フジツボは,海洋生態系において重要な位置を占める付着生物であり,かつ人間にとっては,船底や臨海プラントの海中構造物に付着する代表的な汚損生物でもある.2008年に船底防汚塗料への有機スズ化合物の使用が国際条約で禁止されて以降,「海洋環境に負荷をかけないで,汚損生物を防除する新たな技術」の開発が進められてきている(1).一方,「汚損生物の付着メカニズムを解明することで,防汚技術の開発のヒントを探る」という考え方をもとにした基礎研究の重要性は以前から認識されているのだが,なかなか進展していないのが現状である.ここでは,「フジツボはなぜ集まって付着するのか」という基本的な疑問に対する答えを探る研究を紹介する.
食機能に関する研究は現在も盛んに行われており,生活習慣病予防作用等の有益な生理作用が明らかにされている.その生理作用発現メカニズムとして,当該食品成分の細胞・分子レベルでのメカニズムに関する研究が多数報告されている.一方で,その作用発現には当該成分の体内吸収が前提となるにもかかわらず,その体内吸収性ならびに代謝挙動評価は十分になされていない.そこで本稿では,食機能の評価における成分の体内吸収・代謝挙動について,その評価系と分析法について概説し,質量分析系を用いた最新の評価事例についても紹介する.
近年,有用天然物を獲得するために行われてきた“ものとり研究”が生物活性を指標とした伝統的手法からゲノミクスやメタボロミクスを取り入れた合理的かつ効率的な手法に変化しつつある.中でもタンデム質量分析を基盤としたメタボロミクスは,バイオインフォマティクス解析技術の飛躍的な進歩によって既知物質の迅速同定や代謝物の生体変換の追跡を可能としている.本稿では,タンデム質量分析の膨大なデータからケミカルスペースをネットワークとして可視化できる分子ネットワーク解析とそれを活用した新規化合物の探索,および生物間相互作用に関連する鍵物質同定への取り組みについて解説する.
筆者らは10品種のサボテン刺座の配列を,真上と真横から見た座標で調べた結果,個体ごとに刺座の配列は異なっていた.本結果を受け,外形が円柱形で刺座配列に規則性があるように見えるブリンチュウに研究対象を絞った.個体ごとの歪みの補正を行うと,刺座が頂点から左右に螺旋を描いて共有刺座で交差しながら下方に配列しており,ブリンチュウ固有の螺旋方程式で示すことができることを明らかにした.本結果により,他のサボテン種でも刺座の配列を螺旋方程式で説明できる可能性を示した.