日本心臓血管外科学会雑誌
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25 巻, 2 号
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  • 柴田 芳樹, 阿部 忠昭, 栗林 良正, 関根 智之, 関 啓二
    1996 年 25 巻 2 号 p. 75-79
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    開心術周期に赤血球不規則抗体の検出された15症例での問題点とその対策を検討した. 大部分は単独抗体で術前に検出できれば適合血が供給され, 著明な溶血性副作用は示さないが, 複合抗体では適合血の供給が不可能な場合があり事前に抗体の存在を認識しておくことが重要である. また, われわれは抗 Lewis a 抗体による急性溶血反応と思われた一例を経験した. この症例は1年後に置換弁機能不全にて緊急に再弁置換を施行したがこの際抗 Lewis a 抗体は検出不可能であったにもかかわらず, 交差適合試験陰性の同種血輸血にて初回手術時同様の急性溶血反応を認めた. これは経過とともに抗体価が低下し, 抗体が検出されなくなることを示している. この結果, われわれは開心術症例では将来的に緊急に輸血の必要となる場合があるため, 術後に不規則抗体スクリーニングを施行し, 抗体の存在の有無および種類を同定しておくことが重要であると思われた.
  • IABP, PCPS同時使用の経験
    田中 久史, 柳谷 晶仁, 数井 暉久
    1996 年 25 巻 2 号 p. 80-85
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    近年, 経皮的カニューレ, 遠心ポンプ, 人工肺を含めた全回路ヘパリンコーティングの経皮的心肺補助装置 (PCPS) が, 急性重症心不全例の循環補助として急速に普及してきている. 今回, 筆者らは, 5例の急性重症心不全例に対し, 大動脈内バルーンパンピング (IABP) と全回路ヘパリンコーティングしたPCPSを併用した. いずれも大量のカテコラミン, IABPでも循環維持不能の症例であった. PCPS開始後は, 平均補助流量が約2.3l/min, 中等量のカテコラミンで血行動態は安定し, 良好な循環補助効果が得られた. PCPS施行中, 賦活化凝固時間は低値で維持したが, 血栓形成, 出血などの合併症は認められなかった. 4例が離脱し, 2例は社会復帰している. PCPSの適応, 適用時期, 至適流量などについては未だ議論のあるところであり, その施行に関しては慎重を要するが, 薬物療法やIABPの限界を越えた重症心不全に対し, IABPとの併用は有効な治療手段であると考えられた.
  • 野島 武久, 麻柄 達夫, 桂 敦史, 西川 忠男, 渡田 正二, 尾上 雅彦, 杉田 隆彰, 勝山 和彦, 森 渥視, 安田 隆三郎
    1996 年 25 巻 2 号 p. 86-89
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1983年より1994年9月までに当科において経験した待期的腹部大動脈瘤症例75例を対象とし, 自己血回収輸血装置の導入前後において術中無輸血で手術が可能であった症例を検討した. 装置の導入は1991年6月で, 導入前をNCS群 (n=25), 導入後をCS群 (n=50) とすると, 各群間に年齢, 手術時間, 瘤径, 出血量には差がなかったが, 無輸血手術率はNSC群で28.0%, CS群で86.0%と有意差をもって上昇した. 同種血輸血量は平均でNCS群で680±605ml, CS群で98±252mlと著明に減少し, 同種血輸血量の削減が可能であった. 術翌日の血小板数, 血清総蛋白, アルブミン, T-Bil, BUN, LDHの各値には装置使用の差は認められなかった. 装置使用にもかかわらず輸血に至った症例は50例中7例で, 400から1,000ml (平均685ml) の同種血輸血を必要とした. 今回の検討から自己血回収輸血装置の有用性が再確認されるとともに, 今後更なる無輸血率の向上には400から800ml程度の術前自己血貯血が必要と考えられた.
  • 山内 正信, 中山 健吾, 具 光成, 斉藤 雄平, 野坂 誠士
    1996 年 25 巻 2 号 p. 90-94
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    当科で経験した臓器虚血を伴う解離性大動脈瘤手術症例6例について検討した. 年齢は52~73歳, 平均62歳で, DeBakey I型4例, DeBakey III b型2例 (男女各3例) であった. 虚血臓器は, 脳+上肢1例, 腸管+腎1例, 腎のみ1例, 腎+下肢1例, 下肢2例であった. 手術は, DeBakey I型の4例には上行または上行・弓部大動脈置換術を (うち1例でY-グラフト置換術を追加), DeBakey III b型の2例にはバイパス術とY-グラフト置換術を行った. 下肢虚血の3例のうち2例でMNMS (myonephropathic metabolic syndrome) を生じた. 結果は6例中3例が死亡と不良であった. 臓器虚血を伴う解離性大動脈瘤に対しては, 術前の正確な診断 (分枝の起始状況の把握) と適切な治療方針が重要と思われた.
  • 檜原 淳, 古山 正人, 竹尾 貞徳, 池尻 公二
    1996 年 25 巻 2 号 p. 95-98
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    当科において過去6年6か月間に経験した腹部大動脈瘤症例のうち, 経過観察期間を有する33症例について動脈瘤最大径の経時的変化を調査し, 延べ69回の経過観察期間ごとに動脈瘤径拡大速度を算出した. その結果, 瘤径5cmを境にして瘤径拡大速度は平均0.41cm/年から1.38cm/年へと約3倍に増加していた. 嚢状型動脈瘤は紡錘型動脈瘤に比べて小さい瘤径でも拡大傾向が強く, 瘤径4cmを境にして拡大速度が4倍以上に増加していた. 高血圧合併例は非合併例より拡大速度が遅く, 年齢による瘤径拡大速度の差は認められなかった. 緊急手術が必要とされる破裂性腹部大動脈瘤症例はいまだに手術死亡率が高く, 治療成績を向上させるためには破裂前に手術を施行することが必要である. したがって厳重な経過観察の上で, 瘤破裂の危険性が急速に増大する前, すなわち紡錘型では瘤径5cm以上, 嚢状型では4cm以上を手術適応とし, これに症例ごとのリスクを考慮に入れて手術時期を決定するのが望ましいと思われる.
  • 保坂 茂, 神谷 喜八郎, 鈴木 章司, 鈴木 修, 吉井 新平, 橋本 良一, 多田 祐輔
    1996 年 25 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    大動脈解離術後偽腔血流残存19例で, 術後CTの経時的変化, 術後大動脈造影所見および遠隔予後の関連について検討した. Stanford A型では大動脈径拡大は平均5.1mm/年 (平均観察期間3年5か月) で, 上行4.8mm/年, 弓部5.4mm/年, 下行中枢4.3mm/年, 下行末梢2.7mm/年, 腹部2.4mm/年と中枢側大動脈の拡大が大きく, 全例に major communication を認めた. 大動脈中枢に major communication を伴わないB型 (平均観察期間3年8か月) では, 偽腔は血栓閉鎖傾向にあり大動脈拡大は認めなかった. 遠隔期解離関連事故は, 開窓術や double barrel 吻合を施行した4例および大動脈縫合部に major leakage を認めた2例の計6例 (32%) に, 破裂による突然死 (4例) および解離進展による腸管壊死 (1例) や脳梗塞 (1例) を認めた. 大動脈解離術後偽腔血流残存例においては, CTでの偽腔瘤化の厳重な経過観察と瘤破裂予防の積極的な再手術が重要と考える.
  • 原田 幹彦, 森景 則保, 大楽 耕治, 豊田 秀二, 藤田 雄司, 吉村 耕一, 久我 貴之, 藤岡 顕太郎, 善甫 宣哉, 江里 健輔
    1996 年 25 巻 2 号 p. 105-108
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    過去15年間に施行した74例の胸部・胸腹部大動脈瘤術後患者の quality of life (QOL) を検討した. QOLは手術前および遠隔期の performance status (PS) の grade を評定し, 術後, 術前に比べPSの grade が一つ下がった症例をPS軽度悪化例, grade が二つ以上下がった症例をPS重度悪化例とした. PS不変例でQOLが維持できたと判断し, (PS不変例数/手術症例数-死亡例数)×100をQOL維持率とした. これによると, 術後遠隔期にQOLを低下させる主なものは脳梗塞, 術後創痛, 呼吸障害, 反回神経麻痺などであった. B型解離性動脈瘤のQOLは85.7%と比較的良好であった. 上行・弓部大動脈瘤およびA型解離性動脈瘤手術症例にはPS重度悪化例があり, QOL維持率50%と低かった. QOL維持率改善には手術成績向上および術後神経麻痺などの機能障害を残さない術式の考慮が必要である.
  • 山本 理江, 杉田 隆彰, 渡田 正二, 尾上 雅彦, 勝山 和彦, 中嶋 康彦, 田畑 良宏, 松野 修一, 森 渥視
    1996 年 25 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    われわれはEPTFE人工血管を用いた右腋窩-大腿動脈バイパス術後, 右肋骨弓の尾側で非吻合部の人工血管断裂をきたした症例を経験した. この発生原因の一つとして, 体幹運動による人工血管への物理的負荷を考慮し, 健常者において実験を行った. 直立基本肢位にて, 右鎖骨中央より右ソケイ靱帯中央までの距離を測定し, この距離を3等分するようにマーカーを描いたものを基本位モデルとした. 次に, 各部位の距離が最長となる体位をそれぞれの部位での伸展位モデル, 最短となる体位を同様に屈曲位モデルとし, 各モデル間での各部位の距離の変化率 (%) を算出し検討した. 伸展位では中部で有意に伸展しており, 屈曲位では下部が有意に短縮していた. 腋窩-大腿動脈術後のグラフトでは, 体幹運動により, 中部および下部にて伸展, 屈曲の物理的負荷がかかるものと考えられ, この負荷により遠隔期に人工血管の断裂をきたす可能性が疑われた.
  • 根本 慎太郎, 原田 昌範, 押富 隆, 遠藤 真弘, 小柳 仁
    1996 年 25 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    虚血心筋に対する血行再建術において, その治療対象心筋の viability および重症度の評価は治療方針決定上重要な問題である. 今回われわれは, 新しく開発された心筋脂肪酸代謝イメージング剤である123I-BMIPP (betamethyl iodophenyl pentadecanoic acid) を用いた心筋SPECTを冠動脈バイパス術の前後で施行し (201Tl心筋SPECT, 左心室造影も同時に施行), この問題を検討した. 8例, 33の被血行再建領域において, 123I-BMIPPと201Tl SPECTでの集積の手術前後における変化と組み合わせ, そして左心室造影上の壁運動の対応を検討した. それらの variation から viability と重症度の評価は可能であり, 治療の効果の判定と責任冠動脈とキーバイパスグラフトの決定が可能であった. その詳細を若干の文献的考察を加え報告する.
  • 金岡 祐司, 種本 和雄, 杭ノ瀬 昌彦
    1996 年 25 巻 2 号 p. 120-125
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    1982年3月より1993年1月の10年11か月の間に閉塞性動脈硬化症 (以下ASO) に対し当院で施行した腋窩-大腿動脈バイパス術は15例であった. 年齢は48歳から87歳, 平均71.2歳で全例男性であった. 術前, 全例が併存疾患を有していた. 3例が緊急手術であった. 待機手術12例のうち併存疾患のため2例の病院死がみられたが残る10例は軽快退院した. 退院例10例のうち併存疾患による遠隔期死亡4例, 不明の1例を除く生存例5例の観察期間は20~78か月, 平均47.6か月でグラフト開存率は100%であり, 全例日常生活を送っている. また, 稀な合併症としてグラフト周囲の seroma を経験した. 難治性の場合, グラフトの種類を換えることが有効であった. 腋窩-大腿動脈バイパス術は合併症を有する全身状態不良のASO患者に対し有用な術式である. 重症呼吸不全例などに対しては硬膜外麻酔と局所麻酔の併用で手術を行うことによりさらに侵襲を少なくすることが可能である.
  • 斎藤 雄平, 具 光成, 山内 正信, 野坂 誠士, 中山 健吾
    1996 年 25 巻 2 号 p. 126-130
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    早期血栓閉塞型 Stanford A型大動脈解離と診断し, 保存的治療を開始したが, その経過中に手術を要した3症例を経験した. 症例1は64歳の女性で, 持続する背部痛, CTにて上行大動脈径の拡大を認めたため, 発症より3日目に緊急に上行大動脈置換術を施行した. 症例2は54歳女性で, 発症より2日目に突然ショックとなり蘇生にて回復した. 緊急CT, DSAにて解離腔の再開通と診断し, 翌日, 弓部大動脈全置換術を施行した. 症例3は52歳女性で, 発症より30日目に心タンポナーデをきたし, DSAにて ulcer like projection を認めたため, 4日後に上行大動脈の entry を切除した後, 大動脈を直接吻合した. 閉塞型解離の経過中に, 外科的治療を要することがあり, とくに Stanford A型では合併症が重篤なので, 厳重な観察が必要である.
  • 川平 洋一, 岸本 英文, 飯尾 雅彦, 井川 誠一郎, 上田 秀樹, 前野 敏也, 萱谷 太, 稲村 昇, 中田 健
    1996 年 25 巻 2 号 p. 131-134
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は修正大血管転位, 心室中隔欠損, 肺動脈閉鎖の2例で, non-confluent となった肺動脈に対して共に5歳時に左肺動脈再建を施行した. おのおの13mmと12mmの異種心膜ロールを葉間を開けて左肺動脈に吻合し, 肺門直上を通して心膜に接して固定し左鎖骨下動脈または上行大動脈からおのおの径5mmと6mmの人工血管で肺血流を確保した. 術後おのおの10か月目, 2年目に根治術を施行した. {SLL}例では再建した心膜ロールを左横隔神経の後方を通して中心肺動脈を再建した後, 3弁付き異種心膜ロールを用いて左室から肺血流路を作成した. {IDD}例では左上大静脈の前方に心膜ロールを通し大動脈の後方で右肺動脈と吻合し中心肺動脈を再建した. VSDは経右房的に左室側からパッチ閉鎖した. 術後LV/RV比はおのおの0.4, 0.35に低下し, 術後経過は良好である.
  • 目黒 昌, 相田 弘秋
    1996 年 25 巻 2 号 p. 135-138
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    58歳, 男性. 腰部から両下肢の冷感と疼痛が突然出現し増悪したため救急車にて当院に搬送された. 理学的所見, 腹部CT, 動脈造影により終末腹部大動脈瘤に合併した急性大動脈閉塞と診断し, 人工血管による緊急血行再建を施行した. 術後はMNMSによる腎不全, ischemic neuropathy などさまざまな合併症を認めたが集学的治療により救命し, 自力歩行可能な状態で退院となった.
  • 佐々木 昭彦, 数井 暉久, 道井 洋吏, 杉木 健司, 大野 猛三
    1996 年 25 巻 2 号 p. 139-142
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は61歳, 男性. 1987年12月9日に大動脈弁閉鎖不全 (AR) の診断で31mmSJM弁にて大動脈弁置換術 (AVR) 施行した. その時すでに上行大動脈起始部は4cmと拡大していたが放置した. 術後5年目脳梗塞発症時に最大径7.5cmの大動脈基部拡大を指摘された. 人工弁機能は正常であることと左右冠動脈が均衡型であるため1992年7月16日人工弁を温存した Cabrol 型手術を施行した. 術後の造影でも両側の冠動脈口は良好に開存し術後2年5か月の現在元気に外来通院中である. ARに上行大動脈が4cmを越えるとAVRのみではなく大動脈基部置換術も必要と考える.
  • 秋山 一也, 廣田 潤, 椎名 祥隆, 大加戸 彰彦
    1996 年 25 巻 2 号 p. 143-146
    発行日: 1996/03/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    51歳女性の慢性腎不全 (CRF) 患者で血液透析 (HD) 導入後12年後に二次性副甲状腺機能亢進症 (HPT) により発生した全周性の Mitral annular calcification (MAC) による高度僧帽弁逆流 (MR) に対し僧帽弁置換術 (MVR) を行った. MACでは石灰化は弁輪部からはじまり左室側に広がり, 弁輪周囲の左房壁に発生することはまれである. スカート状ひだを用いず石灰化弁輪周囲の左房壁にかけた水平マットレス縫合糸を直接SJM弁の縫合輪にかけて Supra-annular position (SAP) でMVRが可能で弁周囲逆流は発生しなかった.
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