ヒトとマウスFcεRI β鎖遺伝子は7つのexonからなる.ヒトFcεRI β鎖には2つのsplicing variant(βTとMS4A2trucと呼ばれる)があり,タンパク質に翻訳される.Full lengthのFcεRI β鎖は,4カ所の疎水性の強い膜通過部分を有し,N端,C端ともに細胞内にある.C端には,Immunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)と呼ばれるシグナル伝達モチーフがある.チロシンリン酸化したFcεRI β鎖ITAMには,Lynなどのシグナル分子が会合する.FcεRI β鎖ITAMは定型的なチロシン残基(YXXLX
7-11YXXL)および3つ目の非定型的なチロシン残基(YEELNVYSPIYSEL)をもつ.マウスFcεRI β鎖ITAMの定型的なYを介したシグナルが,FcεRIの架橋刺激による脱顆粒および脂質メディエーターの産生に対してamplifierとして働いている.一方,FcεRI β鎖ITAMの非定型的なYは,サイトカン産生に対して抑制的な制御を行っている.すなわちFcεRI β鎖がそのITAMの定型的および非定型的Yを介してIgE依存性のマスト細胞活性化における正負両方向性の調節によるファインチューニングを行っている.ヒトFcεRI β鎖の発現が抑制されたヒトマスト細胞ではFcεRIの架橋による脱顆粒,PGD
2産生,サイトカイン産生は統計学的有意に抑制される.これは,単にFcεRIの細胞表面の発現が減少したためのみならず,Lynの細胞膜への移行が阻止されていたため下流のシグナル伝達が抑制されたことによる.細胞膜に発現しているβ鎖を標的とした薬剤が,アレルギー疾患の新規治療薬となる可能性がある.
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