2011年の東日本大震災は福島第一原発の事故をも引き起こした.9年近くが経過したが,放射性セシウム(Cs)による土壌汚染は今なお復興の障壁となっている.放射性Csは土壌に強く吸着しており,雨水の浸透などでは動かない.しかし,植物の吸収力は強く,その一部を吸収し,生態系への再拡散や,食品の放射能汚染の要因となる.環境を構成する主要なピースである植物のCs動態は重要であるが,高等植物の詳細なCsの吸収メカニズムは今まで不明であったが,震災後,農作物へのCs吸収に関する研究は大きく進みつつある.本解説では農地を中心とした環境中のCs動態とその対策,植物におけるカリウムとの関係,そして新たに解明されたイネのCs吸収経路についての知見を紹介する.
アロエは,サボテンのように見えるがユリ科の植物で,その種類は数百種類以上とも言われている.日本では,キダチアロエが観賞用として多く使用されており,その特徴である茎が木のように立ち上がる形状から,キダチは,木立を意味している.一方,アロエベラは,アラビア半島南部,北アフリカ地中海沿岸やアフリカ南部諸島を原産地とし,その特徴として親株を中心に巨大な肉厚の葉が放射状に育つ.その葉は,大きいものでは1枚2~3 kgになることもあり,葉肉は食品の原料として用いられる.今回,われわれが行った研究を中心に,アロエベラ葉肉に含まれるアロエステロールの機能性について報告させていただく.
食品はどのようにして食欲を調節するのか? 意識にのぼる入力がもたらす「おいしさ(嗜好)」が,食欲を調節することは理解しやすい.他方,嗜好以外の栄養や生体調節といった食品機能も,意識にのぼらない代謝性シグナルを介して食欲を調節する.「食べたい」食品が,代謝性シグナルを動かす「体調」に応じて変わることからも,この点が理解できる.つまり,食品がリアルな満足感をもたらすには,味嗅覚などの感じとれる感覚入力と,意識にのぼらない深層レベルで作用する代謝性シグナルの両方が必要である.そこで本稿では,糖に対する食欲を調節する代謝性シグナルを例に,意識にのぼらない入力による食欲調節について解説する.
植物は,フラボノイド,イソプレノイドなど,自らの生育には必須でないようにみえる化合物群を生産し,その構造は20万を超える多様性を示す.これらの化合物群は二次代謝産物とよばれ,生育に明らかに必須な代謝物(一次代謝産物)とは区別されていた.最近,これら二次代謝産物が植物の環境適応や生殖において数々の役割を果たし,その構造と役割が植物種ごとに特徴的であることが明らかになり,植物特化代謝産物と呼ばれるようになった.本解説ではフラボノイド生合成を例にして,植物特化代謝経路が新規に形成され代謝産物の構造的多様性が生み出されるしくみについて,酵素の進化的起源や特異性のあいまいさとの関連で考察する.