タンパク質の約半数は,糖鎖修飾を受けた糖タンパク質として存在する.この糖鎖は,さまざまな生命現象にかかわることが知られている.糖鎖構造を含めて純粋な糖タンパク質サンプルを得る方法として,われわれは化学合成法を選び,その研究を進めてきた.本解説では,糖タンパク質合成の方法論の開発過程で得られたワンポットペプチドセグメント縮合法について述べる.
腸内細菌叢を構築する大腸菌の一部は「コリバクチン」という遺伝毒性物質を生産する生合成遺伝子を有しており,この化合物は大腸がんのリスク因子であることが疑われている.しかしながらコリバクチンは,近年までその不安定性から化学構造が明らかになっていなかった.本研究では,生合成のメカニズムを用いたコリバクチンの簡易な検出方法の開発を行い,そこから見いだしたコリバクチン高生産性の大腸菌を用いて,検出すら困難なコリバクチンの代謝産物を見いだし,その化学構造の解明に成功した.本稿において,各国で進められたコリバクチンの構造解明研究に触れつつ,最新の研究成果について解説する.
活性酸素は,植物の受精,結実,発芽から枯死にいたるまでの多様な生理的局面で細胞の運命を方向づけるシグナル物質であるが,植物でのシグナル伝達機構は未解明である.過酸化脂質が分解して生じるα,β-不飽和アルデヒド,ケトン(活性カルボニル種:RCS)は,タンパク質の求電子的修飾により細胞障害作用やシグナル作用を発揮する.RCS消去酵素過剰発現植物を用いた研究から,ストレス刺激によって植物体内で増大するRCSの傷害作用が示され,さらにプログラム細胞死やホルモン応答など広範な活性酸素応答におけるRCSのシグナル作用も明らかになってきた.本稿では,植物におけるRCSの生成・消去機構と生理作用を解説する.