日本心臓血管外科学会雑誌
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39 巻, 2 号
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総説
症例報告
  • ——ハイリスク合併症症例における治療戦略——
    角野 聡, 松濱 稔, 藤崎 浩行, 南淵 明宏
    2010 年 39 巻 2 号 p. 60-64
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    大動脈炎とそれに起因する胸部大動脈瘤と大動脈の高度石灰化・蛇行,さらに左内胸動脈閉塞を合併したハイリスクな不安定狭心症に対し心拍動下冠動脈バイパス術を施行した.患者は66歳女性,労作時胸部不快感を訴え外来受診した.精査の結果,両冠動脈入口部の重度狭窄および左内胸動脈閉塞を有する不安定狭心症と診断され,冠動脈バイパス術が第1治療選択となった.術前検査にて両下肢のABI低下,CTにて大動脈炎による大動脈の高度石灰化,胸部下行大動脈瘤と大動脈の蛇行を合併していた.このため体外循環,補助循環サポートは使用困難であり,手術は全身麻酔下に胸骨正中切開し,右内胸動脈と大伏在静脈グラフトを使用してcomposite graftを作製し,心拍動下に4枝バイパスを施行した.術中SPY system(intraoperative ICG-based imaging system, Novaq Technologies ; Toronto, ON, Canada),術後3カ月に冠動脈Multi-Detector CT(MDCT)にてグラフトの開存を確認し,良好な結果を得た.
  • 権 重好, 末松 義弘, 森住 誠, 清水 剛, 西村 隆, 許 俊鋭
    2010 年 39 巻 2 号 p. 65-68
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は茨城県在住の63歳の男性.2008年6月5日大分県別府に旅行中,AMIにて近医救急搬送された.LMT閉塞を認め,PCIを施行した.再開通するもLOSにてIABP,PCP S離脱できず,6月19日大分大学付属病院へ転院し東洋紡社製LVADを装着した.12月7日縦隔洞炎を契機に敗血症となる.創部よりMRSAが検出され,創部開放し連日縦隔洗浄を行った.患者および家族の強い希望にて,東京大学付属病院を経由し,4月1日当院へ転院となる.医師,リハビリ士,臨床工学士,看護師と綿密な打ち合わせの元,全身状態の悪化の可能性も考え,外出に要すると考えられる必要最小限の外出プログラムを計画した.起立,立位,歩行器による室内歩行,段差昇降リハビリを行い,4月25日モバートNCVCにて一時外出した.片道40 km,自宅滞在時間2時間30分,外出時間5時間であった.移動中トラブルは無かった.今回の一時帰宅は,患者および家族に対する精神的効果は絶大であった.治療の目標や到達点を見出せない中,心臓移植や離脱困難なLVAD装着患者にとって外出プログラムは,患者および家族のQOL向上になり得る.
  • 八丸 剛, 渡辺 正純, 川口 悟, 中原 秀樹
    2010 年 39 巻 2 号 p. 69-73
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性.胸腹部大動脈瘤破裂で前医より緊急搬送された.CTで腹腔動脈分岐部直上に最大径70 mmのsaccular typeの大動脈瘤とその周囲の血腫を認めた.上腸間膜動脈(SMA)の選択的造影で膵アーケードを介した腹腔動脈(CA)分枝の良好な血流を確認したうえで,SMAを温存するようにCA開口部(celiac axis)を閉鎖し末梢側landing zoneを確保してステントグラフト(SG)を留置した.術後CTでエンドリークはなく,CA分枝がSMAからの側副血行を介して開存していることを確認した.術後は,腹部臓器障害や対麻痺もなく,第36病日に独歩退院した.術後6カ月のCTも問題なく,外来通院中である.本症例のようなSG治療による低侵襲化は,破裂性胸腹部大動脈瘤治療の重要な選択肢になりうると考えられる.
  • 田中 恒有, 大喜多 陽平, 齊藤 政仁, 六角 丘, 入江 嘉仁, 今関 隆雄
    2010 年 39 巻 2 号 p. 74-77
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.20年前に心房中隔欠損症(atrial septal defect : ASD)と診断されたが未治療であった.健診で心雑音を指摘され,当院を受診し二次孔欠損型ASDおよび三尖弁閉鎖不全症と診断された.心カテでのQp/Qsは2.9,肺血管抵抗は3.1単位,収縮期肺動脈圧は90 mmHgであった.手術適応と判断され,ASD閉鎖術と三尖弁輪縫縮術を施行した.第2病日に肺動脈圧上昇と血圧低下をきたし,左心不全に陥った.カテコラミンとホスホジエステラーゼ(PDE)III阻害薬では左心不全が改善せず,大動脈バルーンパンピング(IABP)を挿入し循環動態は安定した.第10病日にIABPを抜去した.術後に循環不全を発症した経過を考えると,ASDの手術時期は限界時期であったことが推察された.ASDに対する手術は比較的安全であると認識されているが,肺高血圧症を合併した高齢者例では術後循環不全の発生を想定した厳重な術後管理が必須と思われる.
  • 木川 幾太郎, 山内 治雄, 三浦 純男, 福田 幸人, 宮入 剛
    2010 年 39 巻 2 号 p. 78-81
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    基礎的心疾患や薬物常用歴のない成人に発症した三尖弁位感染性心内膜炎に対して,弁形成術を施行した1例を報告する.症例は35歳男性.発熱を主訴に受診し,経口抗生剤を投与されるも解熱と発熱を繰り返した.血液培養にて黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出され,心エコーで三尖弁に疣贅と中等度逆流を認めた.保存的治療で感染の制御が困難なため,活動期であったが手術を施行した.疣贅を含む中隔尖の約1/2と後尖の約1/2を一塊として切除し,切除部の弁輪縫縮と弁尖の縫合を行った.人工弁輪は使用しなかった.術後経過は順調で三尖弁逆流はほぼ消失し,追加の抗生剤治療で感染の制御を行った後に退院した.術後1年余を経過した現在も感染の再燃を認めていない.
  • 村瀬 俊文, 田村 進, 横室 仁志, 大関 泰宏, 海老根 東雄
    2010 年 39 巻 2 号 p. 82-85
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.38歳時に心房中隔欠損症(ASD)で直接閉鎖術を施行している.今回,NYHA IIの労作時息切れを主訴に当院を受診した.心エコー上,僧帽弁閉鎖不全症(MR),三尖弁閉鎖不全症(TR),ASDシャントの残存を認め,手術の方針となる.術前の冠動脈造影検査にて右冠動脈(RCA)および左冠動脈前下行枝(LAD)より肺動脈主幹部へ流入する異常血管を認めた.また,RCAからの異常血管は一部,瘤を形成しており,CTでも同様の所見を認めた.僧帽弁置換術(MVR),三尖弁形成術(TAP),ASD閉鎖術と同時に冠動脈肺動脈瘻閉鎖を行った.冠動脈肺動脈瘻閉鎖では肺動脈内腔からの瘻孔閉鎖と瘻結紮を行った.体外循環下に肺動脈(PA)を横切開し,肺動脈内腔に冠動脈肺動脈瘻の開口部を認めた.LADより分岐した異常血管を同定し結紮切離した.RCAからの異常血管は同定できず,PA前面に確認できた瘤への血管を結紮した.PA閉鎖の際に異常血管の開口部を縫合閉鎖した.術後経過は良好で,合併症なく経過した.術後に行った冠動脈造影では,冠動脈肺動脈瘻の一部残存を認めた.より確実に瘻孔閉鎖を行うには肺動脈内腔からの瘻孔閉鎖と異常血管を同定した上での瘻結紮が必要と考えられた.
  • 渡邊 隼, 小宮 達彦, 坂口 元一, 伊藤 丈二
    2010 年 39 巻 2 号 p. 86-89
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は25歳,男性.先天性二尖大動脈弁の診断で外来経過観察中であった.3カ月から不明熱が出現し,近医を受診した.抗生剤加療を受けたが改善は得られなかった.心エコー図を施行したところ,僧帽弁前尖に疣贅を認め当科紹介となった.来院後の経食道心エコー図では重度の大動脈弁逆流と僧帽弁前尖の疣贅と弁瘤形成を認めた.感染性心内膜炎の診断のもと,抗生剤加療を施行した.解熱傾向および炎症所見も若干の改善を認めたが改善が思わしくなかったため入院8日目に手術を施行した.大動脈弁は手術所見では単尖弁であった.交連部を形成し二尖弁として逆流を制御した.僧帽弁には弁瘤の形成を認めたため,切除し自己心膜パッチを用いて形成した.術後経過は良好で術後の心エコー図でも僧帽弁逆流は認めず,大動脈弁の逆流も極わずかであった.重度の大動脈弁逆流を伴う先天性単尖大動脈弁と感染性心内膜炎により僧帽弁瘤を形成した僧帽弁に対して二弁形成術を施行し良好な結果を得たので若干の文献的報告を加え報告する.
  • ——In situ 人工血管置換術例と in situ 凍結保存同種大血管置換術例——
    上原 麻由子, 丸山 隆史, 山田 陽, 中西 克彦, 栗本 義彦, 岡本 史之, 酒井 圭輔, 樋上 哲哉
    2010 年 39 巻 2 号 p. 90-93
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    感染性腹部大動脈瘤は腹部大動脈瘤の1~3%を占めるとされ,その診断および治療については問題点も多い.われわれは,発熱を主訴として来院した腎動脈下の感染性腹部大動脈瘤を3例経験した.不明熱の原因検索に時間を要したが,感染性腹部大動脈瘤の確定診断には血液培養のほかに数回の造影CTが非常に有用であった.治療は術前に適切な抗生剤でできる限り全身の感染コントロールを行ったうえで,適切な手術時期を決定することが重要であった.手術は1例でシプロフロキサシンに浸したin situ人工血管置換術,2例で凍結保存同種大血管(Homograft)による置換術を施行したが,いずれも良好な術後経過を得ることができた.
  • 横山 雄一郎, 佐藤 晴瑞
    2010 年 39 巻 2 号 p. 94-98
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    マルチスライスCT(MDCT)の登場により,冠動脈の評価だけでなく外科手術におけるさまざまな情報収集が可能となった.心筋症に対する心筋viabilityの評価においては,心筋シンチやMRIによる評価が一般的であるがCTにおいても十分な情報を得ることができる.症例は59歳,男性.45歳時に冠動脈3枝病変に対し他院で冠動脈バイパス手術をうけた.この時点で前下行枝領域は陳旧性心筋梗塞で低左心機能であった.その後内服を自己中止,通院をまったくしていない状況が続き,2009年2月に呼吸困難を主訴に当院に来院された.虚血性心筋症による心不全および左室内浮遊血栓を認め緊急手術を行った.術前CTで,左室viabilityの評価を行い,overlapping typeの左室形成術を選択した.側副血行路も含めた冠動脈評価によりバイパス部位を決定した.重度の僧帽弁逆流も認めていたが,CTにて乳頭筋間距離の拡大を認めなかったため,僧帽弁輪形成術のみ行った.左室内血栓の局在もCTにて明確に同定可能であった.術後の左室形態,心機能についてもCTによる評価が有用であった.
  • 中山 祐樹, 椎川 彰, 鮎澤 慶一, 細田 進
    2010 年 39 巻 2 号 p. 99-103
    発行日: 2010/03/15
    公開日: 2010/10/06
    ジャーナル フリー
    Marfan症候群に大動脈弁輪拡大症(AAE),大動脈弁閉鎖不全症(Ar)と重症漏斗胸を合併する症例では,時に陥凹した胸骨が心臓や大動脈瘤に極めて近接している場合がある.このような症例の手術の際には胸骨正中切開時の心臓や大動脈瘤の損傷の危険や,漏斗胸を端整しなかった場合術後の胸骨による心大血管への圧排といった問題点がある.また美容上の問題も軽視できない.今回我々はこのような症例に対し,胸骨の尾側2/3を周囲の肋軟骨を含め大きく切除遊離し,過剰形成した肋軟骨を除去した後に形成した胸骨を翻転し胸郭を再構築する胸骨部分翻転挙上術をBentall手術と同時に行った.この同時手術はこのような症例の開胸時の心大血管損傷の回避と良好な視野の確保,また術後の胸骨圧迫による血行動態の不安定性の回避,そして美容上の観点からも有用であると考えられたので報告する.
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