日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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44 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 小澤 英樹, 根本 慎太郎, 島田 亮, 福原 慎二, 小西 隼人, 本橋 宜和, 打田 裕明, 勝間田 敬弘
    2015 年 44 巻 2 号 p. 65-69
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    [目的]小児開心術後に生じた縦隔洞炎に対する治療では,成人の場合での治療アプローチをそのまま適応することは困難である.近年発達した陰圧閉鎖療法を当科独自に簡便化した方法を小児領域に導入し,局所の菌の陰性化を得た後に組織充填なしに閉胸を行っている.本治療法の妥当性を検討した.[対象と方法]開心術後中央値16(9~26)日後に胸骨離開を伴う縦隔洞炎を発症した連続7例(生後20日~3歳,体重3~15 kg)に対して本法を行った.縦隔洞炎の診断後,速やかに手術室で全身麻酔下に十分なデブリドメントを行い,感染部位すべて(縦隔,心嚢,胸腔)に創部ドレッシング用薄型ポリウレタンフォームを充填し,ドレーンを1~3本留置の後にイソジンドレープで密閉して-99 cmH2Oで(-73 mmHgに相当)持続吸引を行った.麻酔覚醒の後に,一般病棟で行動制限のない管理を行った.2~3日ごとに同処置を繰り返し,連続2回の創部培養の陰性化を確認後に閉胸した.治療期中は抗生剤の全身投与を継続した.[結果]全例で中央値6(3~12)日で創部菌陰性化が得られた.死亡1例を除く6例は中央値13(7~19)日で閉胸可能となり,生存退院した.[結論]患児の日常生活動作を落とさず,循環動態への影響が少なく,特別な装置を要しない本治療は小児領域の縦隔洞炎に対する有効な一治療法と考えられた.
症例報告
  • 新城 宏治, 佐戸川 弘之, 高瀬 信弥, 瀬戸 夕輝, 五十嵐 崇, 籠島 彰人, 藤宮 剛, 横山 斉
    2015 年 44 巻 2 号 p. 70-73
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    症例は65歳男性.亜急性心筋梗塞の診断で保存的加療中,房室ブロックによる意識消失発作を来たし,右冠動脈に緊急経皮的冠動脈インターベンションが施行された.その3週間後に心エコーおよびCT検査で仮性心室瘤を認め,手術となった.術中所見では心膜との強固な癒着を認め,中隔から下壁基部に壊死した心筋壁と偽性仮性心室瘤を認めた.手術は仮性瘤を切開し,同部を二重にパッチ閉鎖した.術後経過は良好であった.偽性仮性心室瘤は稀な症例であり,これに対して二重パッチによる閉鎖が有効であった症例を経験したので報告する.
  • 古賀 智典, 小宮 達彦, 恒吉 裕史, 島本 健
    2015 年 44 巻 2 号 p. 74-78
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    症例は75歳の女性.呼吸困難感を主訴に当院救急外来を受診し,急性心不全の診断で同日緊急入院となった.血圧が低く呼吸不全も来たしていたため,集中治療室での全身管理を開始した.経胸壁心エコーでは重度の三尖弁閉鎖不全症を認めており,三尖弁閉鎖不全症による急性右心不全が原因で心原性ショックを来たしていると考えられたため,緊急手術を施行した.術中所見からは三尖弁輪の著明な拡大と腱索の短縮を認め,弁尖は右室側に引っ張り込まれていた.当初は三尖弁輪縫縮術を試みたが三尖弁逆流が改善しなかったため,三尖弁置換術を行い逆流の制御を得た.術前に肝不全,腎不全を合併していたため術後はCHDFなど施行して全身管理を行った.術後10日で一般病棟へ退室し,術後36日で転院となった.
  • 田中 秀弥, 古川 浩二郎, 諸隈 宏之, 野口 亮, 伊藤 学, 蒲原 啓司, 森田 茂樹
    2015 年 44 巻 2 号 p. 79-81
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    症例は82歳女性.意識障害(JCS II-10),右片麻痺,失語を認め当院に救急搬送された.頭部MRI検査で左中大脳動脈領域に急性期脳梗塞を認め,発症3時間以内であったためt-PA療法を施行された.同日施行した心エコー検査で左房内に径55×23 mmの可動性のある腫瘤を認めた.緊急での腫瘤摘出も検討したが梗塞巣が左大脳半球の広範囲に及んでいたため,数日間経過観察する方針とした.発症4日目の頭部CT検査で同部位に出血性梗塞,頭部MRI検査で左大脳半球に新規梗塞巣を認めた.意識レベルや失語は改善傾向であったため,手術当日に頭部CT検査で出血巣の拡大がないことを確認し,発症5日目に腫瘤摘出術を体外循環下に施行し,術後脳合併症の併発なく退院した.左房粘液腫は心原性脳梗塞をきたすため発見早期に外科的切除を行う必要があるが,脳梗塞発症急性期には人工心肺使用による出血性梗塞の危険があるため,手術を行う時期を決定するのに難渋する.本症例では広範囲脳梗塞発症後に出血性梗塞をきたしていたものの,①神経学的所見の悪化を認めなかったこと,②発症4日目の頭部MRI検査で新たに梗塞巣を認め,致死的な梗塞を再度きたす可能性があったこと,③手術当日に再度頭部CT検査を行い,出血巣の拡大を認めなかったことから脳梗塞発症急性期の開心術に踏み切り良好な結果を得たため,文献的考察を加えて報告する.
  • 流郷 昌裕, 今川 弘, 泉谷 裕則, 八杉 巧, 阪下 裕司
    2015 年 44 巻 2 号 p. 82-86
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    患者は34歳女性.肺動脈閉鎖症/心室中隔欠損症(PA/VSD)に対する複数回の姑息手術,根治手術を経たのち,28歳時に,閉塞したPotts' shunt(体肺動脈シャント)の大動脈吻合部の仮性動脈瘤に対して,人工心肺下にパッチ閉鎖を施行した.その後外来にて経過観察中に,頻回の喀血による貧血が生じ,入院となった.精査にて,上記吻合部仮性動脈瘤の再発を認めた.患者はこれまでに正中開胸,左側方開胸とも2回以上施行しており,いずれのアプローチであっても癒着剥離に難渋することが予想されたため,左鎖骨下動脈のdebranchingを併用したTEVARを施行した.術後,喀血は消失し,術後8日目に自宅退院した.
  • 須原 均, 高橋 俊樹, 木戸 高志, 甲斐沼 孟
    2015 年 44 巻 2 号 p. 87-91
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    感染性心内膜炎と,化膿性脊椎炎の合併は比較的稀である.症例は80歳男性.68歳時に大動脈弁閉鎖不全に対し,生体弁(Hancock II)を用いた大動脈弁置換術の既往あり.腰背部痛が出現し,当院に緊急搬送された.化膿性脊椎炎が考慮され,早期に抗生剤投与を開始したが,感染性心内膜炎の合併が判明した.抗生剤は奏功したが,その後,人工弁機能不全出現のため,大動脈弁再置換術を要した.大動脈弁置換術後の経過は良好であった.生体弁置換術後の感染性心内膜炎は,弁自体の経年的構造劣化進行の可能性もあり,その弁機能不全は血液検査所見のみではその進行度は反映されない.特に長期間の抗生剤投与を必要とする化膿性脊椎炎合併例では,より術前術後の注意深いフォローが必要であると思われた.
  • 瀬尾 浩之, 藤井 弘通, 青山 孝信, 笹子 佳門
    2015 年 44 巻 2 号 p. 92-96
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    症例は72歳の男性.閉塞性肥大型心筋症と診断され,4年間,薬物加療が行われていたが,労作時倦怠感および呼吸苦が出現した.心エコー検査では,全周性の心筋肥大と左室中部から流出路における狭窄病変を認め,同部位での最大圧較差は94 mmHgと増悪していた.また,前乳頭筋が著明に肥大して前方に偏位しており,同乳頭筋から僧帽弁前尖へ付着する腱索が著明に短縮しtetheringを認めていた.収縮期には,肥大した前乳頭筋が心室中隔側へ偏位し,さらに僧帽弁前尖の収縮期前方運動も伴って左室内狭窄の原因となっていた.乳頭筋異常による左室内狭窄を合併した肥大型心筋症と診断し手術を施行した.手術は乳頭筋切除を含めた機械弁による僧帽弁置換術を行った.術後経過は良好で,合併症なく経過し,術後14日目に軽快退院した.術後の心エコー検査では,左心室内の狭窄病変は認めず,左室内圧較差は消失していた.僧帽弁下組織の異常に伴う左室内狭窄を合併した肥大型心筋症に対しては,経大動脈弁での中隔心筋の切除のみでは改善しないことがある.このような症例においては乳頭筋切除を伴った僧帽弁置換術も重要な選択肢のひとつであると思われた.
  • 木南 寛造, 森田 紀代造, 黄 義浩, 篠原 玄, 橋本 和弘
    2015 年 44 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    ファロー四徴症,肺動脈弁欠損症に対する手術方針としては,近年の報告では一期的心内修復術が主流であるが,新生児期や乳児期に介入した例の予後は死亡率17~33%と必ずしもよくはない.今回われわれは新生児期開心術の回避を目的にePTFEパッチを用いた主肺動脈閉鎖,肺動脈縫縮とともにePTFE graftによる体肺動脈シャントを行う新生児期姑息術を用い良好な経過を得た2症例を経験した.症例1は生後7日の男児,出生直後から進行性に肺動脈拡張および呼吸不全が増悪し,拡張した肺動脈による左気管支とともに,上大静脈狭窄,左房圧排による左室容積減少等の心血管系異常を認め日齢7で同手術を施行した.術後肺動脈の拡張はPA index(mm2/m2)術前2,550から525と改善を認め,それに伴い上大静脈狭窄,気管支圧迫が解除され,また左房圧排は改善し左室容積は正常化した.症例2は生後16日目の男児,急速に主肺動脈径の増大(8 mmから17 mm)が見られ,CT上は気管支圧迫の所見は見られなかったが手術適応と考え日齢16に同手術を行った.術後肺動脈の拡張はPA index(mm2/m2)術前1,200から385と改善が得られ,その後良好な経過にて1歳0カ月時に心内修復手術を施行した.同疾患で新生児期に手術介入を余儀なくされる場合,われわれの方針は一期的心内修復に比べより安全性が高く有用であると思われた.
  • 八神 啓, 村山 弘臣, 長谷川 広樹, 前田 正信
    2015 年 44 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    巨大左房は,長期間僧帽弁疾患を罹患した結果生じることが多く,小児での報告は少ない.当院では,先天性僧帽弁閉鎖不全症(MR)に続発した巨大左房症例のうち,左房拡大による有症状小児に対して,僧帽弁形成術(MVP)と併せてcircular LA resectionによる左房縮小術を施行している.その経過について,2例の経験を報告する.症例1は1歳の男児.心雑音を契機に,IV度のMRと巨大左房を診断した.気道狭窄音を認め,胸部CTにて,拡大した左房による左気管支の圧迫狭窄がその原因と診断した.MVPとcircular LA resectionによる左房縮小術を行うと,術後/術前の左房容積比は0.23で,心胸郭比(CTR)は,術前後で60%→49%となった.気道狭窄音は消失し,術後経過良好であった.症例2は12歳の女児.部分型房室中隔欠損症に対し,1歳時に,他院で心房中隔一次孔欠損閉鎖,MVPの施行後であった.転居に伴い当院紹介となり,外来経過観察中にMRの増悪を認めた.胸部CTでは,拡大した左房と胸骨,脊椎によって右房が圧迫されており,右心不全症状を認めた.この症例に対し,MVPとcircular LA resectionによる左房縮小術を行った.術後/術前の左房容積比は0.22で,術前後のCTRは63%→57%となった.右心不全症状は改善し,術後経過良好であった.巨大左房を合併する僧帽弁疾患に対して,MVPに加えてcircular LA resectionを施行することで,効果的に左房縮小が可能であった.本法は,小児においても,症例を選んで検討するべき手技であると考えている.
  • 阪口 正則, 村上 忠弘, 石川 巧, 南村 弘佳
    2015 年 44 巻 2 号 p. 108-111
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.食後の腹痛および血便を認め,下部消化管内視鏡検査で虚血性腸炎が疑われた.腹部造影CT検査で上腸間膜動脈の起始部閉塞による腹部アンギーナと診断された.造影CT検査では,胸腹部大動脈および腹部大動脈に壁在血栓を伴う拡大と高度の大動脈壁石灰化を認め,また,両側の総腸骨動脈にも高度の狭窄を認めた.手術は,大伏在静脈グラフトを用い,腹部の主要な分枝動脈で唯一起始部から末梢まで狭窄を認めなかった右腎動脈から,上腸間膜動脈にバイパス術を行った.術後,食後の腹痛は消失し,良好な経過を得た.
  • 飯田 淳, 森島 学, 植山 浩二
    2015 年 44 巻 2 号 p. 112-116
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    心臓原発腫瘍は稀な疾患であり,心臓粘液線維肉腫はそのなかでもきわめて発生頻度の低い腫瘍である.そのため鑑別疾患に上がりにくく,術前確定診断は困難であり,さらに見慣れない病理所見であるがゆえに悪性度によっては他疾患との識別が困難な場合がある.今回初回手術時の病理所見で粘液腫と診断され,再発時の再検討で粘液線維肉腫の診断にいたった心臓原発腫瘍の症例を経験したので報告する.症例は63歳女性.労作時呼吸苦で近医を受診し,心エコーで左房内腫瘍を指摘された.腫瘍は僧帽弁前尖弁輪部近傍の中隔に茎をもつ,44×20 mmの多房性,可動性のものであった.腫瘍による僧帽弁狭窄症から心不全症状を呈しており,塞栓症の危険性も高いことから手術適応となった.手術は体外循環下に,腫瘍切除,僧帽弁輪形成術,三尖弁輪形成術を行った.術後病理診断は粘液腫であった.初回手術より7カ月後に下腿浮腫,呼吸苦の症状で当院を受診した.左房中隔,僧帽弁輪前後尖部に多発性の腫瘍再発を認めた.心血管系病理専門医に前回の病理所見の再確認を依頼したところ,粘液線維肉腫が疑われた.腫瘍による心不全所見を認めたため症状緩和目的に,腫瘍切除術を行った.腫瘍は左房自由壁,僧帽弁前尖弁輪,後尖弁輪に計3個認め,心房自由壁は壁ごと切除したが,僧帽弁輪部の腫瘍は可及的掻把を行うにとどまった.術後の病理診断で粘液線維肉腫と確定診断された.病理所見は前回の所見と比較し悪性度の上昇を認めた.術後は僧帽弁閉鎖不全が残存し,心不全コントロールに難渋した.腫瘍の右胸腔内への進展と腫瘍塞栓による脳梗塞の合併を認め,再手術5カ月後(初回診断から12カ月後)に心不全増悪と呼吸不全のため死亡した.死後の剖検で,粘液線維肉腫は心臓原発であると確定した.
  • 林田 智博, 横田 豊, 徳永 宜之, 中井 幹三, 岡田 正比呂
    2015 年 44 巻 2 号 p. 117-120
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/04/11
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.肺炎を契機に他院に入院した際のCTで,左冠洞と無冠洞にそれぞれ31 mm,21 mmの瘤を認めた.大動脈弁の逆流を軽度認め,自己弁温存大動脈基部再建術を予定したが,術中所見よりBentall手術に移行した.瘤壁の病理組織像は高安動脈炎の所見であり,疫学的背景から考えても非常に珍しいものであった.経過は良好で術後14日目に独歩退院した.高安動脈炎による未破裂バルサルバ洞動脈瘤は稀であり,文献的考察を含めて報告する.
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