日本心臓血管外科学会雑誌
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51 巻, 3 号
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巻頭言
症例報告
[先天性疾患]
  • 村山 史朗, 野村 耕司
    2022 年 51 巻 3 号 p. 129-132
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    冠動脈廔は先天性冠動脈疾患で最も頻度が高い疾患であるが,全先天性心疾患の0.4%と低い.また小児期はほとんどが無症状で経過するが成人期以降に症状が出現し手術が必要になることも多い.その中で新生児期に症状が出現し早期に手術介入が必要になることは稀である.今回,胎児診断されず出生後に冠動脈廔(左前下行枝-右室)と診断され,その後心不全増悪と冠動脈虚血の出現を懸念し,日齢12で瘻孔閉鎖を行った症例を経験した.手術は瘻孔直上の左前下行枝を切開し,冠動脈中枢側流入口と右室との瘻孔部を自己心膜パッチで2重閉鎖した.術後4年のフォロー期間で虚血性変化や冠動脈瘤拡大はなく経過は良好であるが,今後も慎重な経過観察が必要である.

  • 桑原 優大, 和田 直樹, 川村 貴之, 古谷 翼, 小森 悠矢, 加部東 直広, 高橋 幸宏
    2022 年 51 巻 3 号 p. 133-137
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は日齢0日女児.生後チアノーゼで総肺静脈還流異常症が疑われ当院に転院.来院後肺静脈狭窄を認め緊急手術の方針.術前CTで肺静脈は左右別々にそれぞれ左右の上大静脈に異常還流した.左上大静脈が冠静脈洞に還流しているため,冠静脈洞は大きく拡大しており,左房径は小さかった.新生児期に右肺静脈を右房へ,左肺静脈はunroof化した冠静脈洞にそれぞれ吻合した.その後体格の成長を待ち,生後4カ月で右肺静脈のreroutingと左上大静脈の心外結紮での二期的心内修復術を行った.術後経過は良好であった.左上大静脈遺残を有し拡大した冠静脈洞を持つ総肺静脈還流異常症(Ib+Ib)に対して二期的手術での心内修復は有用であった.

  • 細谷 祐太, 久呉 洋介, 川人 智久, 吉田 誉, 下江 安司
    2022 年 51 巻 3 号 p. 138-141
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    右冠動脈肺動脈起始症(ARCAPA)は稀な先天性冠動脈異常で,幼少期の報告は限られている.左冠動脈肺動脈起始症(ALCAPA)と異なり,ARCAPAは基本的に無症状で経過し,偶発的に発見されることも少なくない.今回,新生児期にARCAPAが疑われた2カ月男児に対する手術症例を経験した.心雑音を契機に生後4日目に心臓超音波検査でARCAPAを疑い,生後37日目に心臓カテーテル検査で左冠動脈から右冠動脈を介して主肺動脈に造影剤が流入することを確認し確定診断した.肺血管抵抗低下に伴う心筋虚血が顕在化する前に手術加療を行う方針とし,生後2カ月で右冠動脈の大動脈への移植と,肺動脈のパッチ形成を施行した.合併症なく経過し術後16日目に退院した.術後半年で施行した心臓カテーテル検査で,右冠動脈の良好な造影と側副血行路の消失を確認した.

[成人心臓]
  • 江石 惇一郎, 三浦 崇, 松丸 一朗, 田口 寛子, 井上 拓, 谷川 陽彦, 北村 哲生, 中路 俊, 尾長谷 喜久子, 江石 清行
    2022 年 51 巻 3 号 p. 142-146
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    高度肝不全を有するテザリングによる重症2次性三尖弁逆流症に対して,スパイラル・サスペンション法と高心拍出の周術期管理を行い救命できたので報告する.症例は77歳の女性,慢性徐脈性心房細動(心拍数50 bpm前後)である.74歳時に重度の三尖弁・僧帽弁逆流を指摘された.心不全,肝不全ともに悪化傾向で,肝性脳症も生じたため精査治療入院となった.術前の肝機能評価ではChild-Pugh分類はGrade Cであり,開心術のハイリスクであった.そのため心不全治療を強化した上で,手術の可否を判断することとした.ペースメーカ移植(VVIモード80 bpm)によって心拍出量は増加し(心係数の変化:挿入前2.97 L/min/m2→挿入後5.17 L/min/m2),心不全症状と総ビリルビン値(治療前3.9 mg/dl→治療後1.7 mg/dl)は改善したため手術を行った.三尖弁逆流はスパイラル・サスペンション法,弁輪拡大による僧帽弁逆流は弁輪縫縮術で修復した.術後は大動脈内バルーンパンピングによって心係数を4.3 L/min/m2から5.8 L/min/m2で維持し,中心静脈圧は10 mmHg以下で管理した.術後30時間で抜管し術後54日目に独歩自宅退院となった(退院時総ビリルビン値1.5 mg/dl).術後1年6カ月の時点で三尖弁逆流は軽度以下に制御され,独歩外来通院中である.

  • 村瀬 俊文, 田村 進
    2022 年 51 巻 3 号 p. 147-150
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は52歳男性.2週間前から続く労作時呼吸困難を主訴に近医を受診し,心不全の診断で当院に入院加療となった.冠動脈造影検査で3枝病変を,左室造影検査では左室下壁の心室瘤から右室へのシャント血流を認めた.心筋梗塞の発症時期は不明だが,陳旧性心筋梗塞後左室瘤の右室穿孔による心不全と診断した.内科的治療にて心不全症状が軽減した後に手術を行った.手術は心室瘤を切開し左室の欠損孔をパッチで閉鎖し,右室への交通部分も含めて瘤切開部を縫合閉鎖した.また,冠動脈バイパス術(内胸動脈-左前下行枝,橈骨動脈-対角枝,大伏在静脈-右冠動脈)も行った.術後の心臓カテーテル検査で瘤の閉鎖とシャントの消失,バイパスグラフトの開存を確認し,軽快退院となった.左室瘤壁の病理所見は偽性仮性心室瘤の診断であった.

  • 長塚 大毅, 郡司 裕介, 加賀谷 英生, 服部 滋, 野口 権一郎, 片山 郁雄
    2022 年 51 巻 3 号 p. 151-156
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は45歳,男性.好酸球多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis : EGPA)に合併した左前下行枝近位部の冠動脈瘤(19 mm)を認めた.CAGでは#6 : 100%,#12-2 : 90%であり,Tc-99 m心筋シンチグラフィにて前壁中隔の虚血誘発を認めたため血行再建術の適応と判断した.好酸球数が9,221/μlと高値であり,好酸球浸潤による血管炎の活動性を抑えるため術前にプレドニゾロンおよびヒト化抗IL-5モノクロナール抗体薬であるメポリズマブを投与し,好酸球数が正常化した段階で手術を行った.オフポンプ冠動脈バイパス術(LITA-LAD, SVG-OM2)を施行し良好な経過で退院した.EGPAに対する冠動脈バイパス術では,内胸動脈に好酸球が浸潤し血管炎を呈していることがあり,開存率に影響する可能性があるため,術前に血管炎の活動性を抑制しておくことが重要と考えられた.

  • 辻 庸宏, 西脇 登, 金田 幸三, 長阪 重雄
    2022 年 51 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は83歳男性患者.75歳以降,軽度から中等度の大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症にて外来通院中であった.大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症の進行と中等度の僧帽弁狭窄症兼閉鎖不全症および三尖弁閉鎖不全症を合併し,心不全による入退院を繰り返すようになったため手術を施行した.手術は待機的に大動脈弁置換術,僧帽弁置換術および三尖弁形成術を行い,術後経過は良好であったが術後6日目に突然低心拍出状態に陥り術後8日目に永眠された.術前術後を通して左室駆出率(Ejection Fraction : EF)は50%以上に保たれており,Heart Failure with preserved Ejection Fraction(HFpEF)であった.剖検後に免疫染色にてトランスサイレチンを同定しトランスサイレチン関連心アミロイドーシス(transthyretin-related cardiac amyloidosis : TTR-CA)と診断した.

[大血管]
  • 永田 恵実, 佐藤 善之, 髙橋 皇基
    2022 年 51 巻 3 号 p. 163-166
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は51歳男性.49歳時に急性Stanford A型大動脈解離に対し上行弓部置換術および術後縦隔炎に対し大網充填術を施行されていた.1年後の定期検査にて中枢側吻合部仮性動脈瘤を指摘されたが手術の同意が得られず経過観察されていたところ,4カ月後に全身倦怠感,両側下腿浮腫,全身皮下出血斑を自覚したため受診した.重度凝固異常と右心不全を合併した仮性動脈瘤に対し手術の方針とした.著しい出血傾向を認めていたことから,手術は右開胸で行った.仮性動脈瘤を切開すると右房との瘻孔を認めた.瘻孔を縫合閉鎖し再上行置換術を施行した.術中,術後出血は許容範囲であったことから,右開胸手術は出血傾向を認める中で大出血を回避できる有用な一手法であることが示唆された.

  • 坂口 祐紀, 徳留 純平, 倉敷 朋弘, 宮坂 成人
    2022 年 51 巻 3 号 p. 167-171
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    大動脈二尖弁にバルサルバ洞限局急性大動脈解離を合併し左冠動脈主幹部を巻き込み,急性冠症候群を発症した稀有な症例を経験した.症例は先天性大動脈二尖弁を指摘されていた36歳男性.突発した胸背部痛を主訴に救急外来を受診した.心電図所見から急性冠症候群と診断され,緊急冠動脈造影検査が施行された.同検査で左冠動脈主幹部入口部に造影欠損所見を認め,またバルサルバ洞に限局する大動脈解離が疑われた.緊急胸部造影CT検査(心電図同期)でバルサルバ洞限局急性大動脈解離と診断した.手術までの冠血流維持目的に大動脈内バルーンパンピングを挿入後,緊急冠動脈バイパス術およびmodified Bentall手術(Carrel patch法)を行った.術後経過は良好で,第19病日に自宅退院となった.

  • 下石 光一郎, 福元 祥浩, 荒田 憲一, 松葉 智之, 緒方 裕樹, 樋渡 啓生, 四元 剛一
    2022 年 51 巻 3 号 p. 172-177
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    左総腸骨動脈瘤の破裂で49歳の女性の症例が当院へ救急搬送された.本邦では感染性動脈瘤の治療に際し血管内治療は適さないとされているがスウェーデン国の医療情報データベースからの成績の比較によると10年間の長期予後に差はないと報告されている.当院ではその報告をもとに血管内治療を選択し救命できた.早期の感染コントロールのために止血が得られたことが確認できた術後7日目に経皮的膿瘍ドレナージも施行した.本症例はステントグラフト留置部の末梢と中枢のシーリングゾーンの口径の条件で中枢シーリングゾーンの口径が大きく通常の留置ができない症例であったためGore社のExcluder脚を反転して留置し口径を合わせる手技を用いた.術後8週間で自宅退院したが退院後も術後6カ月間の抗生剤投与を継続した.術後6カ月目の造影CTの画像所見で膿瘍は消失した.抗生剤を終了したのち1カ月目に確認した採血データの結果でも感染の再燃は認めず治癒的経過が得られた1症例を経験した.

  • 久冨 一輝, 中路 俊, 迫 史朗
    2022 年 51 巻 3 号 p. 178-182
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性.突然の胸背部痛と右下肢痛を主訴に搬送された.来院時,右大腿動脈の拍動触知できず,右下肢は著明なチアノーゼを呈していた.造影CTでentryを胸腹部大動脈移行部に認める急性B型大動脈解離と診断された.解離は下行大動脈から左総腸骨動脈,右外腸骨動脈に及んでいた.両側総腸骨動脈では真腔の著明な狭小化を認め,特に右総腸骨動脈,外腸骨動脈は造影CT平衡相でも血流が見られず,大腿動脈より末梢の血流は側副血行を介して保たれていた.急性B型大動脈解離に伴う下肢虚血と診断し,右腋窩動脈-両側大腿動脈バイパス術を施行した.術後より両側大腿動脈は良好に触知可能となり,下肢虚血症状は速やかに消失した.術後4日目に突然の無尿とコントロール困難な高血圧が出現し,腎機能の増悪を認めた.造影CTで腹部大動脈と両側腎動脈の真腔狭小化を認めた.腎虚血の改善と腹部臓器虚血の回避を図るために術後6日目に緊急TEVARを施行しentryを閉鎖した.その結果,腹部大動脈と腎動脈の真腔は拡大し,腎機能は改善し,腹部臓器虚血も生じなかった.今回,急性B型大動脈解離に伴う下肢虚血に対し右腋窩動脈-大腿動脈バイパス術を施行し,その後に生じた真腔狭小化による腎虚血に対してTEVARを行い良好な結果が得られた.今後は一期的緊急TEVARも検討する必要があると考えられた.

[末梢血管]
  • 橋本 和憲, 松本 春信, 山本 貴裕, 佐藤 哲也, 伊藤 智
    2022 年 51 巻 3 号 p. 183-186
    発行日: 2022/05/15
    公開日: 2022/05/27
    ジャーナル フリー

    74歳男性.右下肢閉塞性動脈硬化症および足部難治性皮膚潰瘍で当科紹介となった.下肢血管造影で膝関節部に限局した膝窩動脈閉塞ならびに下腿動脈閉塞病変を認めた.術前精査で心機能低下ならびに冠動脈病変が判明したため,冠動脈バイパスを先行し,2期的に下肢血行再建の方針とした.バイパスに適した自家静脈が欠如しており,後方アプローチによる膝窩動脈内膜摘除および静脈パッチ形成術を施行した.足部潰瘍は治癒し,術後1年の経過は良好である.

NP紹介
各分野の進捗状況(2021年)
U-40企画コラム 第52回日本心臓血管外科学会学術総会
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