水田土壌の窒素肥沃度は微生物による窒素固定が支えている.我々は水田土壌のメタトランスクリプトーム解析により,Anaeromyxobacter属とGeobacter属の鉄還元菌が窒素固定を駆動している主要な微生物であることを突き止めた.また,水田土壌からこれら鉄還元菌の新規株を単離することにも成功し,鉄還元菌の窒素固定活性が電子受容体であるFe3+の濃度の上昇とともに高まることを明らかにした.さらに,Fe3+を水田土壌に添加することで土壌の窒素固定活性を高めることができた.本研究によって得られた知見は,窒素施肥量を削減した環境負荷の少ない農業技術(低窒素農業)に繋がると期待される.
多くの環境ストレスのなかで高温度への温度変化は,地球温暖化という環境変化によってもたらされる最も身近なストレスの一つである.この熱ストレスに対して,生物はさまざまな変化を起こし,生物の恒常性を保つための応答,またその温度変化に適応していく応答を行う.このレビューでは真核生物のモデル生物である酵母に中心に,温度の上昇に対して,どのような生理学的変化,形態変化が起きているかを紹介する.
酵母によるアルコール発酵は古くから人々に親しまれてきた酒類製造方法であるが,発酵は酵母の性状,活性状態,また多岐にわたる生化学反応がかかわる複雑な現象で不明なことが多く,経験に頼って制御しているのが現状でありその解明が望まれている.酵母にはビール酵母,清酒酵母,ワイン酵母といった種類があり,それぞれの酒類のつくり方に適した酵母が用いられている.世界で広く飲まれ,その生産量は約2億万キロリトッルにも及ぶビールはビール酵母を用いてつくられており,ビール酵母の性質はビールの味つくりに大きく影響している.今回はビールつくりの主役ともいえるビール酵母について,研究の歴史に触れつつその特徴と最近の研究成果を解説する.
体内動態とは,摂取した成分が吸収され体外へ排泄されるまでの体内での一連の流れのことで,体内でどのような運命をたどるのかを明らかにすることでもある.医薬品では,体内動態は必ず調べられており,添付文書やインタビューフォームなどで簡単に確認することができる.なぜ体内動態を調べるのか? それは,いつ,どのようなタイミングで,どのくらいの量の薬を服用すればよいのかを考える助けとなるからである.安全性,有効性の科学的な根拠にもなるため,体内動態を知ることは大切である.医薬品の開発研究において発展した薬物動態学を食品成分,ポリフェノールに活かし研究を進めてきたので,セサミンやケルセチン配糖体の例も交えて紹介する.
体内時計は,バクテリアから哺乳類までほとんどの生物に内在する24 時間周期で振動する生命維持システムである.哺乳動物では,ポジティブ因子(CLOCK, NPAS2とBMAL1)による標的時計遺伝子の転写活性化と,その翻訳産物のネガティブ因子(PERやCRY)によるフィードバック阻害によってコア時計リズムが形成されると考えられている.時計リズムは,さらに種々の制御因子や翻訳後修飾によって複雑に制御され,その結果多くの生命機能に反映される.近年これらの時計制御因子のいくつかはヘムを結合するタンパク質であることが明らかになってきた.そこで,ここではヘムあるいはヘムを介したCOシグナルやNOシグナルによる体内時計の調節について紹介する.