1990年1月から2003年9月の開心術1,278例のうち,9ヵ月以上の慢性血液透析症例30例(2.3%)を対象とし,冠状動脈バイパス術(CABG)を施行した20例(CABG群)と弁置換術を施行した10例(弁置換術群)に分け,術後遠隔成績を中心に比較検討した.CABG群は男性14例・女性6例,平均年齢63±9歳で,弁置換術群は男性6例・女性4例,平均年齢56±12歳であった.CABG群の透析導入疾患は糖尿病性腎症が9例(45%),弁置換術群は慢性糸球体腎炎が7例(70%)と多く,また透析導入から開心術までの透析施行期間がCABG群では平均5年7ヵ月±55ヵ月であったのに対し,弁置換術群では10年1ヵ月±30ヵ月と有意に長かった(
p=0.02).CABG群の術式は予定手術が13例(うちoff-pump CABGと左肺癌同時手術が各1例),緊急手術が7例(うちoff-pump CABG1例)であった.弁置換術群の術式は大動脈弁置換術(AVR)5例,感染症心内膜炎(IE)によるAVR2例,IEによる僧帽弁置換術(MVR)2例,MVR+三尖弁輪形成術1例で,全例に機械弁を用いた.両群とも追跡率は100%で,平均観察期間はCABG群が2年5ヵ月で,弁置換術群が2年11ヵ月であった.病院死亡はCABG群が3例(15%,術後7日目の脳梗塞,2ヵ月目の不整脈死,4ヵ月目の縦隔炎)で,弁置換術群が2例(20%,AVR術後17日目の壊疽性胆嚢炎,20日目の敗血症)であった.遠隔死亡はCABG群が5例(術後8ヵ月目の急性硬膜下血腫,1年目の肺炎,1年7ヵ月目の急性心筋梗塞,2年10ヵ月目の心不全,5年目の胃癌),弁置換術群が4例(術後4ヵ月半の子宮癌,1年4ヵ月と1年6ヵ月目の脳内出血,5年3ヵ月目の人工弁感染性心内膜炎であった.術後4年生存率はCABG群が56%(
n=5),弁置換術群が47%(
n=3)で,両群間には差がなかった(
p=0.44).慢性血液透析症例における開心術の術後管理では,早期の感染コントロール,CABG後遠隔期に進行する冠状動脈病変に対する注意深い観察,弁置換術後遠隔期の脳内出血合併症予防に配慮した抗凝血薬療法が必要と思われた.
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