日本心臓血管外科学会雑誌
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44 巻, 4 号
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第45回 日本心臓血管外科学会学術総会 理事長講演
症例報告
  • 宮坂 成人, 森本 啓介, 西村 謙吾, 藤原 義和
    2015 年 44 巻 4 号 p. 184-187
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    症例は58歳男性.維持透析中であり,心エコー検査にて偶然僧帽弁に付着する腫瘤を指摘され,手術目的に紹介となった.腫瘤は大きさ約1 cmの球状であり,僧帽弁後尖より発生していた.粘液腫を疑い,右小開胸(MICS)による手術にて後尖の一部とともに腫瘤を切除した.病理組織検査において炎症性偽腫瘍の診断となった.術後1年2カ月の経過観察期間中,再発は認めなかった.炎症性偽腫瘍は,炎症性細胞の浸潤と筋線維芽細胞の増殖を特徴とする腫瘤性病変であるが,多くは小児に発生し部位は肺内が最も多い.心臓原発の炎症性偽腫瘍の報告は少なく,特に僧帽弁より発生したものは,調べ得た限り4例ときわめて稀な症例であったので,文献的考察を加え報告する.
  • 山下 洋一, 中川 さや子, 阪本 浩助, 堀井 泰浩
    2015 年 44 巻 4 号 p. 188-192
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.当院泌尿器科でロボット支援下前立腺全摘出術を受け退院したが,術後16日目に39度台の発熱で再入院となった.原因検索のCTで弓部に動脈瘤を認め当科紹介となった.最大径は40 mmであったが入院時の血液培養でBacteroides fragilisが検出されていた.抗生剤をcefotiamからtazobactam piperacillinに変更したが発熱は治まらず,CT再検で瘤の急激な拡大(最大径50 mm)を認め準緊急でrifampicin含浸Dacron graftを用いた弓部全置換術を行った.術後いったん解熱していたが術後9日目に発熱を認めた.CTでは腹腔動脈近傍の胸腹部大動脈が瘤化しており,準緊急で胸腹部置換術を行った.2回目の手術前にはFDG-PET/CTを行い,置換範囲の参考とした.術後抗生剤はclindamycin+meropenemを6週間継続し,以後levofloxacin+Metronidazoleの内服に変更し再発は認めていない.Bacteroidesによる感染性動脈瘤は報告が少なく文献的考察を加えて報告する.
  • 阪口 修平, 古川 貢之, 中村 栄作, 矢野 光洋, 中村 都英
    2015 年 44 巻 4 号 p. 193-197
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    症例は73歳男性.生体弁機能不全による重症大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁再置換術を行ったが,術直後から両側肺野透過性の低下を伴う低酸素血症を認め,血圧低下も進行したためIABPおよびPCPSを導入した.心エコーなどの検査所見から心原性肺水腫は否定的であり,possible transfusion-related acute lung injury(possible TRALI)と診断し厳重な管理を行った.術後2日目から改善傾向を認め,術後11日目に人工呼吸器を離脱し,特に後遺症なく術後50日目に軽快退院した.心臓手術患者はTRALIのリスクが高く,輸血後に低酸素血症を認めた場合はTRALIを鑑別診断として考慮し,迅速な診断と適切な対応を行うことが重要である.
  • 神吉 佐智子, 垣田 真里, 禹 英喜, 佐々木 智康, 大門 雅広, 勝間田 敬弘
    2015 年 44 巻 4 号 p. 198-202
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    左冠動脈回旋枝-冠静脈洞瘻に合併した直径50 mmの冠動脈瘤の破裂により,心タンポナーデをきたした1例を経験した.症例は83歳,男性.心タンポナーデを機に冠動静脈瘻と,それに伴う冠動脈瘤を初めて指摘された.冠動脈瘤破裂に対し緊急手術を施行した.冠動脈瘤を切開し内部を観察したところ,瘤からの流出血管が冠静脈洞に合流する直前で,その内腔に7×15 mm大の赤色血栓を認めた.これにより流出血管がほぼ完全に閉塞しており,瘤内圧の上昇をきたした可能性があった.瘤を切除し,流入および流出血管を縫合閉鎖した.術後経過は良好であった.冠動脈瘤破裂の一因として,瘤流出路血管の血栓閉塞を考慮する必要性を示唆する症例であり,未破裂冠動脈瘤の治療指針について再考を要する.
  • 中嶋 和恵, 吉村 幸浩, 外山 秀司, 前川 慶之, 皆川 忠徳, 内田 徹郎, 貞弘 光章
    2015 年 44 巻 4 号 p. 203-207
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    きわめて稀な腹部大動脈原発平滑筋肉腫を経験した.症例は57歳,男性.2000年9月臍上部に重苦感,圧痛を自覚した.同年10月腹部大動脈瘤切迫破裂疑いにて準緊急手術を施行したが,手術所見では腎下部腹部大動脈腹側より発生する腫瘍を認めた.病理学的検査で平滑筋肉腫と診断され,経過中に局所再発を繰り返したものの,手術のほか,化学療法,粒子線治療を併施する積極的な集学的治療を行い,生命予後のきわめて不良な疾患であるが,診断後約7年半の長期生存を得ることができた.
  • 本田 威, 桒田 憲明, 滝内 宏樹, 山澤 隆彦, 渡部 芳子, 古川 博史, 柚木 靖弘, 田淵 篤, 正木 久男, 種本 和雄
    2015 年 44 巻 4 号 p. 208-211
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    CABG後の再手術において心筋保護の投与方法はしばしば問題とされる.症例は69歳女性,僧帽弁非直視下交連切開術(CMC),大動脈弁および僧帽弁置換術(DVR),冠動脈バイパス術(CABG)と3回の手術歴があり,僧帽弁の弁周囲逆流(PVL)による溶血性貧血にて僧帽弁再置換術および右冠動脈へのグラフト閉塞に対しCABGを行った.左冠動脈起始部(LMT),右冠動脈(RCA)は完全に閉塞していたため,左冠動脈系は左内胸動脈(LITA)のみで灌流されており,右冠動脈系は側副血行路が発達することで灌流されていた.これに対し左前下行枝(LAD)末梢に大伏在静脈(SVG)にて心筋保護投与用の一時的グラフト吻合を行い,右冠動脈系には新たなバイパスグラフトから投与を行うことで問題なく心筋保護液を全体的に分布させることができた.心筋保護の最適な戦略は患者背景・状況によってさまざまで,患者に合った最適の心筋保護戦略を選択すべきである.
  • 池野 友基, 山田 章貴, 顔 邦男, 麻田 達郎
    2015 年 44 巻 4 号 p. 212-216
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    高齢化社会を背景に,動脈硬化性疾患であるShaggy Aorta Syndromeは本邦でも症例報告が散見されるようになってきたが,依然として診断,治療に一定の見解はない.今回当科にて経験した2症例について報告する.症例1は,75歳男性で腎動脈下腹部大動脈に限局したShaggy Aortaから,左膝窩動脈へのAcute Limb Ischemia(ALI)をきたした症例である.症例2は,維持透析中の76歳男性で,腎動脈下腹部大動脈のモバイルプラークを起源とするblue toe syndromeをきたした症例である.この2症例に対し,塞栓源の根治を目的に腹部大動脈人工血管置換術を施行し,術後1年以上再発なく経過している.腎動脈下腹部大動脈に限局したShaggy Aortaに対して再発防止のため人工血管置換術が有効であると考えられた.また,大動脈エコー検査が術前の診断ならびに術中の遮断部位の決定に有用であった.
  • 横山 賢司, 広岡 一信, 田﨑 大, 大貫 雅裕
    2015 年 44 巻 4 号 p. 217-220
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    未分化多形成肉腫はきわめて稀な心臓悪性腫瘍である.今回われわれは縦隔浸潤を認めた左房内腫瘍に対して2度の部分切除術を施行したのち,いったん寛解したかに思われたが3年後に腫瘍の再燃を認めたため再々切除術と僧帽弁置換術を行い良好な結果を得たので報告する.
  • 山本 信行, 贄 正基, 笹原 聡豊, 小原 邦義
    2015 年 44 巻 4 号 p. 221-223
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    症例は74歳男性.心房細動にてワーファリン内服していたが,上部消化管出血を認め,ワーファリンを中止していた.その1週間後に,左片麻痺が出現し,頭部MRIにて多発性脳梗塞を認めた.全身検索を行うと,両心房内に血栓を認めると同時に,十二指腸癌を認めた.両心房の血栓は,それぞれ大きさが30 mmをこえており,塞栓症や突然死の危険性が高いと考えられた.担癌患者に対する人工心肺の使用に関しては議論のあるところであるが,血栓除去後の十二指腸癌に対する手術,追加治療にて年単位の生命予後が期待されたため,脳梗塞発症4週間後に両心房内の血栓除去術を施行した.今回の手術時期,適応に関して考察を述べる.
  • 上野 正裕, 井ノ上 博法, 山本 啓介, 森下 靖雄
    2015 年 44 巻 4 号 p. 224-227
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    薬剤溶出性ステント(DES)留置後に生じた冠動脈瘤に対し,off-pump冠動脈バイパス(OPCAB)を施行した1例を報告する.症例は77歳,女性.左前下行枝完全閉塞病変に対しDESを留置,6カ月後,15カ月後に再狭窄と軽度瘤化を認め,それぞれDESを追加留置された.24カ月後瘤は拡大していたがその後は心筋シンチのみ施行された.4年6カ月後,左股関節症術前検査でさらなる瘤の拡大と再狭窄に加え,対角枝,回旋枝の新規病変があり手術適応となった.手術はOPCABおよび瘤切除,ステント摘出を施行,術後経過良好で整形外科手術目的で転院した.
  • 宿澤 孝太, 戸谷 直樹, 百川 文健, 福島 宗一郎, 秋葉 直志, 大木 隆生
    2015 年 44 巻 4 号 p. 228-231
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    弓部の破裂性胸部大動脈瘤(rTAA)に対して,緊急でchimney techniqueを用いた胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)を行い救命し得た症例を経験したので報告する.症例は73歳の女性,最大短径51 mmの遠位弓部瘤を外来で経過観察していたが,突然の胸背部痛で救急搬送された.来院時はショック状態で,造影CTで弓部大動脈瘤の縦隔内穿破を認めた.緊急で腕頭動脈と左総頸動脈にchimneyステントグラフト(SG)を留置し,TEVARを行った.縦隔穿破はSGでsealされたが,第3病日に撮影したCTでtype 1aエンドリーク(EL)を認めた.Gutter ELと判断し,第10病日に左上腕動脈から左鎖骨下動脈経路で瘤内にアプローチして,瘤内をコイル塞栓した.第13病日のCTでELの消失を確認し,第18病日に軽快退院した.
  • 松浦 良平, 堤 泰史, 門田 治, 上仲 永純, 谷口 智史, 田中 健史, 佐村 高明, 大橋 博和
    2015 年 44 巻 4 号 p. 232-236
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    全弓部置換術後11年目にきたした巨大な弓部吻合部仮性動脈瘤に対して再手術を施行した稀な1例を経験した.症例は68歳男性.2003年(56歳)慢性大動脈解離に対して他院にて弓部3分枝島状再建による全弓部置換術が施行され,その後近医にてフォローアップされていた.特に症状はなかったが,長期間経過しておりCTを撮影したところ,81 mmの巨大な弓部吻合部仮性動脈瘤と大動脈基部拡張,冠動脈病変を指摘された.他院では手術困難であり,当院に紹介受診となった.右腋窩動脈・大腿動脈送血,大腿静脈脱血で体外循環確立し,選択的脳還流下に再全弓部置換+大動脈基部置換+冠動脈バイパス術を行った.術後一時期呼吸不全にて再挿管を行ったが,その後の経過は良好で術後50日目に退院となった.本症例のような島状再建法を施行した場合には遠隔期に仮性瘤が発生する可能性があり,術後も厳重な観察が必要である.特に慢性解離症例では初回手術時に極力大動脈壁を残さないような再建方法を十分検討する必要がある.
  • 柳澤 淳次, 前川 厚生, 澤木 完成, 星野 理, 林 泰成, 所 正佳, 伊藤 敏明
    2015 年 44 巻 4 号 p. 237-240
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    症例は58歳男性.労作時の胸部不快感を主訴に近医を受診し,心臓超音波検査で左房を圧排する腫瘤影を認めたため当院に紹介された.胸部造影CTでは大動脈基部の右背側に造影早期層で低吸収域を呈し,遅延造影される53×55×66 mmの腫瘤を認めた.体外循環使用下に腫瘍を切除した.手術所見は心房中隔から発生し頭側に心外発育した腫瘍であった.病理組織検査で血管筋脂肪腫と診断された.血管筋脂肪腫は,腎臓や肝臓に認められ結節性硬化症に関連する良性腫瘍として知られており,心臓原発は数例しか報告がない.また,心腔内に認めるものがほとんどであり本症例のように心外に発生する腫瘍は非常に稀であるため報告する.
  • 福井 伸哉, 光野 正孝, 山村 光弘, 田中 宏衞, 良本 政章, 梶山 哲也, 佐藤 礼佳, 宮本 裕治
    2015 年 44 巻 4 号 p. 241-244
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    強直性脊椎炎は,炎症性病変による慢性進行性関節炎で,骨格外合併症として,ぶどう膜炎の頻度が最も高い.心臓血管病変として,房室伝導路障害や大動脈弁閉鎖不全症が報告されているが,ともに合併し手術まで施行されている報告は見られない.今回,66歳の男性で30年前に強直性脊椎炎を発症し,ペースメーカー留置術を受けた後の大動脈弁閉鎖不全症に対し大動脈弁置換術を行った症例を経験したので報告する.
  • 波里 陽介, 華山 直二
    2015 年 44 巻 4 号 p. 245-248
    発行日: 2015/07/15
    公開日: 2015/07/28
    ジャーナル フリー
    心不全にて発症した腹部大動脈-下大静脈瘻の1例を経験したので報告する.症例は80歳男性.突然の呼吸苦,両下腿浮腫を自覚し,当院救急外来を受診した.急性心不全と診断され,緊急入院となった.血管造影検査の動脈相にて腹部大動脈から下大静脈が造影され,腹部大動脈-下大静脈瘻と診断した.内科的コントロールにて心不全症状の改善がなく準緊急的に手術を行った.大動脈瘤は認めず,瘻孔のみの閉鎖でよいと判断し,Stent graft内挿術を行った.術後経過は良好で術後15日目に退院となった.大動脈瘤を伴わない腹部大動脈-下大静脈瘻は非常に稀な疾患であり,診断に難渋する.症例によっては腹部大動脈-下大静脈瘻に対してStent graft内挿術が有用であると考えられる.
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