化学と生物
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47 巻, 11 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
巻頭言
今日の話題
解説
  • 秋枝 さやか, 伊達 紫
    2009 年 47 巻 11 号 p. 750-755
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/07/28
    ジャーナル フリー
    生体は,日々のエネルギー摂取の変動にもかかわらず,一定の体重を維持するためのエネルギー恒常性機構を有している.エネルギーを獲得する唯一の方法である摂食行動は,空腹や満腹を伝える液性因子の情報が中枢に到達し,記憶,学習,認知,情動などの高次機能と統合され,神経ネットワークが作動することで巧妙に制御されている.さらに神経ネットワークからの出力は,末梢の代謝関連臓器である脂肪組織,骨格筋,肝臓,消化管などで行なわれる細胞レベルでのエネルギー代謝調節に寄与している.このように,生体が効率よくエネルギー恒常性を維持するためには,各臓器によるクロストーク機構が重要であるとの認識から,近年,多臓器間ネットワークによる代謝連関のメカニズムに関する研究が活発に行なわれている.ここでは,空腹や満腹シグナルとして機能するホルモンの中枢への伝達経路のひとつである迷走神経求心路に焦点をあてて,主に食行動における末梢と中枢の機能連関について解説する.
  • 松浦 英幸
    2009 年 47 巻 11 号 p. 756-763
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/07/28
    ジャーナル フリー
    生理活性物質の代謝,移動,到達点での生理活性発現解析のために様々な手法が用いられ,研究が行なわれてきた.特に植物内での移動実験に関しては 14C などの放射活性なラベル体を用いた実験が多く見受けられるが,移動先での検出は多くの場合,放射活性を測定するのみであり,実際の化合物の化学構造については議論がなされていない.しかし,放射活性を有したまま化合物が構造変換を受け,移動した場合,上記の手法には限界がある.一方,昨今の質量分析機器の性能の向上は目覚ましく,迅速な微量物質の分析が可能になった.この技術を安定同位体ラベルされた目的化合物と組み合わせ,上記の問題解決を試みたので本稿で紹介したい.また,この技術を利用してジャスモン酸(JA)類の代謝経路に関わる酵素の単離精製に至った経緯もあわせ紹介する.
  • アレルギーとの関係を中心に
    山西 倫太郎
    2009 年 47 巻 11 号 p. 764-771
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/07/28
    ジャーナル フリー
    国民の健康志向とともに,食品に対する免疫調節への期待は高まっている.そして,近年は衛生仮説やToll-like receptorを介した自然免疫系の研究の進展を背景に,プロバイオティクスによる免疫調節の研究が盛んであり,知識の集積が進んでいる.一方,β-カロテンなどのカロテノイドによる免疫系への作用の研究も比較的古くから行なわれており,報告されている作用の種類も多岐にわたっている.ここでは,免疫に関するカロテノイド研究のこれまでを振り返り,その中から β-カロテンが抗原呈示細胞に及ぼす影響に関する研究についてその背景・現況を紹介するとともに,カロテノイド研究の今後の課題に言及する.
  • 森田 洋行, 阿部 郁朗
    2009 年 47 巻 11 号 p. 772-780
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/07/28
    ジャーナル フリー
    一般に,酵素の基質特異性は厳密で自由度が低いものとされている.しかし,二次代謝酵素の中には,異例ともいえる広範な基質特異性と触媒ポテンシャルを有するものがあり,酵素工学や生体触媒の可能性を考える上で好都合である.こうした酵素の性質を活用することにより,創薬シードとなりうる有用物質の生産が可能になる.ここでは,植物ポリケタイド合成酵素を取り上げ,その生合成研究の最前線について解説する.
  • 奥川 洋司, 平井 洋平
    2009 年 47 巻 11 号 p. 781-785
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/07/28
    ジャーナル フリー
    エピモルフィン(syntaxin-2)は,t-SNAREタンパク質の一つとして通常細胞内で小胞の細胞膜融合を仲介している.興味深いことに,この分子は細胞刺激に応答してFGFと同様の機構で細胞表面に呈示され,膜貫通領域が切断されて分泌され,細胞外での新機能(組織の形態変化誘導)を発揮することが確かめられた.エピモルフィンは膜トポロジーを変化させることで異なる機能を発揮するユニークな分子群の一つと思われる.
セミナー室
  • 藤吉 好則
    2009 年 47 巻 11 号 p. 786-793
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/07/28
    ジャーナル フリー
    生命機能を化学の言葉で理解するには,タンパク質の構造を決めることが望まれる.中でも,細胞のシグナル伝達やエネルギー代謝,その他の細胞の生理機能を理解する上で鍵となる膜タンパク質について,その分子機構を理解できるような高い分解能で構造解析する必要がある.そのためには,電子顕微鏡を用いた構造研究は一つの良い手法である.しかし,電子顕微鏡を用いて生物試料を観察しようとすると,電子線による試料損傷のために,像のシグナルとノイズの比(S/N)はきわめて悪くならざるを得ない.そのS/Nを向上させるためには,像の平均化操作を行なう必要がある.平均化の一つの有力な方法として,単粒子解析法(先月号参照)が広く用いられるようになっている.単粒子解析法は結晶を作製しないで,立体構造を解析できることから,非常に多くの生物学的研究課題に応用され始めている.しかし,現状ではこの単粒子解析法で,同じ試料を解析したとして発表された構造がまったく異なっている例が散見される.また,現状では解析できる分解能が比較的低いこともあって,確かな原子モデルを解析するためにはこの方法の進歩を待たなければならない.
    電子線結晶学は,膜タンパク質が生理的な条件である脂質膜にある状態で,高い分解能の構造を解析でき,構造に基づいて生理機能を理解するための最適の方法であるので,構造生理学という新しい学問分野を切り開くのに中心となる手法であると信じて研究を進めてきた.ここでは,電子線結晶学を用いた膜タンパク質の構造と機能研究の数例を解説する.
  • 堀内 裕之
    2009 年 47 巻 11 号 p. 794-799
    発行日: 2009/11/01
    公開日: 2011/07/28
    ジャーナル フリー
    プロテインキナーゼC (PKC)はセリン・スレオニンキナーゼの一種で,動物には10種以上のアイソザイムが存在し,これらは細胞内の様々なシグナル伝達系に関与していることが知られている.真核微生物においては酵母 Saccharomyces cerevisiae においてその機能の研究が精力的に行なわれている.S. cerevisiae にはPKCをコードする遺伝子が1種しか存在せず,細胞壁の完全性維持機構 (cell wall integrity pathway) において中心的な役割を果たしていることが示されているが,その他にも核内における機能などが知られている(1).ここでは,近年,機能解析が行なわれ始めた糸状菌のPKCについて,菌類で最も解析の進んでいる S. cevevisiae のPKCとの機能の比較も含めて概説する.
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