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村瀬 允也, 前田 正信, 寺西 克仁, 桜井 一, 西沢 孝夫, 村山 弘臣
1993 年22 巻5 号 p.
383-386
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
フリー
逆行性持続脳灌流の有用性が報告され臨床例が増加しつつあるが, 上大静脈より送血する場合には内頸静脈弁の存在が大きな問題点の一つである. 剖検例32例で検討すると, 静脈角部には1例を除いて全例に静脈弁が存在し, 右側では69%, 左側では34%で形態的に良好な弁が存在した. 静脈弁の機能を検討するため38例で心臓カテーテル検査時に右腕頭静脈で造影を行って弁存在の診断と弁機能を検討した. 右内頸静脈弁は39%に確認されたにすぎないが, 89%で逆流が認められた. 形態的には右内頸静脈弁のほうが良好であり, その機能的検討で, 約90%で逆流が認められたことは, 上大静脈から送血した場合にはほとんどの症例で灌流が可能なことを示していると考えられるが, 少ない症例ではあるが, 上大静脈からの送血では灌流できない症例の存在は否定できず, 逆行性持続脳灌流施行時に注意すべき点と考えられる.
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大動脈弁閉鎖不全症との比較
夏秋 正文, 伊藤 翼, 吉戒 勝, 内藤 光三, 中山 義博, 上野 哲哉, 湊 直樹, 堺 正仁
1993 年22 巻5 号 p.
387-393
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
フリー
求心性肥大心筋大動脈弁狭窄症 (AS) の術後拡張期心機能について検討を加えた. 検討方法は心プール左室容量曲線およびその一次微分により収縮期指標として左室駆出率 (LVEF, %), 最大駆出速度 (PER, %EDV/sec), 拡張期指標として最大充満速度 (PFR), 拡張早期最大充満速度 (1/3PFR) を検討した. 術後駆出期指標はAS群では著明に改善し, 術前の afterload の異常に高い例でも術後は明らかな改善を示した. これに対し大動脈弁閉鎖不全症 (AR) では術後駆出期指標は低値を示した. 術後の拡張期心機能指標を示す最大充満速度は, 術後AS群は改善を認めたが, AR群ではコントロールに比べ低値を示した. 術後の拡張早期指標を示す1/3PFRはAS, AR群ともに正常コントロールに比べ低値を示し, とくにAS群のなかでも左室内径狭小かつ中隔壁厚の増大した例の1/3PFRは術前より低値を示した. 以上のように求心性肥大AS例では術後最大充満速度および駆出期指標の改善を認め, AS21例の遠隔成績も良好であり, われわれの施行した再灌流障害を軽減させる方法は, 術後良好な心機能を示した. ただしAS例の左室内径狭小壁肥厚例では心筋逸脱酵素の上昇と術後拡張早期能の低下を合併しており, 心筋保護法の一層の改良が必要と思われた.
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平野 顕夫, 久冨 光一, 田山 栄基, 大橋 昌敬, 磯村 正, 小須賀 健一, 大石 喜六
1993 年22 巻5 号 p.
394-398
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
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心臓悪液質は, 心臓弁膜症の末期像であり, 術後管理に難渋し手術成績も不良な疾患群である. われわれは, 僧帽弁を主病変とし, るいそうを伴い, 術前NYHAがIV度, さらに, うっ血による肝機能障害を認める症例10例を心臓悪液質と定義し, 術後人工呼吸管理日数の違い (I群; 5日以上, 5例, II群; 4日以内, 5例) により2群に分け, 術前, 術後管理について検討した. 両群とも術前1週間前と術後にIVHを行い, I群の2例に術後経管栄養を行った. 術前より呼吸管理を要したのはI群の2例であった. その結果, 病脳期間が長いほど, 術後長期の人工呼吸管理が必要とする傾向にあったが, 術後カテコラミン使用量, 術後経過, 予後は両群間に差はなかった. これらのことより, 心臓悪液質症例に対しても, 術前, 術後の栄養, 呼吸, 循環管理を行えば, 通常の弁膜症症例と同様に手術ができると考えられた.
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独自の sutureless translocation 法を中心として
根本 慎太郎, 遠藤 真弘, 小柳 仁, 北村 昌也, 八田 光弘, 西田 博, 中野 清治, 橋本 明政
1993 年22 巻5 号 p.
399-403
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
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近年, 感染症心内膜炎 (以下IE) に対する治療成績は向上したが, 一方で大動脈弁輪部腫瘍や mycotic aneurysm などの外科的治療上困難な病態も形成され, 決定的な解決策が得られていない. これらに対し, われわれは1983年より translocation 法を9例に施行し, うち7例に独自に考案した sutureless 法を施行した. Sutureless 法は, リング付人工血管の一方のリングを切離し, これに二葉弁機械弁を縫着した composite valve を作成し, これを上行大動脈に挿入し外から結紮固定し, 大伏在静脈を用いて左右冠動脈バイパスを行うものである. 平均大動脈遮断時間は173.9分で, とくに大きな出血で渋難した症例はなく, 全例が経過順調で独歩退院した. 遠隔期に血栓弁1例, 心不全死2例, 不整脈死1例の死亡があった. 大動脈弁輪破壊の強い症例や通常の方法では縫合不全となる炎症所見を有する弁輪部には, sutureless translocation 法が治療体系上, 有用な手術法と考えられる.
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野村 耕司, 黒澤 博身, 橋本 和弘, 宮本 尚樹, 鈴木 和彦, 奥山 浩, 堀越 茂樹
1993 年22 巻5 号 p.
404-408
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
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体外循環時に起こる溶血と腎障害の関係を調べるため, 成人開心術19症例を対象群とハプトグロビン投与群に分け血漿総ヘモグロビン, 遊離ヘモグロビンの推移を比較検討し尿細管障害の指標である尿中NAG, γ-GTPの推移も比較検討した. 対象群では血漿遊離ヘモグロビンは術前に比べ人工心肺終了時, ICU入室時で有意に上昇した. ICU入室時の血漿遊離ヘモグロビンと尿中NAG, γ-GTPの間に相関関係を認めた. 一方ハプトグロビン投与群では血漿遊離ヘモグロビンの上昇が抑えられ, 尿中NAG, γ-GTPの上昇も抑えられた. 遊離ヘモグロビンが溶血性腎障害に関与し, ハプトグロビンは溶血性腎障害の防止に有効であると考えられた.
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千葉 幸夫, 村岡 隆介, 井隼 彰夫, 森岡 浩一, 上坂 孝彦
1993 年22 巻5 号 p.
409-413
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
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当施設で経験した細菌感染性動脈瘤の10例から外科治療の問題点を検討した. 治療方針として, 長期開存性や quality of life の点から, 解剖学的バイパスを目標とし, このため可能であれば厳重な管理下に強力な抗生剤により感染が鎮静化するのを待って手術を行った. 手術方法は瘤を閉鎖的に完全に切除し, 人工血管で置換することを基本としたが, それの不可能な場合は, 可及的に感染巣を切除し, イソジン加生理食塩水で洗浄し, バイパスした人工血管を大網で覆った. 一方抗生剤の使用にもかかわらず, 感染の鎮静化がみられない症例に対しては, 非解剖学的バイパスを行い, 一期または二期的に感染瘤の切除を行った. 感染活動期での手術では人工血管への感染が最大の問題であり, 1例で吻合部の仮性動脈瘤を, さらに敗血症, DICへ移行する症例を2例経験した. また動脈瘤が一箇所とは限らないこと, 急激な感染の再燃に注意が必要であると思われた.
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碓氷 章彦, 川村 光生, 日比 道昭, 佐藤 浩生
1993 年22 巻5 号 p.
414-416
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
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開心術後に白血球減少症をきたした2症例に対し遺伝子組替えG-CSF投与し良好な成績を得た. 症例1は65歳, 男性. 感染性心内膜炎のため緊急で二弁置換術を施行した. 第24病日に白血球数が1,000まで低下したためG-CSF 125μg皮内投与を開始した. 白血球数はG-CSF投与後4日目から上昇し, 7日目には15,500に上昇した. G-CSF投与後発熱はみられず, 感染症状は速みやかに消失した. 症例2は70歳, 男性. 4枝バイパス術後に右上肺野に肺炎を合併した. 第21病日に白血球数が2,300まで減少したためG-CSF 80μg皮内投与を開始し, 投与7日後に白血球数が18,200まで上昇したため投与を中止した. G-CSF投与翌日から解熱し, 肺炎は軽快した. 開心術後の顆粒球減少症に対する組替えG-CSFの投与は粒球増加を速やかにきたし, 感染症状の速やかな消退を導き, 顆粒球減少症の治療に有用であった.
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木川 幾太郎, 鰐渕 康彦, 村田 聖一郎, 穴見 洋一, 紙尾 均, 堀井 泰浩, 九沢 豊, 福田 幸人, 須磨 久善
1993 年22 巻5 号 p.
417-421
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
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症例は59歳の男性.「炎症性」腹部大動脈瘤の切迫破裂に対して人工血管置換術を行い2年経過した後, 繰り返す下血を主訴として来院. 大動脈-十二指腸瘻と診断し手術を施行した. 非解剖学的バイパスを作成後に開腹すると, 腎動脈下に大動脈瘤の再発を認め, 人工血管近位吻合部に十二指腸水平脚が癒着し瘻孔を形成していた. 十二指腸瘻の閉鎖と人工血管摘除および腹部大動脈断端閉鎖を行い良好な結果を得た.「炎症性」腹部大動脈瘤術後に生じた大動脈-腸管瘻の報告はほとんどなくまれなものと考えられた.「炎症性」大動脈瘤術後の本合併症に対しては,
in situ での血管吻合は癒着のため困難が予想されることから, 非解剖学的バイパス法を採用するのがより安全と考えられた.
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林 載鳳, 浜中 喜晴, 末田 泰二郎, 辻 勝三, 渡橋 和政, 香河 哲也, 松浦 雄一郎
1993 年22 巻5 号 p.
422-424
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
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Abdominal apoplexy の1例を経験した. 症例は50歳の男性. 感染性心内膜炎に起因する弁膜症に対し1991年12月13日, 大動脈弁および僧帽弁の2弁置換術を施行した. 術後4日目に脾動脈瘤破裂と推測される後腹膜腔出血をきたしてショック状態に陥った. 術後28日目にも回腸へ分布する末梢小動脈の動脈瘤破裂と推測される消化管出血をきたし血圧低下をみた. このように外的誘因を伴わない腹部血管の破綻を abdominal apoplexy と呼ぶがその発生はまれである. われわれの症例は感染性心内膜炎に起因する細菌性動脈瘤の破裂がその原因と考えられた. 本症の診断には血管造影検査が有用であった.
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佐藤 洋, 岡田 昌義, 松田 均, 太田 稔明
1993 年22 巻5 号 p.
425-429
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
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近年, 開心術の手術技術向上に伴い, 慢性透析患者に対しても開心術が行われるようになってきている. 最近われわれは2例の慢性透析患者に対し, 冠動脈バイパス術を施行した. 症例1は不安定狭心症, 急性左心不全のためIABP駆動下に緊急冠動脈バイパス術を施行し, 症例2は腹部大動脈瘤, 狭心症のため腹部大動脈瘤人工血管置換術+冠動脈バイパス術を一期的に行った. 2例とも体外循環中は人工心肺回路内に血液濾過フィルターを組み込み除水とKの排泄を行った. 術後急性期には, 症例1では腹膜透析, 限外濾過を用いた後, 術後21日目に血液透析に移行し, 症例2では限外濾過, 血液濾過を併用した後, 術後6日目に血液透析に移行しえた. 症例1ではショック状態で手術に臨み, 術後も循環動態が不安定であり術後管理に難渋したが, 2症例とも軽快退院した.
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志田 力, 顔 邦男, 脇田 昇, 莇 隆
1993 年22 巻5 号 p.
430-432
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
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65歳男性の両側性孤立性内腸骨動脈瘤を経験した. 通常, 内腸骨動脈瘤の手術は内腸骨動脈の血行再建を行わずに内腸骨動脈起始部の血流遮断とか内腸骨動脈瘤縫縮術が行われている. この症例は両側性であり, 両側の動脈結紮により結腸虚血または殿筋虚血を生じる可能性があったため, 一側内腸骨動脈の血行再建を行った. 症例を呈示するとともに内腸骨動脈血行再建術の問題点につき述べる.
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吉田 貞夫, 軸屋 智昭, 平松 祐司, 島田 知則, 榊原 謙, 厚美 直孝, 三井 利夫, 堀 原一
1993 年22 巻5 号 p.
433-436
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
フリー
高位腹部大動脈閉塞症は陰萎, 間歇性跛行などの慢性虚血症状を呈する場合が多いとされる疾患である. 今回著者らは, 急速に増悪した両下肢および骨盤内臓器の虚血症状を主訴とした高位腹部大動脈閉塞症例を経験したので報告する. 患者は57歳, 女性. 軽度の間歇性跛行を自覚していたが, 突然両下肢および骨盤内臓器の重症虚血症状が出現し, 血管造影で高位腹部大動脈閉塞症と診断された. 腎動脈上遮断, 血栓摘除, 腎動脈下遮断でY型人工血管置換術を行った. 術中 Laser Doppler 血流計測でS状結腸の重篤な虚血を証明しえた. また, 術前から認められていた右腎動脈狭窄の急速な進行を認め, 術後に経皮経管動脈形成術を必要とした. 高位腹部大動脈閉塞症の急性増悪は主側副血行路の閉塞が原因と考えられた. また, 腎動脈病変を伴う場合, たとえそれが軽症でも同時血行再建等の適応があるものと考えられた.
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平松 祐司, 厚美 直孝, 阿部 正一, 軸屋 智昭, 榊原 謙, 筒井 達夫, 岡村 健二, 三井 利夫, 堀 原一
1993 年22 巻5 号 p.
437-440
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
ジャーナル
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症例は生後13日目に心雑音, 頻脈, 多呼吸, 哺乳力低下を主訴として入院した男児である. 胸部X線で心拡大と肺うっ血像を認めた. 心エコーで大動脈弁の肥厚と狭窄を認め, 左室駆出率 (EF) は10%と著しく低下し, ドップラー法による左室-大動脈間推定圧較差は130mmHgであった. 内科的治療による状態改善は望めないと判断し, 生後14日目に体外循環下に直視下大動脈弁交連切開術を行った. 大動脈弁は二尖弁で, 両交連部に強い癒合を認め, 左側の交連に1mm, 右側の交連に0.5mmの切開を加えて狭窄解除を図った. 術後経過は良好で心エコーでは62mmHgの左室-大動脈間圧較差の残存を認めたものの, EFは57%と著明に改善した. 新生児期における先天性大動脈弁狭窄症の手術報告例は少なく, 著者らが調べえた範囲内では, 本症例は本邦で3番目の年少手術成功例に相当する.
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自験3例を中心として
中山 義博, 湊 直樹, 上野 哲哉, 須田 久雄, 内藤 光三, 夏秋 正文, 伊藤 翼
1993 年22 巻5 号 p.
441-445
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
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鈍的腹部外傷による腸骨動脈損傷例を3例経験したので報告する. 症例はすべて男性で, バイクまたは乗用車による交通外傷にて腹部を鈍的に打撲し腸骨動脈閉塞をきたしたため緊急手術を施行した. このうち2例は術後腎不全を合併し, 1例は長期の血液透析にて回復したものの1例は失った. 合併損傷としては骨盤骨折と腸間膜損傷が1例ずつに認められた. 血管損傷の状態としては1例は不完全断裂の状態であったが, 他の2例はそれぞれ内膜および中膜解離の状態で, 外見上はとくに異常は認めなかった. 本症は文献的にまれであり, 合併損傷を伴うことが多く, 血管閉塞症状が徐々に起こってくるという特徴のため確定診断がしばしば困難である. しかし, 放置すると高頻度に下肢の壊死を起こすため, 迅速な診断と血行再建が必要である. これを防ぐためには本症の可能性を常に考えておくこととともに, 下肢の注意深い観察が必要である.
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荻野 均, 山里 有男, 花田 正治, 中山 正吾
1993 年22 巻5 号 p.
446-450
発行日: 1993/09/15
公開日: 2009/04/28
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1991年1月より12月までに, 80歳以上の高齢者の冠動脈バイパス術 (CABG) 症例6例を経験した. 90歳を最高に平均年齢は83歳であった. 5例 (3例の左主幹部病変例を含む) が三枝病変例で, 術前からIABPないしはカテコールアミンを必要とするNYHA分類IV度の重症例であったため, 緊急ないしは準緊急下に手術を行った. 結果は, カテコールアミンの使用期間, ICU滞在日数ならびに術後在院日数の長期化がみられた. しかし, 1例を術後5か月の入院死亡で失った以外, 5例の生存例が得られ満足すべき結果であった. 高齢者CABGの手術適応の決定に際しては, 患者の暦年齢だけでなく生理的年齢を考慮する必要があり, 80歳以上といえども十分CABGは可能と考える.
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