日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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21 巻, 5 号
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  • 久冨 光一, 磯村 正, 林田 信彦, 平野 顕夫, 福永 周司, 佐藤 了, 西見 優, 青柳 成明, 小須賀 健一, 大石 喜六
    1992 年 21 巻 5 号 p. 419-423
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    僧帽弁置換術後の左室破裂は, とくに遅発例に関して救命率も低く, 発生要因の解明および防止法の確立が急務である. 今回われわれは1965年9月より1991年8月までに, 当科において僧帽弁置換術を施行した1046例中, 術中および術後に左室破裂をきたした8例を対象に, その発生要因の検討を行った. 年齢は43歳から67歳 (平均58歳), 男性1例, 女性7例で, 破裂部位 (Treasure, Miller らの分類) は type I 5例, type II 2例, type III 1例, 左室破裂発症時期は, 体外循環離脱時3例, 閉胸時1例,術後11時間, 14時間, 18時間, 25時間のおのおの1例であった. 8例中3例は心拍動下に左室外側より修復, 5例は体外循環下に心停止を行い, 左室内腔より破裂部を修復した. しかし体外循環離脱直後に発生し, 心停止下に修復を行った2例 (おのおの低心拍出量症候群, 多臓器不全にて術後2日目, 44日目に死亡した) 以外は, 修復後もまったく止血不能であった. われわれはとくに最近の遅発例で, 血圧の上昇後に突然発生したこと, 組識学的にも心筋細胞の脱落, 変性を広範囲に認め, 心筋の脆弱性が認められたことから, 術後急性期の動脈圧の急激な上昇を避ける管理は, 発生防止の有効な方法となるものと考えている.
  • 尾崎 直, 内田 敬二, 浜田 俊之, 戸部 道雄, 佐藤 順
    1992 年 21 巻 5 号 p. 424-430
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    感染性心内膜炎 (IE) の15症例に対し手術を施行し手術適応, 手術方法, 成績について検討した. 男性13例, 女性2例で平均年齢は48.5歳である. 活動期IEは8例でそのうちの2例は人工弁感染 (PVE) であった. 疾患は大動脈弁閉鎖不全4例, 僧帽弁閉鎖不全2例, PVE3例, VSD3例などであった. 起炎菌は血液培養陽性は5例で緑連菌3例, グラム陰性菌, ブドウ球菌が各1例, 弁培養陽性は3例でグラム陰性菌2例, 腸球菌1例であった. 自然弁の全症例に vegetation が認められ心エコー検査が有用であった. 手術死亡は3例でそのうち2例は活動期PVEであった. 予後を左右するのは心不全, 脳梗塞の合併などであるがこれらの症例は積極的に手術を行うべきである. とくに活動期のPVEは死亡率が高く診断がつき次第手術に踏み切り, かつ手技的には感染巣に直接, 縫合を行わない工夫が必要である.
  • 長津 正芳, 黒澤 博身, 今井 康晴, 遠藤 真弘
    1992 年 21 巻 5 号 p. 431-437
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    先天性冠動脈瘻 (以下CAF) の手術適応と至適時期に関しては定説をみず不明の点も多い. そこで今回, 最近17年間のCAF単独例33例につき, 心電図虚血性変化の有無と成因に関し平均10.0年間にわたり検討した. 33例中心電図上有意虚血性変化を認めたのは9例 (I群) で, 他の24例 (II群) との比較では, 臨床症状, 左右短絡率 (I群22±19, II群19±18%), IE発生率 (I群1/279, II群3/618 patient・year) に有意差を認めず, 瘻が心腔に開口する chamber 型例に限り小児早期の有意虚血例を認めた. I群手術例は7例 (78%) で, うち5例に心電図の改善を認め, 3例に心筋障害の遺残を認めた. 中等量短絡以下のCAFであれば血行動態は長期間安定しており, よって大量短絡による心不全例やIE例は早期手術適応, 他は開口部位と年齢により“chamber 型は小児早期から”“肺動脈型は成人以降かつ運動負荷時の”心筋虚血発現の観察が適応時期決定に重要と思われた.
  • 高原 善治, 須藤 義夫, 村山 博和, 大音 俊明, 仲田 勲生, 瀬崎 登志彰, 中村 常太郎
    1992 年 21 巻 5 号 p. 438-442
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    Björk-Shiley spherical 弁置換後の血栓弁10例の臨床的検討を行った. 1975年~1989年に使用したのは, 大動脈弁位98個, 僧帽弁位133個, 合計231個である. これらの血栓弁の合併率は大動脈弁 (A) 位0.69%/患者・年, 僧帽弁 (M) 位1.2%/患者・年, 合計0.95%/患者・年であった. 10例中A弁位4例, M弁位6例であった. 初回手術からの期間は7か月~15年であった. 血栓弁の誘因としてはワーファリンコントロール不良がA弁位3例, M弁位4例に認められた. 初発症状は呼吸困難3例, 血栓塞栓症4例, 心音異常3例であり, 確定診断には cineradiography が初期の1例およびショックの2例を除いた7例に行われ, 最も有効であった. 治療としては8例に緊急もしくは準緊急手術を行い6例を救命し14年~3か月の遠隔で経過良好である. 一方ウロキナーゼ療法は2例に行い1例は無効, 残り1例は脳合併症にて失った. 今後は外科的治療を第一選択としていく方針である.
  • とくに超低体温・循環停止法による上行大動脈グラフト置換手術例の検討
    石井 浩二, 松居 喜郎, 合田 俊宏, 佐久間 まこと, 明神 一宏, 安田 慶秀, 田辺 達三
    1992 年 21 巻 5 号 p. 443-446
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    A型解離性大動脈瘤は心タンポナーデ, 大動脈弁閉鎖不全, 心筋虚血などの心合併症をおこしやすいため急性期に緊急手術を必要とすることが多い. 本症では病態が重篤であるのに加えて, 大動脈組織が脆弱で縫合手技も困難なため手術成績は必ずしも満足すべきものではない. 今回, われわれが行っている超低体温・循環停止法を用いた上行大動脈人工血管置換術の成績について報告する. 症例は8例, 男性1例・女性7例平均年齢は59.6歳であった. 平均最低直腸温は19.6℃, 平均脳循環停止時間は35.5分であった. 8例中6例を救命できた. 脳循環停止に伴う重篤な合併症はなく, 生存例すべて後遺症を残さずに社会復帰できた. 重篤で生命予後の悪い急性A型解離性大動脈瘤に本術式を応用することによって手術手技と手術操作が簡略化され手術成績の向上が得られた.
  • 諸 久永, 大関 一, 上野 光夫, 名村 理, 中沢 聡, 土田 昌一, 林 純一, 宮村 治男, 江口 昭治
    1992 年 21 巻 5 号 p. 447-451
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    人工肺を含む体外循環時の凝固・線溶・接触・補体・血球系の変動を生体血管内皮や肺循環の影響を除外したモック回路で検討した. 未使用の膜型人工肺と塩化ビニル製回路に, クエン酸加ボランティア新鮮全血200mlと乳酸リンゲル液200mlを無ヘパリンにて充填後, 37℃にて500ml/minで6時間灌流した. 凝固系, 線溶系, 接触系, 血小板系, 補休系, 白血球系を, 前, 30, 60, 120, 360分に測定した. 第XII因子, HMWKの消費, TAT, TPAの上昇, fibrinogen の減少が認められ, 凝固カスケードは進行していた. 同時に線溶系も発動し, FPB β15-42は増加するもPIC, Dダイマーは正常域であり, 二次線溶の亢進は認められなかった. 一方, PFIV, βTGの著増から血小板の関与した凝固機転を認めた. また, C3a, C4aは補体活性化の両 pathway の進行により, 賦活されていたが, C5a, 顆粒球の活性化は, まだ認められなかった. 以上, 本実験から, 血液と異物との接触によって非生理的活性化反応が生じ, さらに, 生体を介す前段階のプライミング時から, すでに存在することが示された.
  • 鈴木 保之, 榊原 謙, 厚美 直孝, 軸屋 智昭, 筒井 達夫, 岡村 健二, 三井 利夫, 堀 原一, 井島 宏
    1992 年 21 巻 5 号 p. 452-457
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    本院開院以来1990年11月までに20歳以上の成人心房中隔欠損症55例に対し手術を行った. 男性23例, 女性32例で, 手術は17例に直接縫合閉鎖, 38例にパッチ閉鎖術を行い, 付加手術は7例 (MVR: 1, MVP: 1, TAP: 3, 他: 2) に行った. 術前検査で50mmHg以上の肺動脈収縮期圧を指摘された症例は6例で, 年齢との相関は認めず, 肺体血流比と, 肺動脈圧との間にも相関関係を認めなかったが, 房室弁 (僧帽弁, 三尖弁) の異常は高齢者ほど多くなる傾向があった. 心エコー検査による検討では, 術前後のLVDd, LVDsは有意 (p<0.001, p<0.05)に増加し, ASD閉鎖後に左室が拡大することが示唆され, 三尖弁閉鎖不全はASD閉鎖後に改善する傾向を認めたが, 僧帽弁逆流の程度は, 一定の関係は認めなかった. ASD閉鎖後に僧帽弁逆流がどのように変化するのかを術前に推測することは難しく, 食道心エコーを用いて僧帽弁の外科治療の適応を術中に判断した症例を提示し, 問題点について考察する.
  • 松吉 哲二, 竹野 文洋, 岩隈 昭夫, 中村 克彦, 今田 達也, 鬼村 修太郎, 木村 道生, 浅尾 学
    1992 年 21 巻 5 号 p. 458-463
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    僧帽弁弁膜症に伴う二次性三尖弁閉鎖不全 (TR) に対する外科治療は, 術後残存TRが長期にわたり心機能の回復を妨げる症例もあり, 教室では積極的に取り組んでいる. TR発生に関与すると考えられる右室の病態を把握する目的で, 当科において1986年3月より1990年9月までの間に僧帽弁弁膜症開心術症例のなかから54例 (平均年齢52.0±10.5歳) を対象に, 開胸体外循環前にTru-Cut針を用い右室自由壁より心筋片を採取し, 心筋間質繊維化度 (% fibrosis)〔400倍率, point-counting 法〕と心筋細胞横径〔1,000倍率, micrometer〕を光顕にて調べた. 全体で% fibrosis は16.1±4.8%, 右室心筋細胞横径は19.3±3.5μmであった. 超音波Doppler 法による術前TR重症度と% fibrosis の間にはr=0.36で正の相関をみた. 三尖弁弁輪縫縮を行った39例中術後TR残存例は4例あったが, すべて% fibrosis 20%以上を示した. 右室心筋横断径は術前PA圧 (r=0.51) と相関を認めた.
  • 吸収糸の有用性と問題点
    平松 健司, 今井 康晴, 澤渡 和男, 竹内 敬昌, 杉山 喜崇, 磯松 幸尚
    1992 年 21 巻 5 号 p. 464-468
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    教室では縫合部の成長を期待する目的で, 1986年以降小児心臓血管手術の際吸収糸を使用してきた. 吸収糸の使用対象疾患は 1. 高圧系手術, 2. 亜全周性僧帽弁輪縫縮術, 3. 低圧系手術の3群で, 各群の遠隔成績について検討を加えた. 1群では大血管の吻合にPDS®を用いた Jatene 術6例を対象とした. 術前と術後6~56 (平均18.6) か月に施行した大動脈造影側面像より求めた新大動脈吻合部の成長曲線は正常であった. 2群では乳児僧帽弁逆流に対し Vicryl®・Dexon®を使用して亜全周性弁輪縫縮術を施行した7例(MR 4例, ECD 3例)を対象とした. 術後全例僧帽弁逆流は改善し, このうち術後4年半まで追跡しえた2例で僧帽弁輪径の成長は正常であった. 3群では共通肺静脈-左房吻合にPDS®を用いたTAPVD (Darling 分類I型およびIII型) 16例を対象とした. このうち2例で術後1.5か月目にPVOによる緊急解除術を経験し, 組織の過増殖のための吻合部狭窄が術中確認された. 以上より小児高圧系心血管手術における吸収糸の使用は推奨しうるが, 新生児低圧系の小口径心血管吻合では組織の過増殖により吻合部狭窄を招く危険性があり吸収糸は使用すべきでないと考えられた.
  • 島崎 朋司, 折田 博之, 中村 千春, 鷲尾 正彦
    1992 年 21 巻 5 号 p. 469-473
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    活動期感染性心内膜炎に対し, 右心系の弁切除非置換術を施行した3例の術後遠隔期を報告した. 肺動脈弁全切除を施行した1例と三尖弁部分切除を施行した1例では安定した状態にあったが, 三尖弁全切除を施行した1例では, 進行性の右心系の拡大を認めた. 三尖弁位の逆流による右心の容量負荷の増大によるものと思われた. 右心系の弁置換術の遠隔の遠隔成績に問題が残る現在, 三尖弁では可及的に遺残組織による弁形成術か, パッチによる弁再建術を行うことが望ましいと考えられた.
  • 中原 秀樹, 山田 崇之, 片山 康, 横山 基幹, 大島 永久, 田辺 貞雄, 入江 嘉仁, 村井 則之
    1992 年 21 巻 5 号 p. 474-478
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は49歳の女性で冠動脈硬化症の危険因子は高血圧症のみであった. 狭心症発症より3か月で心内膜下梗塞の疑いにて近医に緊急入院し, 不安定狭心症のため当院へ転院した. 冠動脈造影検査の結果左冠動脈入口部の90%の孤立性狭窄が認められた. 手術は心停止下に大動脈前壁を左冠動脈口に向って斜切開し左冠動脈主幹に約8mm切開を延長した. 大伏在静脈パッチを6-0 monofilament 糸の連続縫合にて冠動脈切開部と大動脈切開部に縫合し入口部拡大を行った. 術後経過は順調で狭心症は消失した. 術後造影では左冠動脈入口部はよく拡大されていた. 術後約1年の経過観察で狭心痛の再発を認めていない.
  • 脇田 昇, 志田 力, 顔 邦男, 寺本 忠久
    1992 年 21 巻 5 号 p. 479-483
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は42歳女性, 約2年前より左上腕部の膨隆に気づくが, 無症状のため放置していた. 最近, 腫瘤の増大と拍動に気づき, 血管造影にて左上腕動脈瘤と診断された. 手術所見では動脈瘤壁は全層認められ, 真性動脈瘤と診断, 動脈瘤切除, 大伏在静脈による血行再建術を施行した. 病理組織学的には, 中膜の弾性線維の走行の乱れ, 断裂, 内膜のコレステロールの沈着を認めた. 患者は約5年前よりバレーボールを始めており, 初期には上腕にボールを当て, 内出血を思わせる皮膚変化をきたしたことが数回あった. このような鈍的外傷が動脈壁の動脈硬化様変化を招き, 動脈瘤を生じたものと考えられた. 鈍的外傷による真性上腕動脈瘤の報告はほとんどなくその病理所見とともに報告する.
  • 三角 隆彦, 大蔵 幹彦, 南雲 正士, 志水 秀行
    1992 年 21 巻 5 号 p. 484-488
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    非穿通性胸部外傷による三尖弁閉鎖不全症に対して, 受傷18年後に手術を施行した症例を経験した. 症例は58歳男性で, 交通外傷後18年目に下肢浮腫と易疲労感を主訴に来院した. 胸部X線写真上心胸廓比は72%で, 心電図上心房細動と完全右脚ブロックを呈し, 心エコー検査にて三尖弁前尖と後尖の右房内反転とカラー・ドプラ上著明な三尖弁逆流を認め, 心臓カテーテル検査では右房圧v波が23mmHgと上昇を認めた. 手術所見は三尖弁前尖と後尖の一部まで広範囲に及ぶ腱索断裂で, Carpentier-Edwards 心膜弁33mmによる弁置換術を施行した. 本症例は外傷性三尖弁閉鎖不全症の本邦手術報告例19例目にあたり, これまでの報告例とあわせ文献的考察を加えた.
  • 林 載鳳, 浜中 喜晴, 末田 泰二郎, 松島 毅, 松浦 雄一郎
    1992 年 21 巻 5 号 p. 489-495
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    希な膝窩動脈外膜嚢腫の2例を経験した. 症例1は51歳の女性で, 主訴は歩行時の下肢倦怠感, 疼痛であった. 症例2は34歳の男性で, 主訴は膝屈曲時の下肢しびれ感であった. 両者とも血管造影では三日月状の狭窄がみられ, CTでは動脈周囲に cyst 様病変が描出された. MRIではT2強調画像で高輝度の腫瘤であった. 外膜嚢腫の診断にて嚢腫壁切除術を施行し, 良好な成績が得られた. 外膜嚢腫は希な疾患で, これまで本邦では43例しか報告されていないので, 報告例を集計して疾患の特徴を明らかにした. 臨床症状は間歇性跛行を呈することが多く, 閉塞性動脈硬化症 (ASO) と似ているが, ASOと異なりバイパス術を必要とすることは希で, ほとんどは嚢腫壁切除のみで治癒する. 若年者で間歇性跛行をみた場合には, 本症の存在を頭において血管造影, 超音波, CT, MRI等の検査を行ってASOとの鑑別を行う必要がある.
  • 鈴木 保之, 井島 宏, 厚美 直孝, 軸屋 智昭, 榊原 謙, 筒井 達夫, 三井 利夫, 堀 原一
    1992 年 21 巻 5 号 p. 496-500
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    高安動脈炎により左腎動脈に狭窄を生じた腎血管性高血圧患者に対し, 経皮的腎動脈形成術 (PTA) を3回にわたり施行したが, 左腎動脈は閉塞し, 左無機能腎となった. この患者に対し, 腹部大動脈左腎動脈バイパス術を行い, 血圧は低下し左腎機能も改善した. 術後5か月目に, 腎門部より末梢の病変による高血圧の再発を認めたが, 術前示した症状 (頭痛) はなく, 降圧薬の投与量は, 術前に比較し少ない量であり, 左腎機能は術直後と比較して低下していなかった. 動脈の狭窄病変に対するPTAは繰り返し行える利点があり, 動脈硬化性の病変ではその成績も良好であるが, 高安動脈炎による狭窄には再狭窄を起こす確立が高く, 再狭窄により完全閉塞を起こす前に人工血管によるバイパス手術が良いと考えられた.
  • 平松 祐司, 厚美 直孝, 島田 知則, 三井 利夫, 堀 原一, 茅野 公明
    1992 年 21 巻 5 号 p. 501-505
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は6歳, 男児, Down 症候群. 心房中隔欠損症と高度の漏斗胸を合併していた. この症例に対して胸部正中皮膚切開によるアプローチで心房中隔欠損閉鎖術と胸肋挙上術を一期的に行い, 良好な結果を得た. 心疾患と漏斗胸の一期的手術は二期的手術に比べ, 1) 漏斗胸残存による心肺への悪影響が除かれる, 2) 一度の侵襲で済み, 二期的手術のように癒着の影響がない, 3) 精神的負担を残さない, 4) 通常の胸骨切開よりも良好な心内修復のための視野が得られる, という利点がある. 一方, 侵襲の拡大, 出血量の増加, 血流の途絶した胸肋複合体への感染など不利な要素も見逃せないが, 近年の術中術後管理の進歩により, これらの欠点は克服されつつある. 心疾患と漏斗胸の一期的手術は, 出血と感染に対する十分な配慮があれば, 比較的安全に行いうる有効な方法であると考えられた.
  • 前田 正信, 村瀬 允也, 村上 文彦, 寺西 克仁
    1992 年 21 巻 5 号 p. 506-509
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    総肺静脈還流異常症 (TAPVC) のなかでIa型は最も頻度が多く, 比較的新生児期の肺静脈閉塞症状が少ないといわれている. 通常肺静脈の走行がIa型では垂直静脈が左肺動脈の前方を通って上行し無名静脈に還流するのが一般的とされているが, 今回左肺動脈と左気管支との間に垂直静脈が挟まれて, 新生児期に強い肺静脈閉塞症状をきたした症例を2例経験した. 症例は生後12日 (症例1) と8日 (症例2) で, いずれも心断層エコーにて診断し, 緊急手術を行って救命しえたが, 術前肺うっ血がより強かった症例1は症例2に比し, 術後の肺機能の改善の遅れと軽度の肺高血圧の残存が認められた. 本症は左気管支と左肺動脈の間に垂直静脈が挟まれることによって肺静脈閉塞が起こり, これが肺高血圧に拍車をかけ肺静脈狭窄を強くさせるという悪循環を形成することになる. このようなTAPVCに対しては術後回復の点からも肺うっ血の進行する前のより早期の手術が重要であると考えられる.
  • 大関 一, 中沢 聡, 斎藤 憲, 諸 久永, 岡崎 裕史, 林 純一, 宮村 治男, 江口 昭治
    1992 年 21 巻 5 号 p. 510-514
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    不整脈原性右室異形成 (ARVD) による難治性心室頻拍発作を有する47歳の男性に対し, 体外循環心停止下に, 右室の病巣心筋切除と冷凍凝固術を行ったところ, 術後重症の右心不全をきたした. 薬物療法, IABPによる機械補助を行ったが右心不全が進行性であったのでヘパリンコーティングチューブとローラーポンプによる右心バイパスを行った. 右心バイパスにより全身循環は劇的に改善し, 肝, 腎, 呼吸機能などは良好に維持された. 最終的には, 右心機能の回復が不十分で, 右心バイパス離脱の試みの後全身状態が悪化し第21病日に多臓器不全で死亡した. しかし5日目ごとに回路の交換を行うことで少なくとも2週間は全身臓器循環を良好に維持しえた. したがって, この補助循環システムは短期間の右心補助に有効な方法と考えられる.
  • 斉藤 憲, 江口 昭治, 林 純一, 山本 和男, 諸 久永, 大関 一
    1992 年 21 巻 5 号 p. 515-518
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    3例の胸部下行大動脈手術に対しわれわれが開発した全回路抗血栓性のヘパリンコーティングチューブをローラポンプで駆動し補助手段として用いた. 方法は動脈間バイパスとし, ヘパリンは少量のみの使用かもしくは投与しなかった. 大動脈の遮断時間は52~64分であった. 右腋窩動脈を脱血部とした1例では補助流量が十分ではなかったが大動脈を脱血部位とした他の2例では流量, 下肢動脈圧とも満足すべき結果が得られた. バイパス後の回路内には血栓形成はなく血栓塞栓症の所見も認められなかった. 本法は抗血栓性および腎機能保護上の点から胸部下行大動脈手術の際の有用な補助手段と考えられた.
  • 平田 展章, 酒井 敬, 榊 成彦, 伊藤 浩, 中埜 粛, 松田 暉
    1992 年 21 巻 5 号 p. 519-523
    発行日: 1992/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    心筋梗塞で発症し, 多発性脳梗塞を合併したきわめて希な両心房粘液腫の一例を経験したので報告する. 症例は26歳の男性. 胸痛を主訴として来院した. 心筋梗塞を疑い, 冠動脈造影を施行し, 右冠動脈後下行枝に完全閉塞を認めた. 経過観察中, 多発性脳梗塞を発症し脳血管造影施行. 多発性脳動脈瘤を認めた. 心筋梗塞の経過観察にて施行した心エコー検査にて, 左房内に梗塞発症時には指摘しえなかった径約3cmの腫瘍を認め, 急速発育型の粘液腫を疑った.これが多発性塞栓症の原因であると考え, 開心術による腫瘍摘出術を施行した. 麻酔挿管下に経食道心エコー法を施行したところ, 左房内には後壁に付着する腫瘤をまた右房内にも腫瘤を認めた. このため左房切開のみでなく右房切開も施行した. 左房内腫瘍は左房後壁に付着しており (径5×4×3cm), 右房内腫瘍は心房中隔に付着していた (径1×1×1cm). ともに粘液腫の診断を得た. 術後の経過は良好であるが, 当科および近医脳神経科にて厳重に経過観察中である.
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