臨床血液
Online ISSN : 1882-0824
Print ISSN : 0485-1439
ISSN-L : 0485-1439
61 巻, 6 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
Picture in Clinical Hematology
総説
  • —孫子の代まで日本式皆保険を維持するために:慢性骨髄性白血病と多発性骨髄腫を例にとって—
    鈴木 憲史
    2020 年 61 巻 6 号 p. 587-597
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    近年,医療を取り巻く社会経済的な環境の変化もあり,日本における医療経済評価の政策応用として薬価加算部分の調整など費用対効果を考慮した医療技術評価の導入が始まった。費用対効果は,安全性,有効性,品質の他に4番目のハードルとなった。一部で治癒の望める血液悪性腫瘍2疾患(CMLとMM)を例にとり,今後の目指すべき方向について論じる。CML治療では,持続可能な医療を実現していくためにも,TKIを用いてCML細胞を早期に減少させ,DMR(MR4.5)を2年間維持し,TFRを目指した治療戦略が重要となる。MM治療は,多剤併用package療法により深い奏効およびMRD(微小残存病変)陰性をサロゲートマーカーとし,更なる生存期間延長ひいては治療終了を可能とし,将来的には治癒を目指す必要がある。日本には国民皆保険制度があり,医療費が高額になった場合でも患者の自己負担額は大きく軽減される。とはいえ軽減された分は誰かが負担しているわけであり,それは元を辿れば我々国民の払う保険料および税金である。医療費が増大を続けるなか国民の負担には限界が近づいている。今後,薬剤費だけでなく,治療選択が及ぼす患者のアウトカムに加え,医療費への影響や限られた医療資源の活用について広い視点で考え,孫子の世代まで視野に入れた持続可能な医療とは何かという議論が必要となる。

臨床研究
  • 寺本 昌弘, 曽根 岳大, 高田 耕平, 小縣 開, 齋藤 啓太, 和泉 拓野, 高野 昂佑, 長尾 茂輝, 岡田 陽介, 田地 規朗, 河 ...
    2020 年 61 巻 6 号 p. 598-604
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    2011年1月から2018年2月までに再発indolent B-cell lymphomaに対し,当科で施行したrituximab併用bendamustine(BR)療法の治療成績を後方視的に解析した。病型は濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma, FL)42例(67%)が多く,FL症例で治療を完遂した群の無増悪生存期間(progression free survival, PFS)の中央値は未到達であった。また治療開始から5年間のCD4陽性T細胞数を解析したところ,長期にわたり200/µl前後を推移する症例が多かった。BR療法は再発indolent B-cell lymphomaに対し有用な治療であり,特にFLにおいてはBR療法を完遂することがPFSの改善に重要である。また治療後は細胞性免疫不全が顕在化するため,5年程度は感染症の発症に注意するべきかもしれない。

  • 田村 志宣, 古家 美昭, 堀 善和, 弘井 孝幸, 山下 友佑, 大岩 健洋, 村田 祥吾, 蒸野 寿紀, 西川 彰則, 花岡 伸佳, 園 ...
    2020 年 61 巻 6 号 p. 605-611
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    抗C5抗体薬は,発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)例の血管内溶血を抑制し,QOLを改善するため,現在広く使用されている。一方で,不応例や髄膜炎菌感染症の問題もある。これまでにeculizumab投与症例の地域別の解析報告はなく,PNH患者の地域特異性や遺伝学的背景の情報も乏しい。本研究では,和歌山県でeculizumabを投与したPNH 8例について後方視的検討を行い,その特徴を解析した。年齢中央値は77歳(23~88歳),6例が再生不良性貧血の合併,4例は血栓症の既往,2例は溶血発作エピソードがあった。開始前のLDH中央値は1,192 IU/l(755~1,525 IU/l),5例が開始後1ヶ月以内にLDHがほぼ正常化し,PNH関連症状は消失した。今回の解析では,eculizumab無効の3例でC5遺伝子変異が同定された。

症例報告
  • 小代 彩, 井上 大栄, 鎌田 勇平, 藤野 聡司, 田淵 智久, 有馬 直佑, 内田 友一朗, 八幡 美保, 中村 大輔, 吉満 誠, 石 ...
    2020 年 61 巻 6 号 p. 612-616
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)はヒトTリンパ球向性ウイルスI型が原因となり発症する予後不良な末梢性T細胞腫瘍である。腫瘍浸潤による肝障害のため殺細胞性抗がん剤による化学療法が困難な状況をmogamulizumab(Moga)で救援し,長期寛解が得られている急性型ATLを報告する。症例は66歳男性,ATLの肝浸潤に伴う全身状態悪化のため減量化学療法を開始したが効果に乏しく,高ビリルビン血症,低アルブミン血症のため継続困難であった。Moga投与後,末梢血異常リンパ球は急速に減少,肝障害は改善し,通常量の化学療法が施行可能となった。抗体薬のMogaは体内薬物動態への肝代謝能や血清アルブミン値の影響が少ないと考えられ,肝浸潤による高ビリルビン血症や低アルブミン血症のため通常の殺細胞性抗がん剤を投与しにくい状態のATL患者の救援治療としても有望な選択肢である。

  • 坂本 淳, 中舘 尚也, 渡辺 直樹, 石黒 精
    2020 年 61 巻 6 号 p. 617-620
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    重症血友病Aに対して遺伝子組み換え第VIII因子(rFVIII)製剤の出血時止血療法を受けていた7ヶ月男児が,頻回に嘔吐し,頭蓋内出血と診断された。止血のためにrFVIII製剤を投与後,高力価インヒビターが発生し(最大673 BU/ml),免疫寛容導入療法(FVIII製剤50 U/kg,週3回)とバイパス止血治療を行った。活性型プロトロンビン製剤(aPCC)50 U/kgを毎週または週に3回定期投与したが,出血予防に難渋し,年間出血回数(ABR)は5~13回を推移した。aPCCを中止した2週間後にemicizumabを開始した。1.5 mg/kg/週の定期投与では出血なく経過し,3 mg/kg/隔週に変更したところ,治療を要する関節内出血を1回認めたため,1.5 mg/kg/週に戻した。以降,ABRは1回まで改善し,学校行事も制限なく参加できるほど患児の生活の質は向上した。

第80回日本血液学会学術集会
学会奨励賞受賞論文
  • 小笠原 励起
    2020 年 61 巻 6 号 p. 621-627
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)の標的臓器である腸管では,腸粘膜のバリア機能破綻により腸内細菌の流入を招き,GVHDをさらに悪化させる悪循環に陥る。我々はこれまでに,R-spondin1(R-Spo1)の投与が腸幹細胞を保護するとともに,腸内細菌叢の異常を防ぐことでGVHDを改善させることを示している。しかしながら,腸における内因性のR-Spoの産生細胞は明らかでなかった。今回の研究で,マウス小腸においてR-SpoファミリーのうちR-Spo3が最も多く産生され,リンパ管内皮細胞が主な産生細胞であることを解明した。さらにマウスモデルで,GVHDにより小腸のリンパ管内皮細胞が減少し,それに伴いR-Spo3の産生も減少することを発見した。この内因性R-Spo3の低下により,移植後の腸上皮回復が遅れ,GVHDの悪化につながっている可能性が考えられた。

  • 中村 壮, 江藤 浩之
    2020 年 61 巻 6 号 p. 628-633
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    iPS細胞由来血液製剤はソースを選ばずに作成可能なことから,稀な血液型に対しても供給できることが期待されている。血小板製剤の場合,製剤10単位分(約2,000億個)の血小板をいかにして作製するかが大きな課題である。この課題解決のため,我々はiPS細胞由来巨核球を不死化細胞株として量産化する技術を開発した。また,マウス骨髄内の血小板造血の場で流体物理因子“乱流”が関与していることを発見し,大量培養に応用することで8 Lバイオリアクターから5単位分の止血機能を有する血小板を得ることに成功した。さらに,バイオリアクター内の血小板産生の作用機序においては,乱流刺激を受けた巨核球細胞株から放出された生理活性物質とせん断応力が血小板産生を促進することが示唆された。本研究は,現在の輸血医療に残る血液供給の問題点を解決する新たな可能性を提示するとともに,血小板産生に関与する新たなメカニズムを明らかにした。

第81回日本血液学会学術集会
Symposium 1
  • 吉見 昭秀
    2020 年 61 巻 6 号 p. 634-642
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    スプライシング因子をコードする遺伝子の変異が報告されて数年が経ち,スプライシング変異は様々な造血器腫瘍において高頻度に同定されることが判明したが,いまだに白血病発症におけるスプライシング変異の役割は十分に解明されていない。特に,スプライシング変異とエピジェネティック変異は高頻度に共存することから,両者の協調作用がなぜ,どのように起きるのかを解きほぐしていくことが,スプライシング変異による病態を理解する一つの鍵となる。本稿では,最新のスプライシング異常に関する病態形成,治療法開発についての知見を概説した上で,スプライシング因子をコードするSRSF2の変異とIDH2変異が高頻度に共存することをモデルとして,スプライシング異常とエピジェネティック異常が相互に影響することにより造血器腫瘍発症につながるメカニズムについて述べる。また,両変異を有する造血器腫瘍に対する治療の取り組みについても紹介したい。

  • 田中 淳, 小林 漸, 肖 慕然, 井上 大地
    2020 年 61 巻 6 号 p. 643-650
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    SF3B1は悪性腫瘍で最も高頻度に変異が認められるスプライシング関連遺伝子であるが,その変異による発がん機構については十分に解明されていない。本研究ではSF3B1変異を有する悪性腫瘍患者検体のトランスクリプトーム解析・CRISPRスクリーニングから,スプライシング異常が発がんに寄与する標的遺伝子を同定した。特にSF3B1変異体はイントロン配列のエキソン化を介してnon-canonical BAF(ncBAF)複合体の構成因子であるBRD9タンパクの低下をきたす。興味深いことに,BRD9の抑制は悪性黒色腫やMDS・造血細胞の分化異常を惹起し,CTCF結合部位へのncBAF複合体の局在低下が認められた。核酸医薬やCRISPR技術を用いたBRD9のスプライシング異常の正常化は抗腫瘍効果が得られることから,これらの成果はSF3B1変異を有する腫瘍においてメカニズムに基づいた治療応用につながるものと期待される。

  • 林 慶和, 滝澤 仁
    2020 年 61 巻 6 号 p. 651-656
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    生涯を通じて血液産生を担う造血幹細胞は定常状態において骨髄に維持され,非常にゆっくりと自己複製分裂をしながら全ての血液細胞系列へと分化していく。骨髄は造血幹細胞の遺伝子と細胞機能を保全していることから免疫特権臓器の一つであるとこれまで考えられていたが,近年,感染,炎症などの免疫・造血活性化に応じて骨髄にも実に多種多様な免疫や炎症応答が起こることが示唆されている。これらの反応は免疫活性化や造血産生において有利に働く一方,慢性化すると造血不良や腫瘍化につながる可能性がある。外界やわれわれの体に共存する細菌が引き起こす造血応答に注目して,最近の話題と知見を紹介しながら,どのようにして造血幹細胞や前駆細胞の機能が制御され変容していくかについて議論する。

Symposium 3
  • —急性リンパ性白血病—
    滝田 順子
    2020 年 61 巻 6 号 p. 657-664
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    ゲノム解析技術の革新的な進歩に伴い,ゲノム情報をもとに診断や治療を行う高度精密医療が急速に発展してきている。小児急性リンパ性白血病(ALL)は小児がんの中で最も高頻度な腫瘍であるが,遺伝子異常そのものが診断の根拠や治療の層別化に有用である。したがって,小児ALLにおいては,診断時に「ゲノム医療(クリニカルシーケンス)」を組み込むことでより精度の高い予後予測や治療の層別化が可能となることが期待される。近年,次世代シーケンサーを用いた統合的ゲノム解析により小児ALLの分子病態の全体像が次々と明らかとなり,融合遺伝子に加えて,新たに細胞増殖経路やエピゲノムの制御因子の異常が協調的に発がんに関与していることが明らかとなった。これらの情報を基盤としたゲノム医療の実現化が小児ALLの治療成績の向上には急務と考えられる。

  • —成人治療からみた将来展望—
    盛武 浩
    2020 年 61 巻 6 号 p. 665-672
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    小児白血病における急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)の頻度は約25%とされる。日本では,毎年約150例が新規に診断されるが,そのうち10%は初回寛解導入不能例となり,また一旦寛解が得られても30%が再発例となるため,さらなる治療成績向上のために新規薬剤の導入が強く望まれる。AMLは造血前駆細胞に様々な遺伝学的変化をきたして発症するヘテロな疾患である。近年の発症機序に関する研究の進歩によりAMLは遺伝学的タイプ別に分類されるようになってきた。その結果,特異的かつ効果的な治療を提供できる可能性が出てきた。今回の総説ではチロシンキナーゼ阻害薬,モノクローナル抗体,二重特異性抗体,キメラ抗原受容体T細胞療法,白血病代謝に関与する薬剤など,先行している成人での治療成績を紹介しながら,一部臨床応用前段階研究も含んだ形式で小児AMLに行われている臨床研究を紹介したい。

  • 今井 千速
    2020 年 61 巻 6 号 p. 673-681
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    造血器腫瘍に対して免疫学的機序を持つ新規薬剤が次々と登場している。長らく急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia, ALL)の分野への新薬導入はほとんどなかったが,近年,CD19を標的とし患者T細胞を活性化して殺細胞効果を発揮するブリナツモマブ,CD22を標的として殺細胞薬を選択的にデリバリーするイノツズマブ・オゾガマイシン,そして同じくCD19を標的とするCAR-T細胞療法チサゲンレクルユーセルが欧米豪に続いて本邦においても承認された。従来,再発難治ALLに対しては抗がん剤による再導入療法と同種造血細胞移植のみが根治を目指せる治療であったが,大きく様変わりしようとしている。本稿では,これら治療薬の臨床開発を振り返り,小児・思春期における位置づけについて考察した。現時点でこれらの治療の選択アルゴリズムは確立していないため,それぞれの利点と欠点を十分に理解しつつ,個々の症例での治療方針を決定することが重要である。

Symposium 5
  • 真部 淳
    2020 年 61 巻 6 号 p. 682-686
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    遺伝性素因は小児がんにおいて重要である。多くの遺伝性腫瘍症候群が知られてきたが,中でもLi-Fraumeni症候群(LFS)は代表的な疾患である。患者がLFSと診断されると,個別化治療,腫瘍のサーベイランス,リスク軽減措置,そして家族のカウンセリングが必要となる。さらに小児領域では倫理的な問題がある。すなわち,いつ,誰の検査を行うか,いかに小児から同意を取るか,その小児を誰が責任を持ってフォローするかなどである。遺伝学的検査を計画する際に最も重要なコンセプトは,その検査がその子にとって直接的に利益があるかどうかである。その意味から,LFSが疑われる場合に検査を提案することは正当化されるであろう。それは放射線照射の使用の可否,家族を造血幹細胞移植のドナーとして考慮できるかを決定できるからである。本稿では,以上の事項を説明し,成人血液内科医を含む様々な医療者の合意を形成することを試みる。

  • 大里 元美, 南部 晶子
    2020 年 61 巻 6 号 p. 687-696
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/03
    ジャーナル 認証あり

    RUNX1遺伝子は造血幹細胞の発生に必須な転写因子であり,その遺伝子変異が胚(生殖)細胞に起こると家族性白血病——急性骨髄性白血病への進展傾向を伴う家族性血小板異常症familial platelet disorder with propensity to acute myelogenous leukemia(FPD/AML)を起こす。1999年Gillilandらの最初の報告以来,RUNX1胚細胞変異は多くの血液学者により精力的に研究が行われてきた。本稿では,FPD/AMLについてこれまでの研究成果,現時点での基本情報を簡単にまとめた上で,今後の課題として次の3点:1)非典型的な症状,非典型的なRUNX1機能,2)variant of uncertain significance(VUS),3)非翻訳領域変異,について議論してみたい。RUNX1変異についてのこれまで20年間の研究経験は,近年相次いで報告されている他遺伝子の胚細胞変異で起こる類似疾患の今後の研究・診療の参考にもなると思われる。

Introduce My Article
feedback
Top