日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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39 巻, 3 号
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原著
  • 高味 良行, 田嶋 一喜, 宗像 寿祥, 日尾野 誠, 藤井 恵, 岡田 典隆, 酒井 喜正
    2010 年 39 巻 3 号 p. 105-110
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    癒着による様々なリスクが伴う心臓大血管再手術に対する当院の戦略・術中損傷・合併症・治療成績について検証した.2003年1月から2008年12月までに再手術を施行した52名(男性36名,62±14歳,全成人手術患者の4.5%)を対象とした.先行手術から再手術までは10.1±9.3年であった.内訳は,感染症10例,弁手術後16例,冠動脈バイパス術後9例,Marfan症候群3例,大動脈手術後7例,先天性手術後4例,その他3例であった.前回と同一部位手術は34例(65%),開胸前大腿動静脈露出40例(77%),上行大動脈送血18例(35%),開胸前人工心肺19例(37%)であり,開胸前冷却を4例に,開存内胸動脈グラフトへの対処を6例に要した.手術時間9.6±2.5時間,人工心肺295±111分で,術中損傷を16例(31%)に認めた.47例(90%)に濃厚血小板輸血を要し,人工心肺再使用を8例(15%)に要した.主たる合併症は,出血14%,感染13%,脳梗塞4%,呼吸不全44%,血液浄化を要する腎不全10%であり,病院死亡は4例(7.7%)に認めた(感染再発,肝不全,肺出血,左室破裂).平均観察期間24±18カ月において1年生存率86.7%,2年生存率83.1%であった.心臓大血管再手術での胸骨再切開によるリスクは高くないが,癒着に伴う術野展開不良が致命的損傷を来たす.さらに死亡・合併症を削減する戦略には改善の余地がある.
症例報告
  • 鷹合 真太郎, 大竹 裕志, 渡邊 剛
    2010 年 39 巻 3 号 p. 111-113
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    馬蹄腎を合併した腹部大動脈瘤の症例では,腎峡部および異所性血管の処理が重要となる.症例は83歳,女性.馬蹄腎を合併した腹部大動脈瘤を指摘されていた.術前CT所見では左右腎主動脈のほかに,右総腸骨動脈より2本の腎副動脈を認めた.さらに,左腎副動脈は2本に分岐し,それぞれ左右腎下極に流入していた.手術では,腎峡部を離断し人工血管で置換した.腎峡部は線維性結合織で構成されており,離断し断端形成した.また,左腎副動脈右腎下極枝は温存困難な場所にあり,細く結紮切離した.尿漏出などの異常は認めなかった.腎峡部,腎副動脈の1本を処理したが,主要腎副動脈を温存し,人工血管置換術を安全,確実に行い良好な結果を得た.
  • 長 知樹, 鈴木 伸一, 南 智行, 磯松 幸尚, 益田 宗孝
    2010 年 39 巻 3 号 p. 114-117
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    今回我々は未破裂Valsalva洞動脈瘤が右室流出路狭窄を来した高齢者の2例を経験した.症例1は明らかな心不全症状は認めないが,心エコー,CTで高度右室流出路狭窄を認めたため,瘤口部のパッチ閉鎖術を行った.症例2は瘤による右室流出路狭窄から右心不全を発症し,大動脈弁閉鎖不全も合併したため,Valsalva洞動脈瘤縫縮,瘤口部のパッチ閉鎖および大動脈弁置換術を施行した.近年Valsalva洞動脈瘤の手術成績は良好であることから,大動脈弁閉鎖不全の増悪,心筋虚血や心不全などの合併症の出現する前に手術を施行すべきと考えられているが,右室流出路狭窄による手術適応例は少ない.術式は,瘤口部のパッチ閉鎖術が基本で,右室流出路狭窄を合併する際には瘤縫縮を施行し,中等度以上の大動脈弁閉鎖不全が合併する場合には積極的に大動脈弁形成もしくは置換術を考慮すべきである.
  • 庄嶋 賢弘, 安永 弘, 榎本 直史, 坂下 英樹, 尾田 毅, 細川 幸夫, 藤堂 景茂
    2010 年 39 巻 3 号 p. 118-121
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,男性.2005年9月に先天性二尖弁に伴う大動脈弁狭窄症に対し大動脈弁置換術が施行された.術後急性期より大動脈弁位人工弁流速は軽度高値を示したが,全身状態は良好であったため外来にて経過観察されていた.その後経胸壁心エコーにて徐々に流速の上昇を認め,2007年11月より労作時の前胸部不快感が出現し,拡張期雑音も聴取されるようになった.生体弁機能不全と診断し再手術を行った.術中所見では左冠尖に相当する弁葉に2カ所の亀裂を認め,生体弁流入側は多量のpannusが形成されており,流入側は狭小化していた.摘出された生体弁所見は右・無冠尖交連部ステントポストが9度外倒し,残り二対のステントポストが接近することで左冠尖が圧迫されていた.その結果人工弁流速の上昇および血液の乱流が発生し,多量のpannus増生を招き,早期に弁葉が破綻したと推察された.
  • 菅原 正明, 小熊 文昭, 平原 浩幸, 菊地 千鶴男
    2010 年 39 巻 3 号 p. 122-125
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    肺動脈主幹部瘤(肺動脈瘤)と上行大動脈瘤を合併した症例の報告は稀である.小児期に発見された肺動脈瘤,上行大動脈瘤,肺動脈弁閉鎖不全症,大動脈弁閉鎖不全症の稀な合併例を経験したので報告する.症例は5歳時に肺動脈弁閉鎖不全・大動脈弁閉鎖不全症と診断された.次第に心拡大・半月弁逆流が増強し,肺動脈幹・上行大動脈も拡大傾向が認められたため17歳で手術を行った.術前検査で上行大動脈径55 mm,肺動脈幹径60 mmに拡大し,大動脈弁閉鎖不全3度・肺動脈閉鎖不全2度の逆流を認めた.大動脈弁輪拡大はなく,機械弁による大動脈弁置換術とダクロン人工血管による上行大動脈置換術を行った.肺動脈弁は3弁尖あったが弁尖が下垂しており,交連部を吊り上げ固定して弁形成を行った.肺動脈瘤は斜切開して幅広く切除し,縫縮術を行った.動脈壁の病理学的所見では,弾性線維減少・線維化・微小血管新生を認めたが,中膜壊死や粘液腫様変性は見られなかった.順調に退院し,術後2年で再発なく経過良好である.
  • 瀬口 龍太, 矢鋪 憲功, 加藤 寛城, 高木 剛, 吉積 功, 山口 聖次郎, 大竹 裕志, 渡邊 剛
    2010 年 39 巻 3 号 p. 126-128
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は75歳女性.突然の胸痛を主訴に近医を受診し,造影CT撮影において縦隔内血腫を指摘された.造影CTのいくつかのスライスで,左内胸動脈から血腫に向かう分枝が確認され,左内胸動脈破裂が疑われた.血管造影にて,左内胸動脈の出血が確認され,コイル塞栓術を行った.塞栓術後は出血を認めず,入院2週間後に独歩で自宅退院となった.内胸動脈破裂は非常に稀であるが,縦隔内血腫に対しては本疾患も念頭に置いて診療に当たることが肝要である.
  • 小林 純子, 吉田 英生, 加藤 秀之, 鈴木 登士彦, 毛利 亮, 柚木 継二, 久持 邦和, 大庭 治
    2010 年 39 巻 3 号 p. 129-132
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞後機械的合併症(心破裂,心室中隔穿孔,乳頭筋断裂)は急性心筋梗塞後の致死的合併症であるが,それぞれを合併することは極めてまれであり,報告例も少ない.今回,我々は心破裂後に乳頭筋断裂を合併した症例を経験した.症例は69歳,男性.一過性意識消失で救急搬送された.数日前発症の心筋梗塞で心破裂を合併し,冠動脈造影では右冠動脈閉塞と左冠動脈前下行枝の高度狭窄を認めた.下壁にほぼ止血状態の心破裂を認め,フィブリン糊とフィブリンシートでの破裂部修復と左冠動脈前下行枝への冠動脈バイパス術を施行した.術後経過は概ね良好だったが,10日目に突然酸素化不良となり,経食道心臓超音波検査にて乳頭筋断裂と高度僧帽弁逆流を認めた.同日,緊急僧帽弁置換術を施行した.その後の経過は概ね良好であり自宅退院していたが,退院3カ月後にうっ血性心不全にて再入院となり,超音波検査にて壁運動低下と心室瘤を認めた.患者は保存的加療にて軽快退院した.本症例では,乳頭筋断裂を予防するために右冠動脈への再灌流療法を施行すべきだったか,また心室瘤予防のために破裂修復にパッチを使用すべきだったかという問題点が示唆された.
  • 千田 佳史, 山本 文雄, 山本 浩史, 石橋 和幸, 山浦 玄武, 白戸 圭介, 本川 真美加, 田中 郁信, 関 啓二, 松川 誠
    2010 年 39 巻 3 号 p. 133-136
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    62歳,女性.24歳時にファロー四徴症と診断された.今回,発熱,呼吸困難を訴え来院した.NYHA IV度であり,心臓超音波検査でファロー四徴症,三尖弁閉鎖不全症を認め手術適応と判断した.心臓カテーテル検査で主要大動脈肺動脈側副動脈(MAPCAs)を認めた.術中の心腔内還流血や修復術後の左室容量負荷残存を考慮し,MAPCAsコイル塞栓術を先行した後,心内修復術(Medtronic FreeStyle Valve,Transannular patchを用いた右室流出路再建+心室中隔欠損閉鎖+三尖弁輪縫縮)を行った.術後第2病日に人工呼吸器を離脱し,第37病日に退院となった.退院時はNYHA I度で術後10年を経過した現在も外来通院中である.高齢者のファロー四徴症であっても肺動脈弁逆流,三尖弁逆流を残存させない術式の選択やMAPCAsコイル塞栓術を先行することにより安全に心内修復術を施行し得た.
  • 合志 桂太郎, 堤 泰史, 門田 治, 高橋 洋介, 木谷 公紀, 阪本 朋彦, 大橋 博和
    2010 年 39 巻 3 号 p. 137-140
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は59歳男性.以前より肥大型心筋症(HCM)で近医に通院中であった.突然の右上肢冷感を自覚し近医を受診した.急性動脈閉塞の診断で当院へ救急搬送された.当院で緊急血栓除去術を施行し,良好な右上肢の血流改善が得られた.術翌日よりヘパリンとワーファリンを投与し抗凝固療法を開始したが,術後4日目に行った心臓超音波検査で入院時には認めなかった可動性のある左室内血栓を認め緊急手術を行った.心筋は左心室中隔で非常に肥厚しており,心尖部では菲薄化と瘤状変化を認めた.血栓は径約20×30 mmであった.血栓を除去し,血栓再発予防のために左心室形成術を行った.術後経過は良好で,血栓形成の再発も認めなかった.HCMの経過中に左室瘤の発生を認める症例は散見されるが,血栓を伴い緊急手術を行った症例は非常に稀である.術後経過において現在までも血栓の再発は認めず良好に経過している.
  • 河野 康治, 天野 宏, 河合 靖, 竹内 靖夫
    2010 年 39 巻 3 号 p. 141-143
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.心筋梗塞の診断にて冠状動脈バイパス術4枝を施行した.術後,第9病日目に発熱,正中創部の離開,膿の排出を認めた.創部よりメチシリン耐性ブドウ球菌(以下MRSA)が検出され,創部掻爬,胸骨ワイヤー抜去を行った.感染は胸骨下,前縦隔にまでおよび,縦隔洞炎と診断した.創部洗浄,抗生物質(バンコマイシン)投与にて,炎症反応は低下し,感染創部からMRSAが消失した.完全に閉創するのに,60日を要した.75病日目に,突然の右肩から頸部にかけての疼痛,上肢のしびれが出現した.MRIにて,頸椎5~6椎体の破壊像を認め,化膿性脊椎炎と診断した.脊髄は圧迫されており,頸椎以下の脊髄損傷の危険性があり,整形外科と相談のうえ,頸椎前後方固定術を施行し軽快退院となった.MRSA縦隔洞炎に頸椎化膿性脊椎炎を併発し緊急手術を要した症例を報告する.
  • 大場 正直, 村山 博和, 鬼頭 浩之, 松尾 浩三, 林田 直樹, 浅野 宗一, 平野 雅生, 宮田 茂樹
    2010 年 39 巻 3 号 p. 144-147
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は,ヘパリンの重大な副作用である.症例は52歳,男性.緊急下行大動脈置換後にHITが強く疑われ,その6カ月後にヘパリン使用下で体外循環を行い胸腹部大動脈置換術を施行した症例を報告する.最初の手術後に急性腎不全のために持続血液濾過透析(CHDF)を行った.抗凝固剤をヘパリンに変更した後,7日目に血小板減少と回路閉塞を認めるようになった.HITを強く疑い,ヘパリンを中止してアルガトロバンに変更したところ,回路閉塞は認められなくなり,血小板数も著明に改善した.この時の抗体検査で抗PF4/ヘパリン複合体抗体(抗PF4/ヘパリン抗体)は,陽性を示した.その6カ月後に拡大傾向にある胸腹部大動脈瘤を認め,手術適応と判断した.この時の検査では抗PF4/ヘパリン抗体は陰性化しており,ヘパリン使用下体外循環で胸腹部大動脈置換を施行した.手術の間,回路閉塞は認められなかった.また,血小板減少や血栓症は周術期を通して認められなかった.
  • 外田 洋孝, 広岡 茂樹, 折田 博之
    2010 年 39 巻 3 号 p. 148-150
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    馬蹄腎を合併した腹部大動脈瘤は比較的稀な疾患である.同様の症例に対して外科的加療を施行したので報告する.症例は70歳,男性.他疾患の精査目的に施行したCTにて馬蹄腎ならびに腹部大動脈瘤(65 mm)の診断となった.3D-CTA,血管造影検査にて左右の主幹腎動脈と馬蹄腎峡部から分岐する1本の異所性腎動脈を認めた.手術は腹部正中切開にて経腹膜的にアプローチした.腹部大動脈瘤に騎乗する馬蹄腎峡部をテーピングし,上下に牽引することにより,同部位を温存した.腹部大動脈から右総腸骨動脈,左外腸骨動脈の間をY型人工血管により置換した.異所性腎動脈は,ボタン状に切離した後に人工血管へ吻合し再建した.術後は腎機能の悪化を認めず,第12病日に軽快退院した.
  • 前川 慶之, 吉村 幸浩, 外山 秀司, 宮崎 良太, 黒田 吉則, 貞弘 光章
    2010 年 39 巻 3 号 p. 151-154
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    大動脈炎症候群を基礎疾患とする大動脈解離に対し大動脈基部置換術を施行した1年半後,中枢側吻合部離開を発症した小児例を経験したので報告する.症例は10歳女児,8歳時基部置換術を施行した.大動脈炎症候群と診断されステロイドを導入した.外来経過観察中胸痛出現し近医受診,心電図で広範なST低下を指摘され当院搬送,CAGで有意狭窄を認めず冠攣縮性狭心症と診断された.翌日胸痛出現とともに心拍停止,PCPSを開始した.CAGで左冠動脈主幹部の拍動性の狭窄を認めた.CTで吻合部離開と診断し緊急手術を施行した.超低体温循環停止とし再開胸,脳分離体外循環を確立した.中枢側吻合部はほぼ半周にわたって離開し左室内腔が露出,大動脈弁輪は融解しておりフェルト帯で補填,再基部置換した.術後7日目にstuck valve,MRのため再手術した.房室ブロックに対し,恒久的ペースメーカー植込み術を施行し第56病日退院した.
  • 中島 智博, 渡辺 祝安, 村木 里誌, 神吉 和重, 栗本 義彦, 樋上 哲哉
    2010 年 39 巻 3 号 p. 155-158
    発行日: 2010/05/15
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は66歳女性.2007年6月にDeBakey I 型大動脈解離に対して上行大動脈人工血管置換術を施行された.同術後にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)による縦隔炎を生じたが縦隔洗浄と抗生剤投与により軽快した既往がある.2008年4月に化膿性脊椎炎を発症し,整形外科にて腰椎形成術を行われた.その入院中に弛張熱を呈し,血液培養にてMRSAを検出した.全身検索の結果,置換人工血管吻合部に生じた感染性大動脈瘤と考えられた.この症例に対し,感染人工血管を除去,同種大動脈を用いて上行大動脈再置換術を行った.術後経過は良好であり術後第71病日に退院した.術後9カ月を経過した現在も感染兆候を認めていない.人工血管感染に対し同種大動脈を使用して血管置換術を行い感染が鎮静化した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
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