日本心臓血管外科学会雑誌
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巻頭言
原著
  • 中井 秀和, 脇山 英丘, 草木迫 充, 加藤 大樹, 髙橋 亮太, 田中 陽介, 圓尾 文子, 大保 英文
    2024 年 53 巻 2 号 p. 49-55
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    [目的]地域医療構想のもと,病院統合再編が行われているが,心臓血管外科診療に及ぼす影響は不明である.当科は2016年に病院統合を経験した.病院統合がA型急性大動脈解離の緊急手術に及ぼした影響を報告する.[方法]2012年5月から2020年12月までのA型急性大動脈解離緊急手術89例を対象とした.検討項目は,術前患者因子,手術件数,手術死亡,紹介率,患者搬送時間,搬送距離,若手心臓血管外科医の執刀数,手術の時間外勤務とした.統合前(P群:29例)と統合後(A群:60例)に分け後方視的に2群比較した.[結果]術前因子は両群に有意差はなかった.手術件数は,P群29例,A群60例であり,統合後に増加した(p=0.005).手術死亡は,P群8例27.6%,A群9例15%で有意差はなかった(p=0.2).紹介率は,P群17名(58.6%),A群21名(35%)と有意に低下した(p=0.04).症状発症から手術施設到着までの時間は,P群206±201分,A群112±140分で有意に短縮した(p=0.01).搬送距離は,P群13.9±14.8 km,A群13.5±16.2 kmと有意差はなかった.若手心臓血管外科医の執刀はP群9例(31%),A群34例(56.7%)で増加した(p=0.02).時間外勤務はP群446±154分,A群349±112分で有意に短縮した(p=0.001).[結論]病院統合は手術件数増加と大動脈解離の症状発症から病院到着までの時間短縮をもたらした.若手医師の執刀数は増え,時間外勤務も減少した.

  • 檜垣 知秀, 黒部 裕嗣, 福西 琢真, 坂上 倫久, 西村 隆, 泉谷 裕則
    2024 年 53 巻 2 号 p. 56-61
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    [背景と目的]胸骨正中切開後の不安定な胸骨固定は,感染症・出血のリスク増加や胸骨動揺に伴う疼痛等によるリハビリテーションの遅れなど,術後の経過に影響を与える要因の1つとしてあげられる.従来のワイヤー固定法では,経験年数にも左右されるが,閉胸時の胸骨離断やワイヤーの不完全固定など懸念としてあげられてきた.一方で,近年使用されてきた体内固定用胸骨プレートはその患者適応に制限があり,全例で使うことはむずかしい.今回,より安定した胸骨固定を目的に,チタンケーブルとメッシュプレートを併用した新固定法(N群)の手技を検討し,従来のワイヤーのみを用いた胸骨固定法(O群)と比較検討した.[方法・結果]2020年8月~2023年4月に施行した成人開心術のうち,術後CTを撮影した155例を対象とし,N群(86例:M 65,F 21),O群(69例:M 50,F 19)に分類した.術前因子としては,術時年齢(N群:O群=68.4±10.6 : 69.6±11.5歳(p=0.25)),BMI(N群:O群=23.0±3.7 : 24.1±7.7(p=0.16)),HbA1c(N群:O群=6.3±1.1:8.0±10.3 %(p=0.10))であり,両群間で有意差はなかった.術後CT解析では,第3肋骨位での術後の胸骨のずれを測定した.横ずれ(N群:O群=0.22±0.73:0.83±1.08 mm(p=0.005))は有意に減少し,縦ずれ(N群:O群=0.53±0.86:0.72±1.14 mm(p=0.13))は統計学的有意差を認めないものの減少傾向を認めた.[結語]チタンケーブルとメッシュプレートを併用した閉胸法は,術後の胸骨ずれを減少させ,その結果,安定した胸骨固定に寄与すると考えられる.チタンケーブルの固定手技は,テンショナーを用いた一定力で胸骨固定できる一方で,胸骨カッティングの懸念を指摘されていた.そのためメッシュプレートを胸骨背面に挿入して固定することにより,胸骨カッティングを防止し,より安定した胸骨固定に繋がると考えられた.

症例報告[成人心臓]
  • 池原 大烈, 神戸 将, 森田 耕三, 新浪 博士
    2024 年 53 巻 2 号 p. 62-65
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    症例は72歳男性.64歳時に二尖弁の動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症に対して生体弁による大動脈弁置換術を受けた.72歳時の定期検査で人工弁構造的劣化の診断となり,再弁置換術の適応との判断でインスピリスRESIRIA大動脈弁(インスピリス弁)を用いた再大動脈弁置換術を行った.人工心肺離脱直前の経食道心臓超音波検査で3カ所の交連直下から逆流がありParavalvular leakageが疑われたが,しだいに減弱していく様子が観察されたためTransvalvular leakage(TVL)と判断し,人工心肺を離脱しプロタミン投与を行い逆流は消失した.インスピリス弁の弁輪とステントポスト間の被覆布が粗になっている部分があることが原因と考えられた.インスピリスRESIRIA大動脈弁の3カ所の交連部からTVLが生じた報告は少なく,経過観察可能であることが示唆されたため報告する.

  • 川口 信司, 中井 真尚, 小澤 貴大, 内山 大輔, 宮野 雄太, 寺井 恭彦, 山田 宗明, 野村 亮太, 三岡 博
    2024 年 53 巻 2 号 p. 66-69
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    症例は32歳女性.5年前に高安動脈炎と診断され,1年前に大動脈弁閉鎖不全症に対して大動脈弁置換術を施行した.高安動脈炎に対してPrednisoloneとAzathioprine内服を継続していたが4カ月前からTocilizumab皮下注に変更となった.1カ月前から労作時呼吸苦を認め,2日前から胸部不快感が出現し当院を受診した.血液検査ではCRP 0.02 mg/dl,心エコーとCTで弁周囲逆流と大動脈基部仮性瘤を認めたため,高安動脈炎による大動脈基部仮性瘤を疑い緊急手術を施行した.大動脈基部に全周性に仮性瘤を認めたが,人工弁の破壊は認めなかった.前回手術時の縫合糸は人工弁のsawing cuffに付着しており,人工弁は弁輪に固定されておらず容易に摘出できた.生体弁と人工血管でcomposite graftを作製しBentall手術を施行した.病理組織診断では亜急性の感染性心内膜炎の診断で,感染による大動脈基部仮性瘤と診断した.術後経過は良好で第19病日に独歩自宅退院となった.術後Tocilizumab皮下注は中止しPrednisolone内服のみを継続しており,術後3年経過したが再発は認めず経過している.AVR後,生物学的製剤投与中に弁輪部膿瘍を生じた高安動脈炎に対して外科的治療を施行した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

  • 松田 真以子, 藤本 貴大, 湯崎 充, 岡村 吉隆, 西村 好晴
    2024 年 53 巻 2 号 p. 70-73
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    症例は73歳女性,労作性呼吸困難あり,重症大動脈弁狭窄症と右冠動脈狭窄を認めた.大動脈弁置換術と冠動脈バイパス術の手術適応と考えた.大伏在静脈グラフトの中枢側吻合を上行大動脈に予定していたが,術中所見では予定部位の大動脈壁が拡大しており脆弱で吻合に適さないと判断した.壁の性状から弓部付近への吻合が適当と判断した.大動脈遮断部位より末梢側で部分遮断鉗子を使用できないため,中枢側吻合デバイスを用いてclamp lessで吻合した.術後の冠動脈造影CTではグラフトは良好に開存していた.

  • 佐藤 大樹, 久米 悠太, 盆子原 幸宏
    2024 年 53 巻 2 号 p. 74-77
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    症例は50歳男性.突然の胸痛,意識消失を主訴に当院へ搬送となった.心タンポナーデであったため,緊急で経皮的心囊ドレナージ,気管内挿管を施行し血行動態は安定した.CT検査および冠動脈造影検査で大動脈基部の解離が疑われたが,上行大動脈に明らかな解離所見を認めなかったため冠動脈CT検査を施行したところ,左冠動脈主幹部から連続して頭側に突出する16×16mmの冠動脈瘤を認め,冠動脈肺動脈瘻を合併した冠動脈瘤破裂と診断.冠動脈瘤切除,冠動脈肺動脈瘻閉鎖,冠動脈バイパス術を施行し独歩退院となった.冠動脈瘤破裂に関する外科的加療の報告は稀であり,文献的考察を踏まえて報告する.

  • 金子 寛行, 嶋田 正吾, 小野 稔
    2024 年 53 巻 2 号 p. 78-82
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    症例は24歳男性.18歳時にmodified Bentall手術の既往あり.二日前からの感冒様症状と40℃を超える発熱で近医を受診し,経胸壁超音波検査(TTE)では感染性心内膜炎(IE)を疑う所見はなく,不明熱として入院となり,当日より抗菌薬投与が開始された.翌日朝に右片麻痺・失語が出現し,左中大脳動脈領域脳梗塞の診断で緊急血栓回収を行い再灌流されたが,軽度の医原性クモ膜下出血を合併した.翌々日のTTEで大動脈弁位の疣贅と弁輪周囲膿瘍,入院時血液培養からメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出され,IEの診断で手術加療目的に当院転院となった.発熱は持続し炎症反応の再上昇を認め,感染制御は不良であった.さらに術前精査で新規脳梗塞,脾梗塞,腎梗塞を指摘され,四肢はわずかに動かせるが発語はなかった.繰り返す多発塞栓,感染制御不良で脳梗塞発症後6日にホモグラフトを用いた再基部置換術および冠動脈バイパス術を施行した.術後経過は良好で,術後31日にリハビリ目的に転院となった.患者は神経学的合併症なく,職場復帰し,術後5年現在もホモグラフトの再感染や構造的弁劣化はなく経過している.

  • 遠藤 由樹, 深田 靖久, 中野渡 仁, 入江 嘉仁
    2024 年 53 巻 2 号 p. 83-86
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    症例は71歳女性.5年前に左室前壁の心筋梗塞による心室中隔穿孔に対しextended sandwich patch法にて修復を行った.経過は良好で独歩退院したが3年ほど経過し造影CT検査および経胸壁心臓超音波検査で心室瘤をみとめた.経時的に瘤が拡大し,瘤内に血栓を疑う所見をみとめ,呼吸苦も訴えるようになったため手術適応と判断した.手術は前回手術創を剥離後心停止下に左前下行枝左側で瘤を縦切開した.内部には術前検査の予想以上の多量血栓をみとめた.血栓を除去しDor手術を行った.心室中隔穿孔後遠隔期の心室瘤の報告は少なく,拡大する心室瘤は心破裂と脳梗塞の予防のためにも速やかな手術介入が必要と思われた.

症例報告[大血管]
  • 馬場 啓徳, 岩﨑 あや香, 森 晃佑, 中村 栄作
    2024 年 53 巻 2 号 p. 87-90
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー

    症例は70歳の通院歴のない男性.20XX年X月X日の夜に嘔吐され,翌日,四肢の脱力感と腹痛を主訴に前医を受診された.腹部単純CT検査で腹部大動脈瘤破裂が疑われ当院へ救急搬送された.当院での造影CT検査で,血栓閉塞型のB型大動脈解離と腹部大動脈瘤破裂(ruptured abdominal aortic aneurysm; rAAA)と診断され同日緊急手術を行った.腹部大動脈瘤は最大短径で70 mm以上あり,腎動脈から腹部大動脈瘤までは40 mm以上あった.一方で,大動脈解離は腹部大動脈瘤まで進展していたが,血栓閉塞型であったので腹部大動脈内ステントグラフト内挿術(EVAR)を行った.ICU入室後に膀胱内圧が23 mmHgと高値を示し,尿量も減少したため,abdominal compartment syndrome(ACS)と判断し緊急で開腹減圧術を施行した.第2病日には閉腹でき,第3病日に抜管できた.第8病日にICUを退室し,第38病日にリハビリ転院した.今回われわれは,血栓閉塞型急性B型大動脈解離に併発したrAAAの症例に対して救命できた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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