日本心臓血管外科学会雑誌
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35 巻, 1 号
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  • 佐藤 浩一, 曽川 正和, 名村 理, 菊地 千鶴男, 礒田 学, 渡辺 純蔵, 岡本 竹司, 三島 健人, 林 純一
    2006 年 35 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    弁膜症手術においては,系統的な術中希釈式自己血輸血(以下,D法)の報告はこれまでになく,近年は手術症例の病態の重篤化などに伴い術前貯血も必ずしも施行できない.そこで,その評価を本研究で試みた.1998~2004年の術前自己血貯血未施行の成人弁膜症手術症例中,大動脈置換術などを伴う症例を除外し,D法を施行した25例を対象とした.同種血無輸血群は18例,同種血輸血群は7例であった.体外循環離脱後に各群2例に回収式自己血輸血を施行した.両群において,男女比,術式,体重,体外循環による希釈率,体外循環時間およびヘマトクリットの推移などに差を認めなかった.しかし,D法に伴う体重当たりの術中貯血量は同種血輸血群が有意に少なかった(11.3±2.5 vs 7.3±1.8ml/kg,p<0.001).D法による同種血輸血回避は,弁膜症手術では,体重,術前Htの高低,体外循環による希釈の程度そして体外循環時間の長短による影響にかかわらず,十分な術中貯血によりほぼ達成されることが示唆された.
  • 高味 良行, 増本 弘
    2006 年 35 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    簡便で信頼度・再現性が高いトランジットタイム法によるCABG術中グラフト血流分析において,心電図信号を同期入力することにより血流量の収縮期成分(Qs)と拡張期成分(Qd)を同定し,拡張期フィリング指数(DFI=100∫Qd/[∫|Qs|+∫|Qd|])が得られる.術中にMedi-Stim社製トランジットタイム血流量計で平均血流量(Qm)(ml/min)・拍動指数(PI)・機能不全率(INSUF)(%)・DFI(%)・F0/H1(血流曲線を高速フーリエ変換した基本周波数(F0)とその2倍周波数(H1)のパワー比)を求め,術後グラフト造影所見との関連を追究した.術後造影できたグラフト125本について,開存グラフト(120本)と非開存グラフト(5本)の間で,Qm・PI・INSUF・DFI・F0/H1すべての指標において有意差を認めた.DFI>50%は,他の指標のQm>15ml/min・PI<5・INSUF<15%・F0/H1>1.0とともにグラフト開存と術中に判断する有用な指標と考えられた.
  • 長 泰則, 鈴木 暁, 芳賀 佳之, 橋詰 賢一
    2006 年 35 巻 1 号 p. 10-13
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    縦隔内循環器官への浸潤,転移により循環障害をきたした心臓関連悪性疾患に対し,根治的あるいは循環動態改善のための姑息的外科治療が妥当かどうか検討した.2001年1月から2004年2月まで当科で手術を施行した症例は6例(男性4,女性2),年齢は17~72歳であった.疾患ならびに施行手術は,左房粘液肉腫に対し腫瘍摘出術,浸潤型胸腺腫による収縮性心膜炎に対し心膜剥離術,腎細胞癌に対し右房腫瘍塞栓摘出を伴う外科的根治術,癌性心膜炎による心タンポナーデではそれぞれ悪性リンパ腫に対し腫瘍切除,心膜開窓術,肺癌に対し心膜開窓術,腎細胞癌腎摘後遠隔期右室内再発に対し腫瘍切除,右室流出路再建術を施行した.術後観察期間は4日から30ヵ月であった.手術関連死亡は6例中1例(浸潤型胸腺腫)で,術後4日目に心不全で失った.耐術例は5例でいずれも手術後に明らかなQOLの改善が認められた.悪性リンパ腫の1例は術後化学療法中に敗血症により死亡したが,ほか4例は退院可能となり社会復帰した.3例が経過観察中に悪性疾患関連死亡となった(左房粘液肉腫:20ヵ月再々発,腎細胞癌:13ヵ月肺,肝転移,肺癌:8ヵ月癌性悪液質).循環障害をきたすような心臓関連悪性疾患症例の生命予後は不良であるが,これらに対する外科治療は患者のQOLの改善さらには延命効果が得られる点から妥当であり,同時に確定診断を確実に行い悪性疾患に対する集学的治療を行う意味で有用であると考えられた.
  • 凍結処理が細胞増殖能に与える影響
    横室 浩樹, 塩野 則次, 小澤 司, 藤井 毅郎, 川崎 宗泰, 渡邉 善則, 吉原 克則, 小山 信彌, 岡田 光正
    2006 年 35 巻 1 号 p. 14-20
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    再生医療における移植細胞の凍結保存とその細胞に与える影響に関して検討を加えた.コントロール群(n=13):ヒト右心房筋から心筋細胞を分離15日間の培養後,細胞数をカウントし増殖率を測定した.Cell-C.P.(cryopreservation)群(n=23)・Tissue-C.P.群(n=29)=fresh,passage 1,2のヒト心筋細胞または細片化した心房筋を,-1℃/分で-80℃まで凍結し液体窒素内で1週間の保存後,解凍し増殖率を測定した.コントロール群,凍結保存群間で,細胞増殖率および2日間増殖率を比較検討した.生化学的検査・細胞周期:凍結前後に生化学的検査およびgrowth factorと細胞周期を測定した.凍結保存群はコントロール群に比較し増殖率が有意に高率となった(1.7,2.1,3.1倍,p<0.0001).2日間増殖率は凍結保存群が有意に高い増殖率を示した(p<0.05).bFGF,TGF-β1は凍結後,おのおの平均で約59.3,2.49倍に上昇した(p<0.05).細胞周期は凍結保存後,G1/G0期の細胞が低下し,G2+M期の細胞が増加していた.ヒト心筋細胞は分離培養および凍結保存が可能であった.凍結保存は,bFIGF,TGF-β1の分泌促進,細胞周期をG2+M期へ移行することにより細胞の増殖能を促進させた.
  • 季白 雅文, 林 載鳳, 小林 弘典
    2006 年 35 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例1:III b型の偽腔閉塞型解離で入院した.7日目に偽腔閉塞型のままでI型に進展し心タンポナーデとなり手術施行した.症例2:I型の偽腔閉塞型解離で入院した.同日ショックとなり手術施行した.いずれの症例も偽腔閉塞型であり,術前にentry部位の診断はつかなかった.胸骨正中アプローチでは確実なentry閉鎖に不安が残ったため,左前側方開胸・胸骨下部部分切開法(ALPS: antero-lateral thoracotomy with partial sternotomy)アプローチにて手術を行い良好な結果を得た.本法の利点として次の3点が考えられる.1)上行・弓部・下行大動脈のすべてに到達可能な良好な視野を得られるためentryがどこに存在しても確実な閉鎖が可能になること.2)良好な視野のために縫合が簡単となり出血量を軽減できること.3)上方の胸骨は切開されていない点と,計画的な切開法であるためにヘパリン投与前に肺を愛護的に取り扱える点から肺への影響を軽減できること.以上,ショックを伴うStanford A型の偽腔閉塞型大動脈解離で,術前にentry部位が明らかでない症例に対して,上行~弓部~下行大動脈のすべてに到達可能なALPS法を用いて手術を行い,良好な成績が得られた.
  • 菊地 慶太, 幕内 晴朗, 村上 浩, 小林 俊也, 近田 正英, 鈴木 敬麿, 安藤 敬, 千葉 清
    2006 年 35 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は喀血で発症した48歳の男性.胸部CT検査で,両側心房および心房中隔に発生した心臓悪性腫瘍とその肺転移と診断した.左房内腫瘍がきわめて大きく,心腔内閉塞による突然死の予防と病理診断を目的に手術を行った.腫瘍は右房から心房中隔を経て左房内を占有していた.肺静脈を含めた左房の一部を残し,残りの左房壁とほぼすべての心房中隔,右房壁を切除後,ウマ心膜で両側心房と心房中隔,上下大静脈を再建した.病理検査の結果は血管肉腫であった.術後第22病日に軽快退院し,その後,血液腫瘍内科に入院しInterleukin-2(IL-2)投与を行ったが,術後第107病日に死亡した.近年,血管肉腫に対する放射線療法やIL-2による治療の有用性が報告されている.自験例のように原発巣の完全切除が可能な症例は,可及的早期に原発巣を切除して病理診断を行い,術後に放射線療法やIL-2投与などを行うことで,治療の可能性が広がる.
  • 田中 亜紀子, 向原 伸彦, 南 裕也, 吉田 正人, 大保 秀文, 志田 力
    2006 年 35 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.60歳時に特発性血小板減少症(ITP)と診断され,副腎皮質ステロイドを投与されていた.経過中に最大短径53mmの腹部大動脈瘤を指摘され手術目的で入院した.術前心筋シンチで虚血所見を認めたため冠動脈造影を行ったところ,冠動脈バイパス術の適応となる3枝病変を認めた.入院時血小板数が2.1万/μlであったので,術前5日間γ-グロブリン投与と術中血小板輸血を併用し心拍動下4枝冠動脈バイパス術を行った.出血合併症なく,術後14日目に退院した.2回目入院時の血小板数は4.6万/μlと減少を認めたため,同様にγ-グロブリン療法を施行した.腹部大動脈瘤人工血管置換術を行い,合併症なく術後11日目に退院した.本症例はITPを合併する患者に対し,心大血管手術の二期的手術を行った初の報告である.
  • 尾畑 昇悟, 小宮 達彦, 田村 暢成, 坂口 元一, 増山 慎二, 木村 知恵里, 小林 平, 中村 裕昌
    2006 年 35 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    経皮的ステントグラフト留置2年後に発症したステントグラフト感染に対してリファンピシン含浸人工血管を使用し良好な結果を得たので報告する.症例は82歳の男性で,他院で下行大動脈瘤に対する経皮的ステントグラフト内挿術を施行された.2年後に発熱と炎症反応の上昇を認め,CTにて瘤のendoleakを指摘され,また,ガリウムシンチにて瘤に一致した集積を認め,ステントグラフトと残存下行大動脈瘤の感染と診断された.手術は第6肋間を開胸し左心バイパス下に感染したステントグラフトの抜去およびリファンピシン含浸人工血管を用いて人工血管置換術,大網充填術を施行した.術後は一過性の尿路感染を合併したが置換した人工血管に感染の再発を認めず術後45日目に退院,約1年後の現在も再感染の徴候は認めていない.ステントグラフト内挿術の適応は,遠隔期成績・合併症など多くが明らかでない現状では,低侵襲であるという理由での安易な使用を避け,慎重に判断する必要があると考えられた.
  • 杉山 佳代, 保坂 茂, 賀嶋 俊隆, 乗松 東吾, 尾澤 直美, 秋田 作夢, 尾本 正, 久米 誠人, 木村 壮介
    2006 年 35 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群を合併した不安定狭心症に対して冠動脈バイパス術(CABG)を施行した1例を経験した.症例は54歳,男性.以前より動悸を自覚していたが,胸痛発作を頻回に生じるようになった.冠動脈造影検査で左冠動脈主幹部に90%狭窄,鈍縁枝に75%狭窄を認めたため,3枝CABGを緊急的に施行した.人工心肺離脱直後に発作性上室性頻拍(AVRT)となり,電気的除細動を行い,術後第1病日にカテーテル焼灼術を施行した.WPW症候群はPSVTをはじめとする不整脈を生じやすく,時に心房細動発作から心室細動へ移行し,致命的となるため,WPW症候群に対する治療方法や時期およびCABGの手術時期など治療戦略に関しては慎重に検討する必要がある.
  • 宮城 直人, 大島 永久, 白井 俊純, 砂盛 誠
    2006 年 35 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性.2003年7月,大動脈弁狭窄症(左室-大動脈圧較差:70mmHg),上行大動脈瘤(最大径50mm),心房細動,閉塞性動脈硬化症と診断された.9月18日大動脈弁置換,上行大動脈形成,PV isolationを予定したが,人工心肺開始後にA型大動脈解離を生じた.ただちに超低体温循環停止とし,送血管挿入部を含む上行大動脈人工血管置換,大動脈弁置換(CEP 19mm),PV isolationを行った.大動脈弁は二尖弁で,術中ビデオで確認すると心筋保護カニュラ挿入部位からの解離であった.術後CTでは偽腔は血栓閉塞しており,第28病日に軽快退院した.大動脈弁二尖弁は上行大動脈瘤や解離を合併することが多く,手術手技について細心の注意が必要である.また,術中大動脈解離はきわめて希な合併症であるが,発生した場合迅速な処置が必要である.
  • 尾頭 厚, 村田 升, 山本 登
    2006 年 35 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性.2005年5月胸部不快感が出現し近医受診した.翌日急激な呼吸苦の増強のため救急受診となった.急速な急性心不全症状の悪化を認めた.諸検査より第1対角枝領域の急性心筋梗塞後前外側乳頭筋断裂と診断し,緊急手術(僧帽弁置換術+冠動脈バイパス術1枝)を施行した.術後IABP,PCPSの循環呼吸補助を必要とし管理に難渋したが救命しえた.僧帽弁乳頭筋断裂は急性心筋梗塞の重篤な合併症であり急激な血行動態の悪化をきたし,外科的治療が必須の救命手段となる.今回われわれは第1対角枝領域の急性心筋梗塞に続発した前外側乳頭筋断裂症例を経験した.急性心筋梗塞の重篤な合併症として念頭におき,迅速かつ積極的な診断,治療が重要であると思われた.
  • 鈴木 仁之, 田中 啓三, 金光 真治, 徳井 俊也, 木下 肇彦
    2006 年 35 巻 1 号 p. 49-52
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.不明熱に対して他院で抗生剤投与を受けていたが,鬱血性心不全に伴う呼吸困難が出現したため,当院紹介入院となる.血液培養ではStreptococcus gordoniiが検出され,心エコー検査では感染性心内膜炎(IE)による大動脈弁閉鎖不全症と診断された.内科的治療では心不全のコントロールが不可能であったために緊急手術を施行した.大動脈弁は二尖弁で弁尖には高度の石灰化と疣贅を認めたが,弁輪部には感染所見は認めなかった.疣贅から離れた左房上壁の心筋内に膿瘍を形成していた.手術は,上左房切開を加えて心筋内膿瘍を可及的に切開・排膿したのちに大動脈弁置換術を施行した.本症例では弁輪部とは離れた部位に膿瘍が認められたことから,血行性に感染が波及したものと考えられた.
  • 島本 健, 武内 俊史, 御厨 彰義, 小田 基之
    2006 年 35 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    心病変のある悪性リンパ腫は,一般的に病変部位が特殊であることや診断が遅れやすいこともあり予後不良である.今回急性腹症を契機に入院し,心エコーやCTにより診断された心臓悪性リンパ腫を経験した.症例は46歳,女性.腹痛・発熱を自覚し,近医で精査の結果,右房および右下肺に25mmの腫瘤を発見された.心腫瘤による塞栓症の危険が大きいため,準緊急的に開心術下に右房腫瘤切除術を施行した.病理検査でびまん性大細胞型B細胞性非ホジキン性悪性リンパ腫と診断された.術後2日目に再び腹痛を自覚し,腹部CTにてfree airおよび多量の腹水を認めた.そのため緊急開腹術を施行し,腫瘍による穿孔をきたした空腸を部分切除した.その後の経過は順調であり,化学療法のため開心術後15日目で他院に転院した.近年心臓原発悪性リンパ腫の定義は,心臓以外の臓器に転移があっても心に大きな腫瘤があれば心臓原発であるとしているが,その定義に関する若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 長濱 博幸, 福島 靖典, 福田 卓也, 早瀬 崇洋, 吉岡 誠
    2006 年 35 巻 1 号 p. 57-59
    発行日: 2006/01/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    成人Ebstein奇形に合併する三尖弁逆流に対し,Hetzer法による手術症例を経験した.症例は51歳,男性.主訴は労作時呼吸困難で,診断はNYHA III度の成人Ebstein奇形である.高度三尖弁逆流と心房化右室を認め,Carpentierの形態分類のType Bであり,さらに前尖には裂隙を認めた.三尖弁形成術はHetzer法にて,プレジェット付き3-0モノフィラメント糸で前尖・後尖の交連部付近の弁輪から中隔尖中央部の弁輪へU字縫合を行い,弁輪部を接合させ,縫縮偏位した部分の弁輪部を計5針のU字縫合で縫縮した.術後三尖弁逆流は認めず,胸部レントゲン写真上,心胸郭比は術前74%より術後60%へ著明に縮小し,またNYHAもIII度よりI度に改善した.Hetzer法は,心房化右室の縫縮を行わず,前尖または後尖,あるいは両者の弁機能を用い,本来の三尖弁輪レベルでの弁接合を得ることである.術式は比較的容易で再現性があり,また,術後結果もきわめて良好で満足いくものであった.
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