998-1006
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis, PMF)は,造血幹細胞レベルで生じた遺伝子異常により骨髄中で巨核球と骨髄球系細胞が増殖し,巨核球や単球から種々のサイトカインが産生され,骨髄線維化,血管新生および骨硬化などの病態を呈する。次世代シーケンサーの網羅的解析が進み,PMFの病態にジェネティック・エピジェネティック両者の異常が重要な役割を担うことが解明されてきた。エピゲノム関連遺伝子としてはTET2に加えて,ポリコーム関連遺伝子ASXL1の変異が高頻度に認められ,ポリコーム群遺伝子EZH2の変異も報告されている。マウスモデルを用いた解析において,Ezh2の機能喪失性変異はJAK2変異と協調しPMFを促進することが示されており,ポリコーム機能不全が骨髄線維症の促進に関与することが明らかにされつつある。PMFの病態におけるポリコーム機能異常に関する最新の知見を概説する。

20 (EL2-5-3)
  • 田中 洋介, 北村 俊雄
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1007-1018
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    慢性骨髄性白血幹細胞(CML幹細胞)は細胞周期が静止期,チロシンキナーゼ阻害薬抵抗性という特性からCML再発の原因となる。したがって,その根絶はCML根治に重要である。筆者らはimatinib抵抗性の静止期CML幹細胞では炎症シグナルを介してNF-κBが活性化していることを見出した。この炎症シグナルの阻害薬(IRAK1/4阻害薬)とimatinibとの併用はCML幹細胞を効果的に排除でき,CML幹細胞のPD-L1の発現を減弱させた。さらに,抗PD-L1抗体とimatinibとの併用もT細胞免疫の存在下でCML幹細胞を効果的に排除した。このように,IRAK1/4阻害薬はNF-κBの阻害によるCML幹細胞の生存・増殖シグナルの遮断と,CML幹細胞のPD-L1発現の低下によるT細胞免疫回避の遮断という二つの効果を発揮する。したがって,これらの併用はCML根治を達成するための魅力的な戦略のひとつとなり得る。

リンパ系腫瘍:ALL,悪性リンパ腫
21 (EL3-3-1)
  • 福原 規子
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1019-1025
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma, FL)は低悪性度リンパ腫を代表する疾患であり,CD20モノクローナル抗体の臨床導入により,生存期間中央値は15年を超えてきた。しかし,既存の治療戦略では,多くの患者にとっては難治性疾患であることに変わりはない。進行期・低腫瘍量の標準治療は無治療経過観察であり,rituximab単剤療法の導入時期の検討が必要である。進行期・高腫瘍量では,抗CD20モノクローナル抗体併用化学療法を行い,奏効例では維持療法を行うのが標準治療である。Bendamustine後の維持療法の有用性は検証されていない。早期再発群の中でも,形質転換の有無によって予後が異なることが明らかとなり,難治例では,CD19標的キメラ抗原受容体T細胞療法やCD20/CD3二重特異抗体が注目されている。本稿では,FLの治療方針および早期再発や形質転換などの予後因子を中心に概説する。

22 (EL3-3-2)
  • 遠西 大輔
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1026-1031
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    びまん性大細胞型リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)は臨床的・生物学的に不均一な疾患であり,その分類と対応する治療の開発に多大な労力が費やされてきた。2000年代初頭のrituximab併用化学療法の登場により予後の大幅な改善がみられたものの未だに約40%の症例で再発がみられ,再発症例はdose-intensityを高めた化学療法を行うも予後不良である。最近,polatuzumab vedotinやCAR-T療法の登場により,本疾患患者の予後改善が期待されるが,これらの治療が有効である患者群の同定が極めて重要である。そのためにはDLBCLの分子病態のさらなる理解が必須であるが,近年の遺伝子解析技術の進歩により,未知の遺伝子異常や遺伝子発現パターンが発見され,最近では免疫微小環境との関連性も指摘されている。このような分子病態の解明と疾患の細分類化は,今後のDLBCLの個別化医療の土台として臨床医も認識すべき点である。

23 (EL3-3-3)
  • 吉満 誠
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1032-1040
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    成人T細胞白血病リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma, ATL)はHTLV-1持続感染後に発症する極めて難治性の末梢性T細胞リンパ腫である。近年生活習慣の変化や様々な施策によりHTLV-1キャリア数は減少傾向となっている。網羅的遺伝子解析技術の急速な進歩によりATLの分子基盤が明らかとなった。そのため,これまでの臨床パラメーターを用いた予後指標に加えて,遺伝子変異を組み込んだ予後指標も提唱されている。アグレッシブATLへの一次治療はVCAP-AMP-VECPやCHOPを代表とする多剤併用化学療法であり,施行可能な例では同種造血幹細胞移植を行う。また移植非適応例へはmogamulizumab併用化学療法も考慮される。二次治療としては,この約10年の間にmogamulizumabに加えてlenalidomide,brentuximab vedotin,tucidinostat,valemetostatと続々と登場した。同種造血幹細胞移植についても移植後cyclophosphamideを用いたGVHD予防法による移植法などが開発されている。本稿ではATLにおける最近のトピックを中心に解説する。

24 (EL3-4-6)
  • 鈴木 律朗
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1041-1046
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    臨床試験の結果を正しく解釈することは重要である。腫瘍性疾患のプライマリ・エンドポイントは,以前は全生存率であるとされた。しかしながら昨今,予後が改善した疾患では試験結果が得られるまでに時間がかかることや,統計学的検出力が落ちることにより代替エンドポイントが用いられることが多くなっている。臨床決断も,こうした代替エンドポイントで判断するように変わりつつある。臨床試験では群間比較を担保するため,アーム間の差を見られるように適格基準が設定されるが,試験結果の適用は適格集団に限るべきという考え方は誤りである。すべての患者条件で臨床試験を実施するのは現実的でなく,可能な範囲内で適格基準外の患者にも演繹させるべきである。1つの臨床試験では多くのサブグループ解析の結果が示されることが多いが,サブグループ別に主結論の判断を変えてはいけない。サブグループ解析の目的は交互作用を示す交絡因子がないか見つけることであり,その結果を読み過ぎてはいけない。近年では非劣性試験の実施も増えてきているが,非劣性試験で重要なのはプライマリ・エンドポイントの非劣性性が示されることばかりではない。非劣性が証明されたアームにどのようなメリットがあるかが重要で,場合によってはセカンダリ・エンドポイントがこうしたメリットを結論づける一助となる。

25 (EL3-6-2)
26 (EL3-6-1)
  • 冨田 章裕
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1053-1065
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    悪性リンパ腫各病型に蓄積する遺伝子変異が同定されている。変異の同定は疾患の確定診断のみならず,適切な標的治療薬の選択,微少残存病変解析などにおいて,今後ますます重要性が増すことが予想される。しかし悪性リンパ腫の臨床現場におけるDNA検体の採取は時に困難であり,また病勢進行や寛解時における検体の経時的な確保は,白血病診療に比べると極めて困難である。リキッドバイオプシーは,患者の血漿や脳脊髄液などの体液から腫瘍由来異常遺伝子を検出する新たな腫瘍生検の方法である。遺伝子解析方法の進歩も相まって,現在までにびまん性大細胞型B細胞リンパ腫,中枢神経悪性リンパ腫,ホジキンリンパ腫などにおけるリキッドバイオプシーの有用性についての報告が集積しつつある。この方法は,悪性リンパ腫の日常診療における診断プロセスやフォローアップの方法を,大きく変化させる可能性を秘めており,その動向が大いに注目される。

リンパ系腫瘍:多発性骨髄腫など
27 (EL2-3-2)
  • —現状と将来展望—
    塚田 信弘
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1066-1073
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    新規薬剤およびモノクローナル抗体の登場により未治療多発性骨髄腫(MM)の治療成績は劇的に向上した。Bortezomib,lenalidomideを含む3剤併用の寛解導入療法が主流となっている現在においても,up-frontの自家末梢血幹細胞移植併用大量melphalan療法(HDM/ASCT)が無増悪生存期間(PFS)の延長に寄与することが複数の臨床試験で示されており,維持療法の継続によりPFSは5年を超える時代となった。一方,移植非適応症例に対する抗CD38抗体を含む治療により5年以上のPFSも期待されるようになり,近い将来移植適応症例に対しても抗CD38抗体を含む寛解導入療法が行われるようになると思われる。また免疫細胞療法が有効であることも明らかとなり,再発難治例に対してCAR-T療法が保険承認されている。本稿では,2023年時点での移植適応MMに対する標準治療について,また将来展望について解説する。

28 (EL2-3-3)
  • 伊藤 薫樹
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1074-1082
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    新規治療薬の登場により多発性骨髄腫の予後は改善しているが,ほとんどの患者は再発し治療抵抗性となり,さらなる治療が必要となる。再発難治性骨髄腫の治療成績向上には,各治療期において最良の治療効果を得ることが必要である。現在,プロテアソーム阻害薬,免疫調節薬,抗CD38抗体薬といった3つのクラスの薬剤に抵抗性となった場合には極めて予後不良であり,その後の最適な治療レジメンは不明である。本邦では,B細胞成熟抗原を標的としたキメラ抗原受容体T細胞治療が承認され,二重特異抗体や抗体薬物複合体などの新たな治療薬の開発が進行中である。再発難治性骨髄腫に対する最適な治療シークエンスを決定することは困難であるが,臨床試験のエビデンスに基づいて個々の症例に適用していくことが重要である。本教育講演では,再発難治性骨髄腫治療の各治療期におけるエビデンスに基づいた最適な治療選択の枠組みを議論したい。

29 (EL1-4-6)
  • 黒田 芳明
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1083-1091
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫は新規薬剤の登場により治療奏効や生存期間の延長が認められている一方で,感染症の合併は治療の継続を妨げ直接的・間接的に重大な死因の一つとなっている。骨髄腫患者は,骨髄腫の病態そのものや,高齢,臓器合併症,骨髄腫治療などの影響を受け免疫機能の低下状態にある。特に診断後3ヶ月の間や,再発時には感染リスクは増加する。骨髄腫治療は用いる薬剤により様々な機序で免疫機能を抑制する。例えばプロテアソーム阻害薬はT細胞を抑制しウイルス感染リスクを上げ,lenalidomide・pomalidomideなどの免疫調整薬(immunomodulatory drugs, IMids)は好中球減少を減少させ細菌感染リスクを増加させる。抗CD38抗体はB細胞機能を抑制することで液性免疫不全を来し細菌感染・ウイルス再活性化を増加させる。骨髄腫患者の感染リスクを低下させ治療を遂行するためにもこれらのリスクを把握し,予防薬やワクチンを用いて適切に対応する必要がある。

30 (EL3-4-4)
  • 山元 智史, 山本 雄介
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1092-1098
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    近年,多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)はプロテアソーム阻害薬,免疫調節薬,抗体医薬など新規治療薬により予後が大きく改善した。しかしながら,薬剤の長期暴露による薬剤耐性や髄外へのMM細胞の漏出を来す症例では依然として予後不良である。薬剤耐性形成の原因として,骨髄微小環境内においてMM細胞とその周囲の細胞との相互作用が重要であることがわかってきた。これまでの,MMにおける細胞間相互作用の研究では,サイトカインやケモカインといった液性因子の研究が大きく発展してきた。しかしながら,液性因子のみでは説明できていない事象も多い。そこで注目を浴びているのが細胞外小胞(extracellular vesicles, EVs)である。EVは様々ながんの悪性化に関与する。MMにおいても例外ではない。本稿では主に,MMの薬剤耐性に着目し,その耐性能獲得に寄与するsmall-EV(特にエクソソーム)について,最新の情報とともに,当研究室で得られた知見などについて概説する。

31 (EL3-4-5)
  • 志村 勇司
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1099-1105
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    従来から多発性骨髄腫では微小環境と病態との関連が注目されていたが,近年の免疫チェックポイント阻害薬の成功に伴い,微小環境,特に免疫細胞の状態について注目が集まるようになった。多発性骨髄腫の骨髄微小環境においては,腫瘍細胞の免疫原性低下,免疫チェックポイント分子の発現亢進に加え,制御性T細胞,骨髄由来抑制細胞,腫瘍関連マクロファージなどの免疫抑制系細胞が,腫瘍細胞や周囲の微小環境から分泌される様々な分子により活性化される。これらの機構により,樹状細胞による抗原認識,腫瘍特異性T細胞,NK細胞,NKT細胞といった腫瘍免疫に重要な役割を担っている細胞の活性化が阻害され,生体が本来持つ抗腫瘍免疫から骨髄腫細胞が逃避するようになる。今後,微小環境における免疫状態をより詳細に解析可能となり免疫抑制性細胞の制御が可能となれば,免疫療法のさらなる治療成績向上に結びつく可能性がある。

血栓/止血/血管
32 (EL3-5-4)
  • 加藤 恒
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1106-1115
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    免疫性血小板減少症(ITP)は,抗血小板自己抗体による血小板破壊の亢進と骨髄巨核球の血小板産生障害により血小板減少をきたす疾患である。病態の中心となる抗血小板自己抗体はGPIIb/IIIa,GPIbなど異なる血小板膜糖蛋白を認識するが,自己抗体の違いがもたらす血小板破壊メカニズムの違い,自己抗体非依存性の血小板破壊などITP病態の詳細はまだ明らかではない。特異的検査法を持たないITPでは他疾患の除外が診断の基本となる。血小板減少をきたす疾患鑑別には血漿トロンボポエチン(TPO)濃度,幼若血小板比率の測定が有用であり,新たな「成人免疫性血小板減少症(ITP)診断参照ガイド」にも活用されている。TPO受容体作動薬などを中心に行われる難治性ITPに対し,新規作用機序を持つITP治療薬開発が現在活発である。正確な診断のもと症例毎の病態に即した治療薬の選択が今後期待される。

33 (EL3-5-5)
  • 小川 孔幸
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1116-1123
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(autoimmune coagulation factor deficiency, AiCFD)は,単一の凝固因子を標的とする免疫グロブリン(自己抗体)により発症する後天性の出血性病態である。これら自己抗体の多くは凝固因子の機能を阻害する中和抗体(インヒビター)であるが,クリアランスを亢進させる非中和型の自己抗体も混在している。AiCFDはほとんど全ての凝固因子およびvon Willebrand因子(VWF)において報告されており,その代表疾患が凝固第VIII因子(FVIII)に対する自己抗体により発症する後天性血友病A(AiF8D)である。AiCFDの治療は出血症状に応じた止血治療と自己抗体根絶のための免疫抑制療法である。止血治療は疾患により異なり凝固因子補充療法,輸血療法やバイパス止血製剤が実施される。AiCFDは希少疾病であるが,一般医も遭遇する可能性があるため疾患啓発が必要である。

34 (EL3-5-6)
  • 松本 雅則
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1124-1130
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は,全身の微小血管にvon Willebrand因子(VWF)と血小板を中心とした血小板血栓が形成される予後不良疾患である。後天性TTPでは,VWF切断酵素であるADAMTS13に対する自己抗体が産生され,ADAMTS13活性が著減する。1991年に新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換が後天性TTPに有効であることが報告されて以降,血漿交換と副腎皮質ステロイドの治療が標準治療として行われてきた。CD20に対するモノクローナル抗体rituximabが登場して,日本国内では再発難治症例を中心に使用されるようになった。2022年にVWF A1ドメインに対する抗体caplacizumabが日本でも使用できるようになり,使用症例が増えている。先天性TTPに対して遺伝子組換ADAMTS13製剤の治験が行われており,今後血漿交換を必要としない時代が来るのではないかと期待されている。

35 (EL2-5-5)
  • —母子を守る個別医療へ—
    大賀 正一, 江上 直樹, 堀田 多恵子, 内海 健, 落合 正行, 石村 匡崇
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1131-1136
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    小児血栓症患者における遺伝素因の報告が増えている。小児期は年齢ごとに発症リスクが異なり,遺伝素因の寄与度も様々である。20歳までに発症する血栓症のうち遺伝素因が関与するものを“早発型遺伝性血栓症(early-onset thrombophilia, EOT)”として登録し,網羅的文献検索と併せて本邦患者の遺伝的背景と臨床経過を明らかにした。患者の60%以上をプロテインC(PC)欠乏症が占め,その半分以上が片アレル変異の保有者だった。年齢とともにプロテインS(PS)およびアンチトロンビン欠乏症が増加して主体となった。6~8歳の発症はなかった。日本人高頻度・低リスクバリアントのPC-TottoriとPS-Tokushimaも確認されたが,前者は重症PC欠乏症の発症に寄与していなかった。解析した32家系中de novo発症は1家系のみで,周産期の同時発症母子例が3家系あった。PC欠乏症を標的に適切なEOTスクリーニングを行って周産期血栓症から母子を守ることが期待される。

36 (EL2-5-6)
  • 池添 隆之
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1137-1143
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    造血器悪性腫瘍,特に急性骨髄性白血病では血小板減少に加え,線溶亢進型の播種性血管内凝固を合併することで出血による死亡リスクが高くなる。一方で,造血器腫瘍には血栓塞栓症も少なからずの割合で合併して予後不良に繋がることも知られているが,これまで抗凝固薬による血栓予防や治療についてあまり議論されてこなかった。今回,急性白血病をはじめ,代表的な造血器悪性腫瘍に合併する血栓塞栓症の発症予測因子やその予防ならびに治療法について解説する。また慢性骨髄性白血病患者では第二あるいは第三世代のBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬で心血管イベントの発症割合が増加することが複数のメタ解析で示され,この対策は重要な臨床課題と考えられるため,その予防法についても解説する。

造血幹細胞移植
37 (EL1-3-1)
  • 長藤 宏司
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1144-1151
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    成人フィラデルフィア染色体陰性急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績は,小児プロトコールの導入により,年々向上している。化学療法と同種造血幹細胞移植とよる長期生存者を比較すると,化学療法による長期生存者の方がPS良好かつ合併症が少ない。従って,ALL第一寛解期において,同種造血幹細胞移植の適応は,化学療法による成績が不良と予測される群となる。AYA世代ALLにおいては,地固め療法後(EOC)測定可能残存病変(MRD)陽性の場合,第一寛解期に同種造血幹細胞移植を行うことが推奨される。AYA世代でない成人ALLの場合,寛解導入療法後(EOI)MRDが陰性の場合,化学療法を継続すべきで,同種造血幹細胞移植は推奨されない。今後,MRDとともに,初診時腫瘍量,白血病細胞の生物学的悪性度などを考慮した総合的な個々の患者の評価を行う必要がある。

38 (EL1-3-2)
  • 寺倉 精太郎
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1152-1157
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    同種造血幹細胞移植の移植片は,血縁HLA一致ドナーから非血縁HLA一致ドナー,臍帯血と拡がり,移植が必要な患者のほぼ全員にいずれかの移植片が利用可能となった。さらにはHLAの1ハプロタイプのみ合致しているHLA半合致ドナーからも,移植後にcyclophosphamideを投与することで安全に移植が行えることが示され,一層ドナー選びは複雑さを増している。同種造血幹細胞移植では移植片対宿主病と移植片対白血病効果が表裏一体で出現し,移植片選択の指標として合併症の多い移植がすなわち悪い移植でもない。重症GVHDが多い移植では再発も減少することが知られ,その負の効果が相殺される。本稿では,それぞれのドナー・ソースによる移植アウトカムの比較から,移植片選択の道標となるデータを示す。またHLA半合致ドナーからのPT-CY Haploの位置付けについて,これまでに示されているデータをもとに論じる。

39 (EL1-3-3)
  • 諫田 淳也
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1158-1165
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    臍帯血移植に加えて,抗胸腺細胞グロブリンや移植後のcyclophosphamide投与によるGVHD予防法の開発・改良によりHLA不適合移植件数が急速に増加している。HLA適合度と移植成績の関連に関しては,移植ソース毎に異なるため,HLA不適合の意義に関して解釈に注意が必要である。さらに,評価する遺伝子座,適合レベル(抗原・アレル),不適合方向(移植片対宿主方向や宿主対移植片方向),不適合HLAアレルの組み合わせを理解しなければならない。またHLA不適合の意義は,GVHD予防法の開発・改良とともに変化することに留意する必要がある。そして,数多くのエビデンスの中からドナー選定において何を優先すべきかは,今後の課題である。本稿では,移植ソース毎のHLA不適合の意義に関して概説する。

感染症
40 (EL1-4-5)
  • 稲本 賢弘
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1166-1175
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    造血細胞移植後アデノウイルス感染症は播種性感染や致命的臓器障害を起こしうる。本邦ではB型ウイルスによる尿路感染の頻度が高く,発症割合は自家移植後で小児0.15%,成人0.49%,同種移植後で小児1.52%,成人2.99%で,年間100例以上の発症が持続している。発症例でウイルス血症や播種性感染症は自家移植後の6%,同種移植後の19%である。日本人における発症リスクとして,自家移植後は年齢50歳以上,悪性リンパ腫,同種移植後は患者年齢50歳以上,男性患者,ATLおよび悪性リンパ腫,HCT-CI≥3,HLA不一致および半合致,T細胞除去,II-IV度急性GVHD,広範型慢性GVHDが同定されている。現在国内外で薬事承認された治療薬がなく,実臨床では半数以上の症例が支持療法のみで治療されている。単一部位のアデノウイルス感染症でも発症後の死亡リスクが上昇するため,優れた治療薬の早期開発が望まれる。

41 (EL1-4-4)
  • 木村 俊一
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1176-1183
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    カンジダ属は,造血細胞移植後の侵襲性真菌症の原因の内訳で,アスペルギルス属に次いで多い真菌である。生着前期では,好中球減少と,移植前処置や中心静脈カテーテル留置による粘膜・皮膚障害が,侵襲性カンジダ症の主なリスク因子となる。同種移植においては,生着後も移植片対宿主病(GVHD)や副腎皮質ステロイドの使用によりそのリスクが高まる。造血細胞移植においてカンジダ症に対する抗真菌予防は標準治療となっているが,近年でも,主にnon-albicans Candidaによるブレークスルーカンジダ症の報告がみられ,高い死亡率を伴う。移植医,感染症専門医,眼科医,看護師,薬剤師,検査技師など多職種が協力してマネージメントすることが重要である。本稿では造血細胞移植後の侵襲性カンジダ症の疫学,リスク因子,抗真菌予防,診断,治療についてまとめる。同種移植におけるカンジダとGVHDとの関連についても触れる。

免疫/細胞/遺伝子治療
42 (EL1-3-4)
  • 高橋 義行, 西尾 信博
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1184-1191
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    キメラ抗原受容体遺伝子導入T(CAR-T)細胞療法は,2017年に米国で,2019年に本邦でCD19抗原を標的とするCAR-T細胞が再発・難治の急性リンパ性白血病に対して承認された。その優れた有効性にも関わらずCAR-T細胞療法後に半数程度が再発することが報告されており,再発予測因子の検討や,CAR-T細胞療法後の再発を減らす目的でどのような症例で造血細胞移植を行うべきは重要な課題となっている。また,CAR-T細胞の高額な薬価はfinancial toxicityとして各国で保険医療制度を脅かす問題となっており,非ウイルスベクター法を用いたより安価なCAR-T製剤の開発も進められている。

43 (EL1-3-5)
  • 下山 達
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1192-1202
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    本邦において2019年に再発/難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(R/R DLBCL)に対して,CAR-T細胞療法(tisagenlecleucel)が承認された。それ以降DLBCLの治療戦略に大きなパラダイムシフトがおき,現在では3種類のCD19・CAR-T製剤が保険承認され,国内45施設(2023年5月現在 各社HP調べ)で治療が可能となっている。2022年には再発/難治性濾胞性リンパ腫が,さらにDLBCLのセカンドラインでの適応が拡大承認された。どのCAR-T製剤をどのタイミングで,どの患者に適応するかについては明確な指針はなく,各施設の判断基準や運用に応じているのが現状である。CAR-T治療を最適な条件で行うには,T cell fitnessや腫瘍量などの観点から紹介施設と治療方針を決めていく必要がある。CAR-T治療後の長期的な有害事象に対する施設連携も重要である。

44 (EL1-3-6)
  • 後藤 秀樹
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1203-1212
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    再発難治性の血液悪性疾患に対する新たな治療として,免疫チェックポイント阻害薬,二重特異性抗体,キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)T細胞療法などの免疫細胞療法が登場している。CAR-T細胞療法は,抗がん剤で疾患コントロールが得られない症例に対して治癒もしくは長期的に疾患コントロールが得られる可能性がある治療法として,その注目度は大きい。一方で,サイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性(ICANS),低ガンマグロブリン血症,遷延性血球減少などといったCAR-T細胞療法特有の副作用や治療後の免疫力低下に伴う感染症により重篤化する症例もいるため,適切な副作用マネジメントが求められている。

小児
45 (EL2-4-1)
  • 金兼 弘和, 友政 弾, 谷田 けい
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1213-1221
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease, IBD)の25%は小児期あるいは思春期に発症するが,6歳未満で発症するものはわずか1%であり,超早期発症IBD(very-early-onset IBD, VEO-IBD)と称される。IBDの病態として免疫異常が考えられるが,IBDの一部には先天性免疫異常症(inborn errors of immunity, IEI)を基礎疾患とするものがあり,monogenic IBDと称される。IEIの約20%でIBDを合併し,60以上の疾患が知られている。Monogenic IBDのなかには従来の治療に抵抗性であり,同種造血細胞移植(hematopoietic cell transplantation, HCT)で根治可能なものが含まれ,早期診断,早期治療が重要である。本稿ではわが国で比較的高頻度に認められるインターロイキン(IL)-10/IL-10受容体欠損症,慢性肉芽腫症,XIAP欠損症,immunodysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, and X-linked症候群,NEMO欠損症,A20ハプロ不全症を取り上げて,それぞれの疾患の特徴とHCTの適応について述べる。

46 (EL2-4-3)
  • 渡邉 健太郎
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1222-1226
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    白血病,特に急性リンパ性白血病において,methotrexate(MTX)の髄注および静注による中枢神経再発予防は治療の重要な要素であるが,神経毒性による白質脳症がときに問題となる。MTXによる神経症状はしばしば亜急性の白質脳症として発症し,脳梗塞様の麻痺症状,痙攣,意識障害,構音障害などの症状が,部位の変動や増悪・軽減を呈しながら数日間持続する,という特徴を持つ。また,頭部MRIの拡散強調画像にて両側の白質に特徴的な所見を呈する。多くは数日で自然軽快するため,治療は支持療法が主体となる。薬剤投与による治療効果については評価が定まっていない。症状が軽快した後のMTXの再投与については,少なくとも初回の神経学的イベントの後,臨床症状の改善が得られていれば投与の継続が望ましいとされる。ただし,一部に症状の反復や固定化がみられる例も存在することや,長期的な影響はまだ明らかになっていないことから,症例ごとの慎重な検討が必要である。

47 (EL2-4-4)
  • 飯島 真由子
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1227-1234
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    近年リスク層別化による治療強化や支持療法の向上に伴い,小児急性リンパ性白血病(ALL)の5年寛解生存率は80~90%に及ぶ。長期サバイバーの増加に伴い,彼らの治療後の生活の質を担保することが重要な課題となっている。彼らの生活の質は晩期合併症の有無に大きく左右されることがわかっている。ALLの治療において,予防的全脳照射(CRT)の撤廃は二次がんや内分泌障害といった晩期合併症の改善に大きく寄与したが,神経認知障害の軽減もそのひとつである。しかし,化学療法のみで治療されたサバイバーでも,神経認知障害が認められることはあまり知られていない。むしろ,化学療法のみで治療されたALLサバイバーでは,より詳細な評価が必要な高次脳機能障害が認められることが多く,障害の把握がよりわかりづらくなっていると言える。本稿では主としてCRT撤廃後のALLサバイバーの神経認知機能について解説する。

倫理
48 (EL2-5-4)
  • 山田 崇弘
    2023 年 64 巻 9 号 p. 1235-1242
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/28
    ジャーナル 認証あり

    近年の医療においては遺伝情報を利用することが日常的となっている。医療倫理の原則に基づいてさまざまな場面でその活用について検討してゆくことが求められる。また,その運用においては遺伝情報の特性を理解した上で,研究や臨床における各種ガイドライン等を遵守した医療を行う必要がある。これから主流となる網羅的な遺伝情報を活用するゲノム医療においては,意図せずに得られる二次的所見の適切な取り扱いを十分理解して,被検者にとっての利益を優先して運用することも求められる。さらに,今後は被検者が遺伝情報による差別を受けることがないような適切な法整備を含めた制度設計と常に生じる倫理的検討を行う場の確保が重要となる。

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