日本心臓血管外科学会雑誌
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33 巻, 3 号
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  • 重田 治, 平松 祐司, 軸屋 智昭, 榊原 謙
    2004 年 33 巻 3 号 p. 147-151
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    超低体温循環停止手術では,中等度低体温手術に比べて術中の出血量が多く,血小板をはじめとする血液製剤の使用量も多い傾向がある.そこで低体温そのものが血小板機能を低下させる一因になっていると仮定し,超低体温手術と中等度低体温手術における血小板機能を比較した.対象は直腸温20℃で循環停止,順行性脳分離体外循環を行った大血管手術16例(低温群)と,ほぼ同時期に直腸温30℃以上で3時間以上体外循環を行った心臓手術20例(コントロール群)とした.体外循環時間ごとに血小板数,α顆粒の放出,マイクロパーティクルの形成そして血小板の凝集を比較した.ヘマトクリット値で補正した血小板数は,体外循環2時間目以降,低温群で有意に低下した(3.7×104/μl vs.11.4×104/μl,p<0.0001).α顆粒の放出を示すGMP-140(P-セレクチン)陽性血小板の割合は,体外循環1時間以降有意に増加した(11.8% vs.8.3%,p=0.0091).マイクロパーティクルの比率は体外循環2時間以降低温群で増加し(24.8% vs.10.5%,p<0.0001),血小板凝集塊の割合も有意に増加した(3.4% vs.1.4%,p=0.0058).血液温が一過性に15℃以下になった低温群では,血小板数の減少とともにその活性化が起こり,復温後も回復しなかった.超低体温循環停止を行う手術では,冷却に時間がかかっても最低送血温を15℃以上に保つことが大切である.
  • 住吉 辰朗, 石原 浩, 内田 直里, 小澤 優道
    2004 年 33 巻 3 号 p. 152-157
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome,以下,OSAS)とは睡眠時にくり返し出現する上気道の閉塞により,激しいいびき,無呼吸発作,日中の過眠傾向などの症状を呈する疾患であり,重症のOSASほど心血管合併症による死亡率が増加するといわれている.今回当科で加療した急性大動脈解離症例のうちOSASと診断された5例について報告した.症例の内訳は,DeBakey I型が2例(症例1,2),III b型が3例(症例3,4,5).OSAS合併症例5例のうち4例に臓器虚血を認め,その内訳は腎臓虚血1例(症例1),下肢虚血2例(症例3,4),腹部臓器および脊髄複合虚血1例(症例5)であった.症例4は下肢虚血,全周性解離による真腔高度狭小化をきたした症例であったが,降圧療法にOSASの治療である夜間持続陽圧人工呼吸を組み合わせることにより偽腔血栓化を認めた.症例5も全周性解離症例であり,発症4日目に腹部臓器虚血を認めた.血管造影で血栓化した偽腔による,腹腔動脈および上腸間膜動脈根部の真腔圧排を認めたため腹腔動脈にステントを留置し救命しえた.OSAS患者に急性大動脈解離を発症した場合,真腔狭小化,臓器虚血といった非常に危険性の高い症例が多かった.その要因としてOSASに伴うアシドーシス,低酸素血症による高血圧が関与していると考えられた.また,OSASにおける無呼吸発作時には胸腔内圧が20~70mmHg変動するといわれており,この大きな圧変動が直接胸部大動脈へのストレスとなるのではないかと推測した.
  • 伊庭 裕, 渡邊 直, 秋本 剛秀, 阿部 恒平, 小柳 仁
    2004 年 33 巻 3 号 p. 158-161
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.息切れを主訴に来院し,心電図上変化を認めたため,カテーテル検査を施行したところ,3枝病変を認め,大動脈造影では左鎖骨下動脈閉塞を認めた.また術前の胸部CTで上行大動脈石灰化を認めたため,手術は一期的にaxillo-axillary crossover bypass graftingとin situ graftによるoff-pump冠動脈バイパス術(CABG)を施行した.術中axillo-axillary crossover bypass grafting後の左内胸動脈(LITA)のfree flowは良好であり,術後造影ではaxillo-axillary bypassを経由してLITAが良好に造影された.術後経過は順調で術後12日目に退院した.上行大動脈高度石灰化を伴う症例に対しては,in situ graftの選択が望ましいと考えられるが,鎖骨下動脈閉塞を合併する症例でも適切な血行再建術後の内胸動脈(ITA)のflowが良好な場合は,ITAはin situ graftとして十分に使用可能であると考えられた.
  • 塚本 三重生, 折目 由紀彦, 進藤 正二, 長 伸介, 尾花 正裕, 秋山 謙次, 塩野 元美, 根岸 七雄
    2004 年 33 巻 3 号 p. 162-165
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    大動脈解離が及んだ腹部大動脈瘤3例を経験した.3例中2例を腸管壊死により失ったが,このうち1例は解離が腹部大動脈瘤に進展したために破裂した症例で,人工血管の中枢側吻合にさいして開窓術を行わなかったことによる上腸間膜動脈の血流障害が原因と考えられた.もう1例の死亡例は開窓術を行ったのちに人工血管置換術を行ったが,剖検の結果,グラフトの吻合には問題なかったものの,内腸骨動脈の閉塞が原因で下行結腸からS状結腸が壊死に陥り死亡したと判明した.生存例では開窓術ののち,人工血管置換術を施行し経過は良好であった.手術時期は大動脈解離を発症した急性期では血管壁が脆弱であることから,破裂例およびmalperfusionによる虚血症状が認められる症例を除き,発症から1ヵ月の期間をおくことが望ましいと思われる.また慢性期では開窓術の安全性は高く,これを行うべきであり,また急性期であっても可能なかぎり行うべきである.
  • 心停止下左室自由壁破裂修復術,CABG3枝の1治験例
    吉武 勇, 畑 博明, 服部 努, 宇野澤 聡, 奈良田 光男, 塩野 元美, 根岸 七雄, 瀬在 幸安
    2004 年 33 巻 3 号 p. 166-170
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は85歳,男性,主訴胸痛.心電図にてII,III,aVF,V3~V6のST低下,I,aVLのST上昇,異常Q波の出現を認め,緊急冠動脈造影を施行した.左冠動脈主幹部#575%狭窄,左前下行枝#775~90%狭窄,対角枝#9-1完全閉塞,左回旋枝#1175%狭窄,右冠動脈#375%狭窄(LMT+TVD)を認めたが高齢のため保存的加療を選択した.発症39時間後に突然ショック状態となり経胸壁心エコーにて心嚢液貯留を認め心破裂と診断,気管内挿管後心嚢穿刺ドレナージ施行(150mlの血液吸引)し血行動態は改善した.当院へ搬送し,on pump,心停止下LVFWR修復術(sutureless techniqueによる被覆法),CABG3枝の同時手術を施行した.術後経過良好にて第40病日に退院した.本症例ではLMT+TVDを認めon pump,心停止下にLVFWR修復術,CABGの同時手術を行ったが,sutureless techniqueを用いることで手術時間の短縮が可能で,CABGの併施により術後心機能の改善を認め,左室の瘤状拡大や拡張障害は認めなかった.On pump,心停止下LVFWR修復術(sutureless techniqne)およびCABGのコンビネーションを用いることで,高齢者であっても安全にqualityの高い手術が可能であった.
  • 磯田 晋, 軽部 義久, 坂本 哲, 相馬 民太郎
    2004 年 33 巻 3 号 p. 171-174
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    70歳,男性にmaze変法と僧帽弁形成術を施行した.弁形成は病変の矩形切除,Reed法とCosgrove ringを用いた弁輪縫縮を施行した.体外循環離脱時に僧帽弁前尖の収縮期前方運動(SAM)とこれに伴う僧帽弁逆流が出現した.保存的に経過を観察し,術後11日にはSAMと僧帽弁逆流は消失していた.過剰な弁輪縫縮と小さいリングが外科的因子として考えられる一方で,一過性の因子としてカテコラミンの使用,左室拡張障害に伴う左室容量低下,心房収縮の消失などがSAMの原因として考えられた.
  • 国井 佳文, 小出 昌秋, 鮎澤 慶一
    2004 年 33 巻 3 号 p. 175-177
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は日齢1日,体重2,254gの男児.下心臓型総肺静脈還流異常症の診断で手術を行った.垂直静脈を切離し左房に吻合,体外循環からの離脱を試みたが不可能であった.肺静脈還流を再度検索すると,左胸腔と心嚢の間を走行し横隔膜を貫く2本目の垂直静脈(左垂直静脈)を確認,これを左心耳基部に吻合し,体外循環から離脱した.術翌日,呼吸状態悪化のためECMOを開始したが,脳室内出血のため術後5日に失った.剖検では右垂直静脈は下大静脈へ,左垂直静脈は肝静脈と静脈管の合流部付近へ還流していた.肺の病理組織所見では高度に拡張したリンパ管を認め,呼吸不全の原因と考えられた.本症例のように2本の垂直静脈が存在する下心臓型総肺静脈還流異常症はきわめて希ではあるが,その形態について留意する必要があると思われた.
  • 秋島 信二, 桜井 淳一, 軸屋 智昭
    2004 年 33 巻 3 号 p. 178-181
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,女性,2001年1月胸痛を主訴に入院したが,確定診断にいたらず,外来経過観察としていた.同年10月15日,再び胸痛を主訴に救急車にて来院した.CT上,上行大動脈に限局した大動脈解離を認めたため,DeBakey II型の急性大動脈解離と診断した.緊急手術を行い,上行大動脈胸側の偽腔を開放したところ,外膜,flapは肥厚し,比較的安定した状態を呈していた.Entryは1つで,外膜~flap移行部は癒着して堅固な組織となり,それより背側は解離を認めない健常大動脈壁と考えられた.この時点で,急性大動脈解離(DeBakey II型)の慢性期像と診断した.この症例に対し,解離部以外は健常大動脈壁であったこと,限られた解離範囲で上行大動脈人工血管置換を行った場合,背側の置換距離が約1cm余りとなり,縫合,止血操作に難渋すると考えられたことなどから,woven Dacron graftを開放したパッチを用い,解離部切除,大動脈パッチ形成術を行った.術後2年の時点で大動脈の拡張,再解離は認めず,良好な術後経過である.慢性期大動脈解離において,今回のような条件のもとでは,解離部切除,大動脈パッチ形成術を手術方法の選択肢の一つとして考えることができるといえる.
  • 笹橋 望, 西村 和修, 田村 暢成, 植山 浩二
    2004 年 33 巻 3 号 p. 182-184
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,男性.MRSAを起炎菌とする大動脈弁位感染性心内膜炎にて手術を施行した.初回弁輪部膿瘍の直接閉鎖と人工弁置換術を行ったが,術後弁周囲逆流ならびに腔の残存のため再手術を行った.再手術では腔をパッチ閉鎖し弁置換を行ったが,その後も弁周囲逆流は消失せず,腔の残存が確認されたため再々手術を行った.しかし弁周囲逆流と腔は残存し,さらに溶血性貧血が出現した.4度目の手術では,腔をパッチ閉鎖したのち,左冠動脈起始部周辺を剥離し,この部分の弁輪部は大動脈壁外側の左冠動脈下方より,パッチの上縁,人工弁輪と通した.それ以外の弁輪はsupraannularになるよう糸を置き,人工弁の固定を図った.以後弁周囲逆流ならびに腔は消失した.
  • 本田 賢太朗, 藤原 慶一, 駒井 宏好, 山本 修司, 岡村 吉隆
    2004 年 33 巻 3 号 p. 185-188
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    急性大動脈解離を契機に発見された大動脈弁置換術後吻合部仮性動脈瘤の1例を経験した.症例は66歳,男性.15年前に感染性心内膜炎による大動脈弁閉鎖不全に対し,大動脈人工弁置換術を施行された.胸痛で当科を受診したさい,胸部CTでStanford A型急性大動脈解離と上行大動脈前面の仮性動脈瘤が発見された.大動脈解離のprimary tearと仮性瘤のorificeとは関連はなかった.緊急で超低体温循環停止下に上行大動脈人工血管置換術を施行し,良好な結果を得た.大動脈弁置換術後の経過観察において仮性動脈瘤の合併も念頭において経過観察する必要があると思われた.
  • 国原 孝, 松崎 賢司, 椎谷 紀彦, 安田 慶秀
    2004 年 33 巻 3 号 p. 189-192
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    Stented elephant trunk法を併用した全弓部・下行大動脈置換術は従来術式に比し脊髄障害発生頻度が高く,その原因の一つに粥腫による脊髄動脈塞栓が示唆されている.Stented elephant trunk法を併用した全弓部大動脈置換術で一過性の歩行障害をきたした症例を報告する.症例は69歳,男性,腹部大動脈瘤Yグラフト置換の既往があり,弓部および近位下行大動脈瘤,Crawford II型胸腹部大動脈瘤に対し,stented elephant trunk法を併用した全弓部・下行大動脈置換術を施行し術後4日目に下肢脱力が出現した.術前CTで瘤の壁在血栓・粥腫を認め,遊離粥腫による肋間動脈塞栓・下位脊髄障害が疑われた.本術式の適用症例の多くは粥状動脈硬化病変を有し,術式選択にあたりstent graft挿入操作と留置に伴う肋間動脈や主要分枝動脈塞栓などの合併症を十分考慮することが肝要と思われる.
  • 山本 真人, 新浪 博, 須田 優司, 田畑 美弥子, 浅野 竜太, 池田 昌弘, 竹内 靖夫
    2004 年 33 巻 3 号 p. 193-196
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.1997年6月,脳梗塞にて右半身麻痺を認めていた.2000年12月,下壁の心筋梗塞を発症したが近医での保存的入院加療により軽快し,退院後通院加療中であった.2002年1月9日,胸痛が出現し当科紹介入院となった.左室造影で左室下壁に心室瘤を認め,冠動脈造影でLAD#7に75%狭窄,#8に90%狭窄を認め,RCA#2は完全閉塞しておりLAD末梢からわずかながらRCA末梢に側副血行路を認めた.手術適応と判断しDor手術,冠動脈バイパス術(左内胸動脈→#8,大伏在静脈→#3)を施行し,術前と比べ左室駆出率は30%から46%へ,左室拡張末期係数は132ml/m2から87ml/m2へ,左室収縮末期係数は93ml/m2から47ml/m2へ改善した.組織学的に左室瘤の瘤壁内に心筋繊維の残存を認めたこと,術前の左室造影で左室瘤の入口部径が瘤径に比べ狭いということから偽性仮性心室瘤と診断され,まれな病態を経験したので報告する.
  • 西田 洋文, 高原 善治, 茂木 健司, 櫻井 学
    2004 年 33 巻 3 号 p. 197-200
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,男性.右大腿部の疼痛と腫脹を主訴に来院した.身体所見にて右大腿部に拍動性腫瘤を認めた.造影CT上径7cmの右浅大腿動脈瘤が確認され,その周囲にはガス像を認め,感染性浅大腿動脈瘤と診断,緊急手術を行った.瘤切除と縫工筋,大腿四頭筋の一部を含めたデブリドマン,そして感染部を迂回する皮下経路で外面補強人工血管による血行再建を施行した.瘤壁の培養よりCitrobacter koseriが検出されたため,術後は感受性のある抗生剤を全身投与した.局所的には瘤切除部を術後7日目より開放創とし,洗浄とデブリドマンを行うことで管理し,術後37日目に独歩退院した.浅大腿動脈中間部に位置し,周囲に大きく波及した感染瘤であったため,血行再建の経路が限られたが速やかな外科的処置により良好な結果が得られた.
  • 中山 義博, 峰松 紀年, 古賀 清和
    2004 年 33 巻 3 号 p. 201-204
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    腹部anginaは比較的希な疾患であり,大半が腹部内臓血管の慢性閉塞,狭窄が原因で起こる.今回われわれは,上腸間膜動脈塞栓症を契機に腹部anginaを発症した症例に対し,体外循環下に血行再建術を行い良好な結果を得た1例を経験した.症例は89歳,男性で,以前より発作性心房細動を指摘されていた.左前腕の突然の疼痛を主訴に当院に緊急入院となった.血管造影検査で左上腕動脈塞栓症の診断で緊急血栓除去術を施行した.術翌日より食事を開始したが,食事後に起こる腹痛,嘔吐をくり返したため腹部CTと腹部血管造影検査を施行した.上腸間膜動脈は根部より完全閉塞し,下腸間膜動脈からの側副血行路で造影されていた.腹部anginaと診断,手術を施行した.術中所見で,上腸間膜動脈根部は動脈硬化性病変が著明なため直達手術はあきらめ,大伏在静脈を用いてバイパスする方針とした.下腸間膜動脈の血流維持のため大伏在静脈中枢吻合時に体外循環を用いた.腹部angina発症のメカニズムとして,上腸間膜動脈に器質的な狭窄病変が存在していたため側副血行路が発達していたところに塞栓症が生じたことが考えられた.
  • 笹橋 望, 植山 浩二
    2004 年 33 巻 3 号 p. 205-207
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.狭心症に対しCABG(HTA-LAD,GEA-4PD,SVG-#9-#14 sequential)を施行した.術後14ヵ月後に胸部不快感が出現,心カテーテル検査で静脈グラフトと#9との吻合部に90%狭窄を認め,PCI施行となった.5mmのバルーンにて14気圧までinflateしたところ,狭窄は解除されたが,造影剤の漏出を認め,グラフトruptureと診断した.バルーンをinflateし,止血を試みたが,不可能であったため,緊急手術となった.左側方開胸にて心嚢に到達,静脈グラフトのruptnre部はすでに止血されていた.グラフトと#9との吻合部の前後でグラフトを結紮,あらたに採取した静脈グラフトにてこの間を飛び越えるようにバイパスした.術後造影にてグラフトの開存が確認された.エコー上側壁の運動低下を認めたが,EFは67%と良好であり,狭心症も消失した.
  • 斉藤 典彦, 山本 和男, 田中 佐登司, 菊地 千鶴男, 杉本 努, 春谷 重孝
    2004 年 33 巻 3 号 p. 208-212
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,女性,診断はsevere AS,家族性高脂血症.1994年,大動脈弁狭窄症を指摘され,2002年意識消失発作にて緊急入院となった.UCG上大動脈弁の圧較差は120.7mmHg,弁輪径は16.7mm.CTでは,大動脈弁輪部より上行大動脈にかけて全周性の石灰化を認めた.心臓カテーテル検査にて圧較差は96mmHg, AVA 0.4cm2, EF 38.7%であった.上記所見より通常のAVRは困難と判断し,左第5肋間開胸にてapicoaortic valved conduit(弁付きグラフト:SJM19HP, Intergard 22mm+Medtronic apical LV connector)を選択した.術後cine MRIでは大動脈弁経由のflow 0.51l/min,13%, conduit経由のflow 3.29l/min,87%と,大部分cardiac outputはconduitに依存していた.通常のAVRが困難な症例に対し,本術式は有効な選択肢となりうる.
  • 分枝グラフトを利用した新しい下肢血行再建法について
    武内 重康, 藤田 久徳, 中島 伸之
    2004 年 33 巻 3 号 p. 213-215
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は32歳,男性.胸背部痛とそれに続く手足のしびれにて発症した.両側大腿動脈以下脈拍を触知せず,両下肢の冷感,チアノーゼを認めた.造影CT検査にてStanford A型解離の所見を認め,下肢虚血を伴うStanford A型急性大動脈解離と診断し,緊急手術を施行した.超低体温併用脳分離体外循環,open distal anastomosis法,elephant trunk法を併用し,4分枝付き人工血管を使用して,上行弓部置換術を施行した.胸部大動脈再建後も,両下肢虚血は改善せず,順行性送血用分枝グラフトをinflowとして利用した新しい下肢血行再建術を施行し良好な結果を得た.われわれの考案した分枝グラフトを利用した新しい下肢血行再建法は,簡便で有用な追加術式と思われた.
  • 三隅 寛恭, 村田 将光, 吉村 芳弘, 山崎 暁, 出田 一郎, 上杉 英之, 下川 恭弘, 平山 統一
    2004 年 33 巻 3 号 p. 216-219
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    大動脈炎症候群に伴う冠動脈病変で,左冠動脈主幹部病変を伴うことはしばしばみられるが,これに対する冠動脈バイパスを含めた手術成績は,いまだ安定した成績が得られていない.症例は,左冠動脈主幹部(LMT)の完全閉塞をきたした大動脈炎症候群の39歳,女性.手術は,先端にカフ付きのカーボンコーティングを施したPTFE人工血管(Distaflo)を用いて,大動脈からLMTにかけて,大きく血管拡大形成術を行い,左冠動脈の良好な血流を得ることができた.術直後,半年後の造影検査でも良好な開存性を得ることができ,患者は順調に社会生活に復帰できた.本疾患の手術術式について,若干の文献的考察を加え検討したので報告したい.
  • 小林 俊郎, 阪田 健介, 林 研二, 小林 百合雄
    2004 年 33 巻 3 号 p. 220-223
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.突然の腰背部痛で発症した.発症から3日後の胸腹部CTにて,Stanford B型急性大動脈解離と動脈硬化性腹部大動脈瘤が合併し,後腹膜に破裂していると診断された.腹部大動脈瘤は最大径60mmであった.全身状態が落ち着いていることから降圧療法を行い厳重に経過観察を行った.発症45日目に腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術を行った.解離は腹部大動脈瘤に及び,後腹膜には血腫が存在した.腹部分枝はすべて真腔から分岐していたが,吻合部より中枢側での解離に伴う破裂を予防する目的で中枢側吻合は開窓して行った.今回われわれは既存の腹部大動脈瘤に解離性大動脈瘤を合併し,破裂した希な症例を経験したが,慢性期に人工血管置換術を施行し,経過順調であったので報告する.
  • 三澤 幸辰, 萩原 賢一, 横山 斉
    2004 年 33 巻 3 号 p. 224-226
    発行日: 2004/05/15
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    左冠動脈回旋枝の新規狭窄による再発狭心症に対し,左開胸アプローチで,aortic connectorを用いて胸部下行大動脈にグラフト中枢側吻合をおいた心拍動下再冠動脈バイパス術を経験したので報告する.症例は76歳,男性.1994年不安定狭心症に対し,当科にて胸骨正中切開で冠動脈バイパス術(SVG to #9,SVG to4PD)を施行した.2003年4月に狭心症の再発あり再入院した.冠動脈造影上,初回手術時の2本の静脈グラフトは良好に開存していたが,あらたに#11に90%狭窄を認めた.左鎖骨下動脈起始部にも90%狭窄を認めた.手術は左開胸アプローチで,aortic connectorを用い胸部下行大動脈に静脈グラフトの中枢側吻合をおき,末梢側を心拍動下に鈍縁枝に吻合した.無輸血で手術は終了し術後経過も順調で,術後17日目に退院した.左開胸アプローチでグラフトinflowが下行大動脈に必要とされる場合,中枢側吻合にaortic connectorを使用すれば,手術時間の短縮および大動脈部分遮断に伴う合併症も回避され有用な方法であった.
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