日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
Print ISSN : 0285-1474
ISSN-L : 0285-1474
40 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
巻頭言
原著
  • 杉本 努, 山本 和男, 滝澤 恒基, 若林 貴志, 佐藤 裕喜, 高橋 聡, 吉井 新平
    2011 年 40 巻 2 号 p. 43-47
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    急性冠症候群に対する緊急CABGの手術成績は待機例に比しいまだ不良である.今回,2004年から2008年までの単独CABG 432例中,緊急/準緊急手術を必要とした72例を対象とし,これらの症例をon pump beating CABG群とOPCABの2群に分け検討した.On群では,AMI症例,トロポニンT陽性例,術前CK値,低心機能例,術前MR2度以上,心拡大例はいずれも高値であった.術中因子に両群間の有意差を認めなかった.術後因子では,在院死亡をon群3.2%,off群7.3%に認めた.術後合併症はon群に有意に高値であり,特に呼吸不全,ICU滞在日数,低心拍出量症候群はon群に高値であり術後管理に難渋した症例が多かった.ロジスティック回帰分析では,術前CK値が有意な合併症の危険因子であった.
  • 北中 陽介, 幕内 晴朗, 村上 浩, 大野 真, 安藤 敬, 田中 佳世子, 大沼 繁子
    2011 年 40 巻 2 号 p. 48-53
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    Free-radical scavengerとして開発されたedaravoneは,脳梗塞後の機能回復に有用とされているが,弓部大動脈手術時の脳保護効果についての実験的検討は行われていない.そこで脳保護法の一つである超低体温下選択的脳灌流法(SCP)において,実験的にedaravone投与による薬理学的脳保護効果を検証した.雑種成犬12頭を用いて,20℃の超低体温循環停止下に一般的な脳灌流量の1/2量である5 ml/kg/minで120分間のSCPを行った.SCPおよび復温開始時にedaravone 3 mg/kgを投与した群をE群(n=6)とし,投与しない対照群をC群(n=6)とした.体性感覚誘発電位(SEP),脳組織圧,pH,酸素分圧および脳組織血流量を測定し,最後に病理組織学的検索を行った.C群でSEPが完全復帰したのは6例中2例(33%)に留まったのに対し,E群では全例でSEPが完全復帰した(p=0.0140).また,C群の脳組織圧はE群よりも有意(p=0.0297)に高かった.しかし,pH,酸素分圧および脳組織血流量には有意差を認めなかった.病理組織学的検索にて,C群では大脳皮質の神経細胞内ニッスル顆粒の染色性が低下し,急性の虚血性変化を呈したものが多かったのに対し,E群では全例で染色性が維持された.以上の結果より,edaravoneは,超低体温下選択的脳灌流時の虚血障害を軽減する脳保護効果を有することが明らかとなった.
症例報告
  • 今井 章人, 松崎 寛二, 今水流 智浩, 軸屋 智昭
    2011 年 40 巻 2 号 p. 54-57
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    症例は38歳の男性.労作時胸痛で発症し,精査の結果80×60 mm大の左バルサルバ洞動脈瘤を認めた.左冠尖を占拠する動脈瘤によって左冠動脈主幹部が圧排伸展され,99%狭窄を呈していた.ベンタール型手術(Carrel patch法)と左前下行枝への冠動脈バイパス術を施行した.術後経過は順調で合併症はなかった.術後評価で,左内胸動脈-左前下行枝のバイパスは閉塞していることが判明した.狭心痛で発症した左バルサルバ洞動脈瘤の症例を経験し,基部置換を行った.バルサルバ洞動脈瘤の圧迫のみが原因で冠動脈狭窄をきたしている場合には,冠動脈バイパス術を付加しなくてもよい場合がある.
  • 西木 菜苗, 高橋 章之, 土肥 正浩, 渡辺 太治, 坂井 修, 中島 昌道
    2011 年 40 巻 2 号 p. 58-61
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    巨大動脈瘤を伴う冠動脈瘻の報告は稀であるが,特にバルサルバ洞より拡大している症例の報告は少ない.症例は64歳男性.無症状であり,腹部大動脈瘤の術前検査の際に,巨大冠動脈瘤を伴う右冠動脈右室瘻を指摘された.MDCTにて右冠動脈は起始部のバルサルバ洞から#2まで瘤化しており,最大径は50 mmであった.人工心肺下に冠動脈瘤切除術ならびに冠動脈瘻閉鎖術,バルサルバ洞形成術,大伏在静脈を用いた右冠動脈末梢へのバイパス術を行った.術後4年のフォローアップを行い,経過は良好である.巨大冠動脈瘤を伴う冠動脈瘻に対しバルサルバ洞形成を含む瘤切除術を行った報告は稀少であり,今回文献的考察を含めて報告する.
  • 桑原 豪, 田代 忠, 森重 徳継, 岩橋 英彦, 西見 優, 林田 好生, 竹内 一馬, 峰松 紀年, 伊藤 信久, 助弘 雄太
    2011 年 40 巻 2 号 p. 62-65
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    動脈硬化性病変(ASO)のため大腿動脈経由のIABP使用が困難な虚血性心筋症症例に対し冠動脈バイパス術と僧帽弁形成術を行った後,上行大動脈に縫着した人工血管より大動脈内バルーンを挿入した症例を報告する.症例は58歳,男性.15年前より糖尿病性腎症のため透析導入されており,既往歴として,ASOによる左大腿および右下腿切断があった.2年前より僧帽弁逆流(MR)が出現し,今回MRの進行および左主幹部および左前下行枝狭窄を認め,MVPとCABGを施行した.人工心肺離脱時に血行動態不安定であり,IABPを必要とした.ASOのため両側大腿動脈も閉塞していた,上行大動脈に8 mm人工血管を縫着し同部位より大動脈内バルーン挿入を行った.また大動脈内バルーンの通った人工血管を前縦隔に通し,心窩部皮下に人工血管末端を埋没しIABのシャフトを体外に出した状態で皮膚を閉鎖した.術後4日目,局所麻酔下に容易に大動脈内バルーンを抜去した.術後経過は順調であり,本法は四肢末梢動脈からのアプローチ困難な重症動脈硬化性病変を合併した症例の手術時IABP使用に際し,有用な方法であった.
  • 熊野 浩, 春藤 啓介, 山口 明満
    2011 年 40 巻 2 号 p. 66-68
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.大動脈弁狭窄症に対して生体弁を使用した大動脈弁置換術を施行し,その7カ月後に発熱にて入院となった.入院時の血液培養でメチシリン感受性Staphylococcus aureusが検出され,入院経過中の心臓超音波検査で大動脈弁位人工弁には異常が見られなかったが,人工弁より末梢側の大動脈から右室への短絡血流と右室流出路内の疣贅を認めた.感染性心内膜炎(IE)の診断で手術を施行したが,前回の大動脈切開縫合閉鎖部の大動脈内腔から右室流出路への瘻孔と右室流出路内に巨大な疣贅を認めた.大動脈弁位人工弁ならびに肺動脈弁に異常は認めなかったため,疣贅の摘出,瘻孔の直接閉鎖ならびに馬心嚢膜パッチでの右室流出路欠損部再建にて手術を終了した.術後2年を経過した現在まで感染の再燃は認めていない.大動脈弁置換術後のIEによる大動脈-右室瘻は極めて稀な症例であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 瀬戸 夕輝, 佐戸川 弘之, 佐藤 洋一, 高瀬 信弥, 若松 大樹, 黒澤 博之, 坪井 栄俊, 村松 賢一, 五十嵐 崇, 横山 斉
    2011 年 40 巻 2 号 p. 69-71
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    肺癌と胸部大動脈瘤の同時手術を経験した.症例は右肺下葉扁平上皮癌と大動脈遠位弓部嚢状動脈瘤に対して,ステントグラフト挿入術を行った後,右下葉切除術を一期的に施行した.適応を選択すれば胸部瘤と肺癌の一期的手術は良好であり,ステントグラフト術の応用は有用であった.
  • 清水 篤, 中島 博之, 長田 裕明, 長澤 淳, 京極 方久
    2011 年 40 巻 2 号 p. 72-76
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    僧帽弁位の活動期IEに対して積極的にMVPが試みられるようになっているが,弁組織が感染により高度に破壊され,広範囲の郭清を必要とした場合には,形成困難となりMVRが必要となる場合も多い.症例は27歳,男性.発熱が持続するために当院を受診し,心エコー検査で僧帽弁前尖に径13 mmの可動性のある疣贅が判明し,IEと診断され緊急入院となった.後交連を中心として広範囲に逸脱し,MRはsevereであった.巨大疣贅による塞栓症のリスクが高いと判断し,入院2日後に手術を施行した.僧帽弁を観察すると,後交連(PC)を中心にA3からP3の一部にかけて腱索の断裂による逸脱と弁尖の破壊,多数の疣贅の付着を認め,断裂した腱索の先端にも疣贅が付着していた.破壊の著しいPCとA3,P3の一部を疣贅とともに切除したが,比較的形態の保たれたA3は弁尖を温存して表面の疣贅を鋭匙,剪刀などで可及的に郭清するにとどめた.切除した弁尖に対応した弁輪部をcompression sutureにより縫縮し,弁尖を結節縫合で閉鎖した.28 mmのphysio ringを用いてMAPを施行し,逆流試験でMRの消失を確認した.術後経過は良好で,術後9カ月が経過し心機能は良好でMRの再発はなく,NYHA I°で外来通院中である.
  • 清水 篤, 中島 博之, 長田 裕明, 長澤 淳, 京極 方久
    2011 年 40 巻 2 号 p. 77-80
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/27
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.遠位弓部大動脈の最大径66 mmの嚢状瘤に対し全弓部置換術を施行した.胸骨正中切開,上行大動脈送血と上下大静脈脱血で人工心肺を確立し,中等度低体温循環停止,選択的順行性脳灌流を行いエレファントトランク,ステップワイズ法にて遠位側吻合を行った.その後頸部3分枝再建を先行し,最後に中枢側吻合を行った.手術時間515分,人工心肺時間305分,大動脈遮断時間213分,脳分離灌流時間143分,下半身循環停止時間97分であった.術後5日目に発熱と右側腹部痛,炎症反応上昇を生じ,翌日になっても症状は改善せず,CTで急性胆嚢炎および急性腹膜炎と診断し,術後6日目に緊急開腹胆嚢摘出術を施行した.胆嚢周囲に漏出した胆汁性腹水が存在したが,培養結果は陰性であった.病理所見は,胆嚢頸部に虚血による非細菌性非貫璧性の胆嚢壊死が存在するとの結果であった.胆嚢摘出術術後は経過良好であり,初回手術から16日目に独歩退院となった.全弓部置換術後は下半身循環停止やdebrisの飛散など消化管虚血のリスクは高く,術後の急性腹症の鑑別診断として稀ではあるが重篤化することもある胆嚢梗塞を考慮する必要があると考えた.
feedback
Top