ステロイドと耳にすると,どんなイメージだろうか? ステロイド剤,ドーピング剤といった薬からのイメージ,摂取に気をつけなくてはいけないものといったイメージだろう.ステロイドは食事の中にも含まれている.ステロイドとはステロイド骨格をもった化合物の総称であり,コレステロールもステロイドである.食事のステロイドの代表はコレステロールであるが,植物ステロイドも同量ぐらい含まれている.このステロイドの他に,食品の保蔵および調理で酸化を受け,酸化ステロイドが生成し,それも摂取している.本稿では,コレステロール,植物ステロイド,その酸化物についての生体内での意義について解説する.
微生物の有用な機能を利用した植物病害の防除は生物的防除(バイオコントロール)と呼ばれ,化学農薬の代替として期待される.Pseudomonas tolaasiiによる病害は,多くのきのこ類で報告されており,主にきのこ子実体の腐敗症状を引き起こす重要病害である.本病害を対象とした登録農薬は,国内に存在しないため,微生物を活用した生物的防除法の開発が求められている.現在まで,国内外で本病害に対する生物的防除に関する研究が行われており,それらは微生物の様々な機能を駆使した興味深いものが多い.そこで本解説では,筆者らが取り組んでいる研究を交えて,それぞれの防除機構と効果について俯瞰してみたい.
これまでに知られているような独立栄養条件でなくても,炭素・窒素源無添加の培地に生育する細菌を「超低栄養性細菌」と呼んでいる.興味深いことに,驚くほど簡単に自然界から超低栄養性細菌を単離することができ,その多くはRhodococcus属に属する細菌である.これまでに単離したものの中で最も良い生育を示したのがR. erythropolis N9T-4株であり,窒素・硫黄源無添加の培地でも生育する.本菌を用いて低栄養性の解明に挑んでおり,まだまだ未知な部分が多いが,最近になって少しずつその炭素・窒素代謝が明らかになりつつある.低栄養生育に必須な遺伝子の解析を中心に,その産業応用の可能性も解説する.
麴菌は長年の食品製造への利用の歴史から安全性が認められており,アミラーゼをはじめとする酵素タンパク質を大量に分泌生産する能力を有していることから,異種タンパク質の宿主としても利用されている.近年の研究により,麴菌によるアミラーゼ遺伝子や異種遺伝子の発現が,転写過程ならびに転写後の過程において複雑に制御されていることが明らかになってきた.本稿では,その概要について,筆者らのこれまでの研究を中心に解説する.
今回の「トップランナーに聞く」は花王株式会社ヘルス & ウェルネス研究所長の桂木能久先生にインタビューをお願いしました.桂木先生は1988年に広島大学大学院工学研究科工業化学専攻を修了されて,同年,花王株式会社鹿島研究所に入社されました.苦味抑制分子や機能性油脂などの様々な研究開発のご経験を経て,2012年にはヘルスケア食品研究所長に就任され,2020年からヘルス & ウェルネス研究所長を務めていらっしゃいます.アカデミアにおけるご活動も非常に活発で,2016年から現在まで,弘前大学大学院医学研究科の特任教授に就任され,2021年から日本油化学会の副会長,そして2019年から2021年は「健康と食品懇話会」の会長を務められました.今回は,桂木先生のご経歴を中心に,お話を伺いました.
(取材日:2022年10月28日.所属・役職は当時のもの)