日本心臓血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1883-4108
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44 巻, 6 号
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巻頭言
総説
原著
  • 水本 雅弘, 内田 徹郎, 五味 聖吾, 浜崎 安純, 黒田 吉則, 山下 淳, 林 潤, 廣岡 秀人, 安本 匠, 貞弘 光章
    2015 年 44 巻 6 号 p. 301-306
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    [背景・目的]腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)における術後のエンドリーク(EL)マーカーは確立されておらず,その報告も少ない.EVARにおいて血中D-dimer, FDPがELマーカーとなりうるか検討した.[対象・方法]2011年6月から2014年1月,当科で施行した連続EVAR 65例のうち,10例を除外した55例を対象とした.術前および術後の定期的な造影CTに併せて採血検査(D-dimer,FDP,PT,APTT,血小板)を行った.造影CTからELおよび動脈瘤最大短径を評価し,瘤径3 mm以上の変動を有意とした.EVAR術後12カ月時点における55例をEL残存群26例-非残存群29例にわけて検討した.さらに瘤径不変34例-縮小群21例の検討も追加した.[結果]ELはすべてtype IIであり,手術および瘤関連死亡,追加治療症例は認めなかった.EL比較では残存群においてD-dimer,FDPが非残存群と比べて有意に高値を示した.また,血小板が残存群で有意に低値を示した.PT,APTTでは有意差を認めなかった.瘤径比較では瘤径不変群が縮小群と比べてD-dimer,FDPが高い傾向を示した.また,血小板においても瘤径不変群で低い傾向を示した.PT,APTTでは有意差を認めなかった.[結語]EVARにおいて血中D-dimer,FDPはエンドリークマーカーとして有用性があると考える.
  • 山下 暁立, 井上 聡巳, 前田 俊之, 田淵 正樹
    2015 年 44 巻 6 号 p. 307-311
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    以前より内胸動脈(ITA)をはじめとする動脈グラフトによる冠動脈バイパス術(CABG)が長期予後を改善し,両側ITAによるCABGの優位性についても報告されている.当院では2001年4月に導入した超音波メスを用いてITAをfull skeletonizationにて採取し,両側ITAを積極的に使用している.そこで超音波メス導入後の2001年4月から2012年12月までの当施設における両側ITAを用いた単独CABG手術256例の手術成績を検討した.人工心肺を使用しないCABGは194例(On-pump CABGへのconversion 8例含む)で,緊急手術は38例であった.30日死亡は1例であった.対象全256例中234例で術後2週間以内にグラフト造影を施行した.早期において10例(4.3%)にカテーテル治療や再CABGによる再冠血行再建を施行した.対象全256例の追跡調査について,全生存率および術後PCI回避率,再CABG回避率を調査した.さらに心臓死,急性心筋梗塞,心不全や脳梗塞による入院を心関連事故(MACE)として,術後MACE回避率を調査した.生存率は5年81.8%,10年72.6%であった.再CABG回避率は5年99.5%,10年は99.3%であり,術後PCI回避率は5年96.3%,10年95.2%であった.術後MACE回避率は5年90.3%,10年81.2%であった.当院における超音波メス導入後の両側ITAを用いたCABG手術の早期および遠隔期成績は満足のいくものであった.
Editorial
症例報告
  • ―院内検討会と患者対応の実際―
    相馬 孝博, 高梨 秀一郎
    2015 年 44 巻 6 号 p. 313-317
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    重症大動脈弁狭窄症の女性患者に,Apico-Aortic Bypass(左室心尖部-下行大動脈バイパス)を施行した際に,術中に作製した弁付きグラフトを逆位に縫着した.翌日の再手術時に正常位置に修復したが,最終的に呼吸不全に陥り,第74病日に死亡された.第16病日に多職種参加による院内検討会を行い,ヒューマンファクターの観点から多角的に検討し,システム上の再発防止策を立案した.患者家族には謝罪とともに検討会内容を説明し,報告書も手交した.全経過を通して組織としての責任を認め,真摯な対応を心がけた.
  • 田﨑 大, 吉﨑 智也, 横山 賢司
    2015 年 44 巻 6 号 p. 318-321
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,女性.2010年10月,1週間前に出現した胸部違和感とその後持続する38度台の発熱,呼吸苦を主訴に当院外来を受診し,うっ血性心不全の診断で緊急入院した.経胸壁心エコー図などの結果から重症僧帽弁閉鎖不全症および感染性心内膜炎の疑いで治療を開始し,経食道心エコー図や冠動脈造影(#6:90%,#12:99%狭窄)所見から乳頭筋断裂症が鑑別にあがった.持続する心不全症状と腎機能悪化に対して入院後14日目に準緊急手術を施行した.手術は僧帽弁形成術(P3矩形切除+弁輪縫縮)+冠動脈バイパス術(LITA-LAD,SVG-OM)を行った.術中所見として,P3を中心に腱索断裂を認め,付着する組織片は部分断裂した後乳頭筋の一部であり,感染を示唆する所見は認められなかった.多頭である後乳頭筋は稀に部分断裂をきたすことがあり,その場合には完全断裂の場合と異なり,循環動態の急激な悪化を招かないことも多く,診断に難渋することがある.また内科的治療により改善が困難な場合には外科的治療が必要となるが,僧帽弁形成術あるいは僧帽弁置換術に関する長期予後を含めた一定の見解は得られていない.今回われわれは診断に難渋したものの,心筋梗塞後の後乳頭筋部分断裂症による僧帽弁閉鎖不全症に対して,僧帽弁形成術を行い良好な結果を得たので,若干の文献的考察を含め報告する.
  • 岡本 雅彦, 堤 浩二, 伊藤 隆仁, 加島 一郎
    2015 年 44 巻 6 号 p. 322-325
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    症例は75歳男性.膀胱癌に対して経尿道的腫瘍摘出術を行った後,BCG膀胱内注入療法を4クール行った.4クール目のときに発熱があり,本療法を中止した.このとき撮影したCTで大きさ46 mmの不整形をした左内腸骨動脈仮性瘤を認めた.尿管や左外腸骨および総腸骨静脈への仮性瘤による浸潤圧迫が認められ,瘤径の拡大が急速であるため,緊急手術を行った.術前に一時IVCフィルターおよび尿管ステントを留置したうえで,大腿-大腿動脈交差バイパス術で血行再建を行った後,左総腸骨動脈と左外腸骨動脈を閉鎖し,仮性瘤切除を行った.術前から術後10カ月までイソニアジド,リファンピシン,エタンブトールによる抗結核療法を行った結果,感染の再燃はなく,術後2年10カ月目のCTでは仮性瘤の再発を認めなかった.BCG膀胱内注入療法による稀な感染性腸骨仮性動脈瘤を経験した.術前にあらかじめ留置した尿管ステントは骨盤内での高度癒着が予想される本症例において有用であった.
  • 益田 智章, 山本 修, 末澤 孝徳, 七条 健
    2015 年 44 巻 6 号 p. 326-329
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    症例は74歳女性.17年前に,多枝冠動脈病変に対して大伏在静脈による冠動脈バイパス術3枝を施行された.今回,術後の定期心エコー検査で縦隔腫瘤として当院に紹介され,造影CTの結果,右冠動脈にバイパスされた大伏在静脈グラフト瘤と診断された.瘤は60 mm大で,内腔は中枢側吻合部起始部のみ造影され,その末梢は血栓で満たされていた.冠動脈造影では,左前下行枝・左回旋枝へのグラフトは変性していたが開存しており,右冠動脈領域へは側副血行路を認めた.人工心肺補助下に再胸骨正中切開で開胸し,心拍動下に中枢側吻合部の閉鎖と可及的な瘤切除を行った.術後は合併症なく経過し,26日目に退院した.手術に関して,安全に行うための手技上の工夫を要したので報告する.
  • 古川 智邦, 内田 直里, 山根 吉貴, 望月 慎吾, 山田 和紀, 望月 高明
    2015 年 44 巻 6 号 p. 330-333
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    症例は37歳男性.眼間解離や短頭症などの身体的特徴からLoeys-Dietz症候群と診断した.De Bakey III b大動脈解離発症から3カ月後に遠位弓部大動脈の嚢状瘤で手術が必要となり,Valsalva洞拡大・偽腔開存大動脈解離に対する治療も併施した.手術は自己弁温存大動脈基部再建術・上行弓部大動脈人工血管置換術・オープンステントグラフト手術を行った.術直後から解離腔の血栓化・吸収が進み,CTで術後18カ月後までにステントグラフト部大動脈の縮小と偽腔の消失を認めて良好なAortic Remodelingを確認できた.結合織疾患を有する患者に対するステントグラフト治療は,より厳密な注意が必要であるが,Aortic Remodelingを促す有用な手技である可能性がある.
  • 池永 茂, 伊東 博史, 阪田 健介
    2015 年 44 巻 6 号 p. 334-337
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    Mitral-aortic intervalvular fibrosa(MAIF)は大動脈弁と僧帽弁の間の線維性骨格である.われわれは大動脈弁置換術後にpseudoaneurysm of MAIF(MAIFPsA)と高度人工弁周囲逆流を来した症例を経験したので報告する.症例は75歳,男性.重度大動脈弁閉鎖不全症の診断で大動脈弁置換術(SJM Trifecta 23 mm)が施行された3カ月後の定期受診時に聴診上高度な心尖部拡張期雑音が聴取された.心エコー検査では心拡大を伴う高度人工弁周囲逆流およびMAIFPsAが認められ,手術を行った.MAIFは欠損し,僧帽弁前尖弁輪,左冠尖部および無冠尖部大動脈弁輪から成る大きな仮性瘤が形成されていた.左冠尖部大動脈弁輪は薄く,そのバルサルバ洞側には2 cm長の裂隙があり,この裂隙により大動脈と仮性瘤が交通していた.左冠尖部大動脈弁輪を切除し,僧帽弁前尖弁輪,左バルサルバ洞,無冠尖部大動脈弁輪で形成される大きな孔を60×25 mmの舟形ウシ心膜パッチで閉鎖した.その後CEP 21 mmをsupra-annular positionにimplantした.術後感染性心内膜炎に準じて抗生剤治療を行った.現在CRPは陰性化し,人工弁周囲逆流はなく,外来にて抗生剤内服治療継続中である.
  • 中原 孝, 後藤 博久, 福家 愛, 坂口 昌幸, 西村 和典
    2015 年 44 巻 6 号 p. 338-341
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    乳頭状弾性線維腫は心臓良性腫瘍のなかでは粘液腫についで多く,左心系に多いとされている.今回われわれは,三尖弁腱索より発生した乳頭状弾性線維腫の1例を経験したので報告する.症例は65歳,女性.検診にて心雑音を指摘され,精査したところ心臓腫瘍を認め当科紹介となった.心臓超音波検査と造影CT検査にて,右室内に約1 cmの可動性腫瘍を認め,手術適応と診断された.人工心肺を確立後,心停止下に右房を切開し,経三尖弁的に右室を観察した.前尖腱索より約9 mmの黄色イソギンチャク状の腫瘍を認めたため,腱索を含めて腫瘍を切除し三尖弁形成術を施行した.術後経過は良好で,第19病日に退院となった.病理組織学的所見では,密な線維組織と脂肪組織が混在し,乳頭状弾性線維腫と診断された.乳頭状弾性線維腫(Papillary Fibroelastoma : PFE)は原発性心臓腫瘍の約8%に認められる比較的稀な疾患である.PFEの多くは左心系に発生し,脳梗塞や心筋梗塞などの塞栓症状を引き起こすとされている.一方,小さな腫瘍や右心系に発生した場合などは,臨床的に無症状であり,検診の心臓超音波検査などで偶然発見される症例も多い.今回われわれは心雑音の精査を契機に診断された,三尖弁腱索より発生するPFEを経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 宮坂 成人, 森本 啓介, 藤原 義和, 小林 太
    2015 年 44 巻 6 号 p. 342-345
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    再生不良性貧血は汎血球減少を特徴とする症候群であり,心臓手術時には出血量の増加と術後感染症が問題となる.今回再生不良性貧血を合併した僧帽弁閉鎖不全症に対し,右小開胸による僧帽弁形成術を施行し良好な経過が得られたので報告する.症例は70歳女性.労作時呼吸苦を主訴に当院を受診した.この際,汎血球減少(WBC 2,150/µl,Hgb 8.8 g/dl,PLT 5.0×104/µl)を認め骨髄生検の結果再生不良性貧血と診断された.また,心臓超音波検査において重度の僧帽弁閉鎖不全症と診断され,手術目的に紹介となった.白血球および血小板低下に対し,術前に顆粒球コロニー刺激因子を投与し,また手術時に濃厚血小板30単位を輸血し右小開胸による僧帽弁形成術を施行した.術後は感染症や出血による合併症はなく経過は良好であった.本症例のような出血傾向と易感染性の症例に対して右小開胸による手術は,有用な選択肢と成り得ると思われた.
  • 古野 哲慎, 高瀬谷 徹, 平田 雄一郎, 和田 久美子, 庄嶋 賢弘, 高木 数実, 赤須 晃治, 有永 康一, 明石 英俊, 田中 啓之
    2015 年 44 巻 6 号 p. 346-349
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    ハイド症候群と思われる症例に対して大動脈弁置換術を施行し,良好な結果を得たので報告する.症例は74歳女性.60歳時にリウマチ性僧帽弁狭窄症に対して機械弁による僧帽弁置換術を施行し経過観察されていた.今回重症大動脈狭窄症に対して弁置換術を予定していたが,手術待機中に貧血の著明な進行(Hb : 9.3 g/dl→4.0 g/dl)を認めた.上部下部消化管内視鏡にて出血性病変がなかったため,カプセル内視鏡を施行したところ小腸に出血性のangiodysplasiaを認め,貧血の原因と考えられた.さらに貧血が進行するために計26単位の濃厚赤血球の輸血を行い,原因血管検索および止血目的に血管造影検査を施行したが,造影剤の漏出なく出血源を特定することができなかった.しかしながら,その直後下血は消失し,貧血の進行がなくなったため,大動脈弁置換術を施行した.術後,消化管出血の再燃はなく術後22日目に退院となった.ハイド症候群は大動脈弁狭窄症が引き起こす後天性フォンウィルブランド病に消化管angiodysplasiaによる出血を合併する病態とされる.診断には消化管出血の確認とフォンウィルブランド因子の高分子マルチマー解析とされるが,普及度から考慮すると小腸カプセル内視鏡が診断に有用である.根本的治療は大動脈弁置換術であるので,消化管出血を合併した状態での人工心肺の使用は出血のリスクがあるが,ハイド症候群を疑った症例では適切な手術時期を検討していくべきである.
  • 牧田 哲, 丸山 俊之
    2015 年 44 巻 6 号 p. 350-353
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.2カ月前に,重度のARと心房細動に対しAVR(CEPMagnaEASE19 mm)左心耳切除,肺静脈隔離術を施行した.手術時,一時的心外膜ペーシングワイヤーを右室前面に縫着した.術後8日目に一時的心外膜ペーシングワイヤーを抜去しようと試みたが抵抗があったため,皮膚の高さでワイヤーをカットし心のう内に遺残させた.術後20日目に自宅に軽快退院となったが,退院後10日頃より発熱が出現し,16日目に胸部正中創の発赤と疼痛のため再受診となった.CTで胸骨周囲の浮腫性変化を認め,胸骨周囲の蜂窩織炎と診断し入院加療となった.抗生剤治療開始により,速やかに解熱し,炎症反応も陰性化し,創部の発赤,疼痛も消失した.入院時のCTで初回手術時に右室前面に留置した一時的ペーシングワイヤーのうち1本が上行大動脈内へ迷入していることが確認された.入院後14日目に外科的にワイヤーを摘出した.ワイヤー周囲には感染を疑わせる所見は認めなかったが,胸骨には感染所見があり,胸骨切除大網充填術を同時に施行した.手術後6週間の抗生剤治療を施行した後,自宅に軽快退院となった.心嚢内に遺残した一時的心外膜ペーシングリードが大動脈内へ迷入することは非常に稀であり,報告する.
  • 伊藤 昌理, 上久保 康弘, 高平 真
    2015 年 44 巻 6 号 p. 354-357
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    当科において冠動脈疾患を伴うプロテインS欠乏症を3例経験した.いずれの症例も当科紹介時には先天性プロテインS欠乏症の診断はなされておらず,冠動脈は末梢病変を含む3枝病変で,2例は40歳代と若年発症だった.2例に対してoff pump冠動脈バイパス術を施行した.術後ヘパリン持続静注からワーファリン内服に移行した.術後経過は良好でグラフトも良好に開存していた.1例は経皮的冠動脈形成術を繰り返していた症例で,冠動脈バイパス術の適応とはならなかったが,ワーファリン内服にて症状が軽減し,1年後の冠動脈造影でも病変の進行を認めなかった.
  • 助弘 雄太, 和田 秀一, 森田 裕一, 清水 真行, 寺谷 裕充, 大住 真敬, 神谷 信次, 峰松 紀年, 松村 仁, 田代 忠
    2015 年 44 巻 6 号 p. 358-361
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    心臓原発悪性腫瘍は非常に稀な疾患である.比較的若年に発症することが多く,予後は不良とされている.症例は47歳男性.労作時呼吸困難を主訴に近医を受診し,CTにて心嚢液貯留を指摘され,心タンポナーデと診断された.心嚢穿刺ドレナージを施行され,経過観察とされていた.その後,労作時呼吸困難が再発し,心嚢液の再貯留を認めたため心嚢穿刺ドレナージの後,精査加療目的に当科に転院となった.CTとエコーにて右房に腫瘤病変を認めた.悪性腫瘍を疑い,確定診断,腫瘍塞栓の予防,および予後の改善を目的として外科手術を行った.胸骨正中切開にてアプローチし,右房に腫瘍を確認した.術中迅速病理診断にて悪性と診断されたため,右房自由壁から下大静脈にかけて肉眼的な変性部位より十分な距離を確保して切除し,ウシ心膜で再建を行った.永久標本から血管肉腫と診断した.多発肺転移のため術後約6カ月後に死亡したが,その間,右心房で原発巣の再発は認めなかった.今回の経験に,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 幾島 栄悟, 安恒 亨, 坂本 真人
    2015 年 44 巻 6 号 p. 362-365
    発行日: 2015/11/15
    公開日: 2015/12/22
    ジャーナル フリー
    僧帽弁輪乾酪性石灰化(caseous calcification of mitral annulus : CCMA)は僧帽弁の腫瘤性変化を特徴とする稀な疾患であるが,血行動態に影響を与えることが少ないことからその手術報告はきわめて少ない.今回,われわれは虚血性心臓病(IHD)を基礎に僧帽弁閉鎖不全症(MR)を合併し,心不全が急性増悪したCCMA症例に対し僧帽弁置換術(MVR)および冠動脈バイパス手術(CABG)を行った.症例は67歳女性で急激に増悪した心不全の精査で僧帽弁後尖の腫瘤性病変を伴った高度MRと左冠動脈主幹部を含む3枝病変を認めた.僧帽弁逆流の制御と冠血行再建を目的に生体弁によるMVRおよびCABGを施行した.僧帽弁後尖の腫瘤性病変は弁輪に達しており,弁尖切除後に自己心膜による弁輪形成を必要とした.病理診断で僧帽弁後尖の腫瘤は乾酪性石灰化病変であった.術中所見を中心に報告する.
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