1980年1月から1995年12月までの16年間に当施設にて外科治療を施行した腹部大動脈瘤236例のうち破裂例44例を対象とし, これらをI群 (1980~1984) 11例, II群 (1985~1989) 15例, III群 (1990~1995) 18例に分類し手術成績, 術前状態, 出血/輸血量等について比較・検討した. 手術時年齢はI群: 65.4±14.7歳, II群: 67.9±11.8歳, III群: 71.3±10.5歳, 性別はI群/男性9例女性2例, II群/男性14例女性1例, III群/男性15例女性3例であった. 手術成績は, I群で生存4例, 死亡7例, II群で生存11例, 死亡4例, III群で生存18例, 死亡0例であり, 死亡原因としてはDIC (4例) あるいはそれを契機とした腎不全 (3例) が多かった. I群, II群, III群と手術成績は向上し, 最近7年間は連続23例死亡例がなく, また術後DICの合併を認めていない. 術前状態は3群とも shock 状態あるいは pre-shock 状態であったが, 各群間に差を認めなかった. 術中出血量はI群: 7227.3±3293.4ml, II群: 4176.0±2577.9ml, III群: 1781.9±1877.0ml, 術中輸血量はI群: 6975.5±2711.6ml, II群: 4826.7±2596.6ml, III群: 3542.4±1561.5mlであり, ともに減少傾向にあった. 特に自己血回収システム (cell savor) の導入後のIII群では有意に術中輸血量の軽減化をはかることが可能であった. また手術開始から大動脈遮断までの時間も有意差はないが, 減少傾向にあった. 生存例と死亡例を比較すると, 術中出血量, 輸血量ともに5000~6000mlが生命予後を左右する一つの臨界点であると考えられた. 手術待機時間および大動脈遮断までの時間の短縮や cell saver の導入による出血量と輸血量の減少により手術成績は著しく向上したが, DICや腎不全対策, 呼吸管理などの術後管理技術も成績向上に寄与したと考えられた.
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