体内に通気組織を形成するイネは水田(部分冠水条件)で生育することができるが,体が完全に冠水するような洪水環境では呼吸ができず溺死してしまう.しかし,東南アジアの洪水多発地帯で作付けされる浮イネは,冠水すると茎を伸長させ葉を水面上に抽出することで空気を摂取し,長期の洪水環境でも生育することができる.最近,われわれは浮イネの冠水依存的な茎伸長における一連の分子メカニズムを明らかにした.これまでの知見と併せて浮イネの洪水に対する適応機構を紹介する.
ポリアミンは,細胞増殖,核酸保護,オートファジー促進等の多岐に渡る機能を有し,健全な細胞活動に不可欠な生理活性物質である.しかし,加齢に伴い生体内合成量は低下する.筆者は,不足する内因性ポリアミンを外因性(食事由来あるいは腸内細菌叢由来)により補うことで老年病の予防・軽減が可能と考えている.事実,複数のモデル生物で外因性ポリアミン供給による寿命延伸が確認され,疫学調査でポリアミン摂取量と死亡率の負の相関,さらにマウスおよびヒト試験で老年病予防効果が報告されている.本稿では,健康寿命延伸に関連するポリアミンの生理機能と腸内細菌叢を利用したポリアミン供給食品の開発と効果について紹介する.
未利用バイオマスと聞けば,バイオ燃料の原料としてよく研究されているリグノセルロースや食品廃棄物を思い浮かべる方が多いであろう.しかし,全国津々浦々で常時“生産”され続けている下水汚泥も,エネルギーの確保に悩む日本にとって有望な未利用バイオマスである.最も慣れ親しんでいる下水汚泥の利用法は嫌気消化(いわゆるメタン発酵)であるが,消化後に残る残渣(消化汚泥)の資源化に関心を持つ研究者は少数派であった.本稿では,少数派に属する筆者が取り組んできた内容を中心に,微生物を使って消化汚泥を資源化する研究を紹介する.
私たちは,現在,学校近くの茶屋沼にて採集した藻類を活用して,福島第一原発敷地内に保管されていて,さらに現在も毎日,原子炉建屋内から出てくる高濃度の放射性物質を含む汚染水を減らしたいと考えている.乾燥状態のイシクラゲは水を吸収し,その水が蒸発することによって時間とともに元の乾燥状態のイシクラゲに戻っていくことから,イシクラゲが吸収した水を大気中へ放出する条件がわかれば,敷地内に大量にある汚染水をイシクラゲの能力で減らすことができる.その際,汚染水中に含まれる放射性ストロンチウム(Sr),放射性セシウム(Cs)は,イシクラゲに吸収させて回収できると期待できる.そこでイシクラゲにSr・Cs混合溶液を吸収させて,さらに青色LEDを照射して,イシクラゲの有無によるSr・Cs混合水溶液量の減少量の違いを調べた.その結果,イシクラゲによりSr・Cs混合水溶液の減少量が増加することが明らかとなった.