日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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42 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 青木 淳, 末澤 孝徳, 古谷 光久, 山本 修, 多胡 護
    2013 年 42 巻 2 号 p. 83-88
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)において良好な視野展開を得ることを目的とし,2008年に心膜左側切開法を導入したので,心膜正中切開によるOPCABと比較検討した.対象は,2004~2007年に心膜正中切開で施行された待機的OPCAB 62例(M群)と2008~2011年に心膜左側切開で施行された91例(L群)で,術前診断,左室駆出率,手術因子,術後経過について検討した.術前診断は,L群で,陳旧性心筋梗塞および不安定狭心症が有意に多く,左室駆出率40%未満の症例が多い傾向があった.遠位側吻合数は,M群2.3±0.7,L群2.8±1.0とL群で有意に多く(p=0.001),左室駆出率60%未満の症例では,回旋枝・右冠動脈吻合中の収縮期血圧はL群で有意に高かった.手術時間は,M群305±71分,L群223±54分とL群で有意に短かった(p<0.001).術後最大CK-MBは,L群で有意に低く(p=0.005),CK-MBが正常範囲を逸脱した症例も,L群で有意に少なかった(p<0.001).術後ICU在室日数・術後入院日数とも,L群で有意に短かった.グラフト開存率は,左前下行枝(M群94%,L群99%),対角枝(M群85%,L群100%)では,有意差を認めなかったが,回旋枝(M群75%,L群98%,p=0.001),右冠動脈(M群81%,L群98%,p=0.014)では,L群で有意に良好であった.OPCABにおいて,心膜左側切開は,有用と思われた.
  • 吉岡 良晃, 光野 正孝, 山村 光弘, 田中 宏衞, 良本 政章, 福井 伸哉, 辻家 紀子, 梶山 哲也, 宮本 裕治, 羽尾 裕之
    2013 年 42 巻 2 号 p. 89-93
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    大動脈二尖弁(BAV)は,遺伝性の結合織異常であり,弁機能異常がなくても,大動脈基部や上行大動脈が拡大するおそれがある.今回BAVの形態と上行大動脈拡大の関連,および上行大動脈拡大の形態や上行大動脈壁の病理学的な特徴について検討した.2004年以降に大動脈弁膜症に対して大動脈弁置換術(CABG併施を含む)を施行した276例中,BAVと診断した60例(21.5%)を対象とした.BAVの形態は,Sievers分類を用い,上行大動脈拡大の形態は,造影CT(3D構築)にて評価した.病理学的な特徴は,嚢状中膜壊死の程度をaortic wall scoreを用いて評価した.BAVで最も頻度が高いType 1のなかで,L/R型に上行大動脈拡大が多く(48%),BAVの形態と上行大動脈拡大の関係が示唆された.上行大動脈拡大の形態的な特徴は,asymmetric dilatationが多かったことであるが,基部拡大例ではすべてsymmetric dilatationを呈していた.病理学的な特徴は,上行大動脈が拡大していない症例も含めて全例に嚢状中膜壊死を認めた点であった.Aortic wall scoreは基部拡大群で有意に高値であり,上行拡大群よりも壁の変性が高度であるという結果であった.結論として,BAVの場合では基部拡大が軽度でも,積極的な基部置換術が必要であると考えられた.
  • 梅原 伸大, 齊藤 聡, 津久井 宏行, 山崎 健二
    2013 年 42 巻 2 号 p. 94-102
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    リスク解析モデルによる死亡率,合併症発生率の予測は臨床のさまざまな場面で用いられ,その重要性をましている.これまで,本邦でもlogistic EuroSCOREがリスク解析モデルとして多く使用されてきたが,実際の本邦における臨床実態やその成績とは乖離があると考えられている.JapanSCOREはJACVSD(日本成人心臓血管外科手術データベース)によるrisk解析モデルであり,その結果は,より日本の心臓血管外科臨床成績を反映していると考えられる.今回,logistic EuroSCORE(ES)とJapanSCORE(JS)を比較検討し,さらに当院での実際の成績を用いて予測精度を検討した.当院で2006年10月~2011年6月に施行した心臓血管外科手術のうちJACVSDでリスクモデルが確立している単独CABG,およびMaze術以外の合併手術のない弁置換または弁形成術,および胸部大動脈手術症例,計733例を対象とし,単独CABG群(CABG群)は151例,弁膜症手術(valve群)は346例,大血管手術(aorta群)は236例であった.これらの症例に対してEuroSCORE,JapanSCORE用いて予測手術死亡率を算出して比較検討するとともに,実際の成績を用いて,ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線から算出されるAUC(Area under the ROC curve)を用いてその予測精度について検討した.全体でのESは平均5.99(0~15)点,logistic mortalityは平均7.28(0.88~53.03)%,JapanSCORE(JS)によるlogistic mortalityは平均4.05(0.2~84.6)%であった.AUCはESで0.740,JSで0.806であった.JSにおけるlogistic mortality and morbidityは平均17.72(3.1~87.9)%であり,AUCは0.646であった.CABG群ではESは平均4.81(0~15)点,logistic mortalityは平均5.7(0.88~53.03)%であった.JSによるlogistic mortalityは平均3.18(0.2~84.6)%で,AUCはESで0.636,JSで0.770であった.JSにおけるlogistic mortality and morbidityは平均13.37(3.2~83.6)%であり,AUCは0.631であった.Valve群ではESは平均5.67(1~12)点,logistic mortalityは6.00(1.51~30.51)%であった.JSにおけるlogistic mortalityは3.79(0.5~28.5)%であった.AUCはESで0.715,JSで0.794であった.JSにおけるlogistic mortality and morbidityは平均17.54(4.2~66.6)%で,AUCは0.606であった.Aorta群ではESは平均6.95(1~14)点,logistic mortalityは平均10.17(1.22~49.74)%であった.JSにおけるlogistic mortalityは4.99(0.8~43)%であった.AUCはESで0.720,JSで0.827であった.JSにおけるlogistic mortality and morbidityは平均20.83(4.65~87.8)%でAUCは0.640であった.全症例および術式別のそれぞれでJSはESに比較して低く算出された(p<0.001).ESとJSはともにその予測精度は良好であったが,JSのほうがより予測精度が高かった.当院での実際の成績とJSを比較することにより,当院の優良点,改良すべき点を明らかにすることができた.JSにおけるlogistic morbidityの予測精度はmortalityに比べ改善の余地はあるものの,JSはESと比較し,本邦における,心臓血管外科手術のリスク予測に有用なものであると考えられた.
  • 松山 重文, 福井 寿啓, 田端 実, 平岩 伸彦, 松下 明仁, 佐々木 健一, 高梨 秀一郎
    2013 年 42 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    近年,冠動脈バイパス手術(CABG)はさまざまな低侵襲化の努力がなされている.グラフト採取も可能なかぎり低侵襲で行うべきであり,当院では2008年4月より内視鏡下大伏在静脈採取術(EVH)を導入した.今回EVHの早期および中期成績を報告する.2008年4月~2010年12月のCABG症例のうちEVHを施行した262例を対象とした.平均年齢70.5歳,男性178例.術後評価として冠動脈造影またはCTを施行した.262例のうち7例でopen採取へ移行し,EVHの完遂率は97.3%であった.早期開存率は95.8%であった.創合併症は7例に認め,発生頻度は2.8%であった.病院死亡を3例(1.2%)に認めた.1年後の開存率は74.2%で,経過観察中グラフト閉塞を認めた10例にPCIを要した.生存率は1年93.9%,3年79%であった.主要心血管イベント回避率は1年92.2%,3年77.5%であった.EVHは創合併症に有用であり,本邦でも普及していくべき手技であると思われる.しかしながら早期開存率は良好であったものの中期開存率は満足できるものではなかった.そのなかで,EVH前にヘパリンを投与した群,術後にワーファリンを投与した群では1年後の開存率が高い傾向であった.手技の工夫やデバイスの改良,周術期および術後の抗凝固療法等により,中遠隔期の成績も改善していくものと思われる.
  • 新改 法子, 庄村 遊, 岡田 行功, 土井 まつ子
    2013 年 42 巻 2 号 p. 108-113
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    手術部位感染(SSI)は手術後に発生する重要な合併症のひとつであり,SSIの発生を抑えることはきわめて重要である.2008年1月~2010年12月に当院で心臓弁膜症手術を受けた患者で,CABGおよび胸部大血管合併手術のない337例を対象にSSI発生要因を検討した.SSIの判定は米国疾病管理予防センターの医療関連感染調査に使用するSSI定義を用いた.SSI発生率は4.7%(16例)であった.単変量解析の結果,開心術歴,左室駆出率,手術手技,手術時間,術後1日目朝および2日目朝血糖値に統計学的有意差を認めた.多重ロジスティック回帰分析の結果,術後1日目朝血糖値150 mg/dl以上(オッズ比4.2;95%信頼区間1.3~13.7),手術時間(オッズ比2.0;95%信頼区間1.2~3.5)が独立したリスク因子に抽出された.血糖値別SSI発生率の比較では,術後2日目朝血糖値は術後1日目朝血糖値同様に150 mg/dlをこえるとSSI発生率が高値を示した(p<0.02).手術時間四分位範囲別SSI発生率の比較では,手術時間が長くなるとSSI発生率は高値を認めた.本研究より手術時間の短縮を図り,術後1日目朝血糖値を150 mg/dl以内にコントロールする意義が示唆された.
  • 青木 淳, 末澤 孝徳, 古谷 光久, 山本 修, 櫻井 淳
    2013 年 42 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    2010年からステントグラフト(SG)を用いたSG治療時,Nアセチルシステインの内服,術前後の補液からなる腎保護プロトコールを導入したので検討した.SG治療症例229例(胸部89例,腹部140例)中,術前血清クレアチニン値(CRTN)1.5 mg/dl以上かつ術前estimated glomerular filtration rate(eGFR)50 ml/min/1.73 m2 以下の26例を対象として,腎保護プロトコールが行われた15例(P群)と対照群11例(N群)で検討した.さらに,腎保護プロトコールが用いられなかった192例を対象とし,造影剤腎症(CIN)の発生と術前腎機能の関係を検討した.CINは,CRTN値が術前値より25%以上または,0.5 mg/dl以上増加した場合と定義した.術後,血清CRTN値の変化率は,N群では,術後1,3日に上昇し,術後6日目に術前値に復帰したのに対し,P群では,術後一貫して,術前より低値であり,術後3日目にN群でP群より有意に高かった.CINの発生率は,P群7%,N群45%(p=0.054)とP群で少ない傾向があった.腎保護プロトコールが用いられなかった症例では,CRTN 1 mg/dl以上,かつeGFR 50 ml/min/1.73 m2 以下の55例中16例(29%)でCINを発症したが,これ以外の症例では,137例中1例(0.7%)であった.SG治療において腎保護プロトコールは有用であり,今後,CRTN 1.0 mg/dl以上,eGFR 50 ml/min/1.73 m2 以下の症例に適用すべきと思われた.
症例報告
  • 打田 裕明, 小西 隼人, 本橋 宜和, 垣田 真里, 禹 英喜, 佐々木 智康, 三重野 繁敏, 大門 雅広, 小澤 英樹, 勝間田 敬弘
    2013 年 42 巻 2 号 p. 120-123
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    薬物使用歴のある成人に発症した,三尖弁位感染性心内膜炎に対して,弁形成術を施行した1例を報告する.症例は20歳男性.発熱を主訴に受診し,肺膿瘍を合併した三尖弁位感染性心内膜炎と診断され,抗生剤による加療が行われたが,炎症所見の遷延を認めた.血液培養から,黄色ブドウ球菌を検出,心臓超音波検査では三尖弁に疣贅と三尖弁閉鎖不全を認めた.肘部に多数の注射痕を認め,詳細な問診を行ったところ,覚醒剤の自己注射歴が判明した.抗生剤治療に抵抗性の感染性心内膜炎に対して,三尖弁形成術を行った.経過は良好で,術後2週間で独歩退院したが,予定された外来の受診はなく,術後も覚醒剤所持で逮捕されている.覚醒剤の再使用,術後の投薬管理の点から術式に一考を要した.
  • 近藤 庸夫, 山本 正樹, 西森 秀明, 福冨 敬, 割石 精一郎, 木原 一樹, 田代 未和, 渡橋 和政
    2013 年 42 巻 2 号 p. 124-127
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    CD-DST法(collagen gel droplet-embedded culture drug sensitivity test)は,摘出した腫瘍を用いて抗癌剤の感受性を評価する検査であり,テイラーメイドな化学療法を可能にする.これは下大静脈原発平滑筋肉腫のように稀な腫瘍では有効な手段になりうると考えられる.これまでCD-DST法を下大静脈原発平滑筋肉腫に適用した報告はわれわれが調べる限りではほとんどなく,今回その1例を報告する.症例は61歳女性で腹痛を主訴に近医を受診し,CTで下大静脈原発腫瘍を指摘された.腎静脈下の下大静脈を腫瘍とともに切除し,16 mm ePTFEグラフトを用いて再建した.病理組織検査にて平滑筋肉腫と診断された.摘出標本からCD-DST法を施行し,CDDP, VP-16, ADR, VDSの4剤で感受性を認め,CPA, VCR, MMC, CBDCA, TXL, TXTでは認めなかった.術後経過は良好で術後3カ月で再発は認めていない.再発の際にはこの結果を参考に化学療法を行う予定である.
  • 井上 陽介, 丸山 隆史, 長谷川 幸生, 八田 英一郎, 山田 陽, 中西 克彦, 酒井 圭輔
    2013 年 42 巻 2 号 p. 128-131
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    感染性腹部大動脈瘤は比較的稀な疾患であり,外科的治療戦略の選択についてはいまだ議論の分かれるところである.菌血症状態下での緊急手術は手術死亡率が高く,まず内科的感染制御が求められる.しかし感染の制御不良例かつ急速に瘤径が拡大する症例では,早期外科治療を行わざるを得ない.その際グラフト感染を考慮すると人工血管使用が躊躇され,凍結保存同種血管(cryopreserved homograft)が選択される場合があるが,in-situ homograft置換症例報告は少数であり,長期成績もいまだ不明な点が多い.今回当施設においてin situ homograft置換後遠隔期に破裂を認めた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 山本 修, 青木 淳, 末澤 孝徳, 古谷 光久, 多胡 護, 櫻井 淳
    2013 年 42 巻 2 号 p. 132-136
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    A型急性大動脈解離(DAA)術後の中枢側吻合部ulcer-like projection(ULP)に対し開窓型ステントグラフトを用いた胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.症例は73歳女性.2009年1月に左房粘液腫に対する切除術,2011年11月にDAAに対する弓部大動脈置換術を施行された.DAA術後のCTで中枢側吻合部前方にULPを認めていたが術後72日目のCTで増大傾向にあり,さらに後方にも別のULPが出現した.3度目の開胸を避け,開窓型ステントグラフトを用いてTEVARを施行した.術後経過は良好で8日目に退院し,3カ月後のCTではULP内はほぼ血栓閉塞していた.DAAに対する人工血管置換術後の中枢側吻合部ULPに対して開窓型ステントグラフトによるTEVARは有用な治療法となる可能性がある.
  • 小野 公誉, 黒田 弘明
    2013 年 42 巻 2 号 p. 137-140
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は71歳女性で,52歳時心房中隔欠損症に対する直接閉鎖術を受けた既往があり,このとき三尖弁逆流を放置された.18年後には著明な心拡大を呈し,僧帽弁閉鎖不全症および三尖弁閉鎖不全症による末期心不全状態で入退院を繰り返していた.やがて内科的治療が困難となったので,手術を行った.僧帽弁輪縫縮術,三尖弁形成術,両心房縫縮術および心筋電極ペースメーカー移植術を行った.三尖弁形成については,自己心膜を用いて前尖を拡張し,大きめの人工弁輪を用いて弁輪縫縮を行った.術後両弁逆流は消失し第63病日に独歩退院した.弁尖拡張は,耐久性の問題など今後も慎重な経過観察が必要ではあるが,著しい弁輪拡張を伴う三尖弁閉鎖不全症には有効な形成法と考える.
  • 豊田 泰幸, 鈴木 憲治, 前田 拓也, 石山 雅邦, 青見 茂之
    2013 年 42 巻 2 号 p. 141-144
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    巨大腹腔動脈瘤,院内発症解離性大動脈瘤,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併したきわめて稀な1例を経験したので報告する.症例は75歳,男性.ITPの診断のもと当院血液内科にて外来経過観察中であった.腹部膨満感を自覚し腹部造影CT検査にて最大径72.7 mmの腹腔動脈瘤を認め入院となった.外科的修復を前提として血小板数上昇を目的にγグロブリン療法を行っていた.その後大動脈解離(DeBakey分類IIIb)を発症するとともに腹腔動脈瘤は78 mm大に拡大していた.降圧管理を行ったのち解離発症後16日目に腹腔動脈瘤手術,脾臓摘出術を施行し良好な結果を得た.
  • 中路 俊, 橋詰 浩二, 有吉 毅子男, 久田 洋一, 谷川 和好, 三浦 崇, 松隈 誠司, 住 瑞木, 中山 敏幸, 江石 清行
    2013 年 42 巻 2 号 p. 145-147
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性.腎細胞癌にて右腎摘出術の既往があり,その後,肺転移,縦隔リンパ節転移,恥骨転移を指摘されていた.今回,心エコーにて左房内に粘液腫様の腫瘍を認め手術を施行した.経心房中隔アプローチで左房に到達すると腫瘍は右下肺静脈内に連続していた.病理組織検査では腎細胞癌の所見と一致し,肺転移巣が肺静脈を介して左心房内に達したと推察された.腎細胞癌の左心系への進展はきわめて稀で,これまでに報告されたのは4例のみであり,文献的考察を加えて報告する.
  • 上田 英昭, 久 容輔, 山本 裕之, 峠 幸志, 重久 喜哉, 川津 祥和, 山元 文晴, 井本 浩
    2013 年 42 巻 2 号 p. 148-150
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は68歳女性.2年前より心房中隔欠損症(以下ASD)を指摘されていた.労作時呼吸困難が出現し,前医を受診した.胸部X線写真で心拡大,両側肺野の浸潤影があり,ASDによる心不全と診断された.術前検査を行ったところ,心エコーで以前までは指摘されていなかった可動性のある大動脈弁腫瘍があり,乳頭状弾性線維腫と診断された.術中所見では大動脈弁の3尖すべてに腫瘍が存在し,最大のものは無冠尖にあり,9×7 mmであった.弁を温存して腫瘍のみを切除するのは不可能と判断し,大動脈弁置換術およびASDパッチ閉鎖術を行った.可動性のある乳頭状弾性線維腫は梗塞のリスクが高く,サイズにかかわらず早期の手術が必要と考えられる.腫瘍のみの切除が不可能に考えられる場合には弁置換術が適応になると考えられた.
  • 田宮 幸彦, 深田 穣治, 藤澤 康聡, 栗本 義彦
    2013 年 42 巻 2 号 p. 151-154
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は77歳の男性.2年前に胸部X-Pにて胸部異常陰影を指摘され,当科を紹介された.CTにて右側大動脈弓に伴うKommerell憩室と診断された.自覚症状はなく経過観察された.経過中に憩室は徐々に拡大し最大径5.3 cmとなり,破裂の危険を考慮し手術適応とした.術前のCTでは,弓部分枝で鏡像的な右側大動脈弓とKommerell憩室を認めた.手術は右大腿動脈アプローチでbrachial wire法により自作の開窓式ステントグラフト内挿術を施行した.現在術後30カ月経過しendoleak,憩室の拡大は認めていない.きわめて稀な左鎖骨下動脈起始異常を伴わない右側大動脈弓,Kommerell憩室に対する開窓式ステントグラフト内挿術を経験したので報告した.
  • 中山 正吾, 坂本 和久, 伊藤 恵
    2013 年 42 巻 2 号 p. 155-158
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.持続性心房細動に対し経皮的カテーテルアブレーションを施行された.施行後15日目に吐血を主訴として来院し,上部消化管内視鏡検査にて食道潰瘍と診断された.約1カ月間の絶食治療の後,経口摂取を再開したが,再開後4日目に多発性脳梗塞を発症し,同日大量吐血からショック,心肺停止となった.カテーテルアブレーションに合併した左房食道瘻と診断し,心肺蘇生後緊急手術を施行した.胸骨正中切開にてアプローチし,体外循環を用い心停止下に左房後壁の瘻孔および食道穿孔部を直接縫合閉鎖したが,開心術後3日目に低心拍出量症候群と多臓器不全にて死亡した.本疾患は稀な合併症であるが,発症すれば致命的な病態となるため発生予防が重要である.また発症した場合には速やかな外科的治療が必要と思われる.
  • 税所 宏幸, 飛永 覚, 平田 雄一郎, 和田 久美子, 森 龍祐, 大野 智和, 田中 厚寿, 廣松 伸一, 明石 英俊, 田中 啓之
    2013 年 42 巻 2 号 p. 159-162
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は31歳男性.仕事中に胸部を圧縮機械にはさまれた際,意識消失し,近医へ救急搬送された.搬入時意識は改善し,胸部レントゲンで異常を認めなかったため,特に加療されることなく帰宅された.しかし,受傷2日後に施行された胸部CTでStanford A型急性大動脈解離を認めたため,精査加療目的で同日緊急入院となった.入院後安静,降圧療法にて経過観察され,受傷後35日目に自宅退院となった.しかしCTにて上行大動脈径は拡大傾向であったため,当院で上行部分弓部大動脈置換術を施行された.術後経過は良好であり,術後16病日に退院された.鈍的外傷後,Stanford A型大動脈解離を合併することは稀であるが,文献的考察を加えて報告する.
  • 籠島 彰人, 高橋 昌一
    2013 年 42 巻 2 号 p. 163-167
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は56歳女性.大動脈弁置換術,僧帽弁輪形成術,そして三尖弁輪形成術を施行された2年後に脳出血のため入院となった.その加療中に感染性心内膜炎を発症したが,保存的加療により治癒された.しかし,その後僧帽弁狭窄が進行したため手術の方針となった.心エコーにて,僧帽弁輪に縫着されたリング周囲に僧帽弁に庇様に覆い被さるように異常組織が徐々に増生してきたことに加えて,増加傾向にある大動脈弁位人工弁の流速上昇を認めた.流速の上昇の原因は心エコーでは不明であったが,multidetector computed tomographyにより大動脈弁下に存在した異常組織と人工弁の開閉障害が判明した.これらの病変に対して,異常組織の切除と二弁置換術を施行した.
  • 久本 和弘, 外山 雅章, 加藤 全功, 加藤 雄治, 杉村 幸春
    2013 年 42 巻 2 号 p. 168-171
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/04/02
    ジャーナル フリー
    症例は79歳女性.前胸部痛を自覚し近医を受診,心電図より急性心筋梗塞が疑われた.ショックバイタルであったためドクターヘリにて当院へ緊急搬送された.到着後すぐにIABPを挿入し緊急冠動脈造影を行った.左前下行枝(LAD)#7に完全閉塞を認め,循環器内科によりPCIを施行した.CCUへ帰室後,経胸壁心臓超音波エコーにて心尖部付近の前壁中隔に穿孔を認めた.入院5日目にウマ心膜パッチを用いた手術を施行した.梗塞部位は広範囲で血腫を伴っており,組織は脆弱であった.術後の経胸壁心超音波検査で遺残短絡を認めなかった.術後経過良好で術後55病日に独歩退院となった.Infarct exclusion法に遺残短絡を残さないための工夫を加えたmodified infarct exclusion法により,広範囲出血性梗塞を伴う心室中隔穿孔例に対し,良好な結果を得たので報告する.
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