日本心臓血管外科学会雑誌
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46 巻, 1 号
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巻頭言
症例報告
[先天性疾患]
  • 横山 雄一郎
    2017 年 46 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は34歳,女性.12歳時に他院で心房中隔欠損症(ASD)の診断を受けていた.徐々に息切れなどの症状が強くなり精査目的に当院を受診された.通常の2次孔欠損によるASDで手術適応と判断した.冠動脈造影検査において左冠動脈回旋枝が左肺動脈から起始しており冠動脈起始異常と診断した.前下行枝および右冠動脈は大動脈から分岐しており,おのおの左回旋枝へ側副血行路を形成していた.手術はASD閉鎖および左冠動脈回旋枝の中枢での結紮と左内胸動脈によるバイパス術を行った.冠動脈肺動脈起始症はそのほとんどが左冠動脈主幹部が肺動脈より起始しており,回旋枝のみの起始異常は珍しい.またASDとの合併はほとんど報告がなく貴重な症例であり報告した.

[成人心臓]
  • 宮下 直也, 尾上 雅彦, 中本 進, 札 琢磨, 藤井 公輔, 西野 貴子, 湯上 晋太郎, 佐賀 俊彦
    2017 年 46 巻 1 号 p. 6-10
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    生来健康な28歳女性で,26歳のときにバイク事故により救命センターに搬送された.その際,心臓に異常はみられず,外傷に対して保存的加療を行い退院となった.その後,労作時呼吸苦が徐々に出現するようになり,心雑音を指摘されたため当院に紹介となった.心エコーの結果,重症大動脈弁閉鎖不全症と診断され,事故より2年後に外科的加療を行う方針となった.術前の心エコーで弁の性状がはっきりしなかったことに加え,挙児希望があるため生体弁での置換を予定したが,術中所見では無冠尖の穿孔であったため,自己心膜パッチを用いて弁形成を行った.経過は良好で術後14日目に退院となった.挙児希望のある若年女性の外傷性大動脈弁不全症に対し弁形成術を施行し,自己弁を温存することで術後の抗凝固療法を回避することができた症例を経験した.

  • 焼田 康紀, 丸山 拓人, 渡邊 裕之
    2017 年 46 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    IgG4関連疾患は多臓器に発生する線維硬化性病変であり心血管領域での報告も散見される.今回IgG4関連心腫瘍を併発した解離性上行大動脈瘤に対する手術を経験したため報告する.症例は72歳女性で嚥下時のつかえ感,体重減少を主訴に来院した.心エコーで左室に接した心嚢内腫瘍を指摘され,造影CTで最大短径60 mmの解離性上行大動脈瘤を認めた.胸痛等の解離発症のエピソードはなく画像上も慢性解離の所見であった.腫瘍組織診断のために左開胸下に腫瘍生検を施行した.病理組織学的診断では悪性所見を認めず,IgG4陽性形質細胞の浸潤を認めた.血中IgG4は基準値を超え,他臓器でIgG4関連疾患の所見はなかった.冠動脈CTでは腫瘍を乗り越えるように左回旋枝が走行し外科的切除は困難であると判断した.腫瘍縮小を期待しステロイド内服を開始したが,上行大動脈瘤が拡大傾向となったため人工血管置換術を施行した.切除した動脈壁の外膜側にIgG4陽性形質細胞の浸潤を認めたが,IgG4と大動脈解離発症との関連は明らかでなかった.

[大血管]
  • 稲垣 順大, 徳井 俊也, 馬瀬 泰美, 平野 弘嗣, 藤井 太郎
    2017 年 46 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    感染性腹部大動脈瘤は致死率が高い.今回われわれは感染性腹部大動脈瘤を6例経験し,手術時期および術式について検討した.破裂や切迫破裂の状態でない症例では可能な限り抗生剤治療で菌血症の鎮静化をはかってから待機手術を行う方針とした.術式は,解剖学経路(in situ)による人工血管置換術を第一選択とした.6例中5例で解剖学経路(in situ)による人工血管置換術を行った.1例はHelicobacter cinaediが起因菌の椎体炎を合併していたため椎体炎再燃による人工血管感染のリスクが高いと判断して非解剖学的再建を選択した.術後感染の再燃を来たした症例はなかった.また,手術/在院死亡症例はなく,6例中5例は独歩で居宅退院,1例はリハビリ目的の転院となった.

  • 林田 好生, 森重 徳継, 大住 真敬, 藤井 満
    2017 年 46 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は65歳の男性,急性大動脈解離(Stanford A)の診断で,上行大動脈人工血管置換術を施行された.術後9カ月目で胸部創からの排膿を認め,当院に転院となった.胸部CTでは人工血管周囲に液体貯留を認め,血液培養検査ではMRSAが検出され,胸部人工血管感染と診断した.胸骨を一部開放し人工血管を露出させた状態で,半年にわたり,0.04% gentian violet生理食塩水による洗浄と抗生剤静脈内投与を行ったが治癒しなかった.根治的治療が必要と考え,初回手術から1年7カ月後に自作ウシ心膜ロールグラフトによる再上行大動脈置換術,大網充填術を行った.手術後は発熱なく,炎症反応も低下し胸部CTでも感染の再燃を認めなかった.抗生剤は静脈内投与で術後1カ月使用し,内服に変更した.術後37日目に転院し,感染の再燃を認めずに良好に経過していた.しかし,術後8カ月で転倒による頭部打撲後に急性硬膜下血腫を発症し,死亡した.自作ウシ心膜ロールグラフトによる大動脈再建は感染の再発を認めず,人工血管感染症例に有効である可能性が示唆された.ホモグラフトが入手困難である点を考慮すると,自作ウシ心膜ロールグラフトは人工血管感染治療において有効な選択肢となりうる.

  • 山本 晃裕, 佐戸川 弘之, 高瀬 信弥, 若松 大樹, 佐藤 善之, 瀬戸 夕輝, 籠島 彰人, 高野 智弘, 藤宮 剛, 横山 斉
    2017 年 46 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    [背景]慢性大動脈解離に対する外科的治療はエントリー閉鎖が先行されることが多いが,偽腔が十分減圧されない症例では術後の破裂リスクを回避できない.今回,カテーテル造影検査による血流評価の結果から血流の多いリエントリー閉鎖を先行したマルファン症候群合併解離性大動脈瘤の1例を経験したので考察を加えて報告する.[症例]42歳,女性.数年前に他院で急性A型大動脈解離に対し上行置換術が施行され,マルファン症候群と診断されていた.CTで遠位弓部に腕頭動脈,左総頸動脈,左鎖骨下動脈にエントリー,左外腸骨動脈に大きなリエントリーをもつ54 mmの解離性大動脈瘤を指摘され入院となった.術前のカテーテル造影検査にて,リエントリーからの血流量がより多いと判断して,リエントリー閉鎖および腹部大動脈人工血管置換術を先行し,その後に再開胸基部弓部大動脈置換術を行った.[結語]術前のカテーテル造影検査はエントリーとリエントリーの血流量の比較が可能であり,治療方針決定に有用であった.

  • 白川 幸俊, 金 啓和, 渡辺 芳樹, 井手 亨, 横田 純己
    2017 年 46 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は50歳,男性.胸背部痛にて救急搬送となり,造影CTで,上行大動脈から左外腸骨動脈まで至る解離を認めた.右鎖骨下動脈起始異常(aberrant right subclavian artery, ARSA)を伴っており,entryはARSA付近で,右鎖骨下動脈も解離していた.左鎖骨下動脈起始部,腹腔動脈起始部も解離しており,腹腔動脈には狭窄を認めた.Entry閉鎖を含めた上行弓部大動脈置換術の適応であったが,末梢側吻合,右鎖骨下動脈再建が困難と考えられたため,オープンステントグラフト法を用い,右鎖骨下動脈は前縦隔から右腋窩動脈へのバイパスとした上行弓部置換術を行った.左右腋窩動脈に人工血管を縫合し,それぞれ灌流,左右総頸動脈には選択的脳灌流を行い,4分枝の選択的脳分離体外循環を行い,ステントグラフトはワイヤーガイド下に挿入可能な自作のものを用いた.術後は,entry閉鎖が確認でき,偽腔は血栓化,右鎖骨下動脈起始部も閉鎖されて,術後1年で良好なaortic remodelingを確認できた.ARSAを伴った大動脈疾患に関しては,さまざまな術式が工夫されて行われているが,急性A型解離に伴う緊急手術では,オープンステントグラフト法も有効な手技であると考えられた.

  • 村山 公, 綿貫 博隆, 岡田 正穂, 二村 泰弘, 松山 克彦
    2017 年 46 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性.65歳時に急性A型大動脈解離にて弓部置換術が施行され,翌年に胸腹部解離性大動脈瘤に対し胸部ステントグラフト内挿術とYグラフト置換術が施行された.73歳時に維持透析導入となり,77歳時に大動脈基部巨大仮性瘤および僧帽弁閉鎖不全症を認め,大動脈基部置換術(modified Bentall手術)および僧帽弁形成術を施行した.退院時に異常は認められなかったが,大動脈基部置換術後1年のCT検査にて大動脈基部周囲に仮性瘤を認めた.当時は明らかな胸部症状を認めず,年齢やADLを考慮したうえで経過観察されたが,術後1年8カ月頃より透析中の胸痛や右季肋部痛を自覚するようになった.大動脈基部仮性瘤拡大と冠動脈造影検査で右冠動脈の高度狭窄を認めたため,手術を行った.手術では人工血管針穴からのoozing性出血を認めた.大動脈基部置換術後遠隔期に人工血管針穴出血により巨大仮性瘤を形成した稀な1例を経験した.

  • 脇山 英丘, 大保 英文, 泉 聡, 井上 享三, 脇田 昇
    2017 年 46 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.Type B急性大動脈解離(偽腔閉塞型)に対して保存的加療が導入された.発症後18日目に背部痛が出現し,CTにて偽腔の再開通と逆行性type A大動脈解離が認められたため,緊急手術を行った.オープンステントグラフト(JOSG)をfrozen elephant trunkとして用いた上行弓部全置換術を施行した.術後,下肢圧が体血圧の70%程度に低下しており,精査したところJOSGの中枢側の非ステント部の高度狭窄,およびそれに連続するステント部中枢側の狭窄と診断された.術2日目に狭窄部解除目的に胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.術後速やかに下肢圧の上昇が認められ翌日に人工呼吸器を離脱した.脳神経学的合併症を起こすことなく順調に経過している.JOSGを使用する場合には留置部位の解剖学的特徴を詳細に検討し非ステント部長を短くするなど合併症予防のための配慮が必要である.JOSG狭窄に対してTEVARは有効な治療手段であると考える.

  • 佐伯 宗弘, 柚木 継二, 迫田 直也, 服部 滋, 内野 学, 川畑 拓也, 藤田 康文, 久持 邦和, 吉田 英生
    2017 年 46 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は79歳男性.膀胱癌に対するBCG注入療法の既往がある.2016年1月より血痰が出現し,精査で痰からウシ型結核菌が検出され薬物治療が開始されたが血痰が続き,評価目的に施行したCTで結核性感染性胸部大動脈瘤切迫破裂と診断され当院に紹介となった.瘤は左肺組織および周囲のリンパ節と一塊になっており肺切除を伴う人工血管置換術はリスクが高く,また抗菌剤加療により感染は制御できていると判断,Z2からステントグラフトを留置する方針とし,1-Debranch+TEVARを施行した.術後より血痰は減少,経過良好にて退院し,紹介元にて抗菌剤療法を継続している.

  • 松永 裕樹, 三島 秀樹, 石川 進, 大島 哲, 六角 丘
    2017 年 46 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,女性.嚥下障害,嗄声,咳嗽・喘鳴などの喘息様症状を主訴に近医を受診した.吸入ステロイド薬・長時間作用型β2 刺激薬投与で改善が得られなかった.上部消化管内視鏡検査で食道内壁の外部からの圧排像があり,CT像で胸部下行大動脈瘤がみられたため,当院に紹介となった.胸部大動脈瘤の食道・左気管支への圧排による嚥下障害・呼吸器症状と診断し,早期に胸部大動脈ステントグラフト内挿術を行った.術後経過は良好で,手術後1カ月の時点で嗄声と喘息様発作の著明な改善が得られた.ステントグラフト内挿術により,食道および気管支狭窄症状の両方の改善が得られた症例は本邦ではいまだなく,稀と考えられたので報告する.

[末梢血管]
  • 畑中 憲行, 上田 高士, 石川 成津矢, 嶋田 直洋
    2017 年 46 巻 1 号 p. 54-56
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,男性.100 m程度の歩行で右間欠性跛行を生じ,当科紹介となった.造影CT所見で,両側内腸骨動脈から遺残坐骨動脈が起始し,直接膝窩動脈に交通しており,右遺残坐骨動脈は坐骨孔レベルから膝窩部まで閉塞していた.浅大腿動脈は,膝窩動脈に直接連続していないため,完全型と判断した.以上より,完全型右遺残坐骨動脈の慢性閉塞による右下肢虚血と診断した.右浅大腿動脈は低形成であったが,深大腿動脈は発達していた.右総大腿動脈径は十分に太く,inflowとして用いることが可能と判断した.人工血管を用いた右総大腿動脈-膝上膝窩動脈バイパス術を施行した.術後,間欠性跛行は消失し,右Ankle branchial index(ABI)は0.79から1.06に改善した.術後10カ月目,左遺残坐骨動脈慢性閉塞をきたし手術治療となった.遺残坐骨動脈症例は無症状でも,慎重な経過観察が必要であると考えられた.

  • 小須賀 智一, 中村 英司, 金本 亮, 安永 弘, 青柳 成明
    2017 年 46 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2017/01/15
    公開日: 2017/02/01
    ジャーナル フリー

    症例は23歳女性で,右総腸骨動脈塞栓を伴う感染性心内膜炎に対してFogartyカテーテルによる経大腿動脈塞栓除去術および僧帽弁置換術が行われた.術後9日目のCT検査で右内腸骨動脈閉塞が認められ,塞栓除去術の際に右総腸骨動脈の塞栓子の一部が右内腸骨動脈へ迷入したことが原因と考えられた.その後,人工弁周囲逆流が生じたため,術後16日目に再僧帽弁置換術が行われた.さらに右内腸骨動脈塞栓の診断後約2週の経過で塞栓部に動脈瘤を形成した.最終的に動脈瘤切除術を必要としたが術後経過は良好であった.本症例はseptic embolismから感染性動脈瘤に至る過程を画像診断でとらえた稀な症例と思われた.また,感染性心内膜炎におけるseptic embolismに対して,Fogartyカテーテルを用いた塞栓除去術を行う際には,分枝への塞栓子迷入に注意が必要である.

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