日本心臓血管外科学会雑誌
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29 巻, 5 号
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  • 小林 俊也, 幕内 晴朗, 成瀬 好洋, 後藤 昌弘, 田中 慶太, 有村 康夫, 葛 仁猛
    2000 年 29 巻 5 号 p. 295-298
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    冠状動脈バイパス術 (CABG) 後遠隔期の大伏在静脈グラフト (SVG) の問題点である vein graft disease 発症におけるマクロファージの関与について検討した. CABG施行時に採取した移植前SVG3本, および術後遠隔期の患者から採取したSVG6本 (早期閉塞SVG3本, 遠隔期SVG3本) に対し, マクロファージのモノクローナル抗体を用いて免疫組織染色を行い検討した結果, 移植前のSVGにマクロファージの存在は認められず, 早期閉塞SVGでは内膜表層にマクロファージの集積が, また遠隔期SVGでは粥状硬化組織内にマクロファージの著明な集積が認められた. 動脈硬化性病変の発生進展過程においては, その初期の段階における血管内皮細胞の障害とそれに伴う単球/マクロファージの関与が重要と考えられている. CABG後のSVGにおいては, 術後早期に内皮細胞障害によりマクロファージが内膜中に侵入し, これが遠隔期における粥状硬化性病変形成の素地となっているものと考えられた.
  • 心拍動下冠動脈バイパス術への応用は可能か
    上田 哲之, 三崎 拓郎, 山下 昭雄, 渡邊 剛
    2000 年 29 巻 5 号 p. 299-304
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    洞結節を支配する副交感神経節が存在する右上肺静脈の右房側の脂肪組織 (pulmonary vein fat pad: PVFP) の電気的刺激が, 心拍動下冠動脈バイパス術のさいの心拍数制御手段となりうるか検討した. 開心術症例9例を対象とした. 心臓手術時にPVFPにペースメーカー・ワイヤーを留置し, 術後3~7日目に電気刺激 (出力, 4~9V; パルス幅, 0.1msec; 頻度, 5, 10, 20, 50Hz; 持続時間, 5分) を行い, 心拍数の経時的変化を観察した. PVFP刺激により刺激直後から速やかに心拍数が減少した. PVFP刺激による心拍数の減少は20Hz刺激のときに90.1±12.4/分から71.4±15.7/分 (18.7/分) と最大であったが, 1分後には刺激前のレベルに復した. 迷走神経洞結節枝の電気刺激により, 心拍数制御が可能であるが, 徐脈の程度と持続時間には限界があり, 改良を要する.
  • 羽賀 將衛, 稲葉 雅史, 山本 浩史, 赤坂 伸之, 内田 恒, 川合 重久, 眞岸 克明, 笹嶋 唯博
    2000 年 29 巻 5 号 p. 305-308
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    教室における過去10年間の腹部大動脈瘤症例160例中, 78例を開腹到達法 (TP群), 82例を腹膜外到達法 (EP群) で施行した. このうち下腸間膜動脈, 腎動脈, 下肢末梢動脈など合併再建のない, TP群42例, EP群40例を対象とし比較した. 手術時間, 術中出血量, 術中および術後輸血量は両群間に差はなかったが (TP群: 328.1分, 965.9ml, 633ml, EP群: 359.5分, 1,020ml, 420ml), 術後, 経口摂取開始までの期間, 補液を必要とした期間はTP群に比べEP群で有意に短く (TP群: 9.9日, 15.7日, EP群: 6.6日, 10.4日), 腹膜外到達法は早期離床のために有用であると考えられた. 術後合併症のうち, 腹壁瘢痕ヘルニアはEP群に有意に多く, 後腹膜乳糜漏, 後腹膜液貯留はEP群にのみ生じたが, 手術手技の習熟により回避され得ると考えられた.
  • 岩橋 英彦, 田代 忠, 中村 克彦, 財津 龍二, 本村 禎, 岩隈 昭夫, 中村 正直, 村井 映, 山田 隆司, 木村 道生
    2000 年 29 巻 5 号 p. 309-314
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    低侵襲冠動脈バイパス術 (MIDCAB) の手術成績について自験例の検討を行った. 1994年4月より1998年11月までのMIDCAB症例23例 (MIDCAB群) と人工心肺使用1枝単独冠動脈バイパス術 (CABG) 症例12例 (On-pump 群) の2群を比較検討した. 術前状態では平均年齢がMIDCAB群で高かったが, 透析症例, 呼吸機能障害, 脳血管障害などは, 有意差を認めなかった. 術中はMIDCAB群で出血量, 輸血率を有意に減少させ, 手術時間も減少傾向であった. 術後経過はMIDCAB群において人工呼吸時間, 術後在院日数を有意に減少させ, 死亡例もなく良好であった. 開存率は88%と On-pump 群と比べるとやや低めであったが, stabilizer 導入後は94%と上昇している. 手技, 器械の発達によりMIDCABは進歩していくものと思われる. MIDCABは1枝病変に有用な方法だが, 導入には慎重な配慮を要すると思われた.
  • 鎌田 誠, 井口 篤志, 東福寺 元久, 横山 斉, 秋元 弘治, 近江 三喜男, 田林 晄一
    2000 年 29 巻 5 号 p. 315-319
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    心筋虚血・再灌流障害の一因である活性酸素の scavenger として, レシチン化SOD (lecithinized superoxide dismutase) の心筋保護効果を検討した. 対象をI群 (n=5): 未治療群, II群 (n=5): レシチン化SOD再灌流時投与群, III群 (n=5): レシチン化SOD再灌流10分後投与群, の三群に分けラット摘出心血液灌流モデルで30分間の常温単純虚血・再灌流を行った. レシチン化SODはII群, III群とも3,000単位を投与した. 左心機能の指標として developed pressure (DP), Max dp/dt, Max (-dp/dt) を測定し, 虚血前値に対する割合で比較した. %DP, %Max dp/dt, %Max (-dp/dt) のいずれの指標においてもII群が他の群に比べ有意に高値を示した. このことから, レシチン化SODの再灌流時投与により心収縮能および拡張能が良好に保たれることがわかった.
  • 藤永 一弥, 小野田 幸治, 金光 真治, 高林 新, 陸 軍, 島本 亮, 下野 高嗣, 田中 國義, 新保 秀人, 矢田 公
    2000 年 29 巻 5 号 p. 320-325
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    AVRおよびDVR後1年以上経過した53例を対象に, 術後遠隔期の brain natriuretic peptide (BNP) を測定し, 血漿BNP値と心機能との相関および予後または推定因子となり得るかを検討した. 症例はNYHAII度1例以外すべてI度で, I度の症例中82.7%にBNP値の異常を認めた. AS, AR症例ともEFとBNPは負の相関関係を認め (r=-0.460, p<0.05; r=-0.529, p<0.01), AR症例でLVMI, LVDdはBNPと正の相関関係を認めた (r=-0.469, p<0.05; r=0.680, p<0.0001). またNYHAI度であった3例に経過観察中, 心不全を認めた. これらは心不全の前よりBNPは高値 (>80pg/ml) であった. しかしBNP高値症例にもEF, LVDdともに正常な症例も認めた. 以上より, BNP高値症例は心不全予備群の可能性があり, BNPは術後心不全のマーカー, ひいては予後または推定因子となる可能性が考えられた.
  • 解離腔の血栓形成と術後炎症反応の遷延化
    鈴木 伸一, 近藤 治郎, 井元 清隆, 戸部 道雄, 岩井 芳夫, 市川 由紀夫, 磯田 晋, 内田 敬二, 山崎 一也, 高梨 吉則
    2000 年 29 巻 5 号 p. 326-331
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    解離性大動脈瘤 (DAA) に対するステントグラフト留置術後炎症反応が遷延化する症例が存在するので, その原因を検討した. 対象はDAA12例 (偽腔開存10例, ULP2例) で, 性別は男性11例, 女性1例, 平均年齢は60±9.8歳であった. ステントグラフト留置術後7日の大動脈造影で偽腔開存10例のうち endoleak なし7例 (A群), あり3例 (B群), ULP2例 (C群) は endoleak なし. (1)凝固系: FDP-E値はA群で術後1日に最高値となり, その後減少した. B群では術後7日まで緩やかに増加した. C群の増加は軽度であった. (2)WBCとCRPは術後3日で最高値となり, その後徐々に低下したが, A, B群では術後7日も依然高値であった. (3)胸部CT検査で下行大動脈周囲に水腫の所見を認め, 厚さが10mm以上存在した症例はA群で5/7例 (71%), B, C群には認めなかった. (4)左肺下葉に無気肺をA群で6/7例 (86%) に認めたが, B, C群には認めなかった. SG留置により術直後から偽腔内に大量の血栓形成を生じたA群で, 高頻度に胸部下行大動脈周囲の水腫と左肺下葉の無気肺を確認した. 血栓形成に伴い大動脈壁を中心に生じる炎症が水腫と無気肺を惹起し, 術後の炎症反応を遷延化する一因と考えられた.
  • 西村 謙吾, 池淵 正彦, 廣恵 亨, 橘 球, 金岡 保, 芦田 泰之, 応儀 成二
    2000 年 29 巻 5 号 p. 332-334
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性で, 左腰痛を主訴に来院した. CTにより, 最大径5cmの炎症性腹部大動脈瘤と左水腎症と診断され, 内科に入院した. 1カ月後のCTにより, 動脈瘤は7cmに拡大し, 後腹膜腔への破裂が判明したため, 緊急手術になった. 瘤の後壁に50×10mmの破裂孔と血腫が存在し, sealed rupture と考えられ, 直型人工血管で動脈瘤を置換した.
  • 染谷 毅, 田中 啓之, 長谷川 悟, 大井 啓司, 渡辺 正純, 大島 永久, 坂本 徹, 砂盛 誠
    2000 年 29 巻 5 号 p. 335-338
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は68歳男性. 心筋梗塞発症8年後の左室瘤, sustained VTにて他院の外来受診中心肺停止を起こし, 心肺蘇生後ICUに収容された. アミオダロン, リドカイン静注にてもPVCは頻発し, さらに, 治療中に急性胆嚢炎を併発し, 当院に転院した. 冠動脈造影上, 8年前にPTCA施行されたLADに狭窄はなく, 他の冠状動脈にも狭窄は認めなかった. 前壁中隔を中心に左室瘤を形成しており, EFは35%であった. 手術は瘢痕・心内膜切除は行わずに梗塞瘢痕・健常心筋の境界領域に全周性に2重の心内膜冷凍凝固のみを施行し, 左室瘤に対し Dor 手術を, 胆嚢炎に対し胆嚢摘出術を一期的に行った. 術後経過は良好で, EFは53%に改善し, 心室性不整脈の出現を認めず, 良好な経過を得た.
  • 上田 高士, 川田 哲嗣, 内藤 洋, 木村 通孝, 谷口 繁樹
    2000 年 29 巻 5 号 p. 339-342
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は67歳, 男性. 脳血管手術の術前検査で右冠状動脈より左前下行枝 (LAD) への側副血行を有する冠状動脈二枝病変と診断された. 冠状動脈バイパス術 (CABG) 待機中であったが胃出血による血圧低下を契機にLAD領域の心筋梗塞を発症した. 心原性ショック, 肺水腫を呈し, IABP, 人工呼吸器を装着され緊急CABG目的に入院した. 高度低酸素血症, 急性腎不全を呈していた. 梗塞前の冠状動脈造影検査ではLADの完全閉塞以外に左主幹部, 対角枝, 鈍縁枝にも有意狭窄を認めた. 本例は体外循環 high risk 症例であり, さらに出血性胃潰瘍を合併していたため梗塞責任病変であるLADに対する一枝バイパス (SVG-LAD) を off-pump で行い救命し得た. 心原性ショックを呈する急性心筋梗塞に対するCABGでは責任血管がLADのことが多く, 本症例のごとく救命のために off-pump 下でのバイパス術を選択せざるを得ないこともあり報告した.
  • 紙谷 寛之, 上山 圭史, 向井 恵一
    2000 年 29 巻 5 号 p. 343-346
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    Bentall 手術後, 16年以上経過して発生した吻合部離開に対して再手術を行い良好な成績を得たので報告する. 症例は50歳男性. 19年前に大動脈弁輪拡張症に対して他院にて Bentall 手術を受け, 3年前に胸部下行大動脈瘤に対して, 当院にて胸部下行大動脈置換術を受けた. その後 Bentall 手術の遠位側吻合部と両冠動脈口吻合部の離開を伴う, 上行大動脈瘤および遠位弓部大動脈瘤を認め, 再大動脈基部置換術および弓部大動脈置換術を施行した. 文献上検索し得る限りでは Bentall 手術後16年から19年と最も晩期に発症した吻合部離開であり, Bentall 手術後の長期経過観察の必要性が示唆された.
  • 良本 政章, 宮本 巍, 八百 英樹, 山下 克彦, 向井 資正, 和田 虎三, 村田 正典
    2000 年 29 巻 5 号 p. 347-350
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤術後人工血管感染症に対し保存的治療にて救命した1症例を経験した. 症例は65歳女性, 1996年4月2日, 腹部大動脈瘤に対し人工血管置換術を施行したが, 術後14日目の腹部CT検査にて左後腹膜腔膿瘍を認めた. 緊急再開腹術を施行, 膿瘍腔の debridement および強酸性水による持続洗浄ドレナージ術を行った. 膿汁からはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌が検出され, バンコマイシン®, ゲンタマイシン®を投与し, 術後82日目に細菌培養検査は陰性化した. 術後144日目に退院, 3年を経過した現在も炎症所見を認めず, 外来通院中である. 腹部大動脈領域の人工血管感染症は重篤な合併症であり, 感染グラフト除去, 非解剖学的バイパス術が一般的であるが, 抗生剤やポビドンヨードを希釈した溶液による持続洗浄法により良好な結果が報告されている. 強酸性水は広い抗菌スペクトルを有し, 生体に無害な溶液であり, 同液による持続洗浄は有用であると考えられる.
  • 脇田 昇, 南 裕也, 北野 育郎, 坂田 雅宏, 志田 力
    2000 年 29 巻 5 号 p. 351-353
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    乳頭筋断裂による僧帽弁閉鎖不全症に対し, 発症8カ月後に僧帽弁置換術および冠動脈バイパス術を行った症例を経験した. 症例は72歳の男性で1997年9月に胸痛, 倦怠感, 呼吸困難の出現を訴え, 他院にて僧帽弁閉鎖不全症による急性心不全と診断された. 心筋梗塞の発症は不明で, 保存的治療にて軽快したがその後も心不全の増悪, 寛解を繰り返した. 心エコー検査では僧帽弁前尖の広範囲の逸脱と左房側に反転する断裂した乳頭筋を認め, 僧帽弁逆流は4度であった. 発症8カ月後に手術を行ったが, 後乳頭筋は断裂しており, SJM弁を用いた弁置換術と冠状動脈バイパス術 (1枝) 三尖弁形成術 (Kay法) を行った. 摘出標本では凝固壊死と空胞化を認め, 心筋虚血が原因と考えられた.
  • 名村 理, 金沢 宏, 吉谷 克雄, 中澤 聡, 山崎 芳彦
    2000 年 29 巻 5 号 p. 354-357
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    49歳男. マラソン大会で20kmを完走, その1カ月後からランニング中に呼吸困難を自覚した. 右室流入部から起始し, 右室流出路を占拠, 両肺動脈に至る非浸潤性の心臓腫瘍が発見され手術を施行した. 2.0×2.0×10.0cm大の腫瘍を摘出, 病理組織診断では心臓原発性血管肉腫であった. 術後経過は良好であったが, 術後約4カ月目に局所再発, 脳転移が出現し再入院. 脳圧亢進症状が進行し, 手術後147日目に死亡した. 本症例は, その経過から急速な発育が示唆された. また, 非浸潤性の発育形態を示す心臓原発性血管肉腫はきわめて希であると考えられた.
  • 上平 聡, 鈴木 喜雅, 中村 嘉伸, 谷口 巌, 山家 武
    2000 年 29 巻 5 号 p. 358-361
    発行日: 2000/09/15
    公開日: 2009/04/28
    ジャーナル フリー
    78歳, 男性の慢性解離性上行大動脈瘤+弓部真性大動脈瘤切迫破裂症例に対して超低体温循環停止・逆行性脳灌流法 (80分間) 下に elephant trunk 法を用いて上行弓部大動脈置換術を施行し良好な結果を得た. 術中の経頭蓋ドップラーを用いた脳血流速度連続モニタリングでは, 体外循環離脱後に脳浮腫状態を呈しており, 長時間の逆行性脳灌流法のさいには灌流圧上昇に留意し, かつ灌流後の積極的な脳浮腫対策が重要であると思われる. また術後CTでは下行大動脈の elephant trunk 部位周囲には血栓形成を認めておらず, 今後残存した下行大動脈拡大, elephant trunk 部周囲の血栓閉塞に関して厳重に経過観察を要すると考える.
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