体温はさまざまな生命現象に影響を与えるため,生物は自律性および行動性の体温調節によって生体の恒常性を維持している.しかしながら,生物がどのように至適な体温を決定しているのかについて明確な答えは出ていない.本稿ではショウジョウバエをモデルとした体温調節行動解析から明らかとなった温度受容体の機能やエネルギー代謝と体温調節との関連について紹介したい.また,われわれが見いだした共生細菌と体温調節機構との関連について,近年明らかにされつつあるショウジョウバエにおける共生細菌の機能と役割における知見なども併せて紹介したい.
エピゲノムとは生物がもつDNAメチル化やヒストン修飾などの全情報であり,全塩基配列情報であるゲノムと同様に細胞分裂を経ても遺伝しうる.エピゲノムの変化はゲノムへのアクセシビリティや機能,クロマチン構造を変化させる.したがってエピゲノムの変化は塩基配列を変化させることなくエピジェネティックに遺伝子発現や表現型の違いを生み出すことができる.近年ゲノム多様性は積極的に作物育種に取り込まれている一方で,エピゲノム多様性に関する知見は限られており,作物育種への利用にはほど遠い.本稿ではモデル植物であるシロイヌナズナにおけるエピゲノム多様性とその生物学的意義に関する研究について紹介する.
農作物の品種判別は食の安心・安全にかかわる重要な検査である.近年食品偽装問題が頻繁にメディアなどで取り上げられ,消費者の食品安全に対する関心は急速に高まっている.また日本で育成された農作物品種が海外へ無断で持ち出されるという不法流出や品種の盗用,偽装表示も報告されている.このような偽装表示や育成者権侵害を取り締まるため,農作物品種を適正に判別できる技術の開発が求められている.本稿では,これまでに報告されている権利侵害の被害状況や実際に開発されてきたDNA分析による品種判別技術,また最後には次世代シーケンサーという近年急速に普及している技術を活用した新しい手法の開発事例について解説する.
本研究は,日本農芸化学会2017年度大会(開催地:京都女子大学)の「ジュニア農芸化学会」で発表された.菌根菌は植物と共生する菌類で,陸上植物の80%以上と共生関係にある.本研究は,菌従属栄養植物であるラン科のネジバナ(Spiranthes sinensis)の種子が,その発芽に必要な菌根菌と共生するイネ科のオヒシバ(Eleusine indica)の側で発芽して生育したことを植生調査,発芽試験,菌根菌同定といった実験で提示し,菌根菌を介した植物間コミュニケーションを示したものである.