近年「ブルーカーボン」とも称されるようになった大型藻類(海藻)は,陸上植物と同等以上の純生産量を持つことが明らかになっている.日本列島の周縁に広がる大陸棚は大型藻類の生育に適しており,大型藻類を構成する成分を原料とした有用物質の生産,すなわちバイオリファイナリー(再生可能な資源であるバイオマスを原料に燃料や化成品などを生産する技術)に関わる研究は,地球環境の保全と物質生産を両立させた日本オリジナルな資源循環システムの開発につながると考えている.本稿では,大型藻類の性状に加え,バイオリファイナリーの確立のために必要な「養殖によるバイオマスの生産」,「特徴的な生理活性物質の利用」,「酵素による難分解性多糖類の完全分解と単糖類の生産」の各技術と「バイオエタノール生産への展開」について紹介する.
再生可能な資源である植物バイオマスを原料に燃料・化成品・材料を生産するバイオリファイナリーが注目されている.しかし植物バイオマスは有用な資源であるが,植物細胞壁中に含まれるセルロース・ヘミセルロース・リグニンを主成分とするリグノセルロースが難分解性であることが問題となっている.環境中ではリグノセルロースを効率的に分解・利用する木材腐朽菌が知られており,細胞外にセルラーゼ,ヘミセルラーゼ,リグニン分解関連酵素などを分泌している.そこで筆者は腐朽菌が保有する樹木成分の認識と分解酵素の多様性について研究するとともに,より実環境に近い実験条件下での樹木分解に着目した研究を行うことで,樹木分解の効率化を目指している.さらに,樹木による細胞壁形成に着目することで,分解しやすい樹木の創生に関する研究を推進している.本稿では,筆者が農芸化学若手女性研究者賞を受賞した内容“植物バイオマス分解利用に関する基礎研究”についてご紹介する.
この半世紀の生物学の急速な進展はゲノム塩基配列の「解読」と「改変」の2つの技術が両輪となり大きな貢献をしてきた.細胞内共生に由来するミトコンドリアや葉緑体の内部に存在するゲノムには,呼吸や光合成の重要遺伝子がコードされている.それらの「解読」は核に先行して進んだ一方で「改変」は難しく,いわゆる“遺伝子組換え”も不可能や困難であった.細胞内に数百コピーあり,母性遺伝し,祖先細菌由来の性質と独自性質を併せもつ二つのオルガネラにはたくさんの謎が残っている.謎の解明と応用改変に有効な「多様な種で実行可能で,かつ遺伝可能なオルガネラゲノム編集技術」が,最近急速に発展しており,これを概説する.
ゲノム編集技術を利用した製品の開発が進む一方,現状では国民に十分に受け入れられているとは言い難い.消費者の信頼を得ることは食品安全行政においても極めて重要な課題の一つである.本稿では,ゲノム編集技術により生産された製品に関する日本の規制の枠組みを解説するとともに,日本に流通するゲノム編集食品の安全性の確認はどのような考え方に基づいて行われているのかを紹介する.また,ゲノム編集食品の安全性を確認するうえでの課題や,諸外国との規制制度のハーモナイゼーション(調和)にむけた課題などについても解説する.
アジサイ葉の誤食による食中毒が報告されている.原因とされるアルカロイドや青酸配糖体の存否調査は行われているが,報告によりその結果はまちまちである.本研究では,塩酸との反応により青酸配糖体からシアン化水素が発生すると考え,滴定法を用いてシアン化水素の定量を試みた.その結果,2品種のアジサイ葉からシアン化水素が発生することを明らかにした.