動物は,栄養状態の変化に応じて,体内の物質代謝を調節して,恒常性を維持している.この恒常性が破綻すると,生活習慣病が発症する.生活習慣病の発症リスクを高める要因の一つとして,脂肪肝がある.一般的に,脂肪肝は,過栄養による肥満や2型糖尿病を患っている動物の肝臓で形成されると考えられているのではないだろうか.しかし,実際には,肥満を伴わない脂肪肝の症例数も少なくなく,その原因の一つは,必要な栄養素を十分に摂取できていない低栄養である.低栄養は,食糧不足に苦しむ発展途上国だけの問題ではなく,わが国を含めて先進諸国においても,若年者の過度な食事制限や高齢者のタンパク質やエネルギーの摂取不足など解決すべき問題である.本稿では,タンパク質やアミノ酸を十分に摂取できない場合の低栄養が,どのような機序で脂肪肝を形成させるかに関する知見を紹介する.
真核生物において核と細胞のサイズ比は一定に維持される.これは,1世紀以上も前から報告されている細胞現象であるが,それを実現するメカニズムには不明な点が多く,生物学における大きな謎である.本稿では,謎に包まれた核サイズ制御メカニズムについて,これまでに明らかになった核サイズ制御に関わる分子や細胞内プロセスとそれらによる核サイズ制御の予想モデルを紹介する.
真核生物とは,我々ヒトのように,細胞内に核と呼ばれる膜で囲まれたDNAを含む構造が存在する生物である.核にはDNAに加え,DNAが染色体構造を取るためのタンパク質や,遺伝子発現・複製に関わるタンパク質が局在している.さらに教科書的には,酸素依存的なATP合成に関わるミトコンドリアやタンパク質の修飾・濃縮・分泌に関わる小胞体やゴルジ体など,核以外にも多彩な膜で囲まれた構造が細胞内に存在する.一方で,このような膜で囲まれ,DNAが局在する構造である核やミトコンドリアが存在しない生物は原核生物と総称される.原核生物と真核生物は,すなわち上述のように細胞内構造から支持されるグループ分けである.このように,「なぜ分けるべきか」という理由を視覚的に極めて理解しやすいグループ分けが真核生物と原核生物である.しかし,この真核生物・原核生物という分け方は,現在受け入れられている進化の道筋には一致しない.原核生物は,系統樹上で真正細菌および古細菌と呼ばれるグループにさらに分けられ,それらは互いに細胞を構成する膜の脂質などに違いが見られる.近年,真核生物は古細菌の中でも特にアスガルド古細菌に最も近縁であり,真核生物は古細菌の多様性の中から誕生したことが分かってきた(図1)(1).後に真核生物の共通祖先につながる生物(FECA, first eukaryotic common ancestor: 図1灰色星印)が他の古細菌から分岐して以降,現存する全ての真核生物の最後の共通祖先(LECA, last eukaryotic common ancestor: 図1黒星印)に至るどこかのタイミングで,そしていずれかの順番で核,小胞体,ゴルジ体,ミトコンドリアが獲得されていった(2).LECAの誕生は15億年以上前と言われているが(3),この15億年の間に真核生物はどれほど多様化したのだろうか.本解説記事では真核生物の多様性について,「系統」,「色素体」,「ミトコンドリア」の3点から概説してみたい.
カンキツ果実は,果皮や果肉にカロテノイドを豊富に蓄積し,鮮やかなオレンジ色を示す.このカロテノイドの含量と組成はカンキツ品種間において多様であり,果実の市場価値を決める重要な指標である(1).化学構造に酸素原子を含むカロテノイドのキサントフィルは,ほとんどのカンキツ品種の果実に蓄積されている(2).ウンシュウミカンに多く含まれる機能性成分のβ-クリプトキサンチンもキサントフィルの一種である.カンキツ果実の成熟過程におけるカロテノイドの蓄積は,生合成遺伝子,代謝分解遺伝子および転写因子によって調節されている.本稿では,カロテノイド蓄積の調節に関する最近の研究について紹介する.
3-クロロ-1,2-プロパンジオール脂肪酸エステル類(3-MCPDEs)及びグリシドール脂肪酸エステル類(GEs)は,食用油脂の精製(主に脱臭)工程において油脂の主成分であるアシルグリセロールから意図せず生成することが近年明らかとなった新規リスク物質である.当初,これら物質を正確に定量できる分析法が存在しなかったため,国内外の複数機関が分析法の開発に取り組んだ.弊社も原材料及び製品の品質保証のため分析法開発に着手し,食用油脂中のこれら物質を精度良く,迅速に同時定量できる酵素的間接分析法を開発した.本法を社外でも広く活用してもらえるよう国内外の基準法への収載するための活動,他機関への技術指導に取り組んできた.さらに,油脂含有食品中の3-MCPDEs及びGEs濃度,加熱調理中の動態を把握するための検討を行った.本稿では,酵素的間接分析法の開発及び応用事例について紹介する.