日本人の約5人に1人はがん(悪性新生物)で死亡するとされる(1).人類がこれまで何十年にもわたってその治療法の開発に取り組んできた結果,現在では手術療法,放射線療法,化学療法(抗がん剤),免疫療法が確立されている.この間,天然物化学者も自然界に存在する有機化合物を研究対象とした天然物創薬研究を展開し,抗がん作用のある有効な天然物の探索やその合成および改良研究を重ね,新たながん化学療法の開発に貢献してきた(2).しかしながら,現在の医療はがんの克服とまでは至っていない.がんは日本人の死因として1981年から常に最上位で推移しており(3),新たながん治療法の開発は今なお強く望まれている.
食品では一次機能(栄養),二次機能(美味しさ)以外にも三次機能(生体調節),いわゆる“食品の機能性”が注目を浴びるようになってきた.多くの機能性が研究されるポリフェノールのうち,ピセアタンノール,および,酵素処理イソクエルシトリンについての機能を紹介する.
細菌感染に苦しめられてきた人類の救世主として抗生物質が発見され,その黄金時代が幕を開けたその瞬間から,細菌たちはその効果を打ち消す術をすでに見つけていた.病原菌たちが耐性遺伝子の獲得,突然変異によって抗生物質を克服し,人類はまた新たな抗生物質を発見,開発して対抗する,というイタチごっこを続けてきたが,新たな抗生物質の発見,開発が追いついておらず,人類は今,劣勢に立たされている.この薬剤耐性菌問題はよく知られていることであるが,遺伝子変異による耐性菌とは似て非なる“もう一つの耐性菌”,“Persister”についてはあまり知られていない.本解説では,このPersisterについて薬剤耐性菌と比較しながら紹介したい.
インスリン様ペプチドは,線虫からヒトに至るまで保存されている稀有な同化ホルモンである.本稿でご紹介するように,インスリン様ペプチド,結合タンパク質,受容体やそのシグナル伝達分子などから成るインスリン様ペプチドシステムは,旧口動物と新口動物で異なる戦略で進化してきたと考えられる.原生生物で動物に一番近いと言われている襟鞭毛虫のゲノムデータベースを見ても,残念ながらインスリン様ペプチドに関連した遺伝子は認められない.しかし,存在が確認された動物では,基本となる生理活性は維持されており,その活性のファインチューニングの仕組みが,動物の大きさや生存している環境や食性などに適応して修飾されてきたと言えそうである.最近,宿主のインスリン様ペプチドの遺伝子を取り込んで,感染によってインスリン様活性を発揮する可能性があるウイルスの出現も報告されている(1).