[目的]オープンステントグラフト(OSG)における末梢灌流(DP)の有効性を検討した.[対象と方法]DP施行有無によってNon-DP群(23例),DP群(27例)に分類した.両群間において従前因子に統計学的有意差は認められなかった.[結果]手術時間は両群間に統計学的有意差はなかったが,人工心肺時間(178±22分 vs. 193±18分,p<0.01),大動脈遮断時間(84±23分 vs. 106±19分,p<0.01)はDP群で有意に長く,腹部主要臓器循環停止時間(46±11分 vs. 20±5分,p<0.001)はNon-DP群で有意に長かった.術後初期成績は,Non-DP群で対麻痺および不全対麻痺を各1例認めたのに比し,DP群では永久的脊髄虚血は認められなかった.術後気管内挿管時間(72.6±40.1時間 vs. 40.1±34.7時間,p<0.05)は統計学的有意にNon-DP群で長かった.病院死亡はNon-DP群でStrokeおよび呼吸不全各1例,DP群で呼吸不全1例であった.術後最高値BUN(38.5±15.6 mg/dl vs. 30.8±9.8 mg/dl,p<0.05),術後最高値s-Cr(1.9±1.0 vs. 1.3±0.4 mg/dl,p<0.01)と統計学有意にNon-DP群において高値であった.[結論]OSGにおけるDPは有効な併用法であることが示唆された.
[背景]小児期の人工弁置換術には術後の脳関連合併症や血栓弁,成長に伴うサイズミスマッチなどの懸念があり可及的に弁形成術を行うことが望ましいが,やむを得ず弁置換術となる症例が存在する.15歳以下の孤立性僧帽弁疾患(孤立性僧帽弁閉鎖不全症,孤立性僧帽弁狭窄症)に対する僧帽弁形成術,僧帽弁置換術の遠隔期成績を検討した.[対象]1981年1月から2010年12月までに当院で僧帽弁形成術を行った30例(P群:男児21例,平均年齢4.6±4.6歳,平均体重13.4±8.9 kg),および機械弁による僧帽弁置換術を行った26例(R群:男児9例,6.2±4.6歳,平均体重16.4±11.2 kg)の計56例を対象とした.平均追跡期間9.3±7.8年,最長27.7年であった.また,孤立性僧帽弁閉鎖不全症(iMR)群と孤立性僧帽弁狭窄症(iMS)群とに分けて追加検討を行った.[結果]P群,R群ともに周術期死亡例はなく,遠隔期にR群で4例を失った.再手術はP群で6例,R群で5例に認めた.脳関連合併症は両群とも遠隔期に1例ずつ認めたのみで,人工弁感染は認めなかった.10年時および20年時での生存率はP群100%,100%,R群88.0%,80.0%であり有意差が見られた(p=0.043).10年時および20年時での再手術回避率はP群77.6%,77.6%,R群77.0%,70.0%,10年時における脳関連合併症回避率はともに100%であり有意差は見られなかった.iMR群とiMS群の10年時における生存率は100%と53.3%であり有意差がみられた(p=0.001).iMR群とiMS群の10年時における再手術回避率は77.1%と64.3%,20年時では72.0%と64.3%であり有意差は見られなかった.[結語]15歳以下の孤立性僧帽弁疾患に対する僧帽弁形成術,僧帽弁置換術の遠隔期成績は,懸念していた機械弁置換術後の脳関連合併症回避率や再手術回避率も僧帽弁形成術と有意差なく,小児期の僧帽弁手術として許容されるものであった.特に孤立性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁手術の遠隔期成績は良好であった.孤立性僧帽弁狭窄症においては孤立性僧帽弁閉鎖不全症に劣らない再手術回避率であったが生存率には懸念が残る結果となった.
症例は55歳男性.労作時呼吸困難の精査で紹介され,不完全型房室中隔欠損症,僧帽弁閉鎖不全症,卵円孔開存,心房細動,漏斗胸と診断された.漏斗胸を合併した心臓・大血管手術では,術中の良好な視野と術後の安定した血行動態を得るために,心疾患に対する根治術とともに胸郭形成術を一期的に行うことが望ましいとされている.本症例では,自己心膜パッチによる房室中隔欠損孔閉鎖術,クレフト縫合による僧帽弁形成術,卵円孔の直接縫合閉鎖,メイズ手術変法を行った後,閉胸時にRavitch変法による胸骨挙上術を施行した.術後は人工呼吸器による長期の呼吸管理を要したが,徐々に呼吸状態は安定し,術後17日目に抜管した.長期挿管に伴う嚥下障害を併発したが,嚥下リハビリテーションにより嚥下機能は改善し,その後の経過は順調で術後59日目に退院した.本症例では,皮下剥離範囲の広さ,出血量増大のリスク,胸骨肋軟骨複合体の血流維持や感染リスク等の問題を考慮し,胸郭形成には胸骨翻転術ではなくRavitch変法による胸骨挙上術を選択した.心疾患を合併した漏斗胸に対して,胸骨挙上術を併施することで,良好な術野と術後の安定した循環動態が得られると考えられた.
当院では僧帽弁形成術,冠動脈バイパス術を中心に2012年3月より手術侵襲軽減,より良好な術野確保目的にハイビジョン3D内視鏡装置(HD101S 30°斜視,HD-101D直視,有限会社新興光器製作所,東京)を用いたMICS(minimally invasive cardiac surgery)法を積極的に導入してきた.その経験を踏まえASD(Atrial Septal Defect)に対する閉鎖術にも対象を拡大し適用してきた.この術式は大がかりな装置を要することなく低コストでより縮小した手術創にても立体感のある良好な視野が確保でき,今後期待される完全内視鏡下での手術操作には不可欠である.現段階では手術時間が長いことなど発展途上の域にあることは否めないが,今回これまでの当院で施行された3D内視鏡使用下ASD閉鎖術の経験を報告する.
先天性冠動脈-肺動脈瘻は珍しい疾患で,心筋虚血症状や瘤化などさまざまな病態を呈する.さらに体血管との連続性をも合併することは非常に稀である.症例は75歳男性で,生来健康であったが,自宅で数10秒の意識消失発作があり近医の神経外科を受診し,異常所見なく,心原性失神を疑われ当院循環器科を受診し精査が行われた.ホルター心電図で洞不全症候群と診断された.冠動脈造影で肺動脈-左右両冠動脈瘻と冠動脈狭窄との診断となった.瘻血管の存在により,冠動脈バイパス手術の適応決定においては苦慮し,通常の冠動脈造影に加え,冠血流予備量比,冠動脈内超音波検査,負荷心筋シンチを用い総合的に判断し,三枝バイパスが必要であると判断した.術前のCTアンギオで左総頸動脈・気管支動脈-肺動脈瘻が存在し左右両冠動脈-肺動脈瘻と交通していた.冠動脈バイパス術に加え,冠動脈-肺動脈瘻結紮,肺動脈開口部閉鎖,左総頸動脈-肺動脈瘻と気管支動脈-肺動脈瘻閉鎖,ペースメーカー埋め込み術をあわせて行うこととした.瘻孔開口部を決定するうえで術前のCTアンギオ,術中の心表面エコーは有用であった.あらかじめ,左総頸動脈,気管支動脈から流入する異常血管と瘻血管開口部に流入する異常血管を結紮処理した.心筋保護液注入時,さらに瘻孔開口部を直接圧迫することで,心筋保護液は十分に心筋に行き渡り十分な心停止が得られた.術後CTアンギオでは肺動脈-左右両冠動脈瘻,左総頸動脈・気管支動脈-肺動脈瘻は消失していた.左総頸動脈・気管支動脈-肺動脈瘻と左右両冠動脈-肺動脈瘻の合併症例の手術報告は探しうる限りなく,非常に稀な症例と考え文献的考察を含め報告する.
右冠尖が2つ折り状態になったために発症した大動脈弁閉鎖不全症の1例を経験した.症例は76歳女性,呼吸困難の精査治療のため入院した.胸部レントゲンで高度の心拡大と葉間胸水貯留が,大動脈造影でIV度の逆流と右冠動脈起始部の異常な拡張が認められた.手術所見として右冠尖が2つに折り畳まれた状態になって右Valsalva洞全体を占めるほど大きな右冠動脈入口部を半ば塞いでいた.右冠尖は他の冠尖に比べて明らかに大きく自由縁の長さは右冠尖23 mm,左冠尖18 mm,無冠尖17 mmであった.弁を切除し自己心膜による大動脈弁再建術を施行した.病理組織検査では炎症細胞の浸潤はごく軽度で細菌感染の所見はなかった.右冠尖が2つ折りになった機序として他の冠尖より大きかったこと,異常に拡張した右冠動脈がValsalva洞での正常な渦血流の作製を妨げて弁尖を右冠動脈入口部に引き込むような力が働いた可能性があることなどが推察された.
S字状中隔(sigmoid septum)を有する高齢女性で,僧帽弁置換術後に左室流出路閉塞を伴うたこつぼ心筋障害を発症した1例を経験した.本例はsigmoid septumの病的意義を示し,左室流出路閉塞がたこつぼ心筋障害の発症と重症化に関係すると考えられたので報告する.症例は胸水貯留と下腿浮腫を有する82歳女性.リウマチ性僧帽弁膜症(閉鎖不全兼狭窄症),二次性三尖弁閉鎖不全症,慢性心房細動,肺高血圧症と診断され,sigmoid septumを認めた.麻酔導入後に徐脈と血圧が低下し,アドレナリンとノルアドレナリンを使用した.手術中,経食道超音波検査では局所壁運動異常を認めなかった.ステント付き牛心嚢膜弁27 mmを用いて僧帽弁置換術,DeVega法による三尖弁形成術,メイズ手術を施行した.手術翌日,気管チューブ抜去後血圧低下を認めた.経胸壁心臓超音波検査で左室心尖部の無収縮,バルーン状拡張と心基部の過収縮を認め,圧較差38 mmHgの左室流出路閉塞を伴うたこつぼ心筋障害と診断した.アドレナリンの減量と輸血により左室流出路閉塞は消失し,術後34日目に心尖部の無収縮は改善した.術前後の冠動脈造影検査に異常を認めなかった.
症例は69歳女性.2011年2月に近医で心雑音を指摘され,先天性二尖弁に伴った中等度大動脈弁狭窄症(AS)と診断された.以後当院外来にてASと上行大動脈拡張(4 cm)に対して定期的に経過観察されていた.2014年4月の心エコーで中等度~重症へASの進行を認め,手術適応となった.術前の造影CT・心エコーで大動脈弁輪直下に2×2 cmの嚢状構造物を認めた.心室腔の開口部の大きさや収縮期の局所壁運動異常から大動脈弁輪下左室瘤の診断となった.手術は瘤切除後に上行+大動脈基部置換術を施行した.大動脈弁輪直下の左室瘤はこれまで25例の報告しかないきわめて稀な病態であり,自然経過などもはっきりせず,合併症として瘤破裂,感染,血栓形成,不整脈,心不全などが報告されており,単独でも手術適応になる.今回大動脈弁輪直下の先天性左室瘤を合併した二尖弁大動脈弁狭窄症の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.
症例は89歳女性.労作時息切れおよび心拡大に対し内科的治療を行われるも症状の改善認めず.精査目的にて施行された胸腹部CTにて心臓を圧排する巨大な心膜腫瘍を認めたため手術目的にて紹介となった.術前腫瘍の鑑別はできなかったが,心臓の圧排による心不全所見を認めたため診断を兼ねて腫瘍摘出の方針とした.腫瘍は,左室前壁の心外膜に起源し左前下行枝(LAD)に沿って約3×10 cmの茎を有した.LADを完全に巻き込んでいたため,人工心肺下,心停止下に腫瘍摘出術を施行した.LADも一部合併切除を要した.術後経過は良好で術後37日目に独歩退院となった.病理組織診断は,原発性孤立性線維腫瘍(solitary fibrous tumor ; SFT)であった.心膜発生SFTは稀であり,なかでも左室起源のSFTはきわめて稀な疾患である.若干の文献的考察を加えて報告する.
心臓原発腫瘍は稀な疾患であり,組織学的には粘液腫が最も多く,ついで乳頭状弾性線維腫(Papillary fibroelastoma : PFE)が多いと言われている.今回われわれは,左房粘液腫と大動脈弁PFEを同時に認めた1例を経験したので報告する.症例は77歳女性.夜間胸痛で前医を受診され,冠動脈CTにて左房粘液腫を指摘され,当科紹介となった.心臓超音波検査にて左房内に20 mm大の可動性の乏しい腫瘤を認め,待機手術の方針となった.術中の経食道超音波検査(Transesophageal echocardiography : TEE)にて大動脈弁左冠尖と右冠尖の交連間にひらひらと動く構造物を認めた.人工心肺確立後,心停止下に大動脈を切開して大動脈弁を観察したところ,左冠尖に毛羽立ちのあるPFEを認め,切除した.右側左房切開して左房内腫瘍を観察したところ,腫瘍が心房中隔に付着しており,心房中隔および左房壁ごと一塊に摘出した.心房中隔および左房の欠損部は自己心膜で修復した.術後,洞性徐脈と接合部調律および心房細動の頻脈を繰り返した.その後,洞停止を伴うようになり,第29病日にペースメーカー植え込み術を施行し,第38病日に軽快退院となった.組織学的に異なる心臓腫瘍を同時に認めることはきわめて稀である.術前および術中のTEEでの評価がきわめて重要と思われた.
慢性B型解離性大動脈瘤破裂に対し,Candy plug法を用いて偽腔閉鎖を行うことにより治療し得た症例を経験したので報告する.症例は57歳男性.以前に臓器虚血を伴う急性B型大動脈解離を発症し,腹部大動脈開窓術の既往があった.その後大動脈径の拡大を示し胸部ステントグラフト内挿術によるEntry閉鎖を施行したが,開窓部から偽腔内への逆行性血流が残存し1年後に破裂に至った.順緊急的にCandy plug法を用いて偽腔血流を遮断し,術後11日目に独歩退院となった.術後7カ月を経た現在偽腔の縮小傾向を認め,慎重に経過観察中である.慢性B型大動脈解離においてCandy plug法による偽腔閉鎖法は人工血管置換術のハイリスク症例にとっては有用な治療法の1つとなり得るが,今後更なる慎重な経過観察が必要であると考えられる.
75歳男性.背部痛を主訴として救急搬送された.造影CTで右鎖骨下動脈起始異常(ARSCA)に合併した偽腔開存型のStanford B型急性大動脈解離(B型解離)を認めた.B型解離であり降圧,安静による保存的加療を行った.しかし発症後1カ月の造影CTにて偽腔の拡大を認め,また断続的な腹痛が持続していた.そこで遠位弓部のentry閉鎖およびARSCAの経路再建の目的で右総頸動脈-右腋窩動脈バイパスおよび胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR),ARSCAのコイル塞栓を施行した.術後5日目の造影CTにて腹部偽腔の拡大を認めたため腹部ステントグラフト内挿術を追加した.これにより偽腔血流は消失した.ARSCAは先天性の弓部分枝異常である.交差する食道や気管の通過障害,近傍の大動脈瘤や解離,ARSCA自体の瘤化や破裂を合併することがあり,さまざまな術式が報告されてきた.ARSCAに合併したB型解離に対してde-branch TEVARによるARSCA経路再建および偽腔閉鎖は有用な手法であると考えられた.