化学と生物
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52 巻, 8 号
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巻頭言
今日の話題
解説
  • 西本 完, 北岡 本光, 林 清
    2014 年 52 巻 8 号 p. 505-511
    発行日: 2014/08/01
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    有史以前から人類は微生物を積極的に利用し,酒,パン,チーズ,ヨーグルトなどの発酵食品を製造しており,酵素の存在を認識する以前から酵素を積極的に活用してきた.近代社会においても,酵素の精緻かつ多彩な物質変換機能を利用する酵素利用技術は,新規食品素材や有用物質の効率生産のためには必要不可欠であり,特性の優れた酵素の検索・改良がたゆまなく実施されている.バイオテクノロジーが進歩したとはいえ,ようやくタンパク質の人工設計(デノボデザイン)が可能となり始めたところであり,活性を有する酵素をデノボデザインするにはほど遠く,アミノ酸配列から酵素の特性を評価する技術も構築されていない.そのため,天然酵素,天然酵素を一部改変した酵素,天然酵素を模した酵素から,最終的にはスクリーニングによって所望する酵素を選抜する必要がある.微生物の単離を経ずに,土壌に残存する遺伝子から酵素をスクリーニングすることも可能となったが,自然界の酵素にはおのずと限界もあり,新たな手法を検討した.40億年にわたる生物の進化は,とりもなおさずタンパク質(酵素)の進化であり,その手法は2つに大別できる.第1の手法は遺伝子上の1塩基の変化に起因するものであり,タンパク質を構成するアミノ酸1残基が変化する.第2の手法はエキソンシャッフリングなどの遺伝子の相同組換えに起因するものであり,タンパク質を構成するアミノ酸配列が大幅に変化する.環境に適応した生命体を維持・調節するために,両者の手法が繰り返されタンパク質は進化してきた.第2の手法はアミノ酸配列が大きく変化し酵素特性にも大きな変化をもたらすが,生物にとって致死的となる場合も多い.また,種の壁を超えることはできないことから,高頻繁には生じなかったと推察される.そこで,第1の手法としてランダムシャッフリングの事例,第2の手法として2件のキメラ酵素構築の事例を紹介する.
  • 奥田 徹
    2014 年 52 巻 8 号 p. 512-518
    発行日: 2014/08/01
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    菌類は古くから発酵食品製造に用いられてきた.わが国はこの分野に強みをもっており,独自の文化ともなっている.和食(日本人の伝統的な食文化)が先頃ユネスコ無形文化遺産に登録されたのもその表れと言えよう.近代発酵産業でも菌類は重要な役割を果たしており,20世紀後半にはいわゆるブロックバスター医薬が菌類から発見された.最近,発酵食品や天然物創薬に利用されてきた菌株について分子系統学的手法により新しい分類学や命名のメスが入れられ,興味深い事実がわかりつつあるが,これは貴重な歴史的菌株そのものが保存されていたからにほかならない.われわれはニッチとしての天然物創薬を夢見て,10年以上にわたり北海道から西表島まで幅広く,自然界でほかの生物と何らかのインタラクションのある菌類に特化して探索を続け,15,000以上の菌類菌株ライブラリと40,000以上の培養抽出物ライブラリを構築した.抽出物ライブラリはさまざまな生物活性データを付加してデータベース化しその利用を図ってきた.ここではそのコンセプトと最近の話題を紹介したい.
  • 海洋の食物生産を維持・制御するメカニズム
    松田 祐介, 中島 健介, 菊谷 早絵
    2014 年 52 巻 8 号 p. 519-529
    発行日: 2014/08/01
    公開日: 2015/08/01
    ジャーナル フリー
    海洋性ケイ藻類は,多様な水圏に適応し,地球一次生産(光合成)の約20%を担う生物として近年注目された.その結果,21世紀に入ってからゲノムインフラが整備され分子研究の端緒についた生物である.ケイ藻の分子研究は地球環境科学分野だけにとどまらず,バイオエネルギー,有用物質生産,およびナノテクなどの農・工学分野からも注目を集める.一方でケイ藻は,二次共生の謎やその過程で醸成されたユニークな代謝・生理など,基礎生物学の研究対象としてもたいへん興味深い生物である.ケイ藻の環境適応能力を知るうえで,一次生産の基礎となる光合成系およびその環境応答の詳細は最優先課題の一つである.とりわけ,アルカリ度や塩濃度の高い海洋環境でCO2を海水から取り込み葉緑体内部まで送り届けるシステムの重要性は高い.これまでにも生理学的なアプローチから海洋性ケイ藻がCO2とHCO3-の両方を海水から積極的に取り込み無機炭素への親和性が極めて高い光合成を行うこと,およびこの機能はCO2濃度が大気レベルより低いときに発現されることが報告されている.しかし,これらの機能にかかわる分子は僅かしかわかっていない.本稿では,海洋性ケイ藻が海水から直接HCO3-を取り込む“CO2濃縮”の分子機構の一端と取り込まれた無機炭素の流路を制御する分子機構について紹介する.また,海洋性ケイ藻類が環境CO2濃度に応答してCO2濃縮にかかわる因子を転写や翻訳後レベルで調節する分子機構についても解説する.
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